家族と間取りの関係性

住まい2017年8月22日

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投稿者:高田 友美

報告が遅くなりましたが、鮎喰川すまい塾 を7月21日に開催しました!

鮎喰川すまい塾は、これからの神山での暮らしについて学び合う場として昨年度スタートし、今回で5回目の開催。大埜地(おのじ)の集合住宅の設計に携わる、建築家の山田貴宏さんと高木雅行さんをゲストにお迎えしました。


午前の部の会場の様子。Photo by Masataka Namazu

最初に、聞き手を務める公社理事の西村さんから、今回のテーマ「家族と間取りの話」についての問題提起がありました。

間取りは「4LDK」といった言葉のように、部屋の種類と数で表現されることが多いけれど、もちろん「部屋の数=住宅の価値」ではない。

「ある程度大きくなったら子どもにも部屋が要る」とか「書斎も欲しい」といった、部屋単位の暮らしのイメージは、戦後に住宅メーカーが開発してきたもの。今の私たちの住宅観は、間取りに対する考え方も含み、その影響を受けている。

そんな話の流れで、この卓袱台の写真が出てきました。


1954年東京、ちゃぶ台を囲んで食事する家族 - 毎日新聞

卓袱台は円形なので、人数が増えても詰めれば座れる。家族の人数の増減に対応する家具の形です。日本の道具や環境は、このように「モノや空間があらかじめ用途や質を定義していない」ものが多いようです。風呂敷はただの布きれだけど、鞄とは違っていろんな形のものを包みこんで、運んだり仕舞ったりすることができます。住居を見ても、伝統的な日本家屋の田の字型の居室は、居間にも客間にも、葬儀の空間にもなります。

それに対して、西洋では1つの行為に対して1つずつ道具や空間がある場合が多いよう。たとえばインターネットで検索して見つけたこちらの間取りは、各部屋が「Living(リビング)」「Master Suite(主寝室)」「Study(勉強部屋)」「Off(オフィス)」と明確に用途別に分かれています。日本の住宅メーカーは戦後、こうしたアメリカの住宅の形を参照してきたため、○LDKという考え方が定着していきました。

出典:hkscout.org

そんなアメリカでも、創造的な仕事に就いている人は、定義付けられていない部屋や、意味不明の空間(部屋とも廊下ともいえない場所など)のある、古い家で生まれ育った子どもたちだった、という研究報告があるそう。

モノや空間側ではなく、人間側が「使いこなしのソフトウェア」を持つような住まいのあり方について、どう考えて設計しているか? 山田さんや高木さんのお話に続きます。

山田さんからは、西洋とアジアの住まいでは「閉鎖系」と「開放系」という違いがあるとの説明。厳しい気候帯にある西洋では、中と外を遮断して、内部が居心地のよい状況になるようにコントロールします。部屋は、個人を護る、個別性のある場所であり、機能がわかれた場。一方、蒸暑地/温暖地の気候帯にある日本・アジアは、季節の状況に応じて選択的に内外をつないでコントロール。間取り・空間は暮らしに合わせて「融通無碍」に変化し、用途を限定しません。

たとえば、山田さんが設計した下の写真の物件では、暑い季節は間仕切りをなくして風通し良く涼しく、寒い季節には襖や障子などで仕切って暖房効率を高めて暖かく過ごせます。もし将来、個室が必要になったら、梁の位置に合わせて壁を増設するなど、改築も柔軟にできそうです。

高木さんからは、斜面地を活用した眺めのよい集合住宅や個人住宅の事例をいくつかご紹介いただきました。

とあるお家では、設計段階ではお子さんが小さく「子供部屋が欲しい」というリクエストに応えて設計したけれど、子供部屋が必要だったのは5~6年。子どもが進学で出てしまってからは、留学生などに下宿として貸しているそう。そういう状況を見ると、「固定した部屋にしないで、昔の家のように自由に改変できるようにしておいたらよかったかな」と高木さんは思う、とのこと。

こちらの写真は、高木さんが設計された分譲マンションの一室。あえて子供部屋を設けず、キッチン・ダイニングからつながる大空間で、子供たちが遊んだり勉強したりして過ごしているそう。広々とした空間にモノが散らかってしまわないように、すぐ横の収納スペースをうまく活用して、子どもも自分で必要なモノや洋服を出したりしまったりできるようになっています。

お二人の話を聞いていて感じたのは、「部屋を小さく区切るのではなく大きな空間を使いこなすことの可能性」とともに「ただ大きな空間があるだけでなく、多様な使い方ができる仕掛けの大切さ」でした。

集合住宅の間取りの紹介もあった後に、参加者の皆さんからの質問タイム。印象的だったやりとりをいくつかご紹介します。

Q1. 今回の集合住宅は、入居制限(子どもが18歳未満)もある賃貸なので、借り暮らしの感じで愛着が持ちにくい、自分たちが手を加えて価値を高めていくということをしづらいと思うのですが、どうでしょう?

A1. 日本では持ち家志向が強く、家族で同じ家にずっと暮らすのが基本、家の価値を高めていく文化が育っていない。欧米ではライフステージに応じてどんどん住み替えていく。だからといって愛着がないわけではなく、住みながら家や街区に手を加えて、出て行くときに住まいの価値が高まるようにしている。「持ち家だったら愛着が持てるのに」というのは、私たちがはまってしまっている罠なので、そこを外せると人生が楽になるのでは、と思う。(西村)
あんまり賃貸だからって遠慮しなくてよいんじゃないかな、と思う。自分の家は賃貸ではないけれど、いつか誰かに渡していくんだろうな、という意識で住んでいる。今回の集合住宅は賃貸だけれど、自分の手で住まいに魂を吹き込んであたためて、次の人に引き継いでいく、という意識で住んでもらえたら嬉しい。(山田)

Q2. 広い空間・リビングに憧れはあるけれど、寒い神山だと暖めるのが大変そう。借りている古民家は小さい部屋に分かれていて、最初は大部屋に憧れたけれども、今はそのままでもよいかな、と思っている。

A2. 新築であれば、昨今はかなり断熱されているので、そんなに問題にはならない。昔ながらの民家では、夏の間と冬の間で暮らし方を変えるというやり方もある。冬は、1か所暖める部屋を決めて集まって暮らし、夏は、風通し良く広々と暮らす。(山田)
広い空間では、床暖房からの輻射で熱を伝えるということが大事。普通のエアコンだけだと、頭の上の方だけが温められて、結局、足元が寒い。(高木)


質問するお母さんに子どもたちは興味津々!

第5回の報告は以上です。(ここまで読んでくれた方、ありがとうございます!)

次回の鮎喰川すまい塾は、前回のチラシの予告から修正があり、
10月17日(火)に「集まって暮らす」をテーマとして開催予定。
詳細は9月中にお知らせします。お楽しみに!

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高田 友美

静岡県浜松市出身。神戸→東京→スウェーデン→滋賀を経て、神山に移り住みました。神山つなぐ公社では「コミュニティ・アニメーター」として、主に大埜地の集合住宅とすみはじめ住宅から始まるコミュニティ育成を担当。休みの日はノラ上手に励んでいます。

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