草刈り

神山町に引っ越して、そろそろ一年。

このまちでは 一に草刈り、 二にも草刈りと。
草刈りが生活の基盤を作ると言っても過言ではない。そんなことを、感じ始めています…。

私の家のご近所さんは、ご高齢のお母さんがお一人で住まわれています。夏には、徳島市内に住んでいる息子さんが、毎週のように通って、畑や庭の草を刈っておられました。

ある集落では、遠方に住んでいる子ども世代が、集落の草刈りのために帰省するという話もあるそうです。

町の外に出てからも、草刈りのために町内に帰ってくる人たち。
私には想像もできなくて。
なぜ、神山の人はこんなにマメに草刈りができるのでしょうか?

そういった事例がある中で、「家族が町を離れてしまってから自分で草の手入れをしてきたが、高齢になって自分ではできなくなった」というお家も増えているそう。今、草刈りの担い手が減っているようです。

そして、この草刈りの担い手減少の影響を大きく受けているのが、シルバー人材センターだということで
センターの水上さん、多田さん、会員の河野さんに「まちの草刈りの今」についてお話を聞いてきました。

神山町社会福祉協議会シルバー人材センター」は平成17年に開所されました。

開所以来、仕事の依頼件数は年々増加し、初年度の193件から令和3年には461件と約2倍に。依頼の内訳は、農作業、庭木の剪定、掃除などですが、中でも草刈りの依頼割合は高くなっているそうです。

「今、一番心配なのは、草刈りの担い手となる会員さんがこれから減ること。希望としては、現状維持ができればいいと思っています」と話すのはセンターの多田さん。

心配事の原因は、以下の4点だそうです。

①各世帯の若い世代が町外へ出ていってしまう。草刈りの仕方を知らない世代が増えている。
②今まで元気に自分で草刈りができていた世代の方達が、高齢化してできなくなった。
③草刈りだけでは賃金が低く、また限られた時期にしか仕事がないので若者の参入が難しい。
④再雇用の制度ができてそちらを利用する人が増えセンターへの入会が減っている。

結果、センターへの草刈り受注数は増えている。しかし、会員数が増える見通しはない。

個人の仕事以外にも依頼が増えています。
県道・国道沿いなどで会員の方達が草刈りをしている姿を見かけたことのある人も多いのではないでしょうか?

これまで道路沿いや河川の草刈りは、町の土建屋さんが国や町から委託を受け、区間ごとに〇〇建設、 △△建設など道路の担当を分け草刈りを仕事として請負っていたそう。しかし、今では町の土建屋さんの数が減り、平成21年くらいからセンターにも委託されるようになりました。センターが受ける範囲は、年々広がっています。

町から若い世代が減っているうえ、町に残っているその世代の人たちも参入しにくい環境。このため、センター以外の発注先が少なく、依頼がセンターに集中しています。

依頼された仕事が会員の皆さんの生きがいになっている一方で、センターだけでは手に負えないくらいの仕事量になってきているのが現状だそうです。

「わしらの(センターの)後継者は望めないから、町の若い人たち人が組合のようなものを作って、生業の傍らで手間がえをできる仕組みができたらええんちゃうかと思っとる」と河野さんは言います。

今回伺ったのはセンターの話でしたが、担い手の減少は神山全体で起きていることです。

私たちが草刈りをする理由

ここまでは草刈りの担い手不足について聞き取りをしてきました。

ここからは個人的に気になって仕方がない、なぜ神山の人は豆に草刈りができるのか?について、草刈りに対する考えが神山の人と移り住んできた人とで結構違うのでは?という仮説のもと、なんともざっくりとした質問ですが、「Q 草刈りってどういう存在ですか?草刈りについて思うことはありますか?」
を投げかけて、帰ってくる答えから考えてみました。

●神山町生まれ、神山町育ち、50代の方の回答
「草の手入れは、日常の風景の一部。 草刈り機が入る時点で大事。コーヒー飲みながら草取りをするぐらいの気持ちでやらんと。 ご飯作ったり、掃除したり、洗濯干したりするのとおんなし。 今は日常が忙しくなってしまったから、みんな草刈りができてないんよ」

●神山町生まれ、神山町育ち
「確かに面倒臭いと思うけど、でも当たり前にすること。普通の、日常のこと。綺麗になったら嬉し いし、スッキリする」

●徳島県生まれ、神山歴7年の方の回答
(草刈りに使う道具:刈払機、草刈鎌、ハンマーナイフモア)
「綺麗にしたい。資材として、この長さじゃないとっていうこだわりもある。 部活的なものでもあるなあ。夏の暑い時の休憩時間がいい。 草刈り作業をしているときは上下関係がないし。 祖母の家では、縁側で話をしながらも祖母の手は止まることなく、ずっと草を抜いていたのが今も 記憶に残っている。私の草刈りの原風景はそれかも」

●神奈川生まれ、神山歴約10年の方の回答
(草刈りに使う道具:草刈機七つ道具(草刈機、かま、スコップ、チェーンソー:枝はらい)
「草刈りの時間は遊びだから楽しい。休憩の時間が楽しい、青春みたいなものかな」

●山梨県生まれ、神山歴約2年
「機能性のため、景観のためにやること」

●大阪生まれ、神山歴約2年の方の回答
「義務」

●兵庫生まれ、神山歴9ヶ月の方の回答
「できるだけやりたくない事」

「草刈りが部活だ」という言葉が出るとは・・・さすが神山!

今回の記事作成を通して、草刈りが好きか嫌いか、マメかマメでないかは個人の性格によるもので、 草刈りに対する感覚の違いは、どれだけ慣れ親しんでいるかどうか、習慣になっているかどうか の違いなのかなと思いました。

今は、暮らすことと草刈りの距離が段々と広がっていて、それは生活スタイルの変化や人口の 流出など色々な影響が有り得ます。その距離が、担い手不足として目に見えている。 でも、これは草刈りに対してだけ言えることではなくて、人形浄瑠璃も、地域の祭りも、神山の暮 らしごと・文化のこと全部に対して言えることだと思いました。

とはいえ、一人当たりの草刈り負担面積が大きくなっていることはやはり問題で。より良い付き合い方を見つけようと動いている人たちの存在があります。一つは、神山つなぐ公社で検 討されている「未来の草刈り」。そのほかにも、町の風景の手入れを生業にする個人の方々がいます。

記事を書きながら「町の風景づくり一緒に考えませんか?」の勉強会を思い出しました。草刈りをしている人そのものが、神山の風景を作っているのかも。