特集

Vol.02

放課後・休日の子どもたち

いろんな大人のいる神山で
子どもたちは
どんな放課後や休日をすごしている?

第4話

ほんのひろば

2021年9月3日 公開

本と人との出会いの場をつくること、そして、神山町の読書環境をよくすること、そんなミッションを掲げ、町内で活動する「ほんのひろば」。

運営を担当するメンバーは、NPO法人グリーンバレーの河野定子さんと市脇和江さん、神山町役場の駒形良介さんの3人です。「ほんのひろば」の始まりの場所でもある農村環境改善センターで、河野さんと市脇さんにお話を伺いました。

本をどうにかしたい

まずは、ご自身のこと、子ども時代の思い出を教えてください。

河野 上分中津出身で、いまは神領青井夫で暮らしています。小さい頃の一番の思い出は、親たちが全員で、川をプールにしてくれたこと。水の中に石垣を積んで、深くして遊べるようにしてくれたんです。

市脇 岐阜県の中津川市出身です。木曽川が濃尾平野に抜けていく宿場町のある、のどかな村で育ちました。子どもの時には、楽しい思い出がたくさんあります。2011年に『神山塾』2期生として、神山にやって来ました。

「ほんのひろば」はどのように始まったのですか。

河野 グリーンバレーで働き始めたときから、私にとって図書室は癒しの場でした。本を読むのではなく、ひたすら本を片付けたり、どんな本があるのか検索したり。竹内事務局長と和ちゃん(市脇さんのこと)がグリーンバレーに入って来るまで、7〜8年ぐらい、そういう時間を図書室で過ごしていました。
ふたりに相談して、「本をどうにかしたい」という想いが一致したんです。
 
市脇 神山町には図書館がありません。私は誰でも来て自由に本を読んだり借りたりできる場所が町に欲しくてこの活動を始めました。
最初の話し合いのメンバーに駒形くんが入ってくれて。当時、彼は教員委員会に属していて、県立図書館と住民さんの間で、本を受け渡しする係を担当していました。
 
河野 廃棄図書があるんだったら、自分たちの活動に活かせられないか、ということを、駒形くんが県立図書館に働きかけてくれて。教育委員会を通して、払い下げの本をいただけることになった。
 
市脇 教育委員会が目録を持って管理をする、でも実際は「ほんのひろば」が運用するといった仕組みを、その時につくってもらった。
 
だから、ベストセラーや新しい本はなくて、少し古い本が多いですね。ここに陳列してあるのはあんまり他では見かけないラインナップなんですよ。それが逆に面白いんじゃないかなって。
 
河野 ちょっと個性が出たよね。

市脇 グリーンバレーから言うと「市民ライブラリー制度」だし、教育委員会から言うと「公民館図書の活用、活動を後押しする」っていうかたちで面倒を見てもらっていて。年に何回か県立図書館の図書館員さんが来る研修に参加させてもらったり、いろいろ勉強させてもらっています。

いろんな方が関わり合って、始まったんですね。

河野 でもね、もし駒形くんが教育委員会にいなかったら、彼がそんなに本好きじゃなかったら、この活動は本当に始まっていたのかな? っていうところもある。何より、駒形くんと和ちゃんが司書の免許を持っていることが、すごく強みだった。それがあったから「やりましょう!」という感じになった。
 
どんどん広がっていって、どんどん忙しくなってきて。本も捨てないと整理がつかないぐらいになってきた。でも、捨てるのももったいなくて。
 
市脇 情報が陳腐化してる本や古い仮名遣いの本は読みづらいから、捨てようって。
 
河野 和ちゃんが、なだめてくれて(笑)。そこは勇気を持って、捨てました。
 
市脇 でも、捨てると次の本が入ってきた。捨てる前よりも、いまの方が本があるよね。本のラインナップが変わると、「あ、こんな本がここにあるんやったら、家にある本を持って来ちゃろう」と思ってもらえるようで、町の人が本を寄贈してくれるようになってきたんです。
 
河野 クリーナーワークショップをやったり、ひたすら本の整理をやってきたら、本が生き生きしてくるんですよね。それに私はびっくりしました。本を生かしてあげるとね、さあ、今日はどこに行こうかなって感じになるから。

小さな動きがあるのが、おもしろい

絵本もたくさんありますよね。

市脇 改善センターは町内の乳幼児検診の会場で定期的に小さい子供と保護者がたくさん集まるんですね。

保護者さんたちがたくさんの絵本を見て、それを何冊でも借りられるとなれば、借りてくれるようになるかもしれない。自分はあまり本を読まなくても子供にとって本は大事だと考える方もおられます。小さいうちから本に親しむ環境を作ることが大事だなと思ったので、まずは絵本を中心に本を集めました。
 
検診会場に絵本を置いたり、ほんのひろばが親しみやすく楽しい場所だと感じてもらえるようにディスプレイを変えながら、少しずつ紹介していきました。


 
河野 自分たちも母子保健推進員として検診のサポートをやっているので、それはすごく大きいと思います。

親子向けから始まって、その後はどうやって?

市脇 開始して3年はほとんど利用がなかったです。そこで維持することを大切にして、本を増やしながら、レイアウトをよりよく変えたり、掃除をしたりしていました。4年目ぐらいからコンスタントに利用してくれる人が増えてきて、ちょっと広がってきた感じがありました。

河野 ここに来る度、本の場所が変わってるのよ。自分たちが土日にお休みしている間に、本が動いてなくてもおもちゃが動いていたりね。小さな動きがあるのが、おもしろいんです。

おふたりがいない間にも動いているんですね。

市脇 図書のために職員を配置するわけにもいかないのですが、改善センターは公民館のような役割もしているので、毎日開いていて職員もいます。上手い具合にその仕組みを使って、片手間でできて、誰かが貸し出し業務をすることができました。それが良かった。
 
ここにある物で、買った物はほとんどないですね。元々あった棚や空き家から出て来たコタツ、机もイスもいただいたものばかり。いまのボリュームになるまでに、5年かかってるんですよ。

河野 飾り付けも、和ちゃんが折り紙でつくったりしてくれて。
 
市脇 県立図書館の方のアドバイスで、子どもが来やすい雰囲気にしないとって。保育所でも、先生たちがつくっていますよね。そういう感じでかわいい飾りをつくったら、喜ばれるんだなって。
 
ディスプレイを変えたり、本を整理したり。手が入ってる、誰かが面倒を見ている場所に人は来たくなるんだよ、とアドバイスしてくれていた。
 
河野 アドバイスどおりにやってみたら着実に本が動き出すし、本好きが寄って来るというのを身を持って感じました。

市脇 定ちゃんは、本そのものを愛していて、本を人みたいに扱う。駒形くんは、図書館が大好き。大学で図書館の勉強をしていたので、公立図書館がない場所での、この活動自体がおもしろいんだと思います。

私は図書館の役割や知識と情報の整理が好きで、司書の講座を受けて資格を取りました。それをほんのりとですが、こうして活かせるようになるとは思いませんでした。 

河野 まあ、三者三様です。
 
市脇 それぞれの楽しみのポイントを押さえながら、ちゃんと人の役に立って。
 
河野 会社や教育委員会も関わっているから、それぞれにも良いようなことを。したたかにやっていたから、広野での活動にもつながったんだと思う。

日記に登場しはじめた「ほんのひろば」

広野の「コーヒーとほんのひろば」についても聞かせてください。

市脇 5年目から「豆ちよ焙煎所」の千代田孝子さんが加わってくれて、コーヒーを飲みながら本を読んでのんびりいられる場所が必要だねってことで、「コーヒーとほんのひろば」という月イチ開催のイベントを始めました。それがまたおもしろくって。

本を利用しない人も来てくれるようになって。でも、私たちがその人たちにも本を推すので、本を手に取ったりしてくれるんですね。
 
河野 こんなところに、こんな本があるとか言って、変わった目線で見てくれる。
 
市脇 「コーヒーとほんのひろば」を続けていたら、改善センターの拠点が手狭になってしまったんですね。

ちょうどその頃神領には鮎喰川コモンができました。コモンには町予算で買った本が配架され、それを誰でも借りて読めるようになります。それならこれまで本の場所がなかった地区に展開したいなと思った時、広野小旧校舎が浮上しました。教育委員会に相談したところ、申請して、お借りすることができたんです。

そこで今年の4月から蔵書のほとんどを広野に移し、広野の人たちと、広野の子供達が来やすい場所にしていこうと、「コーヒーとほんのひろば」を広野小旧校舎で毎週末に開始するようになりました。

そしたら、ある時子どもたちの日記に登場するようになったんです。〝「ほんのひろば」に行ったよ〟って。すごく嬉しかったです。

子どもたちがここに来るには、保護者さんの協力が不可欠です。それに、子どもたちの中には土日に習い事をしていてなかなか来れなかったり、保護者さんが土日も仕事で来れないということもあります。そんな中でここを目的地に尋ねて来てくれる思いに、応えられるようがんばりたいですね。

まだまだ活動は始まったばかりですし、コロナの感染拡大状況に配慮しながらなのでオープンしない月もあります。長い目で、いつでも気軽に寄れる場所になっていけるように活動していきたいと思います。

河野 3人寄れば、文殊の知恵。私たちは考え方もバラバラやけど、本に対しては同じ方向を向ける。〝ほな、こうしょうか〟みたいな感じで、動いていくんです。
 
市脇 チームとして、これまで蓄えてきた力があって、それが広野に行くことを後押ししたと思う。お金がないことが、功を奏したのかもしれない。早く物を整えない、急激に状況をつくらない。育まれていくことを想定していたので、無理がないんですよ。
 
自分たちがしんどくならないことを一番大事にしてきた。しんどくなると、続かないことを知っているので。

これから「ほんのひろば」が、どんな風になっていくと良いですか?

市脇 自分たちの活動がイコールまちの読書環境を良くすることなんで、それがミッションだから。何をやっても、そこにつながるように。
 
河野 継続は力なり。それをひたむきにやる。本って、そういうことだと思うし。
 
市脇 〝また明日からがんばるぞ〟とか、〝ああ楽しかった〟って思うような場所になると良いなって。あとは、夜学みたいな感じで学べるとか、お話を聞く会とか。勉強と興味を満たすのと、その間のちょうど良いところを取れるような。
 
河野 新しい発見ができると良いよね。地域から発見するものなのか、人から発見するものか、分からないけど。そして、子どもたちがもう少し本に関心が向くと良いかなって思います。「ほんのひろば」が、本に興味を持つことの、ひとつの手だてになればいい。
 
市脇 私は「ほんのひろば」に来てくれる子どもたちとの時間を深めていきたいなと思います。子どもたちひとりひとりを大事にしていきたい。見守りにもなるだろうし、生涯の友達にもなるかもしれないんで。

Interview:2021年6月10日

 

 

インタビュー:秋山千草
文:いつもどおり
撮影:近藤奈央、生津勝隆、兼村雅彦
制作協力:糸井恵理、西村佳哲
企画・制作:神山つなぐ公社