「寄井座のアート、もう見に行った?」
「まだよ、なんかすごいらしいなぁ」
「アーティスト来るん、久しぶりやなぁ」

こんなやりとりを、まちのお店で見聞きすることが多かった11月。颯爽と軽トラに乗って町内を走るアーティストを見かけられた方も多いでしょう。寄井座や神山校、大粟山のアートなど、どれか1作品でもご覧になれたでしょうか。

そうです。3年ぶりにアートにそっとまちが包み込まれた約3ヶ月が終わりました。神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)の展示期間中は、まちも少しだけ、普段よりもウキウキしていたような気がします。

 

この3年間、どうだった?そもそも、KAIRの招聘アーティストってどんなふうに選んでいるの?といった話まで。実行委員や参加アーティストに伺ってみました。KAIR2022の余韻に浸りつつ、来年も楽しみにしながら、お読みください。

            

           
<左からEwa Wesołowskaさん、Luz Peuscovichさん 、Jaime Humphreysさん>

今回、神山を訪れたのは、Luz Peuscovichさん  (アルゼンチン/スペイン)、Ewa Wesołowskaさん(ポーランド)、Jaime Humphreysさん(英国)の3人。2020年に神山で作品作りをする予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で開催休止となり、3年間、待ち続けてくれました。

Luz Peuscovichさんは当初、「空間を体で感じてもらう作品を作っています。作品作りは、色々なオブジェクトの収集から始めます。そこから生命の多様性、自然と命との繋がりなどを感じていきます。集めたオブジェクトを吊るすなどしてシンボルにしていきます。見に来て貰えば、魔法のドアみたいなものでしょうか」と話していましたが…できた作品はご覧の通り、寄井座に展示された作品は息を呑むようなものでした。

その後、オブジェは、子どもたちや町の人たちに一つ一つ、お裾分けされて、各自のおうちへ旅立って行きました。持ち帰ったあなたは、どんな飾り方をしたでしょうか?

Jaime Humphreysさんは20年間、日本在住で、現在は神奈川県藤野市に住んでいます。延期期間中にまちきれず、「ずっと神山に来たくて来たくてたまらなかった」と言うJaimeさん。コロナでほとんどのイベントが休止・延期になる中、できる範囲でまちの文化的事業を続けたいというKAIR事務局の思いもあって、KAIR収蔵作品展やリターン・アーティスト・プログラム、Jaimeさんの神山訪問が実現しました。コロナが落ち着いていた昨年11月から数週間、リサーチ目的で神山に滞在できることに。リサーチ結果は、他の2人もオンラインで共有し、延期のもどかしさをなんとか乗り切った3人でした。Jaimeさんはこの時に、神山町で産出される「阿波青石」とイサム・ノグチの関係などを知ったこともあって、今回も青石にテーマを絞ったとのことです。

本懐を遂げた今回の訪問でも、神山町の石にまつわるストーリーをまちのお年寄りたちから聞き取ってリサーチ。そして作品作りはひたすら、青石を砕き続けて、パウダー状にする過程が大変だったそう。下の白い四角は、そのパウダーになった青石を敷き詰めています。普段見かける青石が、こんな風に形を変えるとは、見た人たちから驚きの言葉が絶えませんでした。

 

ポーランド・クラコフから来たEwa Wesołowskaさんは、時間空間をテーマにするアーティスト。「時間というものが、どういうふうに空間に影響しているのか?」作品に落とし込んでいるのだそうです。滞在先の宿舎から見える毎日の風景を記録し、同じ景色が少しずつ変化する様に、見つめる側の時間と心の変化も写した作品となりました。神山中学の生徒と、美術室で紙漉きをして、好きなものを自由に漉き込むワークショップも企画。展示でも、生徒の作品を並べてくれました。


作品制作が終わり、展示が始まった頃、3人のアーティストはすっかりまちに馴染んだようでした。あゆハウスの寮生が開いた、えんがわオフィスでの「秋祭り」に参加。桜花連のお囃子でみんなと一緒に阿波踊りを楽しむ一場面もありました。

さて、こんなアーティストのみなさんを、KAIRはどんな基準で選んでいるのでしょう?初期からずっとKAIRに関わってきたKAIR実行委員会会長、杉本哲男さんや、プロジェクト・マネージャーの工藤桂子さんたちにこっそり(?)聞ける範囲で聞いてみました!


<アーティストと、KAIR実行委員会の皆さんを中心に記念撮影。杉本さんは、後列左から5人目、森さんは前列左から3人目。工藤さんは前列右から3人目(ニコライさん提供)>


今回の3人は、実は100人近く応募があった中から選ばれたとのこと。選考委員は、町内のみなさん。グリーンバレー理事の杉本哲男さん、佐藤英雄さん、岩丸潔さん、森昌槻さんなど、神山町の人ならきっとみんな知っているまちの人ばかりです。

え。
アートの専門家がいない?

いえいえ、2019年度までは、ずっと外部のアートディレクター、キュレーターなど専門家も入っていました。
2020年度は新しい試みとして「今回の選考は、専門家なし!」でやってみようかという年になったんだそうです。

 

そもそも、専門家ばかりでの選考ではないことが、KAIRは、神山の人が神山の人のために作る、という肩から力の抜けた空気感だったり、高尚なものではなくて、神山という土地や人が楽しいもの、という気持ちよさが伝わってきます。

杉本さんや工藤さんに「招聘のアーティストってどういう基準で判断するんですか?」と恐る恐る聞いてみると…

近年は100組以上から応募が来るとのこと。
それを工藤さんたちは、丁寧に読み込んで、80作品ぐらいが、一次選考になるそうです。


しかし、この一次選考でも、まる2日!

最終選考で残っているのは、50組!

ともかく、丁寧に選考しているんだなということが伝わってきます。

 

杉本さん自身は審査員として、個人的にどんな選び方をしているんでしょうか?
「受賞歴や経歴だけで判断するわけじゃないよ」と杉本さん、即答!

「過去の作品や神山での作品提案しか見ない」とのこと。
 

「でもね」と、ここで工藤さんからすかさず訂正が入ります。

「これは、あくまで杉本さんのご意見。事務局は、ぜーんぶ情報として審査員に出しているんですよ〜!(笑)」

 

とにかく、神山の土地と人と、質の高いアートの出会いを大事にしていると言う哲学があるんですね!

 


<リターンアーティストプログラムで参加のKarin van der Molen(KAIR2008&2018)、ポーワング(KAIR2010&2021)の大粟山での作品作りを手伝う、KAIR実行委員会やサポーターのまちのみなさん。下の写真、左端が森さん 画像提供:KAIR実行委員会>

森さんは、「最初の頃は、作品作りが半分、地域の人との交流が半分というレベルで、交流を大事にしていたね。町民がアーティストってどんな人たちかなっていう興味半分で楽しんでいた。町民が20−30人、作品作りの手伝いをしたりして、おもっしょかったよ」と教えてくださいました。

ただ、2020年、2021年度は、例年と異なり、アーティストの招聘はリターン・アーティスト・プログラムの1組のみで出番が少なかった様子。「交流が少ないと寂しいなぁ」と繰り返しておられました。森さんが、どれほどアーティストと地元の人がつながりあうことを大事にしてこられたかが伝わってきました。

森さんの話を聞いても、「まちの人が、アーティストの目を通じて神山の魅力を再発見したり、まちの人が、アート、アーティストと出会うこと」を大事にしたレジデンスなんだなということがわかって来ます。コロナでちょっと形は変わったかもしれませんが、コロナ後のKAIRがさらに楽しみになりますね。


さて、来年度のKAIRはどんなアーティストが来るんでしょう?2022年度のKAIRの余韻が冷めやらぬうちですが、今から次回が楽しみになって来ますね。