特集

Vol.02

放課後・休日の子どもたち

いろんな大人のいる神山で
子どもたちは
どんな放課後や休日をすごしている?

第5話

みっけトレイルクラブ

2021年9月10日 公開

毎週月曜日、鮎喰川コモンを集合場所にして、大粟山の自然を楽しみながら走る「みっけトレイルクラブ」。子どもたちに伴走するのは、上田直樹さんと松岡美緒さんのおふたりです。

過酷な砂漠でのマラソン経験を持つ上田さん、海外のNGOで働いていたこともある松岡さんに、どんな想いでクラブを運営しているのか、お話を伺いました。

日常の風景をつくる一部になりたい

まずは、自己紹介と神山に来た経緯を。

上田 北海道出身です。神山に来る前からガイドやイベントを仕事にしていて山口県や関西を拠点に10年くらい旅暮らしをしていました。

移住した理由はいくつかあって、前から水のきれいなところに住みたかったこと。嫁さんが占いで神山に行きなさいと言われたこと(笑)。おもしろい知り合いがいたこと。そして地域おこしを学びたかったこと。全部が重なったのが、神山だった。

松岡 私は、東京出身。大学院を卒業してから、パキスタンのNGOで国際協力の仕事をしていました。東京に戻ってからパーマカルチャーに出会って、大変じゃないDIYな暮らしをやるとしたら、水が美味しいところに住みたいって思っていて。

縁あって訪れた神山で出会った人たちがおもしろかったのと、パートナーも以前から神山を知っていて友人も住んでいるから、という理由で神山に移り住むことになりました。

おふたりは、どんな子どもでしたか?

上田 小さい頃は、父親とよく相撲を取ったり野球ばかりしてましたね。北海道の相撲チャンピオンになったこともあります(笑)。札幌に住んでいたので、半分は都会だけど、半分はめっちゃ濃い自然があって。自然の中にもよく入ってました。
 
松岡 小学校は、沖縄・石川・東京・千葉って4回変わってて。沖縄では海の前に家があったし、石川では森の中の学校に通っていました。休み時間に抜け出して、たけのこ堀りやいろんな種類の野イチゴを取りに行ったり。自由な時間がすごい多くて、それが良かった。
 
上田 何不自由なく暮らしていたし、楽しかった。でも、大人になって世界を旅して色々考えるようになった。印象に残っているのは現地の方に「アイデンティティ」について質問されたこと。そんなことを考えたこともなかったんです。

そこから現代では無駄だって切り捨てられそうな、先人から受け継がれているような何か大切なものと出逢ってゆこうって意識するようになりましたね。

いろんな経験をしてきたふたりが、なぜトレランを始めたのか?

松岡 神山に来る前から、子どもと自然のプログラムはやりたいなって思ってて。いざ神山に来てみたら、自然の中に何でも材料があって、こんなに良いフィールドはないと思って。

最初は、土日のイベントを何回かやったんです。でも、それは非日常って言うか、学校でできないことを発散しに来てるみたいな感じで。日常の風景をつくる一部になりたいなと思ったのがきっかけです。放課後だったら、できるんじゃないかなと思って。
 
このまちで走る人って言ったら、らんぼう(上田さんの愛称)ぐらいしか知らなくて。砂漠のマラソンに出てたってことも知らずに声を掛けたんです。でも、彼は人見知りだったらしくて。
 
上田 ははは。
 
松岡 声を掛けてから、返事をもらうまで間が空いて、実際に大粟山に行くまですごい時間がかかりました。

松岡さんに誘われた時はどうでしたか?

上田 誘われた時は、すごいテンションが上がって。
 
松岡 ウソだ(笑)。
 
上田 美緒ちゃん(松岡さんのこと)とは、トレランを始める1年ぐらい前に出会いました。その時から、子どものための場をつくりたいって言ってたんです。

自分たちも数年前に、神山で暮らす子どものいる友人たちと、オルタナティブな自然保育の場所をつくれたらいいねって言ってて。それぞれが忙しくなって、なかなか実現しなかったんです。彼女がそういう場をつくりたいんだったら、〝これはええわ〟って思って。
 
僕は走るって言ってもアスリートではない。でも、ド素人ばかりでチームを組んで、チリのアタカマ砂漠マラソンって「世界でもっとも過酷」と言われているレースに参加したんです。
 
1週間で250km、標高は3,200m。水は提供してくれるけど、1週間分の食事や着替え、その他の必要な荷物を背負って走るんです。

みんな未経験だから、亀みたいに遅いんです。でも、それが良かった。チェックポイントを毎回ギリギリで通過して、僕らゆっくりなもんだから、気づいたらチーム全員が完走できたんですよ。そして、速く走っていた他のチームの方がリタイアして、僕らが世界一のチームになったんです。帰国してから、クラウドファンディングで映画をつくりました。

砂漠マラソンのメンバーとも話してたんですけど、自分たちが挑戦することで社会貢献をしたいねって。砂漠マラソンは、本当に挑戦して良かった体験なんです。それを子どもたちと共有したいなと。

新しい世界を発見することにつながる

「みっけトレイルクラブ」が、始まってどのくらい?

松岡 去年11月にお試しでやって、今年3月から定期的にやってて、まだ数ヶ月ですね。参加する子どもはめっちゃ楽しそうだし、参加してくれる大人が元気になってゆく気がして。
 
ただ走ってるだけなんだけど、大粟山のトレイルはすごく気持ち良いし、子どもたちのいろんな発見がある。

上田 うん、楽しいよね。トレランクラブって、意外とありそうでなかったんだよね。

松岡 いまテーマを決めてやってるのも良いなって思う。子どもたちがそのフィルターを通して、いろんな世界が見えるみたい。

夏至の日に「太陽のエネルギーを吸って、一番ワクワクしているのは誰か?」っていう質問をしたんだけど、そしたら葉っぱを持って「何かエネルギーが来てる気がする」っていう子や太陽を浴びて充電してる子、わざと太陽に当たらないように走っている子とかもいて。

それぞれの答えをたくさん受け取って、私はそれに満たされてるかな。
 
上田 子どもって誰もがそうなんだけど、質問をすると、やっぱり答えを探すじゃないですか。それは、新しい世界を発見することにつながる。
 
最初のテーマが「どうやったら、からだが楽に走れるか?」。2回目は「食べれるものを探そう!」とか。
 
松岡 毎回、自分のからだや地球とのつながりだったり。子どもたちに質問しても、野外にいるから、たくさん答えが見つかる。〝何を答えても正解〟っていうのが分かってるから、子どもたちも自信を持って、考えたことを話してくれる。

楽しくて、美味しくて、美しい場所で、太陽の動きや水の流れを感じているっていう経験はとても大切だなって。子どもたちが成長して、環境についての課題を渡されたとしても、〝あれを守りたい〟〝あれが大事だから〟っていうモチベショーンがあるのとないのでは、違うんじゃないかなって。

上田 みんな走るのは好きだよね。
 
松岡 大人の方がヘロヘロだよね。神社の階段とか。

どんなコースを走っている?

松岡 まずは、鮎喰川コモンで集合して準備体操。そこから、大粟山神社まで登ってからアートロードへ。そこから、COCO歯科の方に行って、遠回りで下りて来るチームと、さくら公園の間を走って来るチームに別れて、またコモンまで帰って来ます。

上田 だいたい3〜4km。あのぐらいの年齢からこの距離を走れるようになってたら、いろいろ可能性の幅が広がるだろうなぁ。
 
松岡 整備された平坦な道ではなく、木の根っこが生えてて、砂利があって、杉の葉がいっぱい落ちていて力を込めても滑って登れないような道を3〜4km。
 
上田 子どもでも走っていたら、これぐらいだったらいけるなって、体感として養われていくと思う。走った後ってからだも軽くなるし、だんだん気持ちもハイになる。けっこう自身に繋がるんじゃないかな?そういうのをみんなで共有できるのは良いんじゃないかと思います。
 
松岡 みんな普段は車移動してるじゃない? でも、自分のキャパや可能性を知ってることって、とても気持ち良いし、生きる力になると思う。
 
上田 田舎に暮らしているけど、普段の遊びがゲームとか都会的なものが多い。周りに自然があるんだけど、触れ合ってないっていうパターンが増えてきてると思ってて。
 
昔は、山遊びや川遊びは普通だったわけで、でもいま、「川行こうぜ」「森行こうぜ」っていう発想がないんですよね。トレランでそういう体験をつくれてるんだなって。最初は、楽しいからやろうって始めたんですけど、やっていく中でそういう選択肢につながってるなと。

いま、メンバーはどのくらい?

松岡 常に来てくれる子どもは15人。1年生が3人、残りは2年生で、いまは女子が多め。時間的には3年生まで参加できる。

上田 気づいたら、40人ぐらいになってるかもよ。
 
松岡 じゃあ、増やしていこうか(笑)。

「わたしたちの子どもたち」として育てたい

今後「みっけトレイルクラブ」をどのようにしていきたいですか?

上田 季節によって、ちょっとずつ変化をつけても良いかなと思っていて。暑い時は川に入ったり、地元の人がやってた昔の遊びとかしてもおもしろい。
 
あとは、僕らが楽しくやることも大事。いかに自分らが楽しくできるか追求していきたいと思います。
 
松岡 トレランの後に温泉に入るとかね。
 
上田 トレランの後の温泉はご褒美なんで(笑)。
 
松岡 私は、いろんな大人に関わってほしいなって思ってる。いつもふたりなんだけど、らんぼうがいない時もあるし、いろんな人に一緒に走ってほしい。
 
この前は、神山の美容師さんやフランス人建築家の方が一緒に走ってくれました。子どもたちからは、美容師ってどんな仕事?とか、フランス語が通じなくても理解し合っている感覚とか。走りながら異文化に触れるのって、すごい良いなって。

でも、もっとおもしろい人がいるだろうし。走るのが苦手でも大丈夫。どんな人でも参加してほしいな。
 
上田 ずっと走ってるわけじゃないんです。走ってる時もあれば、歩いてしゃべってる時もある。歩いて、走って、また歩いて走っての繰り返し。

松岡 いろんな大人に関わってもらうことで、子どももその大人のことを知れるし、大人も自分自身の子どもがいなくても「わたしたちの子どもたち」っていう感覚になれる。
 
私は子どもはいないけど、子育てに参加させてほしいみたいな気持ちがあって。そういう感覚を私も実践したいし、参加した人がその感覚が良いなとか、楽しいなとか思ってくれたら。
 
上田 今後は、神領以外の他の地域でもやりたいと思っています。絶対に良いコースがたくさんあるはずだし、情報収集しないと。
 
松岡 まずは、長期休みとかに他の地区で特別編とかから始めていきたいと思います。神山のまち全部が遊び場っていうのを、私たちも体験したいし、子どもたちにも体験してほしいな。

Interview:2021年6月22日

インタビュー:秋山千草
文:いつもどおり
撮影:近藤奈央、生津勝隆、兼村雅彦
制作協力:糸井恵理、西村佳哲
企画・制作:神山つなぐ公社