12月号の「育てる、つくる、食べる」で、「神領小学校1年生の野菜でランチ@かま屋」の様子が報告されている。

こうした活動は、フードハブ・プロジェクト/農園長の白桃薫さんと、食育担当の樋口明日香さんが担っている。その樋口さんは最近、食育でなく「食農」という言葉を使うことが多い。どういうこと?

 

樋口 いわゆる食育教育は、「部屋の中でやっている」イメージがあって。

── 部屋の中?

樋口 教室で「食の大切さ」を学ぶ、というか。たとえば「早寝、早起き、朝ごはん」とか「栄養バランスを考えましょう」とか。生活習慣上の正しさを子どもたちにインプットする授業、のイメージがある。

でも私たちがしてきたことを振り返えると、教室より畑や田んぼの時間が多い。これは「食農」と言いたいなって。

── 食育基本法に反対、ということではないよね?

食育基本法
2005年に成立。食育を通じて国民が健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことが目的。総理大臣と12省庁の大臣及び国家公安委員長が参加した、国家レベルで「食事をどうにかしよう」としている世界的に例のない法律。(Wikipedia参照|図は政府広報より)

樋口 食べ物が近くでつくられて、それを食べていた時代から、コンビニ食のように、どこでつくられたのかわからない均質化した食べ物が増えてゆく中で、私たちの「食」を捉え直す大事なきっかけになっている。法律にもなっていてよかったなと思います。

──「食農」という言葉は、以前からあるの?

樋口 食農教育という言葉は存在していて、JAもよく使っています。農体験を大きく取り入れた食育。

子どもが全身で感じたことを、地域の共通体験として持っておくのはすごく強いと思う。太いというか、根っこになると思うんですね。食を通じて土地の豊かさに触れた経験がある方が、コンビニご飯しか知らないより楽しくなるんじゃないかな。

── コンビニ食は象徴的に語られやすいけど難しいよね。家庭の事情にはそれぞれ個別性があるので、一概には批判出来ない。

樋口 そうですよね…。でも、だからこそワークショップのようなイベントではない、みんなが通う学校で、すべての子どもに行き渡るであろう教育を通じた「食農」への取り組みは、私にとってもやりたいことです。(インタビュアー注:樋口さんは元小学校の先生)

── ここ数ヶ月は子どもたちとの時間と並行して、樋口さん自身が、畑や田んぼで汗をかく時間を多く持っている印象があります。

樋口 (笑)やってます。体験としてすごく大きい。最近気づいたことがあって。亡くなった私の祖父母は、つるぎ町(徳島県)で農的な暮らしをしてきたんですけど、先日その暮らしを引き継いでいる伯父・伯母に会いにいったら「すごく見えた」んです。

── なにが?

樋口 周りの田畑が(笑)。電柵をしっかり備えて、夏野菜をちゃんと育てていて、草もなく、道具もきれいに整頓されていて。

前は関心がなかったから、見ていたけど見えていなかった。私たちが訪れる時期に合わせて収穫する野菜も用意されていて。それを毎年どっさり渡してくれて。

そういうのを「豊かだな」と思うようになっているのに気づいた。自分もやっていて、意識が向くようになっている。

としたら、子どもたちも同じですよね。田畑で体験を重ねているうちに、風景の見え方が変わる。「いいな」と思う景色が変わってゆく。そして大人になったとき、その目を持って、自分が育ったまちのことを考えられるようになっているといいと思うんです。