特集

Vol.01

Why are you here?
ほかの国から、神山に

「神山には外国人が多い」と言うけれど、
彼らはどこから来たんだろう?
このまちでなにを思い、暮らしている?

第4話

ヤマンドゥ、ジニーン、クウィン / From Nederland, USA

2020年3月16日 公開

ヤマンドゥ(Yamandu Roos)*1 、ジニーン(Jeannine Shinoda)*2 、クウィン(Quynh Vantu)*3 は「神山アーティストインレジデンス」の招聘作家のうちの3人。2019年春。滞在中の彼らに「なんで何度も来るの?(笑)」とか、たくさん聞いてみました。

神山アーティスト・イン・レジデンス *4​
国内外から3〜5名のアーティストを毎年招聘し、神山で約3ヶ月の滞在制作をサポート。アーティストは地域とかかわりながら作品をつくり、最後に展覧会が開かれる。神山アーティスト・イン・レジデンス実行委員会、NPOグリーンバレーを中心に、1999年からつづく国際文化交流の試み。

再々訪するアーティストたち

クウィンアメリカ、ヴァージニア州の出身です。いまはロンドンにベースがあるけど…神山ベースとも言えるかも。荷物も置いているし(笑)。最初に神山アーティストインレジデンス(以下KAIR)で来たのは2015年。そのときは、縁側のようで休憩所のような作品をつくった。

Quynh Vantu 作品「境界(内と外)」2015 Photo: 小西啓三

これまでに3回来ているけど、今回の滞在は短い。2週間前に着いてあと1週間ちょっと。去年は奨学金をもらって冬から春の6か月間、前の作品のつづきなどに取り組んで。いまはその次のプロジェクトを考えている。
でもまずは、ロンドンの大学の博士課程を終わらせないといけないので、この数週間はそれに集中している。

ヤマンドゥ僕は生まれも育ちもアムステルダム。友人のニックが2013年のKAIR招聘アーティストで、2015年にまた訪れて制作していたから「どんなところか見てみよう」と来てみたのが最初。そのときは2週間くらいのミニレジデンスみたいな感じ。

次は2017年にベッド&スタジオ・プログラムで来て。2018年はKAIRの春プログラムに招聘してもらった。
いろんなプロジェクトを形にしたよ。映像。写真。プリント。インスタレーション。このときにつくった木のブロックのプロジェクトは、神山のいろんなところに預けてあって。家具にもなるし、ときにはアート作品のようにもなる。

Photo courtesy: KAIR

Photo: Yoshiaki Nishimura

今回は心の赴くまま。最終的にはなにかしらの形にするけど、まだなんとも言えない。滞在は3月から6月までの約3ヶ月。

ジニーンアメリカから。ロサンジェルスとユタをベースにしていて、両方に倉庫がある。ここに初めて来たのは2016年。そのときの作品は、天井から食器がぶら下がっていて、片方の紐をハサミで切ると、どこに繋がっているかわからないもう一つの食器が落ちて割れる、というインスタレーション作品をつくった。

Jeannine Shinoda「Life in balance」2016

今回はパフォーマンスになると思う。「食」を通じて体感してもらうプロジェクトを考えているの。

だから「535」(神山のお弁当屋さん)に行くと、ジニーンが手伝っていたのか。
 
ジニーンそう。535のFacebookを見たみんなに「なにしてるの?」と聞かれるけど、ただ手伝っているの。その中で見えてくる神山の違う側面があると思う。来る度に見えてくる可能性があって、2度目にはよりコミュニティを理解して、作品を発展させることが出来るの。

言葉がわからなくても、楽しかった

みんなにとって神山はどんな場所?

クウィン私は日本の伝統建築に興味があって、2015年に神山のレジデンスに参加する前に3週間、各地を巡ったの。行く先々で〝もてなしの心〟を体感できた。

けどとくに神山では、みんながとてもオープンで、歓迎してくれて。本当にここがホームのように思えた。世界各地を転々としているから、こうして温かく迎えてもらえるのは本当に大切なことで。そんな気持ちの中から自然に作品が生まれてきた。

ヤマンドゥ自分にとってここはプレイグラウンドのような感じ。壮大な遊び場!
初めて来たときは、ヨーロッパ中を10年かけて車でまわって撮った「European」という写真集を出した後で、いったんリセットしたいなと思ってた。そんなタイミングもあって、神山に来たとき、なんか目の前の扉が開いたような気がしたんだ。

アトリエは宿舎の向かいにあって、道を少し上がると製材所がある。ある日ドライブをしていたら、木の端材をたくさん入れたコンテナがあるのが見えて。
「もらえる?」と尋ねたら、「どうぞどうぞ!」とすぐ譲ってくれて。それがいま、子どもたちが遊んでいるブロックをつくるきっかけになっている。

Photo: Yoshiaki Nishimura

遊びって、本当に重要なことだと思うんだ。「自分たちがどれだけ恵まれているか」理解することでもある。ここにいるみんなは、世界にいるほかの何十億人からしたら随分恵まれているわけで。だから出来る限り楽しもうと思う。

でもヤマンドゥが楽しんでる場所は、神山だけではないでしょ?

ヤマンドゥ(笑)でもオランダに軽トラはないし、一つの町に数軒も製材所はない。アムステルダムにはアトリエを持っていないので、家のすぐそばにある広いスペースで制作できるのは有り難い。神山自体が大きなアトリエで、ここにあるものすべてを使って作品をつくっているんだ。

ジニーン私はダラスで育ったアメリカ人だけど、父が日系で私は日系三世。ここは「初めての日本」だった。家族を通じては日本の文化にあまり触れずに育って。あと母が中国系だから、自分が日本に来てどう見られるのか、少し不安もあったの。

でもここでの滞在を経て、これまで知らなかった自分を知った。素晴らしい体験だったな。日本的な要素が自分の中に結構あるということに気づいたの。どちらかというとそういう部分の方が強いくらい。

Photo courtesy: KAIR

ここは私をよりオープンにしてくれて、自由に思考を巡らせることができる。いつもより早く考えをまとめて行動に移せる気がするの。

これってほかのレジデンスでも感じれるわけじゃない。場所によっては作品をつくりながら批評やメディアのプレッシャーを感じて、制作への集中が難しくなることもある。けどここではそういうことはなくて、失敗を恐れずに色々なことを楽しめる。温かい環境がある。

クウィン私は日本で、ほかに2カ所のレジデンスに参加したわ。うーん。やっぱり私には、神山がいちばん好きな場所かな。
 
ヤマンドゥそれ言っていいの?(笑)

クウィンほかのレジデンスでの滞在も良かったけど、心のどこかで「あー、ここは神山とは違うんだ…」と感じていた。

神山のどんなところがそう感じさせたのかな?

クウィン〝コミュニティー〟とのつながり。多くのレジデンスにはアートセンターの施設があって組織化もされている。けど神山は違うでしょ。
よく尋ねられた。「神山のレジデンスに参加したんだよね。キュレーターがいないんだって? そんな状況でどうやって長いことプログラムをつづけているんだろう?」って。みんなすごく不思議がっていた。

私は「神山は〝コミュニティー・ベース〟で、地元の人たちが始めたプログラムだから。アーティストとの国際的な交流を重視していたり。かかわり方も含めて、アーティストに求めているものが全然違う」と答えていた。

Photo: 小西啓三

ヤマンドゥあとここにはいろんな人がいるよね。各地から移り住んで来た人たちがいて、普通の田舎と違うんじゃないかな。僕らは都市部から来ているから、地元の人たちだけとのかかわり合いだと少し難しいかもしれない。神山は人の混ざり具合がちょうどいいんじゃないかな。

コミュニケーションにはそれほど問題がない?

ヤマンドゥただ一緒にいる感じ(笑)。日本語を喋れないから、あまり言葉を介してない。

クウィンそれって神山のいい部分でもあるよね。ここの人たちは同じ言語を喋れないけど、それでもコミュニケーションを取ろうとしてくれる。
私はフランス語ができるけど、パリで話しても「わからないなぁー」と理解してもらえないことがある。けどここでは心から理解しようとしてくれるから、言葉以外の方法を、互いに見つけられる。

知らない人にKAIRをどう説明する?

ヤマンドゥ誰にも教えない!

クウィンヤマちゃんのプレイグラウンドをキープするのね(笑)。私が感じたのは、KAIRのスタッフやまちの人が制作過程にとても興味を持っていること。アーティストがどうしてその作品をつくろうと思ったのか、どういう風に制作しているのかに関心がある。

たとえば材料の木材が届くと、入れ替わり立ち代り人がやって来て、使う道具の説明をしたり、次のステップの話をしたりして。みんな興味深々だった。最後に展覧会がありそこで作品を展示するけど、そういう意味ではとても〝プロセス・ベース〟のレジデンスかもしれない。

関心が強すぎると制作の邪魔にならない?

クウィンそこには、言葉の壁があるから大丈夫(笑)。

ジニーン神山に着いた当初に会った人たちがみんな、申請時に送っていた過去の作品について訊いてきたの。来る前に見てたってことでしょう? まさか10人を超えるまちの人が私の作品を知っているなんて思ってもみなかったから、すごくびっくりした。選考過程で時間をかけて見て話し合っていたんだとわかって、嬉しかった。

一般的なレジデンスは、メインスタッフの3人くらいが知ってる程度じゃないかな? こんなにたくさんの人が知っているなんてあり得ない。

ヤマンドゥKAIRには草の根の活動のような感覚があるよね。森さん(キャンプ場を経営・72歳)がブルトーザーを運転して、佐藤さん(金物店を経営・67歳)には色々なネットワークがあって。でも彼らは、現代アート、キュレーション、アートシーンとはまったく関係がない。

Photo courtesy: KAIR

地元のそんな彼らが始め、つづけてきて、素晴らしいプログラムになっている。初期メンバーのスピリットがいまもバックボーンにあるんだ。そこがKAIRの特別なところだと思う。

クウィンで、すべてが〝コミュニティー〟に戻るのよね。

Photo: Yoshiaki Nishimura

アメリカやアムステルダムで神山のことを考える?

ヤマンドゥうん! いつも考えてる。

クウィンジニーンもちろん。

ヤマンドゥいつ帰れるだろう、って。

ジニーンクウィンや私にとって「ホーム」は、どこか一つの場所ではないんだと思う。ホームは、私にとってのコミュニティーがあるところ。

クウィンこの10年間ぐらい、つねに「ホーム」と感じられる場所を探している。ここはいつも温かく迎えてくれて、戻ってきたくなる場所。

ヤマンドゥ初めて来たときのウェルカムパーティーだったかな。川の近くでBBQをした。ある人はレコードを回していて。いきなり宅急便で肉が届いて。「神山ってこんな感じなの?」「川辺に肉が届く? マジで?」と驚いていたよね。

Photo: Andrea Bergh

若い人もおじさんたちも、みんないてさ。ヒップホップがかかっている中で楽しんでいて。ニコライさん(森づくりの中心人物・69歳)も踊っていて。忘れられないよ。

ジニーン2016年のレジデンスのとき、毎晩みんなでご飯を食べていたの。なにか1品つくって持ち寄って。そこにはいつも知らないひとが何人かいて。印象に残ってる。
一緒に食べることで友達になれる感じ。言葉はほとんど日本語だったけどあまり問題じゃなくて、わからなくても楽しかった。

二つのプログラム|KAIR、Bed & Studio

ヤマンドゥ「KAIR」と「ベッド&スタジオ・プログラム」*4 には、大きな違いがある。KAIRは最後の展覧会に向けて、夏から秋にかけてみんなとチームでつくり上げていく感じ。

ベッド&スタジオ(以下B&S)は制作空間が提供されるけど、KAIRのように全面的なサポートはない。だから大きなプロジェクトの実現は難しいけど、自分のスペースで制作自体に集中できる。

Photo: Yoshiaki Nishimura

クウィンそう思う。いま取り組んでいる論文の執筆には、本当にいい場所。ロンドンでは集中するのが難しくて。

ジニーンB&Sは展覧会に向けたプレッシャーや期待がない分、自分と向け合えるし、アーティストとしての成長が出来る。

ヤマンドゥ空気も本当にいいよね。

ジニーン夜になって聞こえてくるカエルの鳴き声が大好き。

ヤマンドゥ俺は静かなほうがいい(笑)。鳴き始める前の静けさが好きだな。


レジデンス・プログラム全体を切り盛りする中心人物は、プログラム・ディレクターの工藤桂子さん。十数年、ここで3人が楽しげに聞かせてくれたディティールをこつこつ積み上げてきた人。彼女の話も聞いてみます。

バックグラウンドは?

工藤アートじゃない(笑)。美術の授業は中学校からとっていなかったし、アートラバー(Art Lover)だったわけでもないんです。徳島県の吉野川市生まれで、2007年からNPOグリーンバレーで働いている。

最初は「NPO業務全般をやりながら、KAIRもその一つ」という位置づけで、サポーター兼通訳のような形だった。でも最初の1年がすぎて、「あれ?」って。「これ誰かの仕事でなく私の仕事か」と。「じゃあ、もうちょっと知らないと会話もできないし」という感じで、来るアーティストたちに鍛えてもらってきました。

自分は高校生の頃アメリカに行っていて。そこでいろんな人に、すごく親切にしてもらいながら何年間か過ごした。温かく迎えてくれる人、優しい人。
その経験もあったから、逆の立場になったとき、神山に来るアーティストたちにも同じく「ここに来て良かった」と感じてもらえるサポートをしたいなって、求人に応募したときから思ってはいたんです。

ホスピタリティ。

工藤せっかく来てもらったんだから、気持ちよく滞在して欲しい。それは作品にも影響してくるはずだし。そんなふうにすごしてもらえていたら、私の仕事も楽だし(笑)。

アーティストとのコミュニケーションは出来るだけじっくりとるようにしています。毎日ではないけど、最低でも2日に1度は会っていると思う。会話の中で彼らの様子も見えて、「1週間後にはこんなサポートが必要になってくるな」とか予想しながら動いていくことで私のストレスも少なくなるし、彼らにとっても少なくなるだろうし。

Photo: Yoshiaki Nishimura

ちょこっとでいいから、頻繁に顔を合わせてるほうが状況がわかる。当たり前だけど、「なんも言ってこんから大丈夫なんだろう」としているより、なにか理由を付けて顔を合わせている方が、あとあと楽な感じになっていきますね。
集中したいし一人でやるのが好きというアーティストも、一日の終わりにはたぶん誰かと話したいわけだから。

今日の3人の話、聞いていてどうでした?

工藤どの話も〝コミュニティ〟に戻って来ましたよね。KAIRという活動が実行委員だけでなく、本当に神山全体がかかわって、まちがあるから出来る。そこで暮らす一人ひとりがいるから出来ているプログラムなんだなって、あらためて思った。

滞在中に出会って、日常の中でちょっと挨拶を交わすとか。お店屋さんでのやりとり。そういう小さいことでも多分彼らにはすごく嬉しいというか、ほかのレジデンス・プログラムではなかなかないことだったり、〝神山らしさ〟として感じているんですよね。

このあいだクウィンと秀乃家(食堂であり宿屋さん)に行ったら、生コンのところで働いてるおっちゃんだと思うけど、「あんた、あんときの姉ちゃんやな」って、1回しか会ってないクウィンに、2年ぶりくらいになるはずだけど話しかけてきて。ああいう出来事も、小さなコミュニティだから起こるんだろうなと思う。

施設型のレジデンスとの、大きな違いだよね。

工藤ですよね。そんな小さなことが重なって、彼らの満足度になり、「神山が好きだ」という気持ちに繋がっているんだろうな。ほかのアートプロジェクトやレジデンス・プログラムの関係者と話していて、「そんなに戻って来ているの?」と驚かれることが多い。私たちには自然だけど、多分これは貴重なことだと思うんです。

ケビン(Kevin Yates、2011年のKAIR招聘アーティスト)も、彼と来てそのあいだ町の学校に通っていた息子のバックリーくんと、「18歳の誕生日だから」「神山行くわー」とまたやって来て。いまは高校生になった友だちに会い、当時の先生方も4〜5人集まって。

神領小学校での課外授業の1コマ。工藤「写真に写っている2人が会いに来てくれました。この中の何人かは、国際交流プロジェクト(2016〜)でオランダにも行っています」 Photo courtesy: KAIR

すごいね。

工藤「長い制作では行けないけど1週間行きます」とか「2週間ちょっと」とか、割とある。でも考えたら結構なことですよね。家族分の旅費や滞在費も出して。有り難いことだなと。

工藤さんにとって、この仕事の良さは?

工藤普通に生きていたら会わないだろう人たちと出会って、彼らの滞在制作のサポートをする。関係性がどんな作品につながってゆくのか近くで見れるのは、この仕事のいちばんの醍醐味かな。人にかかわるのは嫌いじゃないし、どちらかというと好きな方だと思う。

でないと長くつづけられない。でも最初はこんなに多くのアーティストと、たくさんの時間を過ごすつもりはなかった。

工藤なかったし、自分がこんな、いろんなことを見たり考えたりする人になるとも思っていなかった。(笑)

Photo:Yoshiaki Nishimura

LINK
*1 ヤマンドゥ(Yamandu Roos)
*2 ジニーン(Jeannine Shinoda)
*3 クウィン(Quynh Vantu)
*4 神山アーティスト・イン・レジデンス
*5 ベッド&スタジオ・プログラム

Interview:2019年4月20日(Interviewer: Masataka Namazu)

文:西村佳哲、撮影:生津勝隆
制作協力:真鍋美枝、工藤桂子、藤本 彩
企画・制作:神山つなぐ公社