「神山まるごと高専」の開校がいよいよ4月に迫っています。神領大埜地地区の校舎も、旧神山中学校を改装した寮も完成。教職員の皆さんの引越しや、学生の入寮の準備も進んでいるようです。校舎は「OFFICE」、寮は「HOME」と呼ばれるんだそうです。 

3月1日現在で、県外から移住しているのは10人。2年前、1年前から引っ越してきた方もいれば 今、引っ越しの最中にいる方もおられます。17人の教職員が町で働くことになるのだそう。北は北海道、南は沖縄から、30代4割、40代3割、50代が3割の先生たちが、神山町と町周辺に移住してきます。 

「メディアを通して見るのは、なんだかとっても華やかなイメージ。
 だけど、実際の生身の教職員の皆さんは、どんなふうな人たちなんだろう?
 もしかして、もうまちの中ですれちがっている?」 

まちの人の素直な疑問。

まるごと高専事務局のある神山バレー・サテライトオフィス・コンプレッ クスの薪ストーブの前で、広報・学生募集担当の村山海優さんと、保健体育授業担当の古屋佑奈さんに聞いてみました!
そして、ちょっぴり早く、まちの人にとって思い出深い、旧神山中学校校舎の変貌ぶりをご覧ください。

 
​広報担当の村山さん(左)、保健体育授業担当の古屋さん(右) 

——まるごと高専で働くということは、移住を伴います。大きな決断だったと思いますが。 

村山)私は、前職は広告代理店で、プロモーションなどのお仕事をしていました。ドバイ万博の日本館のプロデュースが2022年3月に終わって、超特急で決断し、8月1日に神山に引っ越してきまし た。決断が早かったのは、直感で決めたから。3年前、コロナ禍の始まった頃、イベント業界の仕事がなくなった時期に、一度、神山にお邪魔したことがあって。 


寮生居室の床も節目の全くない美しい神山杉。のどかな風景 を見ながら、学生はどんな暮らしをするのでしょう。

その時、ここは、ノイズが削ぎ落とされ、必要なもの、大事なものだけが残っていると感じたのを覚えています。私は、その頃、広告代理店で働いていて、たくさんの物が溢れているような状況でした。仕事柄、色々な情報収集が必要で、色々なところにアンテナをはって、時間を埋めるように生活しないといけなかった。今は、仕事と生活がうまくつながっている。今は、自分とじっくり向き合い、やりたい仕事や生活に集中できていますね。 

実は大学の時の専攻は、文化人類学。「ジブリの森美術館」を研究しました。この美術館は「触っちゃダメ」が一切なくて、子供の視点で興味のままに自由に動いて楽しめるんです。好奇心を刺激するような空間作りをしていて。この時、「空間」というメディアが持つ可能性というか、面白さを感じたんです。 

神山まるごと高専も、机上ではなくリアルな場「神山町」という空間で学ぶことに軸足を置いていることが面白いと思いました。そして、神山町そのものも、偶然の出会いや繋がりによって奇跡が次々と生まれてきた、そんなリアルな空間ならではの面白さが凝縮された町だったので、転職は即決でした。 



「100%、好きなことに取り組むって清々しい」と語る村山さん


——学び・好奇心の「空間」としての神山町。そうまちを捉えるとワクワクしますね。 

村山)はい。だから今、100%、本気で人生を賭けて、自分のやりたいことに取り組めているという感じがあります。自分に正直にであれるな、と思っています。 

——古屋さんは、まるごと高専で保健体育の授業を担うってどんなイメージでしょう。 

古屋)私は、起業家を育てたいわけじゃなくて、自分の体調も含めて「当事者意識を持つ」「自分で自分のことを決める・管理する」といった学生を育てたいと思っています。自分の体調管理 の仕方、そしてルールを作ることについても学んでほしい。 

体育の授業というと、「前にならえ」など教員が学生を管理するような形が固定化しがちですが、私は、学生が自分で自分を管理する方法を学ぶのが、体育の授業だと思っているんです。 


保健体育では、自己管理にスポーツづくりと、学生が自分の体を自分で守るこ とやルールは作れるものだということを学ぶ、ということを大事にして教壇に立つという古屋さん。北海道出身だそうです。

体育では先生の話の時、「整列」をさせることが多いです。教員の話に集中させる意図が大きいですね。ですが、私はあまり整列をビシッとさせることが大事なことだとは思っていません。「今から大事 な話をするからね、というと彼らは教員の話をちゃんと聞いてくれると思います。安全に話を聞く状 況を確保できているなら、整列という形にこだわらなくていい。体育の授業は、整列などのルールがあるのが一般的だけど、目的は、整列じゃなくて、「安全に授業を行うこと」、であれば、そこが叶っていればいいんです。 

整列を頑張って教えられたクラスと、整列にこだわらず「大事な話をします」と伝えた私のクラスでは、3年後の様子が違いました。隣のクラスは見事にビシッと整列できている。私の教えたクラスは見事に列がガタガタ。でも、きちんと並んでいないこちらのクラスの方が、壇上の人の話の内容がしっかり頭に入っていました。 

見えているものが結果なのではない。「話をしっかり聞く」という目的が達成されたのではあれば、いいと思うんです。当事者意識を持つ、自分で自分のことを決める、管理するといったことは、「起業家精神」と結びつくかもしれません。 

——全体をルールだけで統率してしまうと、統率された方には自ら思考する余地がなくなり、「形だけやっていればいい」「やらされた」という思いが伴ってしまう。ルールの中にいたとしても自らの起こした結果に対して無責任になりがちです。それよりも、学生一人一人が自分の言動について考え、しっかりと責任を持ち、目的に向かうというイメージですね。 

古屋)そうですね。「ルールで縛らない」「校則がない」というのは、自由すぎてどうしようもないということと同義ではないと思っています。まちのみなさんの思いも受け止めながら、学生には、自分で自分をしっかり管理できる人に育ってほしいと思っています。



吉良山(通称象山)が見える景色はそのまま。元「神中生」たちと同じ景色を見ながらの暮らしになりそう。

——お二人とも、神山での生活はいかがですか? 

古屋)このまちの人たちには、「損得勘定」の空気を感じません。何かこちらがしても、倍になって返ってきちゃう。野菜をご近所の方からいただいたので、地元に帰った際に、お菓子を持って返ってお渡ししたんです。そうしたら、その日の午後に、かぼちゃになってまた返ってきた (笑)。浄化槽の掃除も、私たちもして当然なのに「若い子達、来てくれてありがとう」と言われて。まるごと高専の学生には、無理にこういう文化に入り込めと押し付けるつもりはないけれど、ぜひ、地元の方達とはたくさん接してほしいなとは思いますね。 

村山)うん。神山には、無償の愛があるなぁと感じますね。テクノロジーの世界は時間軸がめちゃめちゃ短いんです。日々の会話が「効率、効率!」。速さや合理性を求めがち。早いコミュニケーションと、ゆっくりのコミュニケーション。そういう時間軸の差も、このまちで感じて、両方の良さを生かしてほしいな。 

古屋)まるごと高専の寮の食堂が土日は開きません。「高専が学生の土日の食事対応に困っている」と人づてに聞いた地元の方から「うちには、食べにきてくれるかなぁ」という声をいただき ました。「ご飯くらい作っちゃるわー」と言ってくださるご夫婦もいて。最初は「してもらうば かりで申し訳ないな」という気持ちが拭えないなと思っていたんですが、高専生との交流を楽しみにしてくれる人もいるということを知って、本当に嬉しいですね。 

他にも地域連携の中で、神山のおばあちゃんたちも楽しみにしてくれている案件が結構あるんです。お互いがお互いを必要とする関係が、育つといいなと思う。それが意図的に作らなくても出来上がっていくといいなぁ。 


旧神山中学校の廊下部分はそのまま。教室部分が居室になっています。白地に木目に生まれ変わったこの場所で、どんな青春が展開されるか楽しみですね。


飛び入り参加、鳥取から移住してこられた社会科教諭の大山さん。まるごと高専開校前に、学生のフィールド学習の準備として、神山町内はもとより、県内各地の商店街など様々な場所に繋がりを作っているとのこと。寄居の「ミー トショップたかはし」のお惣菜が好きだそう。

飛び入り参加の大山さんを含めて、3人のお話を伺えた取材でした。社会に対して愛に溢れ、客観性・行動力も併せ持つ教職員のみなさんと、学生たちが本格始動する4月が楽しみになりました。
教職員と学生の皆さんが、まちでの暮らしや学びをどう味わっていくのか。まちの人たちも、高専の存在をどう見守り、関わっていくのか。神山の新しい歴史のページがめくられる年度、変化を楽しみたいですね。 

そして、神山町民のみなさん向けに、新校舎と寮のお披露目が3月13日から始まるそうです!ぜひ。
詳細はこちらのリンクへ→https://www.in-kamiyama.jp/events/73933/