特集

Vol.02

放課後・休日の子どもたち

いろんな大人のいる神山で
子どもたちは
どんな放課後や休日をすごしている?

第6話

コーダー道場と鮎喰川コモン

2021年9月17日 公開

「CoderDojo(コーダー道場)」は2011年にアイルランドで始まり、全世界に広がるプログラミング・クラブ。

「鮎喰川コモン」を拠点に毎月開催している「コーダー道場神山」の主催者・本橋大輔さんと、子育て支援や読書環境づくり、そして放課後や休日の居場所づくりを軸に、まちの人々の活動を支えて伴走していく施設「鮎喰川コモン」のスタッフである、三好絢野さんと太尾めぐみさんにお話を伺いました。

パソコンやインターネットと親しくなる

まずは、自己紹介と神山に来た経緯を。

本橋 出身は埼玉県深谷市です。大学卒業後、就職で徳島に来ました。2012年に、前にいた会社の同僚に誘われて、神山にサテライトオフィスをつくるというので、そのサポートをすることになり、徳島市内と神山を行ったり来たりするように。神山には、2013年に引っ越して来ました。

子どもの時の思い出は?

本橋 そろばん、空手、ピアノ、少年野球…いろんな習い事をやっていましたね。それ以外の時間はずっとファミコンで遊んでいました。

「コーダー道場」はどんな団体で、神山ではどんな風に始まったのですか?

本橋 「コーダー道場」*は、アイルランド発の非営利のプログラミング道場です。7〜17歳の若者を対象にしています。2011年にスタートして、いまは、全世界で112ヶ所、2,200の道場、日本に230以上の道場があります。
 
神山で始まったのは、ひとつだけの理由じゃなくて、いろんな条件が重なって始まりました。もちろんきっかけはあって。

ドローンの授業で小学校に行った時に、〝子どもたちがテクノロジーと触れる機会がないことが、地方の学校の課題だ〟ということを校長先生がお話しされていて。ロールモデルになる人が、家族か学校の先生しかいないので、子どもたちが将来何になるかっていう話をした時に、「公務員」や「学校の先生」、あるいは「テレビで活躍する人」という選択肢になってしまうと。
 
世の中にはいろんな仕事があるんだけど、それを知らないまま大人になるのはもったいないので、神山町に来ているいろんなサテライトオフィスで働く人たちやアーティストの話を聞ける授業をしたい、という相談をいただいて。そうしているうちに、とにかくいろんな事に触れられる場が必要だなと思ったんです。
 
同時期に長男が誕生したこともあって、いまからプログラミング環境をつくっておけば、長男が小学生になった頃には、上級生みんながプログラミングができるようになっていて、いろんなことを経験させてあげられるだろう。そんな狙いもあって始めました。

「コーダー道場神山」は、徳島では徳島、三好、に続いて3ヶ所目で、2018年12月にスタートしました。主催する人は「チャンピオン」と呼ばれ、主に道場を用意することが仕事です。子どもは「ニンジャ」、子どもたちに寄り添う人は「メンター」と呼ばれます。
 
各地のチャンピオンと話をしていると会場使用料が負担になることも多いようなのですが、「鮎喰川コモン」のように無料で使用できる場所があるのは、地方のアドバンテージになっていると思います。

「コーダー道場」では、子どもたちが無料で参加できるようにしなきゃいけない。その一方で、世界中からサポートが受けられる。例えば、パソコンを寄附してもらえる機会があったり、いくつか無料で使えるウェブサービスやプログラミングに関する本を提供してもらえます。

メンターと呼ばれる大人はどんな関わりを?

本橋 プログラミングのスキルはネットでも学べるので、メンターが教える必要はないんです。パソコンにログインができない、マウスが動かない、という子どもたちが作業をスムーズに進められるように、大人としてサポートしてあげたり、好きにパソコンを使っていいよって見守るだけでいい。
 
目的はプログラミングが上手くできるようになることでなくて、パソコンを使いこなせるようになったり、インターネットについて理解を深めたり、コンピューターがあるとこんなことができるのかって発見することなんだと思っています。

大事なのは、自分で答えに辿り着くこと

今後は「コーダー道場神山」をどうしていきたいですか?

本橋 いま参加しているのは、小学生の男子が中心になっているので、中高生にも参加してもらいたいですね。
 
そして、特に大人の方にメンターとして参加してほしい。
 
メンターが僕ひとりしかいないので、いろんなところで「コーダー道場」を開催することはできない。でも、メンターが増えたら、神山の別の場所でも開催することできるようになる。機材だって貸し出しできる。
 
プログラミングは分からなくても良いんです。むしろ分からない人の方が一緒に調べられる。分かっている人だと、答えを教えてしまいがちになる。大事なことは、自分で答えに辿り着くことなんです。“なんでだろう?”って疑問が湧いて、試行錯誤をしてやっと到達する。〝教えないこと〟は、難しいんです。
 
ちょっとでも興味がある人は、いろんな形で参加してくれたら嬉しいですね。そして、少し先になると思いますが、いま参加してくれているニンジャ(子ども)たちが成長して、将来はメンターとして参加してくれることを期待しています。

続いて、鮎喰川コモンのスタッフである三好さんと太尾さんにお話を伺います。

将来世代の子どもを大事にする

まずは、自己紹介と神山との関わりを教えてください。

三好 東京都出身です。東京から出たことがなかったので、人生は一度きりだし、他の土地で暮らしてみたいと思って。夫が香川県出身だったことや林業を仕事にしているということもあり、四国で林業ができる場所を探しました。同時に、子どもを自然の中で育てたいという想いがあったので、神山で暮らすことにしました。
 
太尾 神山町の鬼籠野で生まれ育ちました。兄がふたりいて、近所の同級生も男の子も多かったので、子ども時代は自然の中で遊ぶことが多かったですね。夏になったら川に行って、深く潜って川底を泳ぐのが好きでした。川底って流れが緩くなるんですよ。そこでイルカみたいにクルクル回って泳いでいましたね。

「鮎喰川コモン」に関わろうと思ったきっかけは?

太尾 子どもが保育所に通うことになって、そろそろ仕事を始めたい、できれば神山町で働きたいと思っていたところに、部落会長便にスタッフ募集のチラシが入っていて。これだって!
 
三好 前職では学校で家庭科を教えていたので、そもそも子どもを取り巻く環境や暮らしに関心がありました。そんな時に『イン神山』でスタッフ募集を見て、ぜひ関わりたいと思って、連絡しました。

働く上で大事にしていることは?

太尾 スタッフ全員で、〝まちのリビング〟としてみんなが過ごしやすくなるような工夫をしたり、コモンに来たことのない方に足を運んでもらえるようなイベントを企画したりしています。

三好 〝将来世代の子どもを大事にする〟というコンセプトがあるので、子どもたちの成長段階や発達のことについても外部の機関に行って研修を受けたり、スタッフが成長して学んでいくことも大事だと思っています。
 
太尾 環境のことにもできるだけ配慮していきたいとスタッフ同士で話をしています。工作をするにしても、折り紙やダンボールを使うと出る端材や再利用できるものを入れるボックスをつくってみたり、できるだけ無駄なものが少なくなるように。
 
個人としては、子育て世代のお母さんの日常の出来事や悩み事に寄り添って、共感していけたらなと思っています。子どもと過ごすことは、すごく幸せなことなんですが、時々息が詰まることもある。そういう時にコモンに来て私たちと話をすることで、気持ちが和らいだり、気分転換ができるようにと思っています。
私自身もお母さん方と話をすることで、気が晴れることや参考になることがたくさんありますね。この環境で仕事ができることを、すごくありがたく感じています。

三好 これまでいろんな経験をしてきた人たちがスタッフとして集まっていて、多様な考えを持って働いています。子どもたちがのびのび過ごしたり、高齢の方も、お父さんお母さん世代の人たちも、それぞれが成長できる場所になってほしいなって思います。
 
コモンで経験したことが生活の中で活かされて、より豊かな人生になれば良いなって。そのためには、私自身も自分が楽しいことをして学ぶ姿勢は常に持っていたいと思っています。

町内の方からいただいたカブトムシ

子どもたちの様子はどんな感じですか?

太尾 よく利用してくれる子たちは、もうすっかり馴染んでいますね。コモンに来たらすぐに宿題する子、パソコンに向かってダッシュする子、工作やお絵描きを始める子。その様子がすごく可愛らしいと思う。高校生が試験の勉強をしたり、仕事をする大人がいたりと、多世代が交わっている時間があって、とても良い雰囲気だなって思っています。

これといった来館の目的がなくても、ただ友達とおしゃべりするだけっていう利用の仕方も良いなぁって。

三好 放課後は小学生中心ですが、中高生はテスト前の利用がいちばん多くて、一番奥のカウンター席で黙々と勉強していますね。この前も、高校生のグループが検定の勉強をしに来てました。少しずつ中高生の来館も増えてきています。

印象的なシーンはありますか?

太尾 この前、奥では中高校生が試験勉強して、手前では小学生が元気に遊んでいて、大人たちも仕事をしたり、楽しそうにおしゃべりをしている時間があったんです。〝これってコモンが思い描いている理想の時間だな〟って思って。これからも、こういう時間が続けば良いなって思いました。

三好 この夏は、町内に住んでいる方がホームページを見て、〝コモンでカブトムシを飼ってみませんか? プレゼントしますよ〟と連絡をくださったんです。せっかくだったら、その方と小学生が出会えたらすごく良いよねって、ちょっと無理を言ってその方に平日の放課後の時間に来てもらったんです。

その時の子どもたちの第一声がすごかった。蛹のカブトムシを初めて見た子もいたし、子どもたちだけじゃなくて、お母さんたちも集まって、親子で感激の声が上がっていた。ほぼ毎日のようにカブトムシの様子を見に来てくれる子もいたり。
 
そういう交流のきっかけを町内の方からいただけたのは、宝物だなと思っています。これからも町内の方と関わって、そういう関係が生まれていくと良いなって思っています。

学校だけの世界で自分を計らないで

これから「鮎喰川コモン」がどんな風になってゆくといいですか?

太尾 先日、子育て世代のお母さんから「まわりの子に危害を加えないかハラハラしているけど、利用者が少ないとホッとしてリラックスできる」という話を聞きました。
 
利用者数を増やしたい気持ちもあるけど、いま利用してくれているひとりひとりの方に寄り添うことが大事だなって思います。
 
三好 町内外のいろんな方に知ってもらいたいです。「鮎喰川コモン」のアカウントをつくってSNSも始めたのですが、神山町出身で、いまは町外に暮らす方から「懐かしいです」というメッセージをいただくこともあります。SNSでイベント情報や日々の情報を発信するということは、コロナ禍でも続けていきたいですね。

子どもたちにはどんなことを伝えていきたいですか?

太尾 自分が学生の時は、学校だけが自分の世界だった気がしています。いまの子たちもそうなのかなと思うこともあって。
 
生きていたら気に障ることや思い悩むことが、誰にでもあると思う。でも学校だけがあなただけの世界じゃない、って伝えたい。子どもにとって、大人と接することはとても大事なこと。大人と交流することによって、見方も変わるし、アドバイスをもらえたりする。一歩先のことを考ることができたり、視野が広がると思うんです。学校だけの世界で自分を計らないでほしいなって思っています。

三好 大人でもいろんな悩みに打ち当たる時期もあるし、日々の生活でしなければならないこともたくさんあると思うんです。そんな毎日でも、ホッと一息できてちょっと立ち寄る公園みたいな空間でありたい。特に目的がなくても、目に留まった本をパラパラめくってみたりするだけでもいいので、気負わず、ふらっと立ち寄ってほしいです。

ひとりでも、友達や家族と一緒でも。それぞれがコモンで心地良い過ごし方をしてほしいです。まだ、コモンに来たことがない方には一度コモンハウスの中に入って、コモンに流れる雰囲気を感じてもらいたいですね。

Interview:2021年6月25日

*コーダー道場 https://coderdojo.jp/

 

インタビュー:秋山千草
文:いつもどおり
撮影:近藤奈央、生津勝隆、兼村雅彦
制作協力:糸井恵理、西村佳哲
企画・制作:神山つなぐ公社