特集

Vol.02

放課後・休日の子どもたち

いろんな大人のいる神山で
子どもたちは
どんな放課後や休日をすごしている?

第1話

親子ダンス教室

2021年8月13日 公開

子育てサークル「わくわく」を主宰する中川智恵(なかがわ ちえ)さんと、フードハブ・プロジェクトで働きながら、ダンサーとしても活動する渡邉啓高(わたなべ ひろたか)さん。

今年から、ふたりが親子ダンス教室を開催しているという話を聞きつけて、旧阿川小学校の体育館にやって来ました。

ダンス、習ってみたいよね

自己紹介と神山との関わりを教えてください。

中川 小松島市出身です。山の裾野で周りを田んぼに囲まれたような環境で育ちました。結婚してから、街中で自営業をするようになったんですけど、全然からだが馴染まんで。暮らすところだけでも、山の田舎の方に行きたいなって。神山に良い場所が見つかったので、移り住んできました。

渡邉 神奈川県出身です。神山に来て7年目です。きっかけは、友人がモノサスで働いていたこと。彼が「神山おもしろいよ」って発信していたので、気にはなっていて。そんなときに神山でえんがわの職業訓練がはじまるって聞いて参加することになり、そうこうしているうちにフードハブが立ち上がって、「暇だろ? 手伝ってよ」って誘われて、いまに至ります。

親子ダンス教室はどのようにはじまったのですか?

中川 三女が生まれたときに「わくわく」という子育てサークルをはじめて。子どもたちを連れて、大粟山に登ってたき火をしながらご飯を食べたり、自然の中で遊んだりしていました。

でも、子どもたちがだんだん大きくなって、いろんな習い事をする人も増えてきて、小さい頃の活動とはまた違うかたちになってきた。
 
前からダンスが好きで、家で娘とYouTubeを観ながら踊って遊んだりして、小さい時はそれで楽しかったんやけど、小学生になって、ダンスを習ってみたいよねってなって。
 
ネットで調べたら、小松島や市内の方にしかダンスを習える場所がなくて。でも、近場でみんなでやりたいなっていう話が出てたんです。息子や友人から「フードハブに、踊りが上手い人がおるよ」っていう噂は聞いてて(それが啓高さんだった)。でもまだ会ったこともないし、こちらから声をかけるのもって遠慮して。その人とつながりたいな、ダンス教室をやりたいなって想いはずっと温めてた。
 
そうしたら、私が勤めている佐那河内にあるお弁当屋さんにふらっと啓高さんがお弁当を買いに来てくれたんです。その時に、すかさず「ダンスしたいです!」って告白した。

渡邉 最初に智恵さんが声をかけてくれた時は、ちょうど神領小学校で先生に向けたダンス教室をやっていたので、そこに智恵さんと娘さんが参加するもんだと思っていて。
 
それがまさかこんなに大きな教室になるとは、その時は想像してなかったですね。ふたを開けてみたら、めっちゃ来るな!って、びっくりしました。

初回の教室には、どれくらい参加したのですか?

中川 体験会を2回に分けて開催しました。それぞれ20人ぐらい参加してくれましたね。私もこんなに集まってくれるとは思ってなかった。でも、みんなからだを動かしたい、っていうんがあったんかもしれんね。

メンバー募集はどのようにして?

中川 子育てサークル「わくわく」のメッセンジャーグループで「興味のある人いますか?」って投げかけたら、「私も。私も。私も!」って。じゃあ、みんなでやろうよって。
 
今年の3月までに2回開催して、コロナで少し間が空いた。きっちりやりはじめたのは、4月からかな。

楽しくからだを動かしたい

ここまで数回やってみてどうですか?

渡邉 大人も子どもも同時に進めるのが、すごく難しくて。たとえばステップ。みんなは徐々にやっていくから、同じステップでも良いのかもしれないんだけど、僕としては、飽きてないか? 気持ちが離れてないか? とかが心配で、あれもこれもってなっちゃう。簡単なものも難しいものも出していて、みんなを困らせていないか心配です。楽しんでもらえていたら良いんですけどね。
 
中川 楽しい! 教室に参加する人たちは、ちゃんと段階を踏んで、これができるようになって、とか、そういうきっちりしたものを求めている人はほぼいないよね。みんな楽しくからだを動かしたい、というのが基本にあるので。
 
まずは、大人がやりたいことを楽しくやって、その姿を見てもらおうという考えの人が多いから。子どもはそういうのを見ながら、興味を持ってくれたら良いなって。

印象的だったことはありますか?

中川 これまでは見本があって、それを真似してやっていたんやけど、この間は、自分の考えた踊りでいいから、好きな踊りをやってみよう、というのがあって。学校だったら、決まったことが多いから、子どもたちは一瞬、躊躇しとってなかなか踏み出せなかったけど、大人が順番に踊っていくのを見たら、子どもたちの中から湧き出てくるものがあったんですね。
 
渡邉 ステップができなくて悔しくて泣いている子もいて、あぁ、この子はすごいなって感動した。あのシーンに出会えて、僕も一生懸命やらなきゃって、元気をもらえました。

神領小学校でのダンス教室について、少し聞かせてください。

渡邉 最初は、放課後子ども教室でダンスを教えていて、片付けをしているときに、その時にいらした先生が、自分もブレイクダンスをやっていたって急に回り出したんですよ。
 
自分も一緒にからだを動かしたいって、他の先生も来て。また、放課後子ども教室で体験した兄弟ふたりもダンスに興味があるって。昨年末からはじめて、いまは先生たちと兄弟とその家族が踊りに来ています。

参加されている方のレベルが高いと聞きました。

渡邉 神領の方はハードで、毎回2時間ぐらいやってます。すごく上手になってきてますね。神領でやったダンスを、阿川に持ってきたり。この前は、阿川にハードなものばっかり持ってきちゃった。

中川 でも、できている人もいましたよね。昔、ダンスをしていたっていう女性が来てくれて。わぁ、できてるって思って。私もがんばろう!ってモチベーションが上がりました。みんなができていなかったら、もういいかって思うんやけど、ふたりもできとると思って。
 
渡邉 やっぱり、踊れるようになりたいって気持ちになりますよね。

人に見られることが力になる

この場をどんなふうに続けていきたいですか?

中川 なるべく風通しのよい場でありたいので、思ったことは溜めずに話し合ってて、みんなで考えていきたいなと思ってます。出て来た意見を拾いながら、一緒につくっていきたい。そして、できるだけ長く続けられたらいい。
 
どんなかたちになっていくのかはわからんけど、楽しくやっていきたいです。

私は、トエック(*)の考え方にすごい影響を受けているんやけど、大人も子どもも、素のままの自分、ありのままの自分を、すごく大切にしてくれるところなんですよ。そういう自然の状態でおったら、自分のなかのワクワクする気持ちとかに気づきやすいというか。
 
「わくわく」をつくるときも、自分のわくわくできることをとことん追求できる場所にしたいなって、友人たちとも話をしてつくったので、“好きやな”、“からだを動かすんは楽しいな”って思える場所になったらいいなと思います。
 
渡邉 これから、子どもたちは成長するにつれて、エネルギーを持て余すと思うんです。僕も中学生の頃、エネルギーを持て余して、イライラしたり、退屈していたのをブレイクダンスにぶつけてきたから、悪い道に進まなかったし、それが原動力になったと思ってる。ダンスを通して、お前すごいなって、お互いに認め合えたら良いですよね。
 
ブレイクダンスでは、サイファーと言って、円になってひとりずつ順番に前に出て踊るやり方があるんです。人に見られることは力になる。自分ひとりだけではできないこともできるようになるから。それの入り口をつくりたい。

この前ふと思ったんですけど、なんだかんだで、神山に来てから、ダンスを教えた人たちが100人を超えているんじゃないかなと。ちゃんとしたことを教えられてるかな? っていうのはありますけど。

ゆくゆくは、大人も子どももみんなが、まちの中で、そして日常で、いろんな場所で、好きに踊っていたら良いなって。

親子ダンス教室に参加することはできますか?

中川 阿川のダンス教室では、適度な距離を取って開催しているので、いま参加している人数でいっぱいになっていますね。

興味のある人は、渡邉さんをつかまえて新しい教室をつくるとか?

渡邉 それは良いかもしれない。でも、僕自身は、お金を払って受けたレッスンって1回ぐらいしかない。それもダンスをはじめて10年以上経ってからですね。それまで、ひたすらダンスのビデオを見たり、地元の先輩に教えてもらったりしていました。
 
いまは、レッスン料をいただいているのですが、ダンスの何が良いかって、お金がかからないこと。靴と音、自分のからだがあればどこでもできる。自分はつまんない日々のなかで、それがかっこいいと思った。タダでこんなにおもしろいことがあるんだよって。
 
ネット上にも、かっこいいダンスが上ってて、知りたいと思ったらいっぱい情報を得られる時代なんで。自分で選んで、みんなで楽しんで、それを共有していけたら。
 
そして、コロナが終わったら、またダンスの大会もあるだろうし、きっと全国に友達ができる。家庭や学校といった小さな関わり合いだけだったところから、ダンスを通じて、新しい友達や憧れの人など、外の世界とつながるっていうのは、とても良いことだと思うんです。

Interview:2021年6月4日


*NPO法人自然スクールトエック
徳島県阿南にある「自由な学校」。https://toec.jp

インタビュー:秋山千草
文:いつもどおり
撮影:近藤奈央、生津勝隆、兼村雅彦
制作協力:糸井恵理、西村佳哲
企画・制作:神山つなぐ公社