「刈る」だけじゃない、未来の草刈りを考える 〜 草刈りフォーラムvol.2 〜
学び2025年12月22日
11月、秋晴れの中、開催された「草刈りワークショップvol.2」の報告をさせていただきます。
里山の風景を美しく保つために欠かせない「草刈り」。最近では、神山でも耕作放棄地などが増え、周辺の風景が変わってきていたり、獣害による作物への被害も多くなっています。今回は、地域の風景や暮らしを守るために欠かせない草刈りを、もう一度ここに暮らす住民が考え直す機会になるよう、草刈りフォーラムと題して、大変な草刈りだけど、みんなでワクワクしながら未来を考えようということで、3回のフォーラムを実施することになりました。1回目は、いろんな草刈りの方法や道具について知る機会を設け、2回目となる今回は、実際に草刈りをやれる人の裾野を広げていくこと、そして、これまでにはなかった未来の草刈りの方法を学び、人口が減少していく中で、一人一人がどんなふうに関わることができるのか、を考えようという機会を持ちました。
第1部 「達人から教わる こだわりの『道具』と『技』」
「なんとなく自己流でやっていたけど、きちんと教わったことがない」という経験者の方々や、「草刈機を触ったことがない」という女性など、草刈りへの関心が高い参加者が集まりました。
達人の知識と丁寧な指導に納得!
今回の講師は、長年の経験を持つ草刈りの達人。 達人は、自分たちの田畑や山などを町内に所有している、神山に長年暮らす方々。第1部は、ご自身が愛用されているこだわりの道具の紹介からスタートしました。それぞれの道具の特徴や、効率的かつ安全に作業を進めるための使い方について、惜しみなく詳しく教えてくださいました。
特に参加者の皆さんが真剣に耳を傾けていたのが、「安全面の指導」です。
・道具の使用方法
・正しい服装と保護具の重要性
・危険を避けるための操作のコツ
達人は、一つひとつ丁寧に、実演を交えながら指導してくださり、参加者は熱心に質問をしたりする姿が見られました。

参加者の感想:「これで自信を持って草刈りができる!」
道具の持ち方や操作の仕方を教えていただいたり、「刈った草をまとめる」の技も飛び出し、参加者の皆さんは終始満足そうな笑顔!
「いつも怖くて紐の草刈機でしていましたが他のアイテムの危険性や使いこなし方が先輩たちから聞けてよかったです」
「草刈機には三つの種類があることを今回初めて知った。それぞれに特徴があり、扱い方も異なることが印象に残った。」
「レジェンドの技を見るだけではなく、実際に使えたので、それぞれ機械の特性が良く理解出来たのが良かったです。」
など、「今後に活かせる知識と技を得られた」という声が多く聞かれました。
この第1部を通して、参加者の皆さんは、ただ草を刈るだけでなく、「安全に、効率よく、そして楽しく草刈りを行うための土台」を築くことができたようです。
当日のビフォー
アフター
さて、ここからは、午後に行われた第2部「未来の草刈り」の始まりです。
講師にお迎えしたのは、兵庫県立 人と自然の博物館 主任研究員の三橋弘宗先生です。三橋先生は、2024年の春にも神山にお越しくださっており、その際には、役場の職員の皆さんと一緒に、「未来の草刈り」について、実践を交えながらお話を聞かせていただきました。

⚫️目地の防草
三橋先生から教えていただいたのは、「道路やコンクリートなどの目地から生えてくる草を、どうやって防ぐことができるか」ということ。そして「環境にやさしい除草剤を開発している」というお話でした。
この内容を、地域の草刈りの達人の皆さんにお伝えしたところ、「お墓の割れ目から生えてくる草に困っとる人がおる」「ぜひ話を聞いてみたい」といった声が上がり、今回、再び三橋先生にお越しいただくことになりました。
まず教えていただいたのは、用水路の防草、そして割れ目の補修についてです。
用水路からの水漏れについては、「メンテナンスに困っている」という声を、地域の中でも多く聞きます。
割れ目をそのままにしておくと、そこからまた草が生え、さらに割れ目が広がり、修復する時にはさらに大きな水漏れにつながってしまう可能性もあるとのこと。
地域の大切なインフラを、誰もが扱える道具と技で修復できるかどうかが、今後の大きな鍵になる、というお話でした。
今回は、この地区で田んぼをされている地域の方と一緒に、
修復が必要そうな箇所を探しながら、参加者の皆さんといくつかの場所を実際に補修していきました。
(用水路の補修は、水が流れていない時期でないとできないため、冬の間に行うことが肝心です。)
今回の作業工程は少し分かりにくいため、2024年春に来てくださった際の写真(右側)もあわせて紹介します。
まずは、割れ目に生えている草や、溜まっている土を、草刈鎌や「コンコン鎌(商品名)」を使って取り除きます。

次に、樹脂を流し込む前に、ブラシを使って周囲をきれいにし、余計なものが入り込まないようにします。隙間に根が残っていると、そこから再び草が生えてきてしまうため、必要に応じてバーナーで土の中に残った根を焼くことも大切です。
その後、割れ目に砂を流し込みます。
最後に、その砂の上から、三橋先生が開発した樹脂を流し入れていきます。
これで完成です。
見逃してしまいがちですが、コンクリートやアスファルトの割れ目に生えてくる草は、見た目の問題だけではありません。放置すると、割れ目から雨水が入り込み、その下の土が少しずつ流され、将来的には陥没などにつながる可能性もあるそうです。
「刈る」だけでなく、「隙間を塞ぐ」という考え方がとっても大事なんだと思いました。
今回使用した樹脂は、環境にやさしく、耐水性にも優れ、太陽などの熱にも強いのが特徴です。耐用年数も長く、一度修復すれば、その後何年も水漏れや草の発生を防ぐことができるそうです。
この技術は、用水路の割れ目だけでなく、道路やコンクリートの隙間などにも応用できます。
また、応用編として、木材に樹脂を塗布し、木材を長持ちさせる方法も教えていただきました。

ベンチに塗布することで、腐食を防ぎ、木材の強度を保つことができるそうです。
⚫️環境にやさしい除草剤
もう一つ紹介していただいたのが、環境にやさしい除草剤です。
これも、三橋先生が開発した特別な除草剤を用いた「未来の草刈り」の一つです。
一般的な除草剤は、葉や根まで枯らしてしまい、土壌への影響が大きいものもありますが、この除草剤は、葉のみに噴霧し、数時間置くことで効果が現れます。
葉が枯れることで光合成ができなくなり、植物が育たなくなる仕組みを応用しているそうです。
クエン酸や有機酸を使用した、環境に配慮した除草剤で、根を枯らさないという点が、これまでの除草剤とは大きく異なります。
今回実験を行った畑は、数年前までススキに覆われていましたが、毎年刈り取ってコエグロにし、すだち畑などの肥料として使われてきました。
しかし近年、セイタカアワダチソウが混じり始め、勢力を増したことで、肥料として使うことが難しくなっていたそうです。
そこで、セイタカアワダチソウの葉の部分に、実際に除草剤を噴霧しました。
噴霧から約2時間後、噴霧していない左側と比べると、右側の葉がしおれてきている様子がはっきりと分かります。
さらに数日後の様子を見ると、その違いはより明確になっていました。
ビフォー
アフター

今回の草刈りフォーラムでは、草刈りを「どうやって安全に行うか」という基本から、「これからの時代、どう草と付き合っていくか」という未来の視点まで、幅広く学ぶ機会となりました。
第二部を終えた参加者の皆さんからの感想の一部を紹介します。
「先生のユーモア満載のトークは時間が足りないくらい興味深いものでした!一日コースでまた講座を開いてほしいです。」
「誰でも気軽にできる実践方法を教えていただき、普段力仕事ができない私にとって除草に対するハードルが下がったように思います。特に、教えていただいた道路の除草は、家の敷地内や地域清掃でも実践したいと思いました!地域清掃のメニューに加わったら、地域の中でさらに実践しやすいです。」
「実際のメンテナンスを見せていただきながら、コンクリート割れを放置することで起きる崩壊のプロセスや棚田の価値などお聞きできたのが大変勉強になりました。」
などなど、皆さんそれぞれに得るものがあった時間となったようです。
第1部では、地域で長年草刈りに携わってきた達人の皆さんから、道具の使い方や安全への配慮、作業を続けていくための知恵を教えていただきました。草刈りは経験と勘だけに頼るものではなく、正しく知ることで、誰もが関われる作業になることを改めて感じました。
第2部では、「刈る」だけでなく、「防ぐ」「長持ちさせる」という発想の草刈りが紹介されました。用水路や道路の割れ目を補修し、草が生えにくい状態をつくることや、環境に配慮した方法で草と向き合うことは、地域のインフラや暮らしを守ることにもつながります。
草刈りは、単なる作業ではなく、風景や暮らしの土台を支える大切な営みです。
人口が減っていくこれからの時代だからこそ、無理なく、続けられる形で、草とどう付き合っていくのかを考えていく必要があります。
今回のフォーラムが、神山でのこれからの草刈りを、住民一人ひとりが自分ごととして考えるきっかけになれば嬉しいです。
草刈りフォーラムは、年が明けてから、最終の第3回の開催を予定しています。(開催日が決まり次第、イン神山でお知らせします)
1回目や2回目のフォーラムで皆さんから出た意見はもちろん、担い手が高齢化する中で、どう地域の安心な暮らしを守っていくことができるのか。みんなで考えたいと思います。


donanzo (みんなでどなんぞしちゃげんで)
生活支援体制整備事業(※)では、「みんなでどなんぞしちゃげんで」を合言葉に、年を重ねられた皆さんはもちろん、大人も、子供も、住み慣れたこの町で、元気に活き活きと暮らしていけるように、この町で暮らすみんなで取り組むまちづくりを行っています。 (※)生活支援体制整備事業は、神山つなぐ公社が神山町地域包括支援センターから委託を受け、企画運営を行っている事業です。
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