特集

Vol.02

放課後・休日の子どもたち

いろんな大人のいる神山で
子どもたちは
どんな放課後や休日をすごしている?

第7話

あとがき:インタビューを読んで

2021年11月5日 公開

全6回に渡って取材をしてきた「放課後・休日の子どもたち」。インタビューを読んで感じたことを、さまざまな年齢の子どもを持つ保護者のみなさんに話していただきました。

活動内容は違うけど、想いは一緒

自己紹介と神山へ来た経緯をどうぞ。

笹川大輔 東京都出身です。東京ではパン職人として働いていました。フードハブ・プロジェクトの事を知って、2017年2月に家族で神山にやって来ました。いまはかまパンで、毎日パンづくりに励んでいます。


 
糸井恵理 栃木県出身です。高校卒業後にイギリスへ。神山に引っ越して来たのは、2010年ですね。そのときから、KAIRの活動に興味があってボランティアとして関わっていたのですが、2017年から本格的にスタッフになりました。

橋本貴子 三好市(徳島)出身です。池田で働いて子育てもしていたのですが、2010年に夫の実家がある鬼籠野に来ました。当時、長女は小学校2年生で、長男は1歳半でした。

今回の記事を読んで思ったことは?
 
糸井 私は今回のシリーズで英語への翻訳も担当しているので、随分と読み込みました。みなさん、いろんな活動を軸に子どもたちに関わってらっしゃるけど、共通点があるのに気づいて。神山っていう環境で遊んでもらいたいとか、子どもが自立できるようにとか、それぞれ活動内容は違うけど、想いは一緒だなと思いました。
子どもにとっても、入り口がたくさんあるから、選びやすいんだろうなって。

ただ、中学校に入ると運動部の選択肢しかないって聞いて。幸い、息子はスポーツが好きだから、選びやすいかもしれない。でも私自身は子どもの時に運動には縁がなかったので、私だったらと置き換えて考えてみると、音楽系や美術系、数学・科学系などの部活があったら、もっと楽しめる子がいるんじゃないかなと思います。
 
例えば、私は人形浄瑠璃をやってるんですけど、中学生から高校生ぐらいまでが参加できる人形座があったら良いのになって。部活になったら、毎日練習できるじゃないですか。そしたら、めちゃくちゃ上手くなると思うんです。黒衣を着て、頭巾を被れば、舞台が苦手な私でも、影として楽しむことができる。何にでもなれるんです。

橋本 私は、自分の知らないことが多すぎて、軽いショックを受けました。神山町でトレランとかダンスをやっているのを知らなかったんです。ほんのひろばの活動のことも全然。絵本は好きなんですけど、神山には図書館がないっていうのはずっと気にかかっていて。でも、まちの読書環境を良くしたいという想いを持って、ちゃんと行動に移している人がいたので、ただただすごいと感心しました。そして、もう少しアンテナを張り巡らそうと思いました。
 
それから、今回の座談会の前に、神山で生まれ育った70代の義理の父と母にも、この連載を読んでもらったんです。この世代の人たちがどう思うかなって。
 
野球部やバレー部の監督やコーチの想いが記事にあったじゃないですか。それを読んで、孫が野球部の一員として活動できてよかったなと思ったみたいだし、親や祖父母としても、こんな想いでやってくれとるんやったら安心して預けれるなって。それとともに、地域で子どもを育てていくというスタンスが、すごく良いなと。どの活動も、この地域で子どもを育てて、ふるさとを愛して、いつかまちの外へ出たとしても、また帰って来ようと思えるような基盤づくりになっているんかなと思います。
 
笹川 僕は学童の記事がおもしろかったですね。特に、すだちっこくらぶの河野さんの話していた、すだちっこの中で社会ができていて、子どもたち自身が対処法も知っている、という部分。
 
これ、すごく良いなと思って。どの活動でも社会性の部分が何かしらあると思うけど、やっぱり大人があんまり入りすぎたらいけないなって。あえて大人たちが入っていく必要はないんだなと。
 
子どもたちが楽しければそれで良くて、そこに必要以上に大人の手が入ってしまうとおかしい方に行っちゃうんだろうなって。

子どもの活動は周りの人たちを元気にする

実際にみなさんのお子さんたちは記事に登場する活動に参加されていますが、何か思うことや変化はありますか。

橋本 息子が野球部に入ってから、試合があればずっと祖父母が応援に来たんですね。
 
笹川 おじいちゃん、野球の試合の時「良いもん見れた」って喜んでいましたよね。
 
橋本 そうそう。子どもの活動って周りの人たちを元気にしますよね。世代を超えて、親はもちろん、祖父母や関わる人すべてを。もちろん私は毎試合、勝っても負けても泣いてましたし、年を取ったら涙もろくなるんだなって(笑)。
 
笹川 分かります。僕もよく泣いてました。自分の子どもじゃないけど、気持ちが高ぶって、もらい泣きしちゃう。
 
橋本 自分の子どもじゃなくても、その子が頑張ってきた背景を見ていたら、今日はここまでできたかって感動させられる。こんな思いをさせてもらえるってありがたいな。
 
笹川 僕は元々習い事はやらせたくて。いろんな入り口をつくっていたけど、子どもたちがなかなかテンションが上がらないままでした。
 
でも、1年生の時に野球をやってる憧れのお姉ちゃんから「部員がいなくなったら廃部になっちゃうから、野球部に入って野球をやってほしい」と言われたみたいで、それでやるってなって。それが理由? ウソだろ? すごい動機だな!って思ったんです。野球がしたいっていうよりも、その先輩との約束を守ることや、一緒にいたいみたいな関係性の方が強くて。子どもなりの責任感、使命感があるのかな。野球をするというきっかけをくれたお姉ちゃんのお母さんに「感謝しています」と伝えました。

糸井 息子は友達が楽しそうにしてるから、バレー部に入ることにしたみたいです。これまで柔術や水泳といった個人競技ばかりで、団体競技に興味があったようで。私も団体競技をさせてみたかった。
 
まだ入部して日が浅いので、数回しか行ってないのですが、みんなすごく真剣に練習していますね。息子の同級生や年下の子もいるけど、その集中力をキープできている良い緊張感と練習内容を見て、「そんなことできるんだ!」ってすごく感心しました。

親同士でフラットな関係性をつくる

今後は、どのような状況があるといいと思いますか?

糸井 KAIRでは、国内外から作家がまちに出入りするんです。家族連れで来る作家も多くて、リピーターとして家族で神山に戻って来てくれる。私はスタッフなので、子ども同士を遊ばせたりするんですが、「おかえり、また来てね」って良い関係ができていて。いまはネットでいくらでもつながれるけど、自分の住んでいる所に来て、一緒に外で遊んで、短期間だけど同じ時間を過ごすことができる。息子はすごく運の良い子だなって思います。

短い期間だけど、神山の放課後や休日の活動に、作家の子どもたちを参加させてあげたいなって。以前、転校生として、小学校に通ったこともあったんです。それは、学校や周りの理解があってできたこと。受け入れる側としても、まちの子どもたちにも同じような経験ができると良いですよね。
 
笹川 家族ぐるみの付き合いや、親同士の付き合いっていうのは大事だと思っていて。誤解を恐れずに言うと、まちのどこかで会っても知らない方が多い。
 
だから、いろんな活動や子どもが集まる場所に親の出入りがあると、おもしろいのかなと思っています。子どもたちが直接知らなくても、親同士が挨拶をしていると、○○くん、○○ちゃんのお父さん、お母さんだよねって。子どもにとっても安心感が生まれるんじゃないかなって。親同士でフラットな関係性ができれば良いのではと思いました。

橋本 いつも息子には伝えていますが、常に感謝する気持ちを忘れないということ。野球の練習に行くと、監督やコーチ、いろんな人が時間を割いて教えてくれている。両親の送り迎え、祖父母の応援…周りの大人の助けがあること。​​そして、チームメイトとして一緒にプレーしてくれる友達との関わりがあって、野球ができていることを忘れるなって。
 
また、何か新しく活動を始める時も、これまでの神山をつくった人たちを敬った上で、チャレンジしていく。そういう想いを私たち世代が持たないといけないなと思います。そしたら、どんなことをやっても、みんなが応援してくれると思うんです。昔から、ここにいる人たちとつながりながら、一緒に認め合って活動ができると良いですよね。

Interview:2021年10月5日


「子どもの遊び場がない」
「習い事の選択肢がない」
「家が遠く、子ども同士で放課後や休日に一緒に過ごせない」

「ない」状況をどうしていくかが課題とされていた放課後・休日の子どもたちの環境。
特集を始めてみると、選択肢としては少ないけれど、その一つ一つに豊かな「人」の存在があり、子どもたちに対して熱い想いを持って一緒に活動に取り組む大人たちがいました。

子ども時代に「なに」を学ぶかも大事ですが、「だれ」のもとで過ごすかを重点に置くと、町内にも魅力的な活動・居場所の選択肢が複数ありました。

ただ、新たな活動においては、その参加しやすさが子どもや親同士のつながりと強く結びついている現状があり、インタビューで話されていた「親同士でフラットな関係をつくる」ことが子どもたちの選択肢を増やすことに繋がると感じています。
親自身が、町内に目を向け、知ることが大事。そのために私たちは見える化していくことを続けていければと思っています。

この特集は、形を変えて、イン神山の日記帳にてまた町内の活動をお伝えしていく予定です。

インタビュー:秋山千草
文:いつもどおり
撮影:近藤奈央、生津勝隆、兼村雅彦
制作協力:糸井恵理、西村佳哲
企画・制作:神山つなぐ公社