「どうしたら山の手入れがもっと進むのだろう?」
「薪ストーブを使う人が増えたら、山の手入れをもっと身近に感じられるかも?」

 森林の面積が町域の86%を占める神山町。緑豊かな町に見えるかもしれませんが、間伐など十分な手入れがされず、森林の荒廃や治水力の低下につながっているという課題もあります。一方で、私が運営に関わる西分の家や鮎喰川コモンで薪ストーブを使っていることもあり、近い場所で薪を調達できるのはありがたいと感じています。

 身近な人から伐った木を分けてもらったり、薪として販売されているものを買ったり、薪の調達方法はいろいろあります。神山のような山あいの町だからこそ、薪は単なる燃料ではなく、いろんなものや人をつなぐ「磁石」の役割も果たしているんじゃないかと思うように。 

 そこで今回は、最近、神山の山の手入れに動き出していると噂の「もりまちレジリエンス」の方に連絡をとり、代表の鎌田晃輔さん、理事の大久保仁史さんにお話を伺いました。それ以外に、城西高校神山校、矢内製材にもお話を伺っています。


 さて、「もりまちレジリエンス」のお名前、聞いたことがない方も多いかもしれませんね。最近、神領の国道沿いの土場に、伐採された木が山積みになっていること、「おしゃれな看板が立ってるけど、何だろう?」と思っていた方もいるのでは?この木を置いているのが、もりまちレジリエンスなんです。

看板とともに、たくさんの丸太が並んでいる土場

「もりまちレジリエンス」とはどんな組織なのでしょう?

大久保さん「もりまちレジリエンス」は、異業種から成り立っている組織。元々、林業しよったんは僕だけ(大久保林産業)で、あとはもう完全に異業種。国府町にある、いろんな会社の社長が集まってしよんです。

鎌田さん僕は家を建てる会社(誉建設)で、あともう1人は重機の会社(井貝重機)。もともとは地元・国府町の防災を一緒に考えていく仲間でした。話をしてるうちに「何かみんなでできるやん」みたいな話になって。

大久保さん川下にある国府町を災害から守るためには、川上から整備しようって。鮎喰川水系の源流である神山町で、森林の整備をしていけるといいのかなって。神山杉っていうのを、利益目的だけでなく、地産地消でもっといろんなことに活用できんかな、と話す中で、薪の販売もするようになりました。


お話を伺った大久保さん(写真後列左)と鎌田さん(写真後列右)に加え、現場で作業中だった3人も一緒に撮影。前列左と中央の2人は、とくしま林業アカデミーの卒業生。前列右の方は、とくしま林業アカデミーの現役生でインターン中とのこと

インタビューのためにお邪魔した、神山町内の間伐現場

今日は伐採現場にお邪魔していますが、ここでは何を?

大久保さんここの山主さんから依頼されて、間伐をしています。もりまちレジリエンスの活動に共感してくれた町内の方が、僕らに連絡くれて。

間伐現場に積まれた丸太の山は、さまざまな材が混在する状態。木材仮置き場に運ばれ、品質や用途によってA・B・C材と丁寧に仕分けされる。

鎌田さん川下で暮らしている僕らは、林業や製材を含め、山のことを全然知らんかった。もりまちの活動をすることで、みんなの顔が見えて、現状がわかってきて、問題は何だ、というのがわかってきて。

大久保さんだからこそ神山町では「もりまちレジリエンス」として、地産地消・地元に還元できるような仕組みをつくれたらな、と思ってる。伐採しよると、いろんな木が出てくるんです。材の中心の色や曲がり具合によって、一番高く売れるA材からC材まで。

A材を売る場合は、できるだけ地元で伐採や製材をする人たちにお金が残るような流通の仕組みにしたい。C材以下だと、集成材や合板になったり、チップとして売るしかない。目先の利益だけ追いかけよったら、チップ用で売るのが、1番手間もかからんし、お金も入る。でも、薪として販売しようかな。

多少利益は少なくなっても、地元に何か還元できる仕組みの方が、もりまちとしてやりがいあるんちゃうんか、と。せっかく、みんなでしようことなんで。

その流れで、薪の販売なんですね。

大久保さん 大久保林産業では、3年くらい前からかな、薪も売りよんです。年間大体300トンぐらい販売しよるんですよ。県内外で取引のある薪ストーブユーザーさんは170件ぐらい。他に薪を売ってる人がいないから、どんどんお客さんが増えていく。

鎌田さん実際、神山から市内に仕入れに来てくれてる人も、いらっしゃいますね。せっかく近くに素材があるのにもったいないな、と。

 

 町内では、他にもあちこちで、薪が積まれているのを見かけます。県立の農業高校である城西高校神山校では、学校の敷地内に薪が山積みにされていたり、道の駅でも薪を売っていたり。

 担当の村瀬先生・草本先生にお話を聞いてみたところ、学校の授業で、間伐作業に取り組んでいるそう。その中で出てきた木材の一部を山からおろしてきて、薪にしています。今年、中心的に関わっているのは、川遊びをきっかけに山の手入れへの関心を高めている3年生の生徒2人。道の駅では、レーザーカッターで神山校のタグをつけて売っています。まちの人たちに神山校を認知してもらう、いいきっかけになりそう。

 矢内製材の矢内敏弘さんにもお話を伺ってみました。下分・稲原で「神山産 まき あります」という大きな看板がある場所が、矢内さんの薪販売の拠点です。こちらも、見かけたことのある方は多いと思います。

木の仕事をして60年というベテランの矢内さんと奥さまにお話を伺いました。
薪を売り始めたきっかけは、人とのつながり。



「自分とこも炊くんやけど、生津さんて人が近くに来て。彼が家にストーブ入れて薪がいるっていうから、うち用の広葉樹の薪を分けてあげたのが最初やな」

「せっかく外から神山に来てくれた人たちに、薪でおもてなしできるの、ええぞ、と思いましてね」

なんとも嬉しい。薪をきっかけに人がつながっていくんですね。

矢内敏弘さん。事務所の薪ストーブで温まりながらお話を聞かせてもらいました

 そういえば、寄井商店街でビストロカフェとして営業していたオニヴァでも、「薪通貨」という素敵な仕組みがあったのを思い出しました。お店に「薪一抱え」を持ってきてくれた方には、代わりにエスプレッソ一杯をお出しするというユニークな発想。

暖房や給湯などのエネルギーを薪でまかなっているオニヴァでは、薪は生活の必需品。ただ薪を手に入れるだけでなく、薪を持ってやってきてくれるまちの人たちとコミュニケーションもとれる、いい仕組みだなとうらやましく思っていました。

現在のB&B On y va & experienceの室内。今は自ら山の手入れをして薪を調達されている。

さて、ここでもう一度「もりまちレジリエンス」の話に戻ります。

神山での薪販売はこれから始まっていくところ?

大久保さん 神山町では、ビジネスのためというより、もりまちの活動の一環としてできたらな、と思ってるんです。

鎌田さん軽トラいっぱいでいくら、というよりは、「薪のサブスク」みたいな設定で、自分で薪をつくって自分で持ち帰ってもらうとかね。理念に共感して、薪も買いながら、一緒に活動してくれる神山町民が増えるといいなあ。

大久保さん神山の人たちにとって、今はまだ「もりまちって何?誰なん?」みたいな感じじゃないかと思ってる。少しずつどこかで知っていただけるといいですね。いつか、神山のことを知り尽くしているような人が、もりまちのメンバーに入って、いろいろ先陣切ってやっていってくれたら、もっと面白くなるんかなとは思うんですけど。

鎌田さんせっかくだから、これを機に「薪割りクラブ」の案内もまとめちゃうか(笑)


薪をきっかけに、山の手入れをする人とまちで暮らしている人がつながる。山の手入れをする人が増える。一緒に薪を調達することで、まちの人同士もつながっていく。

薪が持つ、コミュニティをつなぐ「磁石」としての力。これからますます、山とまち、人と人、まちとまちをつないでいくような可能性を感じました。