- 月末、寄井商店街を通りかかると、豆ちよ焙煎所の隣の隣、普段は灯のない「モノサステストキッチン」から、若者たちの楽しそうな声が漏れ聞こえてくる。「あれ、今日なんの日?」と思った人も少なくないはず。それは、月に一度だけ開かれる『なんとなく集える場所 ワカモノの店バンビ』だ。ここは、町の学生に開かれたお店。中学生以上なら誰でも入店OK。

去年の一月に開催して以来、回毎に、学生の他、活動を面白がりサポートしてくれる近所の大人、高校の先生、公社スタッフなどが集まる様子も。ボードゲームをしている人たちもいれば、本を黙々と読む人もいて、小さな島になって各々で楽しんでいる。

そんな中、お菓子をせっせと作り、茶を沸かし「ほら、食べーよ!飲みよ!」と言ってみんなに勧めているのは、バンビの店主・春田麻里さん。徳島県内の高校で長年勤め、現在は高専で教鞭をとっている現役の国語の先生でもある。私がバンビを訪れた日、「この子、〇〇ちゃん!編み物好きなん」と紹介してくれた町外の高校に通う学生さんは、町外の高校から帰ってきてバス停でふわっとしていたところを春田さんが “スカウト”したのだとか。編み物上手の近所のご婦人と肩を並べて、集中してイヤホンコードのカバーを編んでいる。私もその輪に加わって「楽しいね」と一緒に過ごした。


店主・春田麻里さん。春田さんとの会話は、
春田さんの独特のワードセンスと世界観が飛び出して、いつも楽しい。

 

学生が大人に出会えるというアイデア

公立高校に26年務めた後、2021年にフィールドを神山まるごと高専に移し、先生を続ける春田さん。
その傍ら、2024年1月にバンビの運営を始めた。

春田さん神山に来る前から、バンビのような学生たちが大人と交流する場所を作りたいなっていうアイデアはあったんです。

今はどこの学校でも、家と塾しか知らないような学生がとても多くて、関わる大人は、塾の先生、学校の先生、家族くらい。学校の範囲にあるお店もチェーン店ばっかりで、誰がやっているかもわからん。学校外にもっといろんな知識を持った大人がいるのに、お金のやり取りでしか繋がれない、学生にはそんな環境しかないことがとても残念だなと思っていました。
それで、学生が地域の大人に自然に出会える場所、どんな働き方してるの?どんなふうに暮らしているの?とか色々聞ける場ををずっと作りたかったんよね。

それと、当時勤めていた学校の場所が、他の高校もたくさん集まっているエリアで、学校の枠を超えて学生が集まって交流できたら、もっと面白いんじゃないかなと思って。学生も大人も足を運んだらなんとなく交流が生まれて、知らない間に友達になる。そんな場所が当初のアイデアです。

- ところが、構想中にコロナが広がり、学校生活、先生の仕事が一変。より「なんとなく集える場所」の必要性を感じながらも「大勢で集まるなんてとんでもない」というムードで、アイデアは実現できないまま。そんな状況で学校の先生を続けることにも違和感を感じていた。そんな時に神山まるごと高専のスタッフの募集を知り、「学校をつくってみたい」と決意し飛び込むことに。

コロナ禍でも、忙しくも楽しく、高専の立ち上げ準備に取り組み、神山の職場に通勤する日々。しかし、神山からの帰り道、いつも見かける手持ち無沙汰にバスを待つ城西高校の学生たちの姿がずっと気になっていたと話す春田さん。

春田さん自分がコンプレックスのような素敵な場所で楽しく仕事してて、毎日色々な人に出会えて、大人にはこんないい場所があるのに、高校生にはその恩恵が全然なくて野晒しでバスを待ってるのが申し訳ない気がしたんです。

神山校の学生やバスを待っているこの子たちに、お菓子をあげたい!って気持ちが大きくなって、とにかくアイデアを形にしたいと2024年の1月に始めました。

 

「そういえばあれって何だった?」と記憶に残る時間に
寄井商店街の「モノサス テストキッチン」で開かれるバンビ。毎回、学生と大人半々くらいの割合で、約50人が入れ替わり立ち替わり、バンビに集っている。最近では、常連が定着するまでに。

春田さん なんか商店街やし「お店」にしたかった。
「子供食堂みたいなタダでもらえる場所があるよ」ではなくて「店だよ。でも無料。これがポスト資本主義だよ」と、お店だけどの無料。「それは君がかわいいからだよ」っていうコンセプトなんです。
ここに来るみんなが、意気揚揚と行き来して好き放題言ってる姿がなんか、楽しくて面白い。店に出たり入ったり、近所のアトリエに行ったりとか。ジュースちょうだい!とか。
学生たちには「昔、不思議の国のお菓子配りしてる人がおったよな」っていう変な思い出をつくりたい。「バス停で待っとる時に、何かお菓子もらったけど、今思えばあれってなんでくれたんだろう」みたいな記憶があって欲しいし、それで「将来、まだあの店あるかな。見に行ってみよう」とかなったらいいな。
誰かから、何かを受け取った記憶があったら、自分もまた誰かにしてあげようって思うだろうなと思う。


バンビを始めて一年が経った。モノサスが場所をかしてくれたり、私設図書室「ほんのひろば」が本を並べてくれたり、ボードゲーム好きの男性がボードゲームを持ち込む、編み物用の毛糸を寄付してくれるなど、他にもたくさんの方が活動のサポートしている。

春田さん 学生がいる場所に、大人がこんなに来るのも楽しい。この場所をもっと頻繁にオープンしたいなと、次の展開を今模索しているところ。それで一年活動を続けて、来年度からは「神山町の元気づくり事業補助金」をもらえることになったんよ。

新しい拠点が見つかったら、もうちょっとワークショップしたり、学生と大人と混じり合ってそれぞれが持っている知恵を共有してみたい。町や、ちょっとずついろんな人に応援してもらうっていうのが増えていったらいいなと思っています。


読書に没頭する学生さんたち。バンビでは、あえてWi-Fiを繋げてないのだとか。


奥の座敷では、カードゲームを楽しむ学生と、大勢の大人の姿が。姿勢から、みんな真剣な様子が伝わってくる。

足を運ぶと、春田さんが「いらっしゃい!」と迎え入れてくれる「なんとなく集える場所 ワカモノの店バンビ」。春田さんの学生と関わる姿がとても楽しそうで、見ているこちらまで楽しい。学校や肩書き、年齢を超えてなんとなく集い、時間を共有する。肩肘をはらず、純粋に場を楽しむ姿は、大人も学生も本当に友達同士のように見えた。今後の展開が楽しみです!

バンビの記事はここでも!

神山チャンネル「みんなが集まれる場所「バンビ」/ かみやまch.番外編」
広報かみやま