
つなプロ作戦会議vol.4−1 開催報告「まちを将来世代につなぐ事業とは?」
学び2025年9月25日
9/18(木)に「まちを将来世代につなぐ作戦会議」の勉強会シリーズの第1弾を開催しました。本レポートでは、その内容をダイジェストでお届けします。
当日参加してくれたのは20名程度。最初に、神山町役場の坂井さんより、今回の勉強会の背景や趣旨が説明されました。今回の問いは、
「まちを将来世代につなぐ」ってどういうことだろう?
私たちも明確に分かっているわけではないし、3期をどうしたらいいだろう?というのを、参加してくれた皆さんと一緒に考えていきたい。一方的に話を聞く勉強会ではなく、聞いた話をもとに対話を通して深めあう場にしたかったので、いつもとは設えを変えて、車座の椅子の配置にしてみました。
事例をお話ししてくれたのは、つなプロ第1期を検討するワーキンググループから生まれ、今や神山の日常に深く根づいている「フードハブ・プロジェクト」の共同代表、白桃薫さんです。その立ち上げから現在に至るまでの軌跡と、その根底にある想いについてお話を伺いました。
白桃さんの話は、プロジェクトが生まれた10年前に遡りました。当時「神山たべる公社」というテーマで集まったグループから、フードハブの構想は生まれました。その中心にあった理念は、驚くほどシンプルで力強いものでした。
神山のために 小さいもの(少量生産)と 小さいもの(少量消費)をつなぐ
10年前に描かれたプレゼン資料には、有機小農園、食料雑貨店、食堂、コモンキッチン、加工品開発といった、現在のフードハブを構成する機能がほぼそのままの形で提示されており、明確なビジョンを持ってスタートしたことが伺えます。その目的は、神山の中の食の「自活率」を高め、地域内での経済と文化の循環を生み出すことでした。

左が10年前のプレゼン資料、右が現在のもの
「やらなければいけない」— 使命感が支えた試行錯誤
しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。農業の担い手の育成を中心に据え、米をはじめ様々な野菜・果樹を育てる中で、「お米作りを大幅縮小し、野菜中心の農業へと舵を切る」という決断は、白桃さんにとっても特に大きなものだったそう。この転換は、単に経済的な合理性だけでなく、「まちを将来世代につなぐ」という視点から下されたものでした。
大規模な米作りは、収益性の確保や担い手の問題から、属人的で持続可能性が低い。一方で、多様な野菜を作ることは、地域の食文化を豊かにし、学校給食などを通じて地産地消率を高めることにも繋がる。田んぼから畑に変わることで「馴染みの景観が変わってしまった」という地域からの批判の声に悩みながらも、白桃さんは「何が本当に地域のためになるのか」を問い続けました。
この決断を支えたのは、「自分がやりたい」という想い以上に、「これは、やらなければいけないプランだ」という強い使命感でした。かつて父親が病に倒れ、地域の稲刈りが滞った経験から、食の担い手が一人欠けることのインパクトを痛感した白桃さんにとって、フードハブは個人的な事業を超え、地域のインフラを再構築する社会的なプロジェクトだと考えるようになったのです。
「異分野の出会い」と「地道な対話」が可能性を広げた
プロジェクトを前進させる上で鍵となったのが、「異分野との出会い」と「地道な対話」でした。第1期検討の際に偶然同じグループを選んだ真鍋さん(フードハブのもう一人の共同代表)との出会いが、プロジェクトに新たな視点をもたらします。農業行政に詳しかった白桃さんに対し、広告制作や食のイベントプロデュースを手掛けてきた真鍋さんは、「外」の視点から食の新たな価値を提示しました。「地域で育てたものを、料理人やパン職人が形を変えることで、新しい循環が生まれる」。この異分野の化学反応が、フードハブの活動を単なる農業の生産・販売に留まらない、文化的な広がりを持つものへと進化させたのです。
そして、参加者からの「地元などからの反対意見をどう乗り越えたか」という質問に対し、白桃さんは「ひたすら丁寧に、時間をかけてコミュニケーションを重ねていった」と語りました。当初は「何をやっているか分からない」という地域の声も多く、呼ばれれば地域の集会に出向いて何度も説明を重ね、町民町内バスツアーなどを通じて地道に理解者を増やしていきました。その誠実な対話の積み重ねが、当初の不安や疑問を、今では地域内外からの力強い応援へと変えています。
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今回の勉強会は、「まちを将来世代につなぐ」という壮大なテーマに対し、「フードハブ・プロジェクト」という一つの具体的な実践例を通して、多くのヒントを得ることができたように思います。明確な理念を掲げてそこに向かって進むこと、経済的自立と社会的価値を両立させる仕組みを考えること、そして、多様な人々と丁寧に対話を重ね、仲間を増やしていくことの重要性です。
参加してくれた方の感想をいくつか抜粋してご紹介します。
・前回までの作戦会議では「それぞれの所属・カテゴリー」の中でどうできるかの話が大きかったように感じる。今一度、一住民として、個人として、どうまちを将来世代につないでいく活動ができるのか、考えたい。
・事業の背骨となるテーマを立てて、育てるように着々と進めてきた歩みを伺えて、改めて初志の大切さを感じました。自分にはないものを与え合えるパートナーやメンバーに出会えてきたことも、白桃さん自身の推進力になってきたのだなあと印象に残りました。
・第1期のプロジェクトに取り組んだ人が後に続く人たちに経験や課題を継承・共有していくことが、まさに「つなぐ」ことだなと感じました。こうした仕組みが永続的に続くと年々よい町になっていくと思います。
10月の発表会に向けて、だけでなく、これからまちの将来を考えて取り組んでいく上で、大切なことをいろんな視点から考えるきっかけとなった場となりました。お話してくれた白桃さん、そして参加してくれた皆さん、ありがとうございました。

高田 友美
静岡県浜松市出身。神戸→東京→スウェーデン→滋賀を経て、神山に移り住みました。神山つなぐ公社では「コミュニティ・アニメーター」として、主に大埜地の集合住宅とすみはじめ住宅から始まるコミュニティ育成を担当。休みの日はノラ上手に励んでいます。
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