
きょうの一本 ランド・オブ・プレンティ
なんでも2008年6月20日
あまりないことなのだけど、映画を見終わったあとの放心から着地したとき、サウンドトラック盤を求めてレコード屋さんに走ろうかと思った。この徳島の山の中の町には、レコード屋さんなんて無くて、それは叶わぬ夢というやつなのだけど、でも、かなわなくても美しい夢ならきっと追いかけていきたいというエネルギーがぼくのなかに、たしかに渦巻いていた。
Land of Plenty
あえて訳せば『豊饒の地』か?
ヴィム・ヴェンダース監督の最新作
なんの前情報もなく、『ヴェンダース・フィルムだから』と軽いノリで見はじめた。
そしていきなり強烈なパンチを喰らう。この『平和な国』日本で呆けていたぼくの目を覚ますようなありのままのせかいの姿。
シャープで圧力のあるパンチだけど、その奥には深い優しさのようなものが息づいているので、しっかり受け止めることができる。
そしてぼくは、ヴェンダースワールドの中に入っていく。
恐怖と憎悪に満ちた世界、愛と調和の世界。
存在するのはただひとつの現実。どちらにチューニングして生きるか。
選択するのは自分。
9.11以降のアメリカを舞台に、いかに生きるか、なんのために明日を想うか?
映画は優しく問いかけ続けてくる。
インタビューによると、監督は、9.11以降、マスメディアのコントロールのままに、あまりに世界の現実とかけ離れたところに居座り続け、浅薄な愛国主義の安寧の外に目を向けることをしないアメリカ人への警鐘の意を込めて、この映画を作ったそうだ。
でも、それが批判的になることもなく、もっと大きくて温かいものを感じさせながら語られるところ、もう、しびれてしまった!
この映画、着想後、2ヶ月で脚本までできて、50万ドルと破格に少ない制作費の枠のなかで2週間!で撮影を完了したという。
かのヴィム・ヴェンダースなのだから、ハリウッド系大手制作会社と組んでという選択肢も可能だったはずだが、ヴィムは『メジャーと組んでいてはいろいろとややこしい制約が出てきて、自分のほんとうに作りたいものが作れないから』と、まるで駆け出しの若手監督のような純粋な勢いでこんな映画を作り上げてしまう。想いをかたちにしてしまう。
やっぱ、あのひと、映画のカミサマと、できてるんじゃない??? と、敬意を込めてぼくはいぶかってしまう。
映画が終わったあと、一緒に観ていた連れ合いは、ソファーの上で捨てられた子猫のように丸くなって、涙の洪水に身を任せていた。
ミッシェル・ウィリアムズに、ヴィム・ヴェンダースに、ランド・オブ・プレンティに、そしてこの映画に出会えたことに、ただひたすら感動していたそうだ。
ほんと、出会えてよかった

chan
アーティスト・イン・レジデンスのおまけのようなご縁で、嫁と犬一匹とともにの関西方面から神山に移り住んだのは2002年のこと。 最初は、ほんの仮の住まいのつもり。それがいまでは、土地を買って自分で家を建てて、本業(歯医者)からは脱線しつつも、パン屋を開いたり、カフェをやろうとしたり、、、 人生、わからんもんですねぇ。。。 ま、とにかく、日々、神山パワーを全身に浴びながらほくほく暮らしております。
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コメント一覧
やっとこの映画を見ることができました 一度ではなく二度、いやいや、三度…見れば見るほどに 投げかけられる大きなメッセージは違うのだと思います 映画が終わった後は 体の奥、うしろ?の方からそっと問われていうような 感覚のなか最後に流れる歌が駆け巡ります チャンさん、教えてくれたことに感謝します
2008年9月17日 00:51 | モモ
モモさん、 ありがとね ぼくも、そろそろもう一度見てみたいなぁ。。。 あたまのなかでは、しょっちゅうレナード・コーエンのあの歌が再生されています。
2008年9月19日 12:07 | chan