神山農響楽団
Kamiyama PhilFARMony

神山農響楽団 -KAMIYAMA  phil FARM ony-

身体や身近な道具で魅せるパフォーマンス集団STOMP出身のリック・ウィレットがイン神山。神山に暮らしながら、神山の音とリズムの協創曲を作りました。特産品すだちの収穫に使うコンテナをはじめ、神山にある日用品を使い、その美しい日常の風景を背景に、神山の人々が神山の音色を奏でる、住民参加型エンターテイメント作品です。「阿波踊り」のリズムを基調に、ハレとケを表現しました。

脚本・監督:田中雄太
振付・指揮:リック=ウィレット
撮影:布施拓哉
制作:工藤桂子・神山アーティスト・イン・レジデンス
企画:栗栖良依
 

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神山農響楽団は、栗栖良枝が、神山を訪れた2009年に持ち上がったプロジェクトだったが、栗栖の病気で延期されることになり、彼女の復帰を待ってようやく再開されたのだった。正式に振付師としてリック・ウィレットをアメリカから2011年5月に招聘して活動は実質的に始まった。日本からは、脚本・監督を田中雄太、撮影を布施拓哉が担当して実施された。神山からは、約100人の住民がダンサーとして参加した。

田中、布施、ウィレットが制作のために神山に滞在したのは、通常8月末~11月初めに行われるKAIRの滞在期間より早い時期だったが、そのスケジュールのずれは、むしろダンスという新たなジャンルに住民たちが挑戦するには都合がよかったのではないだろうか。身体表現であるダンスは、何より体を使うこと。その原点を知るためにも集中できる環境は必要だったと思われるからである。

さて、本企画は、神山の住民を巻き込んでいくコミュニティ・アートであり、地域のなかで経過を重視するプロセス・ワークだったわけだ。日本各地のなかで広がりを見せる地域プロジェクトでは、美術家、音楽家、パフォーマーなど多ジャンルのアーティストが参加している。神山でも美術に限ったものではない。2009年には、山中カメラによる神山のオリジナル盆踊りが制作されている。

横道にそれるが、海外で始まった「コミュニティ・アート」とは、演劇やダンスといったパフォーミング・アーツが、教育プログラムの一環でコミュニティのなかで創作活動をしたのが始まりである。その場合は、たいがい国や自治体が選出した演出家や振付師が、彼らの公演のために一般オーディションから参加を選出して、素人を舞台に立たせるために基礎トレーニングを行い、公演プログラムを実践するというものだった。そして、劇場や舞台は既成のものを使い、それをまとめあげていくのはプロ集団だ。つまりは、コミュニティのなかに既成の芸術集団が住民を巻き込んで、実演プログラムを創り上げるものだ。

日本のアートプロジェクトは、地域の祭礼のあり方に近い。住民が地元の祭りを盛り上げているように、住民が一体になってアート事業を一から作り上げていくというものだ。神山に阿波人形浄瑠璃の上村都太夫座(通称:寄井座)があるように、伝統芸能や地域祭礼では、モチベーションの発露は住民側にある。そこには、住民の地域文化を継承していくのは自分たちだという自負がある。

KAIRは、伝統に限らず現代アートという未来形が含まれる事業であることが画期的であり、将来性が感じられる点である。つまり、神山では、地域文化のために先駆者となって意識開拓していくエネルギーが充満しているのだ。そこが、KAIRが文化事業でありながら草の根運動と言われる所以である。KAIRは、地域住民が中心になって誕生し、いまでもその方法を住民が受け継いでいる文化事業である。

だからこそKAIRのなかで実施されたダンス公演は、地元住民が主役になってつくり上げたのは自然な流れだった。神山農響楽団は、いかがだったであろうか。ダンサーに変貌した住民たちは、立派にパフォーマーとなっていた。学芸会のような甘っちょろいものではないのだ。ただ、こうした試みは他の地域でも行うことができる。そうやって地域のなかで浸透するダンサーを作り出すことが、コミュニティ・アートの神髄であり、達成すべき事柄であるからである。

 

文章:嘉藤笑子
Art Aunotomy Network [AAN]ディレクター
跡見学園女子大学/武蔵野美術大学兼任講師