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渡辺望

2017年 神山アーティスト・イン・レジデンス 招聘アーティスト

神奈川県出身。女子美術大学にて学士号、多摩美術大学、University for the Creative Arts(UK)にて修士号を取得。路上に点在するチューインガムを主な被写体とする都市の天体写真シリーズや、床の傷跡から図形楽譜を作成、それをもとにした音の作品など、日常の微かな痕跡に注目しそれを巧妙に引き出すことで繊細で詩的な作品へと変容させる。近年はパララックス(視差)やテレスコーピング(伸縮)といった天文学的視点に沿った人間の知覚機能とその拡張の歴史、可能性に関心を持ち、インスタレーション、映像、写真、書籍から大規模なプロジェクト作品までメディアを横断しながら作品を展開している。作品の多くは周囲の環境から壮大な宇宙空間を連想するようデザインされており、 鑑賞者は自らの視点の変化や行動を介して自分の置かれた場所について考えを巡らすことになる。現在は国内外の展覧会、レジデンスプログラムを行き来しながら、都市と自然、個との関係性の中から独自の表現を探求している。(テキスト:2017年)

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KAIR2017  作品

神山の宙
 

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数年前にインターネットで知人作家が何やら古い劇場と思しき建物の中で制作する様子や、完成した彼の作品がその床上に展示されている光景を目にしました。それらの写真から、場に薄く張り巡らされた心地よい緊張感と、作品から浮かびあがるものなのか、風が皮膚の表面を撫でるような細やかな気配を感じました。漠然と「いつかこの場所で展示をしてみたい」そんな子どもが抱く憧れにも似た感情を持ったことを覚えています。それが私と神山アーティスト・イン・レジデンスの最初の出会いでした。

神山町全域を舞台に展開した「Nomadic Stars Project(※)」は、2017年にチェコ共和国で開催された「Nomads」展の参加をきっかけに、星を頼りに移動する遊牧民から着想を得て生まれたプロジェクト作品です。このプロジェクトを通して、人々は<自分の星>を所有し、それらが保管される場所を地図上に印し、地上に星空を描いていきます。母国での最初の実施となった神山町では、地元の大工さんに神山産の杉材から<自分の星>を保管するための箱の各パーツを切り出していただき、組み立て、ヤスリがけといった作業を行いました。仕上げに星に見立てたLEDチップを箱の内部に取り付けて完成となります。続いて、その箱を持って町の人々を訪ねてまわり、プロジェクトに賛同くださった方々に持ち帰っていただきました。そうして展覧会までに117個もの<星>が神山町に住む人々の手に渡りました。

成果発表に際して制作した「神山の宙(そら)」は、前述のプロジェクトを通して神山町に点在した<星>の場所をもとにしたインスタレーション作品です。発表の舞台となったのは昭和初期に建てられた町を代表する歴史的建造物の一つ「劇場 寄井座」。そう、そこは数年前にインターネットを通して目にした正にその場所でした。天井に設置した巨大な神山町の形をしたパネルから吊るされた117個のLEDライトは、実際に人々が所有する星の数と位置を示しています。また会場周辺地域の呼び名である「寄井(よりい)」は、かつて井戸に人々が寄り集まり移り住むようになったことがその名の由来とされていることから、今も残る井戸の一つから劇場内約90㎡のスペースに水を張り、水面に映る光の反射を作品に取り込みました。人々の営みを支えた神山の水と、水面に輝く星々が地上と宙をつないでいく。そんなイメージを持って制作にあたりました。

最後に、プロジェクトの実施と作品の実現にあたってご尽力いただきました神山アーティスト・イン・レジデンス実行委員会をはじめとした神山町のみなさまに心より感謝申し上げます。神山で過ごした日々は、作家として、また個人の人生において、今も色濃く心に刻まれ、何ものにも代えがたい特別な経験となりました。

展覧会場:劇場寄井座
※Nomadic Stars Project公式ホームページ http://nomadicstars.watanabenozomi.com

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(渡辺望 / 2017)

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制作過程の様子

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