ポーワング

2010年度 神山アーティスト・イン・レジデンス招聘作家
2010/8/19 - 2010/11/7 神山町滞在

社会に潜む「あたり前」に疑問を投げかけることをテーマにおかしみや悲哀に満ちたインスタレーションやビデオ作品を制作。2000年より、東京をはじめ、オランダ、スコットランドなど世界各地で作品を製作、発表している。
→ Poh Wang )

劇場「寄井座」にて。作品制作中。   撮影:小西啓三 ⒸKAIR

■KAIR2010 作品
Time & Rip (インスタレーション / 劇場 寄井座)
神山ピアノソナタ第12番 (ビデオインスタレーション / 仁木島邸)

“Time & Rip” ポーワング 2010   撮影:小西啓三 ⒸKAIR

ほほぉ
圧倒的な天井の看板から目を離せずに、奥に進むと、一段高くなった床が丸く切ってある。
「まわり舞台です。今でも回るかもしれませんよ。」
そう言われて、その中央に立ち、かつてこの上で華やかに演じていた人々の目線で劇場内を見回してみる。ものすごい数の笑顔と怒声、驚喜の喧騒を想像して首筋がぞわっとなった。寄井座は神山の、いや、山々を含めたこの地域のハレの中心地であったことは、きっと間違いない。私達も演じなければならない。この瞬間、滞在中に何をすべきか決定した。私達の頭の中で音程の狂ったメリーゴーランドの音楽が鳴り響き、チカチカと光る電飾がくるくると廻り始めた。

自分達にとっていい作品が作れる時は、決まってコンセプトと実際に何をするかが同時に空から降ってくる。文字通り頭上からバラバラと落ちてきたものが、パズルのピースのように、ぴったりと頭の中で組み上がるのだ。あとは、それを信じて手と体を動かせばいい。寄井座のハレと(公演が終わり引き揚げる)せつなさを再現し、この地の過去の記憶とつながる装置を作ろうと思い計画した移動式遊園地のメリーゴーランド。だが少し過剰な気もする。やりすぎは基を歪めてしまう。私達は一度整理するためのルールを作った。
-この地でありふれた物を素材として使う
-実物よりも少しだけ小さいサイズで作る
-装飾をギリギリまで削る
-見るものではなく、乗るものでもなく、感覚で体験できるようにする

制作のため寄井座に通うようになって、しだいに近所の方々と親しくなっていった。最初はおもてなしを受けるばかりだったが、そのうち修理を頼まれたり、道で会うと「さぼるなよ!」などと冗談を言われるようになった。ようやく寄井座のポーワングとして受け入れられたと感じる。とても嬉しい。普段ならなるべく早く作品を完成させようとするのだが、できれば少しでも長い間ここで作業をしていたいと願う。でもカレンダーは待ってくれない。

メリーゴーランドの心臓部は扇風機のモーターである。地元の方々から使わなくなったものをいただいた。「初代のシャープでとっといてんけどぉ」「息子がスイッチ壊してなぁ」と言いながらスイッチにサインペンのキャップがはめ込んであったりする扇風機を持ってきてくれた。ただの家電ではあるが、人々の一部になっているものばかりである。心してばらす。古いタイプの扇風機は、中を見てもチンプンカンプンに複雑な最新の家電とは違って、作り手の工夫とシステムが目に見てわかる。これならば私達でもなんとか扱えるかもしれない。しかし数十年前の扇風機はすぐに疲れてしまう。だましだまし機嫌を見ながらセッティングする。
がんばれ、モーター1号!

記録的な猛暑にも慣れメリーゴーランドが山場を越えた頃、私達は1つの選択を迫られた。滞在前に提案していたプランであるピアノとタイプライターを使った作品も作るか、はたまた、ひと休みとばかりに神山周辺を探索するかだ。そのプランというのは、神山の方言で物語を作り、タイプライターで打ち出すと文字に合わせてピアノが鳴り、曲となって流れるというものだ。また文章はカタカナで打ち出されるため、標準語として読むと全く別の物語になってしまう。1つの文が神山語と標準語のダブルストーリ-になっているのだ。
作りたいという気持ちはあるものの、神山に来てから制作に没頭するあまり、国道沿い以外は何も知らない。時間はギリギリだ。私達は多くのアーティストが選ぶように、少しの口論の末、制作する方を選んだ。結果的にロケハンと称して山々をめぐることになるのだが。

小さなミラクルが重なり、寄井座にTime&Rip一座のメリーゴーランドが出現した。テープが伸びたような音楽に包まれ、巨大な躯体がギシギシと軋みながら動きだし、光の列が目の前を流れてゆく。初めて寄井座に足を踏み入れた時に脳裏に浮かんだものと若干の変更はあるが、まさしくイメージ通りだ。しかし、これで終わりではない。展示期間が終了するとともに風のように消えて無くならなければいけない。無くなることでより鮮明にあったことを残さなくては。そう。まさしく寄井座の記憶のように。

あっという間に熱くて濃密な夏が終わり、東京に戻った私達は、今だに熱病におかされている。今日もスーパーですだちの値段をチェックし、これはいいすだちだとか勝手に批評し、神山産のしいたけを見つけて喜ぶ。そして共に踊ったアーティスト達と、お世話になった方々の顔を思い出す。

(ポーワング / 2010)

トップ画像 : 撮影/小西啓三 ⒸKAIR

→ アーティスト インタビュー 「ポーワング」