写真は神山中学校での一コマ。「まちを将来世代につなぐプロジェクト」(神山の地方創生プロ、略称つなプロ)の第2期に向けた施策検討過程で面白いことがあった!と秋山さん(〝ひとづくり/教育や学び〟担当)が言っているのを小耳に挟み、すこし聞いてみました。
 

秋山 このまちの教育環境の現状と課題を確認してゆく中で、その一つに「食農教育」が浮上していて。

── どんな課題?

秋山 ここ4〜5年、フードハブ・プロジェクト(FHP)の樋口さんを軸に取り組みが進んで、とてもいい状況が生まれている。けどかなり属人性が高い。個人の頑張りだけに頼らない〝町〟の取り組みとして位置付けて、大切に継続してゆくための整理が要るんじゃないかと。

── 学校で起きていることって、外からは見えにくい部分があるよね。

秋山 「食農教育」は先生や子ども自身にとって、実際のところどうだったのか? 小学校で体験した子がいま中学生になっていて、当時をどう振り返るかな?って。

── そもそも憶えているか。

秋山 それが鮮明に憶えていて。当時の写真を一緒に見ながら、「これも食農教育だったんだー!」って。ハイテンションでいろんな話を聞かせてくれたんです。その日に集まってもらったのは3人の女の子。印象的だったのは3人とも、「農作業をしている人たちの見え方が変わった!」と話していて。

小学校の授業ではまず稲苗を手で植えて。つづけて機械の田植えも体験して。「早い!」「手で植えなくてもよかったじゃーん!」と思ったけど、それも「手植えをやってみたからわかる、とすぐ思った」とか、一つひとつの記憶が鮮やかなんです。

── 3年前のことが鮮明なのは、感覚を伴っているからだろうな。

秋山 実際に手を動かしてみるって、そういうことですよね。これまでは神山の風景の中で、田んぼや畑にいる人の姿を見ても「やってるなー」という感じだったけど、それが「あー大変そうだなー」になったって。どの子も共通していて。

3人ともすごく楽しそうだった。昔の写真を見ながら、というのもあったかもしれないけど、「そうそうそう!」「わかる!」とか言い合いながらたくさん聞かせてくれた。私も樋口さんも子どもにかかわる機会が多いから、彼女たちの〝自分の体験を言語化する力〟の高さにも驚いて。

中に一人「いま農業に関心がある」と言う子がいたんです。以前からあったわけじゃないけど、いろんなことに触れる中でそんな気持ちが芽生えてきたみたい。あと話の端々に「神山がすごく好きだ」という言葉や気持ちが溢れていて。愛着を感じている。それはすごく体験しているから。

── 神山を。そうか。

秋山 小学校ではなにかしら毎学年あった食農プログラムが、中学校に入るとなくなるわけです。「中学校でもなにか出来るとよかった?」と訊いたら、「もう一度田植えをしたかった」と言う。

新しい別のことじゃなくて、同じことをもう一度? と意外に思って聞き返すと、「5年生のときはわけもわからずひとまずやった」「いまなら出来ることも増えとうけん。どれだけみんなのスピードが速くなっているかとか」「もち米の料理もつくって、自分たちでレシピを考えてみたい」「それでみんなに売ってみたり」って、そんな機会があれば授業でなくても行きたい!というくらい意欲的で。

小学生から見て、中学生はすごく違う世界に行ってしまう印象があるって言うんです。前は普通に仲良くしていた上級生が中学生になると、それまでのようには話しかけられない。怖い感じがあって。でも話してみると「あ、昔のお姉ちゃんのままだ」とわかって安心する。一緒に作業しながらだと、そんなことが自然に出来ていいって。

── 自分にとってどうかでなく、下の子にとってどうか考えているんだ。

秋山 私たちにはなかった発想で、中学生自身からそんな言葉が出てくるのが面白かった。

── 話を聞きながら、樋口さんはどんな様子でした?

秋山 第三者として私が同席して、客観性が生まれている部分もよかったみたい。先生たちの話もよかったんですよ。食農教育や、学校と地域の連携を、とても「いい」と思ってくれているとわかって。私も聞けてよかった。

つなプロ・2期に「食農教育」をどう位置付けるかはこれからだけど、あの日はともかく二人ともホクホクして帰りました。

 

二ヶ月前のこのページで「田畑で体験を重ねているうちに、風景の見え方が変わってきた」自分の話を語っていた樋口さんにとって、中学生とのこの時間は、嬉しいものだったことでしょう。

ほぼ月報・7月号「育ったまちの風景の見え方が変わる、食農教育の話」
https://www.in-kamiyama.jp/agriculture/monthy/49571/