水谷一

 

 

2009年度 神山アーティスト・イン・レジデンス招聘作家
2009/9/1-2009/11/20 神山町滞在

神奈川県出身。多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻終了。[描く]事を制作の主軸として活動するアーティスト。アメリカ・カリフォルニア州「ヘッドランズセンター」、イギリス・湖水地方「アートジーン」等、これまで複数のアーティスト・イン・レジデンスに参加し、滞在、制作を行う。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2009年7-9月)では、紙と木炭を素材した描画体を閉校した小学校の音楽室・音楽準備室壁面とするインスタレーション作品、視覚認識の不安定となる夕暮れ/夜明け時を撮影したビデオ作品を発表。「第一回所沢ビエンナーレ美術展 引込線」(2009年8-9月)出品。
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→制作風景
→作品一覧
事象
Artist Statement

講評

黒鉛のグラデーション
一歩引いて見ると全く別の風景が現れる
制作中の様子

完成・展示
「事象」 2009年10月中旬-11月

9月8日に描画を始めて、10月29日に終えた。その期間中の3日間はこの地におらず、鉛筆を握る事の出来ない状態だった為、事実上の作業日数は49日間となる。描画の終了日は展覧会開始の5日前であった。
実際の所、制作の中盤を過ぎてしばらく、予定内の完成が難しいのではないかと危惧していた進度であっただけに、展覧会まで5日間という有余を残して描画作業を終了出来た事は、我事ながら理解に苦しむ。確かに滞在の開始当初は・・・
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+++講評

水谷一は、これまで海外のAIRプログラムに多数参加していて真にAIRの熟練作家といえる存在だ。これまで、アメリカ、イギリス、韓国など多くの海外滞在のほか、国内では青森に滞在している。彼は、鉛筆か木炭といったモノクロによる静謐なドローイングを主な作品としてきた。そのモノクロの画面は、海のように広がりを持ちながら、深遠な闇を漂流しているようでもあり、長い制作時間を経て自在に変化していく。できるだけシンプルに鉛筆やシャープペンシルで同じ筆致によって、しかもそれは緻密で乱れることのないストロークと速度で描かれる。一度描かれた線は、消しゴムなどで決して拭われることがないのも特徴である。同じ調子と濃淡の線が、整然と並んだ同じ長さと強さで描かれ、慎重に紙面全体に敷き詰めていく方法をとっている。画面に近づいていくと精密機械で引かれたような整列した直線の集合体であることが分る。
作家は、滞在中のほとんどの時間を作業現場であるスタジオに籠ってドローイングを描き続けていき、最終的にその場にインスタレーションを行なう。作品を制作する現場と展示される環境が、合致するための結果でもある。だからこそ、彼にはレジデンスというプログラムが必然的な条件になる。ストイックなまでに寡黙に作業に集中する姿は、修行僧の赴きであるが、アートの属性にこだわり、その世界のジレンマに悶絶する苦悩を祓うためにも自らの身を潜める深淵な海底を描いているかのようでもある。今回、神山では、最初から寄居座を目指して神山にやってきた。かつて賑いで溢れた舞台の残響を画面に飲み込もうとするかのごとく、大作となった巨大なドローイングが床上に静かに大口を開けているのである。

嘉藤笑子(武蔵野美術大学非常勤講師)