ここ何ヶ月か、かまパンの雰囲気がいい。ターミネーターが見渡すと、パン工房は真っ赤かに映るんじゃないか(サーモグラフを想像してください)という気がして、製造長の笹川さんに様子を聞いてみました。

── こないだ前の畑を耕していましたよね?

笹川 いまパンを焼いている3人で、小麦を育てることになって。前からやってみたいと思っていたんです。コロナ禍で通販の注文が増えて、嬉しい反面なんか居心地が悪くて。材料の流通が止まる可能性もあるのに、注文はどんどん増えていって。

── かまパンは、白桃家の小麦を使っていなかったっけ?

笹川 農業チームの小麦は昨年不作で、ほぼ収量がなかったんです。もともと主に使っていたのは北海道産の小麦です。以前はなんの抵抗もなかったけど、「仕入れている」ことに違和感が出てきた。なんでこんなに小麦を仕入れているんだろうって。

── いや、パン屋だし。

笹川 そうなんですけど(笑)。「これからは自分たちで栽培しないと欲しい小麦が手に入らなくなってゆくんじゃないか」って、別の地域でパンを焼いている人たちと話す機会もあって。
「フードハブのような活動は増えてゆくと思います」と言う。で、「よかったら使ってください」って、四国の品種の種も手配してくれたんです。

かまパンの製造チームはいま3人で、自分と、ゴローちゃんとニオさん。話してみると、「ぜひやりましょう」「やるべきです!」という反応だった。でも上手くいくかわからないし、その分の人件費も出ないけどいいの?と訊くと、「ぜんぜんいいです」「大事なことです!」となっちゃって(笑)。それで今日、これから種を蒔くんです。

自分たちのパンづくりの、原点というか、いちばん最初の部分を知っておきたい。

── 年間だと、どれくらい小麦が要るんですか?

笹川 15トン。今年はトライアルでまず3アールの畑から小さく始めるけど、「手刈りで」とかそういう欲を整理すれば、すぐには無理でも、多分出来ます。

── 小麦の件はミーティングで伝えてみたんですか?

笹川 前は毎日焼き終えたあと14:30〜15:00頃にミーティングを持って、「なんでこんな膨らみ方なんだろう?」「明日はこうやってみようか」とか交わしていたけど、最近は「ミーティングする?」「今日はいいです」みたいな感じで、ここ2ヶ月ほど持っていない。作業しながら話せるようになって、小麦のことも立ち話です。

ミーティングとか会議とか、そもそも好きじゃないんですよ(笑)。

── もう少し聞かせていただけますか。

笹川 従来のあれって決め事が多いじゃないですか。売り上げこうだからこうしよう。誰が? いつまでに? みたいな。そのテンプレートでみんなが動いている感じがして、窮屈でしょうがない。

前の店で、パンを焼いたスタッフが「どうでしょう?」って聞いてきて、「気になるところがあるの?」と訊くと「ないです」と言う。不安だったんだろうけど、漠然と意見を求めていて。俺が「いい」って言ったらいいの? いつもと違ったらいけないの? 好きにしたらいいじゃんって思った。

自分は「それやりたくない」って言えるようになったんです。ミーティングや会議の方に自分を合わせずに居られるようになって。それはゴローの影響が大きい。

例えば仕事ができる人に「わからない」と言うと、「じゃあどうする?」と返ってきますよね。でもわからないって言ってるわけで、もっとわからなくなることが多かった。さらに「どうしたいの?」「お前が言ったんじゃん」と言われたりする。

けど、ゴローは「わからない」と言うと、一緒に考えてくれるんですよ。それで話し合うのが楽しくなってきた。

── 最近かまパンに行くとよく「なにか新しいパン」が並んでいる。商品性が高いと言うより「つくってみました」「どうでしょう?」というか、作物感の高いものが多くて、鮮度を含む美味しさがある。物事が生まれやすい職場になっているんだな、と思います。

笹川 ニオさんも、頼んでもいないのに、休み明けの日は必ずなにか試作品を持って来るんですよね(笑)。

── 始めたばかりの頃、東京の青山ブックセンターで「地元のパン」というトークイベントがありましたよね。あの頃は「地元のパン」ってなんだろう?って、言葉を探していた様子を憶えています。

笹川 いまも言葉としては出てこないけど、つづけることが「地元のパン」ってことなのかなと思います。毎日焼きつづける難しさはあって、でもその当たり前ではないことを当たり前のようにつづける。「あそこにあのパンが並んでいる」ということが、地元のパンなんじゃないかな。

つづけることの意味を、常に考えながらやっていきたい。3〜4年やってきて最近考えているのは、「とりあえず神山の全員に食べて欲しいな」って。「全戸に配るにはどうしたらいい?」と考えている。

── 配る!?

笹川 トモス(高齢者にお弁当を届ける仕事。現在は「マコス」に改称)の配達に同行させてもらったことがあるんです。行ってみたら、想像以上にリアルで、重さのある体験で。

先日かまパンに取材に来た人から「みなさんにお店に来てもらえるように」と言ってもらったとき、思わず「僕が行きます」と言ってしまった。「これ。買いに来てもらうとかじゃなくて、こっちから行かなきゃだめなんじゃないかな」って。

全戸配るのに何年かかるかわからないけど「こうなったらいいな」という絵は浮かんでいます。けどそのままやってしまうと、「なぜやってるんだっけ?」となると思うので、頭を動かしている。店まで来れない人もいるし、好きでない人もいると思うけど、食べてもらいたいんですよね。

 

笹川大輔(ささがわ だいすけ)
東京生まれ。「かまパン&ストア」パン製造責任者。18歳から修行。父親もパン職人。八王子のブールブールブランジェリーで製造責任者として働きつつ独立を考えてる頃、フードハブ・プロジェクトを知り、2017年に妻子と神山に移住。食生活とトレーニング、休養が生活の基本。自由にパンを焼き、自由に生きてゆきたい人。

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