1月末、神山の宿・WEEKで「石積み学校」が開催された。いつも通りNPOグリーンバレーの伊藤さんもかかわっているが(伊藤友宏:インタビュー「石を積める人が増えると」2020年2月29日参照)、起点になったのは開催場所でもあるWEEKの神先さんだという。


── 今回は神先さんの企画?

神先 そうですね。「WEEK」を引き継いでいまちょうど4年で。「引き継いだからにはいい場所にしてゆきたい」という想いは沢山あって。建築は雑誌等で紹介されてきたけど、ここはまわりの環境やロケーションがすごく魅力的だなと、僕は思っているんです。

自分はまず、初めての宿業に慣れるところからのスタートで、2年目くらいまではプレッシャーもあったけど、コロナ禍でいろいろリセットされた。ようやくやりたいことが始められる状況だなって。あまり人の来ない時期だからこそ集中出来る(笑)。それで「石積みをやろう」と。

── 前から考えていた?

神先 ずっと。

── より魅力的に、ということも。

神先 僕が思う魅力は「根を張っていること」で、手を入れていく中から、自然に生まれてくる良さだなあと感じているんです。

── 新たにつくるというより。

神先 はい。あるものに手を入れて、時間が価値を生んでゆく。そんな〝魅力〟のあり方は、神山に来てすごく考えさせられたことで。

たとえば建物は箱であり、その中で人間が微生物のように新陳代謝を繰り返しながら動いて、それで元気になってゆく。いい環境になってゆくイメージがある。

実際に石積みをやってみると、たとえば大きな石があれば、「これはどこから持ってきたんだろう?」と考える。「昔ここはどんな場所だったんだろう?」とか。金子くん(石積み学校・代表)が作業がてら教えてくれるんですけど、昔の人の判断の合理性がすごくわかるし、積んでいたときの状況も想像出来る。

いま自宅裏の石積みも直そうとしているんですけど、そこはもっと小さな石が多くて。同じ神山でも違う。ちょっと石積みの知識が入るだけで、見える世界が変わるなあって。町内のいろんな石積みを見ているだけで満たされてくる部分もあって(笑)。

大量生産でつくられるものにはないものが宿っている。お金がかかっている/いないではなくて、時間と、みんなの手作業、気みたいなもの? 想いは残ってゆくと思うんですよね。

── やって、良かったんですね。

神先 「〝石積み学校〟をひらくと石積みが直る」ことは知っていたけど、「こんなにも変わるのか!」という気づきがすごくあって。

たとえば石が崩れていた場所は、それまで大変だった草刈りがまず楽になる。空間が出来るので、そこで畑が出来るねとか、なにを植えようとか、「どう使おう?」という話が交わされる。




そこを見にゆく機会も増えるので、途中で他の景色も見るようになり、「ここがこうなったらもっといいよね」という話も生まれたり。やらないとわからない部分は大きかったな。

作業にかかわった人たちとの関係も。宿に泊まって一緒に作業した人もいて、いいコミュニケーションがとれたなあと感じている。とくに金子くんとは一週間くらいずっと一緒で、三食をともにしていたから(笑)。自分にはそれもよかった。

ただ石を積むだけでない、いろんな要素が石積み学校にはあるなあって。仕組み自体がすごくいい。「草刈りの出役のグレードアップ版」くらいに思っていたけどかなり違った。それこそ金子くんは人生を費やしているわけで、その理由というか、石積みの力を少し知れてよかったなと。

来年の1月末くらいに、また開きたいと思っています。

「積み直していたら水が浸み出てくる部分があって、水路もつくってみた」と神先さん。

 

神先岳史(かんざき たけし)
京都生まれ。2012年に神山塾を経て、徳島・神山で暮らし始める。出張カフェや週3回の「カフェイレブン」営業(梅星茶屋)の後、宿「WEEK」を引き継ぐ形で、株式会社神山神領の代表取締役に(2018〜)。3人のお子さんがいる5人家族。「ハバナクラブ」というユニットの活動もあり、音声配信アプリ・stand.fmで「ハローカミヤマ」の公開など重ねている。https://stand.fm

石積み学校
東京工業大学准教授の真田純子さんが、徳島大学に着任していた時期に始めた活動。追って加わった金子玲大さんが、社団法人となった現・石積み学校の代表を務めている。
https://ishizumischool.localinfo.jp
図解誰でもできる石積み入門』(2018・農山漁村文化協会)