特集

Vol.02

放課後・休日の子どもたち

いろんな大人のいる神山で
子どもたちは
どんな放課後や休日をすごしている?

第2話

放課後児童クラブ(学童保育)

2021年8月20日 公開

町内には、広野小学校と神領小学校があり、それぞれの小学校には放課後児童クラブ(学童保育)が隣接しています(ともに平成19年4月に開設)。今回は、「広野児童クラブ」の主任支援員を務める坂本美佳さんと、「すだちっこくらぶ」の支援員である河野唯さんのおふたりに、西分の家までお越しいただき、お話を伺いました。

みんなを平等に見てやれると思った

まずは、自己紹介と神山に来た経緯を。

坂本 阿波市の出身です。結婚を機に神山に引っ越して来たのですが、しばらくは、家の周りにお店や灯りなどが何もないのになかなか慣れなくて。けど、いまは、良いところやなって思っています。

 河野 私も阿波市で生まれ育ちました。母方の実家が神山にあって、小さい頃からよく遊びに来ていて、高校を卒業するとともに、神山にやって来ました。母が女兄弟で祖父母の家に跡継ぎがおらんってなって、ほな私が行こうか、みたいな軽い感じで、暮らすことになりました。

子どもの頃は、どんな放課後や休日を過ごしていましたか?

河野 家から学校までの距離が2kmぐらい。けっこう遠かったんで、家に帰ってから遊ぶというよりは、石ころを蹴ったり、葉っぱを採ったりして、友達と遊びながら帰っていましたね。休日は、よく家でファミコンやレゴをして過ごしていました。
 
坂本 家の周りが田んぼだらけで、オタマジャクシやカエルに囲まれて育ちました。学校から帰ったら、子どもたちだけで神社に集まったり、森に行ったり、探偵ごっこをしたり、木に登ったり、川に入ったり…とにかく遊びには困らなかった。いま思えば、楽しいことばっかりしてきたんやなって。
 
私が子どもの頃は、だいたいの家庭に誰かしら保護者がおったから、いまみたいに学童が必要で、なんてことはなかったですね。留守の家に帰る子どもはほとんどおらんかったと思う。

学童に関わり始めたきっかけは?

坂本 神山町で初めて学童を発足するというときに、支援員の募集があったんです。
 
私の家は高瀬団地の近くにあって、娘が小学生の頃は、団地にものすごく多くの子どもがいたんです。団地で暮らす人たちは、ほとんどが核家族やけん、放課後に保護者が家におらん子が多かった。

毎日10人ぐらいの子どもたちが家に遊びに来ていた時期もあったし、娘もよく団地の駐車場で遊んでました。子どもたちは、だいたい夜ご飯の準備ができるぐらいまでずっと遊んでいましたね。
 
でも、そういう遊びのグループに入れなくて、家の窓から様子を見ているような子もいた。学童が発足すると聞いた時に、そういう子たちも全員来るかなと思ってたんです。私が指導員になったら、娘の友達だけじゃなくて、とにかくいろんな子どもたちをみんな平等に見てやれるって思った。
 
河野 高校を卒業してから、ずっと農協で働いていました。ふたり目の子どもが生まれてから、育児と仕事の両立をようせんなって思って。辞めようか、どうしようかと思っていたときに、学童の先生から「ちょっと来てみいへんで」って誘ってもらって、行くようになりました。

最初は、すごく楽しかったですよ。それまでは、ずっと事務仕事ばかりやったけん、子どもと一緒に遊んで、身体を動かすんが、めっちゃ楽しいって。

でも、だんだんと、ただ楽しいだけではあかんなって思って、ちょっと引っかかった時期はありました。学校から学童に楽しく来る子もおれば、中には、親が仕事やけん、仕方なく来ている子もいる。いろんな気持ちで来る子がおるんで、どうしたら良いか日々勉強ですね。

「ちゃんと見よるよ」って伝えたい

いま学童に来る子どもの人数は?

河野 「すだちっこくらぶ」は、平日は平均42、3人の子どもたちが来ていますね。必ず、ひとり一言は交わしたいと思っていて、「何しよん?」とか「イェーイ!」とか何でも良いんで、話しかけるようにしています。
 
坂本 「広野児童クラブ」は24人。全員とコミュニケーションを取れる人数やし、気になった子にはできるだけ多めに関わっていますね。

河野 子どもたちの中には、こちらの顔色を伺う子もおるし、「イライラする」「腹が立った」とか言って、ストレスを溜めている子もおります。でも、そういう子どもたちにも、「ちゃんと見よるよ」っていうのはできるだけ伝えたいなって。
 
坂本 広野の子と神領の子とは、色がちがうよね。いまでも広野は昔ながらの子どもたちが多くて、ほわんとしている。神領は大人っぽい子が多いよね。

河野さんは、お子さんが「広野児童クラブ」に通って、ご自身は神領の「すだちっこくらぶ」で勤務されていますが、違いはありますか?

河野 全然違います。我が子を「すだちっこ」に入れたら、たぶんよう身動きが取れないんだろうなって思います。「すだちっこ」の中で社会ができているんですよね。


 
子どもってほんますごいって思うのは、「この子のこと苦手」、「この子のこと好き」って、そのまま出すんですよ。大人でもあるけど、なかなか表には出さないじゃないですか。
 
そして、思ったことを言い合うこともすごいなって。言いたいことを出し切って、冷静になって考えてみて、「さっきはごめん」「ぼく言い過ぎたかも」って仲直りしています。
 
私のイメージでは、「広野児童クラブ」の子は、ほわんとしていて、けんかもするけど、そこまで激しくないんです。逆に、「すだちっこ」の子たちは、社会性があって、けんかをした後に、どうしたらいいかって考えて、動ける子が多いように思いますね。
 
上の子がそうやってしよるけん、下の子たちもそれを見ているのかもしれません。
 
坂本 ほれがいいかもしれんな。けんかしても、自問自答して反省できるって。
 
河野 全員が上手く切り替えができるか、っていうたら、そうじゃない子もおるけど、とにかく、喜怒哀楽のすべてが全力ですね。広野は、”喜”が多いかなと思います。
 
坂本 うちもけんかはする。すぐに謝まるけど、それも軽いかなって思う時もありますね。なんか、全員が兄弟みたいやけん、兄弟げんかみたいなもので、けんかしよったかと思えば、もう仲直りしてる、みたいな感じ。いま来よる子に関しては、ほんまに心配してないんよ。

この仕事をするために生まれてきた

今までで、印象的だったことは?

坂本 いままでは低学年の子にも優しくできてなかったけど、今年からできるようになった子がおって。特に、男の子たちが小さな子たちに優しくできていますね。子どもって、大人には理解できないところで、急スピードで成長するでしょ。そういう成長が嬉しい。
 
そんな時は、「賢い!」って抱きしめに行くんです。そしたら、「ディスタンス、ディスタンス」って嫌がられる(笑)。でも、とにかく褒めてやらなって。大きいも小さいもない。大人でも褒めてくれてたら嬉しいですもんね。
 
河野 高学年が低学年の子に、「ここ危ないよ」とかって、スッとできる優しさは、見てるこっちが、わぁって嬉しくなる。子どもって、ほんますごいって毎日感動しています。感動したことは、他の支援員にも共有するようにしています。
 
あと、卒業するときに「先生、ありがとう」って挨拶に来てくれるのは、とても嬉しい。

坂本 毎日ほんまに楽しいんやけど、子どもたちが卒業して、社会人になっても、道で会ったときに、「先生〜!」って手を振って、全身で私を呼んでくれる。ほれは、ほんまに幸せやな。
 
河野 報われた感じがしますよね。
 
坂本 私は、この仕事をするために生まれてきたんじゃないかな、と思ってるんです。
主任というのもあるんやけど、家庭より何より「広野児童クラブ」が優先で。
 
河野 坂本先生は、学校行事にも来てくれるし。
 
坂本 主人を従えて、ビデオカメラを構えて、運動会や学習発表会に行くのが当たり前(笑)。でも、コロナ禍で、ここ2年ぐらい行けてないんがほんま辛い。
 
河野 保護者の悩み相談も受けてくれてますよ。
 
坂本 1年生から6年生って、いちばん伸びしろがあって、毎日毎日の成長が見える、とても濃厚な時間。「こんなことあったんじょ」って、保護者の方に伝えたり。
 
河野 学童以外でも、学校であったことや保護者が知らないことも、個別にLINEで連絡をしてくれる。

坂本 いまはコロナ禍でできないけど、夕方の子どものお迎えの時間は、保護者と保護者のコミュニケーションの場にもなっていた。半時間は普通で、1時間ぐらい座って話していく人も。ある時は、お父さんのお迎え率がめちゃくちゃ高くて、お父さんたちが協力して、子どもたちの宿題を教えてくれたこともあった。
 
河野 どちらかというと、子どもが待っとる状態ですよね(笑)。学校のことやPTAのこと、子どもに確認しても分からないプリントの内容など、保護者同士で解決できていました。
 
「すだちっこくらぶ」では、以前から入り口で送り迎えしています。その子のことで支援員内で思ったことや、今日あったことを必ず共有して、主任がまとめて保護者に伝えていますね。

坂本 もしかしたら、そこまでしたらあかんと思う人もおるかもしれん。でもそれが広野のカラー。学童にも、それぞれいろんな考えや違いがあっていいと思います。
 
とにかく、子どもたちが、パパやママの待つ家に帰るまで楽しくおれるようにしたい。学校から学童に喜んで来て、ここにいたいって思う場所になってほしいなって思ってます。

Interview:2021年6月26日

 

インタビュー:秋山千草
文:いつもどおり
撮影:近藤奈央、生津勝隆、兼村雅彦
制作協力:糸井恵理、西村佳哲
企画・制作:神山つなぐ公社