特集

Vol.02

放課後・休日の子どもたち

いろんな大人のいる神山で
子どもたちは
どんな放課後や休日をすごしている?

第0話

まえがき:保護者の集い

2021年8月6日 公開

神山町には現在、保育所が2施設、小学校が2校、中学校が1校あります*。人口減少に伴い、かつては7校(上分・下分・左右内・神領・阿川・鬼籠野・広野)あった小学校がわずか2校(神領・広野)になり、同様に、2校(神山・神山東)あった中学校が1校(神山)に統合されました。 

*ほかに公立の城西高校神山校があり、2023年には私立の神山まるごと高専が開校予定

町域が広いため、平日は大半の子どもたちがスクールバスで通学しており、休日も保護者の送迎で移動しています。そのため、放課後や休日の活動場所の選択肢が限られています。
そのような現状の中でも、数十年続いているスポーツ活動やここ数ヶ月で生まれた文化・学びの活動もありますが、まだ町内でも知れ渡ってはいません。
 
今回の特集では、放課後や休日に、子どもたちが選んで参加できる活動や、子どもたちが中心となって過ごせる場について取り上げます。
 
はじめに、保育所・小学校・中学校に通う子どもを持つ保護者のみなさんに、子どもたちの放課後の現状をきいてみることにしました。 

毎日、暗くなるまで遊んでた

自己紹介と、神山との関わりを教えてください。

織田智佳 徳島市内の出身です。7年前に地域おこし協力隊として神山へ。神山の特産である梅やすだちで、都市と里山をつなぐ活動をしていました。いまは独立をして、『神山ルビィ』の屋号で、梅干しの販売や神山の食文化を伝える活動をしています。

松本絵美 奈良県出身です。大阪から神山に来て、今年で4年目になります。夫が農業をしたいという想いが強くなったときに、フードハブ・プロジェクトで農業研修生の募集を見つけて、神山に来ることに。来年からは独立し、鬼籠野で就農する予定です。

中南篤志 大久保集落の出身です。高校・大学と県外に出て、当時は神山はあくまで故郷であって、将来は関東の方で暮らすだろうなと想像していました。いまは、神山中学校で教員をしています。仕事で数年間、海外で暮らしたこともありますが、そのおかげでなおさら、神山の良さが分かるようになってきたと思います。

お子さんの話の前に、みなさんが子どものときはどのように過ごしていましたか?

織田 実家の周りは、まだ田んぼだらけでした。姉の友だちだったお兄ちゃんやお姉ちゃんたちに遊んでもらって、鬼ごっこや缶けりをしたり、秘密基地をつくったり。行ってはいけない場所や、やってはいけないことはなくて、毎日、暗くなるまで遊んでいました。
 
松本 新興住宅地に住んでいたので、同じ年頃の子どもが大勢いて、近くの公園で集まって遊んだり、お互いの家に行ったりというかんじでした。親が働いていたので、幼稚園のときから鍵っ子で。自分で帰って鍵を開けて、兄と姉が帰って来るまでひとりでお留守番をしてました。子どもだけで過ごす時間が多かったなっていう印象がありますね。
 
中南 地域のお兄ちゃんたちによく遊んでもらっていましたね。そこにあるもんを使って、そのとき、そのときで、工夫して遊ぶっていうか。石投げしたり、虫や魚を採ったり、アイスの棒を用水路に流して競争したり。メンコやビー玉、ラジコンもすごく流行ってました。

町内で過ごすのも良いな

お子さんたちは、学校以外の時間、放課後や休日をどう過ごされていますか?

中南 長男が神山中学校1年生、二男が神領小学校の4年生です。帰ったらすぐに宿題をするのが、家族内のルール。そうすれば、僕が帰宅したあと、すぐに一緒に遊ぶことができるんで。
 
松本 長女が神領小学校2年生、次女が下分保育所の年中です。長女は、小学校が終わると、私たちが働いているかま屋まで、歩いて帰って来ます。そのあとは、鮎喰川コモンに行ったり、かま屋や友達のお家で遊んでいます。仕事が終わり次第、次女を保育所に迎えに行きます。
 
休日は少し足を伸ばすことが多かったのですが、コロナになってからは、近所で過ごす時間が増えました。旧鬼籠野小学校のグラウンドで自転車に乗ったり、キャッチボールをしたりしています。町内で過ごすのも良いなって、気づけたところはありますね。
 
織田 長女が広野小学校2年生。長男が広野保育所の年中です。長女は学校が終わったら友達と歩いて家まで帰って来て、私がいないときは、ひとりで過ごすこともあります。下の子は保育所に通っているんですが、週に一度自主保育のようなかたちで、数組の親子と自然の中で遊んでいます。

いまちょうど梅の季節で、先週はコットンフィールドの森さんの園地で親子で梅もぎをしました。神山に来てびっくりしたんは、こんなに自然が豊かであっても入れる山って少ないし、川は危ないっていうこと。自然の中で遊ぶことって、そんな簡単にできることではないんやなと実感しました。

町内での活動に参加したり、習い事はしていますか?

松本 最近、野球をはじめました。同学年の女の子たちと一緒に頑張っていますね。あとは、週1回トレイルクラブに通っています。
 
織田 うちの長女もトレイルクラブに参加しています。あとは、阿川で開催している親子ダンス教室に父親と参加しています。ピアノも習っています。

中南 長男は、野球部に入っています。仲間と囲まれて一生懸命野球をするっていう、それはそれで、豊かな時間だと思います。二男も、春から野球をやっています。

子どもだけで過ごす豊かな放課後

いま困っていることや、こうなってほしいってことはありますか?
 
織田 トレランは、広野小からひとりで参加しているのでアウェイで、行く前は顔がこわばっているけど、帰って来るときには、すごく楽しかった!って言ってる。でも、親がフルタイムで仕事をしていたら、送迎ができないので、子どもが徒歩や自転車で行ける範囲に、そんな場が増えたらいいなって思いますね。
 
松本 子どもの気分によって予定が変わることもあるので、誰が送迎するかなど、その確認が毎日必要だっていうのが、大変なことかな。
 
中南 無理な願いかもしれんけど、子どもだけで豊かな放課後を過ごせたら最高だろうな。いま、子どもだけで遊べない時代になってきたじゃないですか。

僕らの時代は、むしろ大人のいる場所で遊んだことはなかったんですよね。地域のお兄ちゃんたちが面倒をみてくれて、最終的には自分が下の子の面倒を見る側になるんですけど。

少々の危険があっても、致命的なのは回避しながら、けがもしながら、けんかもしながら、ものを壊したら怒られたりもしながら…。なんとか命を落とさずに、大けがをせずにここまで遊んでこれたのも、やっぱり、お兄ちゃんたちが守ってくれたから。

子どもだけで過ごすには、どうしたら?
 
中南 子どもだけでも安全に遊べるスキルっていうのは、小さい頃から先輩たちに教わって、大きくなったら次は自分が教えて、っていうサイクルがあるからできとったんやと思うんです。でもいまは、それが完全に途切れている。

まずはスキルを持ったお兄ちゃんやお姉ちゃんたちを育てることから。それには、おそらく数年間のトレーニングがいるだろうし、それをすべて許してくれる環境が整わないといかんから、そう考えれば考えるほど、現実は難しいのかなって。

鮎喰川コモンで子どもたちを見ていると、少しずつそういう子たちが育ちつつあるんじゃないかなとは思うんですが。

中南 今日鮎喰川コモンに行ったんですけど、たくさんの子どもたちがいて。大きい子が小さい子の面倒もみていた。可能性が感じられますよね。

松本 私も、中南先生のおっしゃった幼少期の過ごし方が理想だと思って。何もないところで、友達や子どもたちだけで遊ぶっていう。その何もないことが遊びになるって、子ども時代にしか経験できないことやし、そのとき身につけた創造性って大人になっても役立つんだろうなって。

こういう状況が続いていくといいな、とか、その場がこういう風に発展していくといいなって思うことは?

織田 トレランやダンス教室に通ってて、仕事のことや特技も含めて、多様性と言うか、いろんな大人に触れられるっていうのが、すごく良いなって思っていて。
 
あとは、神山は地域の方がすごく子どもを大事にしてくれる。いま、長女は歩いて登下校しているんですが、商店やガソリンスタンド、郵便局など、いろんなところで声をかけてくださるんです。地域のみなさんが見守っていただいて心強いし、ずっと続いてほしいなって。
 
中南 大久保集落では、毎年夏になると、山遊びと川遊びのイベントを行っています。集落の大人たちが集まって、参加者の親子を相手に山と川での遊び方をレクチャーして、僕らはインストラクター的な役割をするわけなんですけど。

後日、イベントに来ていた親子が家族だけで、大久保に来てくれた。イベントのときは、少し頼りなかったお父さんが、我々インストラクターから教わった遊びを「こうやってやるんぞ」って、自信たっぷりの顔で、子どもに遊び方を教えていたんです。
 
自分たちが知っている豊かな遊びを少しでも味わってもらえて、役に立てたなって。あの家族が幸せな時間を過ごしてくれたことが、すごく嬉しかったんですね。
 
織田 このイベントには、毎年家族で参加しているんですけど、集落の大人たちも楽しんでいて。アメゴをつかみ取りしてさばいたり、竹筒でご飯を炊いたり、火打石で火をつけたり、スイカ割りしたり。手づくりの劇もあって、心が温かくなるんですよ。

これからもずっと続いてほしいし、この土地で昔から遊んできた人たちだからこそ、できるのかなって。

松本 うちの子たちが人懐っこいっていうんもあるんですけど、「困ったけど、この人がこうしてくれたよ」って。私の知らないところで、子どもがいろんな大人に助けてもらっていたりします。
 
たとえば、かま屋。娘が小学校から帰って来たら「おかえり」って言ってくれて、お腹が空いたら食べ物をもらったり、みんなが迎え入れてくれている。

神山に来てから、子どもたちが親以外の大人と関わりを持てていると感じています。
次は、もうちょっと子どもたちを信じて、子どもたちだけの関わりの時間を持つということを、もっと積極的につくっていけたらいいのかなって。


みなさんから、ご自身の子どものときの思い出話や保護者としての子どもたちに対する想いを伺い、豊かな放課後や休日を過ごすためのヒントを得ました。

子どもたちを取り巻く環境や時代の変化に伴い、大人はどのような距離感で寄り添っていくべきなのか?

次回から、子どもたちの放課後や休日に過ごすことができる活動や場所を訪ねていきます。

Interview:2021年6月23日

 

インタビュー:秋山千草
文:いつもどおり
撮影:近藤奈央、生津勝隆、兼村雅彦
制作協力:糸井恵理、西村佳哲
企画・制作:神山つなぐ公社