写真は映像「高齢者配食のいま」(2018)より。

厚労省による「地域包括ケアシステム」の流れの中で、行政・民間をこえて福祉関係者が集う協議体をつくり、「住み慣れた地域・自宅で、最後まで生き生きと暮らすことが出来るまちづくりを、住民が主体となって行う」ことを実現してゆく取り組みが、神山でも動き始めている。

この冬それが次段階に進み始めたので、福祉領域周辺のしごとづくりを担当する田中泰子(神山つなぐ公社)に訊いてみます。

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──そもそもの動きはいつ頃始まったんだろう?

田中 平成28年なので3年前くらい。包括支援センターが「生活支援コーディネーター」を募って、高齢者や福祉関係者の聞き取り調査をしながら、あらためて状況を把握する作業を始めた。コーディネーターは二人いて、私はここ(つなぐ公社)で働くようになる前、その一人としてまちをまわっていたんです。

──「困り事は?」と尋ねても、答えることに消極的な人もいるかも。

田中 そうなんです。地区ごとの違いもかなりあって。たとえば、上分(神山のもっとも上流域)の山の上で暮らしているお爺ちゃんやお婆ちゃんの中には、「自分は困ってない」「それより子どもらのことをしてあげて」とおっしゃる人もいたし。
あるいは「そんな言うても、なにも変わらへんで」とあきらめているような人もいたり。声を上げても状況は変わらない。そんな印象を持っている人もいるんだな、と感じていました。

──神山の協議体の構成は?

田中 包括支援センター、町役場の健康福祉課、社会福祉協議会、民生委員、老人クラブ、高齢者サロンの代表の方、配食サービスで各戸をまわっていた若手など。福祉関係者だけでなく、まちづくり領域の人も混ざった、十数名で構成されています。
今年からその協議体の企画・運用部分を、町から「神山つなぐ公社」が受託して、私が担当している。

──センターの仕事を、なぜ公社で引き受けることになったかというと。

田中 福祉関係者だけで話していて、課題はよく見えてくるけど、解決に向けて具体的に動き出すのが難しかったように思います。どの人もそれぞれの役割や現場の中で、個別に出来ることはすでに精一杯やっている。まとめ役の包括支援センターもそうで。
個々の役割や枠組みを越えて、横断的に扱わないと動かせないことや、なにか試してゆける場を動かすには、別の中間支援的な立場の人がいる方がいいんでしょうね。

あと厚労省が「地域包括ケアシステム」で「まちづくり」を重要視していることもあります。たとえば「農福連携」*とか。この〝連携〟を担える主体が誰だろう? というのが、やっぱり多くの地域で難しいところなんじゃないかな。

──「地域包括ケアシステム」の話は長くなるよね。

田中 なる。(笑)

──いま具体的になにが始まっているか、という話にしよう。

田中 昨年までは、困り事の把握や、地域の医療・福祉資源の「みえる化」をしたり、「見回りネットワーク」(郵便配達や商店の方々が下図のシールを貼りながら連携する取り組み)を組み立ててきました。

今年度は秋口から、具体化にむけた動きを大きく二つのテーマに絞り込んだ。
 ・移動支援
 ・配食、買物支援
いまこれらについて、継続性のある取り組みを始めるための、最初の試みの準備を進めています。向こう半年くらいの間に、具体的なアナウンスを始められると思う。

──福祉サービスを拡充する方向? それとも、住民参加の形を模索してゆく方向?

田中 後者です。地域の人たちが「自分たちでやれる」「楽しいんや」と思えるようなものを、一緒に試作してゆきたい。

──「やってはもらえんのやな」「結局こっちに回してくるんか」と思う人もいるかも。私の心が狭いんでしょうか。

田中 いえ、私もそう思ったところはあって。「地域包括ケアシステム」には「住民の自助・共助を育む」という基本的な方向性があります。


平成28年版厚生労働白書より

後期高齢者が社会全体で増えてゆく時代に、そのすべてを病院では支えきれない…のはそのとおりだけど、でも本人たちに担ってもらうというのは「無理がある」と感じていて。
生活支援コーディネーターのKさんと町内のある高齢者サロンに出向いて。集まっているお年寄りの女性たちに「自分たちでもこう出来るようになってください」とか、やっぱり言えない。「元気でいてくれるだけで十分です」と私たちは思ってしまって。さらにこうしてと言うのは…っていうジレンマがあった。

でも包括のまとめ役の人に打ち明けてみたら、「その人たちには〝ありがとうね〟と言ってくれれば十分」と。「サロンに来てくれる人の存在自体が〝まちづくり〟で、そういう社会をみんなでつくっているのだから、元気でいてくれれば十分だと思う」と言ってもらえて、ホッとした。

支援の対象はそれを要する高齢者の方々だけど、働きかけてゆきたいのは、その少し手前の年代の方々なんですよね。支え合える地域社会を、どんなふうにつくってゆけるか。

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それを標語づくりでなく、具体的な体験や場をつくりながら共有してゆけないかな。育て合ってゆけないかなという取り組みの準備が始まっている。半年以内に姿が現れてゆきます。


*映像:神山つなぷろ #17「高齢者配食のいま」(Youtube|23分)
*農福連携:障害者等が農業分野での活躍を通じ、社会参画を実現していく取り組み