神山で過ごす高校三年間。ここで挑戦する。ここだからできる。
なんでも2025年12月26日
夕方、「ただいま」とぽつりぽつりと寮生が共用部に顔を出し始める。楽器を弾きに行く人、お菓子作りを始める人、飲み物を取って部屋に戻っていく人。少し落ち着いた17時、今日の夕食当番が集まってきた。毎週月曜日の話し合いの時間で1週間の朝食当番と夕食当番が立候補制で決められ、当番の寮生が中心となってご飯を作る。料理が得意なメンバーを中心に今日のメニューの確認だ。前日決めたメニューの通りになることもあれば、その場で思いついたものになることもある。夜ご飯づくりを中心にサポートしてくれる食育スタッフも合流して、近くのスーパー「かたやま」まで買い出しに行く。「なるべく神山の食材、徳島の食材を使いたいよね」と安いことよりも地元の食材を選ぶ。
夕食当番は2人から3人。その日のスケジュールが合う人が入るため、割とランダムだ。ごはんを作る2時間、スピーカーから音楽が流れ話も弾む。普段話す機会が少し少ないような先輩や後輩とゆっくり話をするきっかけにもなる時間だ。「ちょっと挑戦的な料理や、普段だったらできないような料理にも挑戦できる。多少失敗しても食べてくれる人、感想を教えてくれる人がいるから、作ってみようって思える。」とある寮生は言う。
19時過ぎ。夕食ができたという連絡が届くと寮生が続々と集まってくる。「ただいま」「おかえり」の声が共用部に響き渡る。二列に並べられた机をそれぞれ囲むように各々思い思いの席に座って(指定席なこともある)夕食が始まる。それぞれが近くの人と今日あったことなどをしゃべっていたりしゃべっていなかったり。みんなリビングで思い思いの時間を過ごしている。
20人分くらいの食材を当番たちと切っていく
夕食当番がみんなの分の盛り付けをする
この日の晩御飯
サバのガーリックソース焼き・空心菜とナスの炒め物・味噌汁・ごはん・ジャガイモのケーキ・バターカボチャのケーキ
「今日の話し合い何時からやるー??」あゆハウスの暮らしを作る時間、週6日の話し合いの今日の時間が決められる。机を真ん中に寄せて、周りを囲むように輪になって話し合いが始まる。話し合いの場にいる人みんなの顔が見える。体調や今日あったこと、相談共有事項、明日の献立などを話して確認していく。寮に関してみんなで考えてほしいトピックスや寮内イベントの計画共有があるときは30分近くにもなる。なるべくみんなで集まり、体調不良で出てこられない人も必要があれば電話で参加する。神山内でのイベント事項やお誘いも、この時間にみんなに共有されることが多い。寮生だけでなく、ハウスマスターや食育スタッフがそれぞれ関わっているイベントについて告知を置いて行ってくれる。イベントは、もちろん参加してもいいし参加しなくてもいい。
話し合いの時間が終わるとフリータイムだ。バンド練習を始める人たち、自室で受験勉強に励む人たち、階段の隅っこでゲームに興じる人たち、イベント企画の話し合いをする人たち、コンビニまでお散歩に行く人たち、テーブルを囲んでおしゃべりをする人たち。ハウスマスターや食育スタッフに相談をする人もいる。共用部や自室で、思い思いの時間を過ごす。
22時を過ぎても話が止まらず23時過ぎまで時には24時近くまで話が続くこともあった。

話し合い後の共用部で始まった人狼ゲーム
「一年生の時はやらなきゃいけないって思っちゃって共用部にいるのが居心地悪かったけど、やることが多くて自然と共用部にいることが増えて。思ってることを言えるような関係が作れてきたから、居心地悪いとそんなに思わなくなったかな。」2年生の子がインタビューの際に答えてくれたことだ。寮生は日々関わりながら時間をかけて少しずつあゆハウスの中に自分の居場所やかかわり方を見つけ出していた。
日常だけではない。あゆハウスの中では寮生によるイベントが定期的に行われている。私が滞在した中で行われたハロウィンイベントもその一つだ。イベントをしてみたい人同士が声を掛け合って、数か月前から準備をしていく。話し合いを重ね、夕食メニューやプログラム、レクリエーション、会場セッティングを決める。放課後急いで帰宅したメンバーが共用部をいつもとは違うクリスマス仕様に塗り替えていく。夕食の時間までは共用部は立ち入り禁止。どんな様子になったかはお楽しみだ。
夕食の時間に声がかかると続々と集まってくる。ドレスコードはもちろん仮装。寮生・大人関係なく様々な仮装で大盛り上がりだった。

ハロウィン特別メニュー
この日はメニュー表付き。かわいいネーミング
手作りデザートもハロウィン仕様
ハロウィンに飾り付けられた共用部
かたやまに一緒に買い物に行った際に地域のおじさんに話しかけられている3年生、それぞれのバイト先で活躍する子、浄瑠璃や阿波踊りに参加している子、森づくりに参加している子、子ども食堂に参加している子などなど、地域に住む高校生の一人として繋がり活躍している。
あゆハウスから寮内、町内と様々な場所に飛び出し挑戦する寮生に、どうやって挑戦の場をつかんでいるのか、なぜやってみようと思えるのかインタビューした。
寮生17人のうち全員とはならなかったが、11人に時間を取ってもらい話を聞くことができた。その中から特に印象に残った部分を紹介したい。
誰が話したかは匿名にするという約束のもとで話してもらっているため、ここでは学年のみを記載する。
「大人とかが地域のイベントを持ってきて、並べて選べるようにしてくれる。情報が多くて浴びせられることも、無理に引きずり出されることもないけど、興味があったらいこっかなって思える。」(1年生)
寮でやっていることにまずなじむこと、地域の中で起こっていることをたくさん吸収する機会を少しずつ増やすこと。それぞれのペースではあるものの、一人では始めにくいことも、先輩や寮に関わる大人が参加している取り組みなどから面白そうと思ったところに参加して世界を広げていく1年生。
「あゆハウスの中でやってることにも地域の人が手伝いに来てくれていて、その人が音楽好きで趣味があって新しいつながりができて。やりたいと思ったイベントとかに参加したら趣味の合う人と会えるから環境がいい。蜘蛛の糸みたいな感じでつながってる。」(2年生)「いろんな人がいるし、どこでも気軽に飛び込める、自分のやりたいことをやりやすい雰囲気がある。まだやりたいことなくても、ここでなら自分を見つけられる気がする。」(2年生)
ついて行って挑戦してみるところから、少しずつ新しいかかわりをつくり、興味を持っていることや新しい挑戦につなげていくきっかけを作る2年生。
「最初はあんまり興味がなくて、自分がやるのは…って思ってたけど、先輩から声かけてもらって飛び込んでやってみたら意外と楽しいって発見がある。
先輩とかの影響が大きくて、料理とかルール教えてもらったり、寮とか地域でこんなことしてるよって引っ張ってくれるから、新しい自分に出会えるチャンスがある。だから自分も後輩にこんなのがあるよって声をかけてみたりして。」(3年生)
「興味ありそうなことを誘ってくれる大人がいて、部屋にこもるのが時間の無駄だもったいないって思うようになった。」(3年生)
自分のやりたいことや興味が定まり、深めていく。自分が誘ってもらったことを返そうと後輩を新しい場所に誘い出す3年生。
「取り合えずやってみるの精神。自分の意見も言わなきゃいけないし。料理も一週間に何回かは作らなければいけないし。最低限の活動はしなきゃいけないし。初めてのチャレンジがあるけど、意外とやってみればできる好きかもっていうのが知れるし自分も成長できるし、興味なかった人を誘うってこともできるし。」(3年生)
「誰かがやっているからできてる。先輩の背中と同期に負けたくない気持ちと。私が一年生の時、先輩は一緒にイベントとかお手伝いに行っても、話しかけられる量が違うからすごいなって。」(3年生)
あゆハウスから挑戦していく先輩の姿をみて、一緒に生活する同期を見て、少しずつ地域に出て新たなことに挑戦する環境が作られていた。
そして、寮内でのつながりだけではない。
「寮の大人≒地域の大人だから参考になったし、伝手になる。」(2年生)
「否定されないから挑戦しやすい。どうする?どうしたらいい?何が必要?っていうのを全力でサポートしてくれる。自分の発言のしやすさや挑戦しやすさにつながってるかなって思う。」(3年生)
「やってみたいっていったら同じくらいの熱量でやりたいって言ってくれる人がいたし、応援してくれる人がいた。関心を寄せてくれる大人とか、「やってみたらいいんちゃう」「やったらいいんちゃう」って言ってくれる人が多い。やりたいって思ったらそれにかかわる人は一人くらいはいるし、どうにかつながれる環境と受け入れてくれる環境がある」(3年)
「自分を見てくれている人がいることで頑張れる。これやってくれたんだね!って気づいてくれる人がいると、もっとやろう!ってなる。私に関心持ってくれてるなって伝わってくるだけで頑張れる。」(3年生)
「あゆハウスの空間やルールだけになっちゃうんじゃなくて、神山町が面白いから、あゆハウスだけじゃなくていろんな視点があるから、ここだけじゃ苦しくなることもあるけど、それだけじゃないオープンなところがあるから。ここだけの価値観、大人や寮生の思いに偏らないところがいいなって。風通しがいいなって。」(3年生)
ハウスマスターや食育スタッフとしてかかわっている大人たちが、寮以外での地域の大人としての肩書や活動を持っている。神山の大人たちは複数の顔を持っている人がとても多い。そのつながりの広さと、できることの多さからやってみたいを口に出した際に、興味が近そうな人に速く繋げてもらえる環境がある。やってみたいと思ったことを、くすぶらせずに、熱量が高いうちに少し深掘りできる、一歩実現に近づけるスピード感をこの町は持っているように感じる。
「卒寮式ってここでの繋がりが見えるじゃない。その時にあゆハウスの子に会いに来るんじゃなくて、自分のために来てくれる人がどれだけいるかなって。」(3年生)
卒寮式では、卒業生の家族や寮生、OBOGだけでなく、今まで関わってくれた地域の人たちも参加するという。あゆハウスのみんなと関りがある人だけでなく、「私個人」がつながった人、仲良くなった人が見送りに参加してくれることは、この町で3年間どれだけのかかわりを持つことができたのかが一つの集大成として見えるのだろう。
「神山にはこうなりたいって大人ばっかりいる。」(3年生)
「自分の中で尊敬できる人がたくさんいる。どの人も楽しんでて、その辺のおっちゃんも面白い。地域の人に聞いても、神山に来てこんなことしてもらったから、もらったものが沢山あるから返していきたいっていうのはよく聞く気がする。」(3年生)
先輩を見て地域に飛び出し、地域の中でつながる。一人の町の人としてやってみたいことを応援してくれるひとがいる。やってみたらいいと背中を押して、一緒に考えてくれる人がいる。憧れられる大人がいる。あゆハウスが、神山が、「人との繋がりの中で挑戦できる場所」に私には見えた。















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