「場のもつ力はとても大きい」#長谷川浩代さん〈鮎喰川コモン〉

なんでも2024年12月6日

投稿者:もくもく編集局

2020年7月。今思うとコロナ禍のまっただなかに始めた哲学カフェ。
2023年と2024年は家庭の事情で、私自身がなかなか神山にいることができず、残念ながら開催が激減していますが、細々と、それでも気づけば26回を数えることになりました。

26回も開催できているということ。
それはもちろん毎回参加してくださるみなさまのおかげなのですが、特にここで改めて感謝したい人、そして場があります。

まず、この哲学カフェという私の個人的な挑戦を、突如やってみようと思いついて形にできたきっかけとなった人。それは、「コーヒーとほんのひろば」を立ち上げ、場を開いてくれた市脇和江さんと千代田孝子さんです。

そしてもう1つが、この挑戦を無理なく思いのままに続けることのできる場所。町のリビングという位置付けで集合住宅とともに町の木材を使って町の大工さんたちによって建てられ、神山つなぐ公社によって運営されている鮎喰川コモンです。

今回、鮎喰川コモンの3周年の機会を得て、哲学カフェから広がる私、長谷川と、コモンの関係について、鮎喰川コモンのスタッフさんからの質問に答えながらお話しすることになりました。


長谷川さんが、コモンで哲学カフェを開催されることになった経緯を教えてください。
 

改善センター調理室で実施した第2回哲学カフェの様子

哲学カフェを初めて開催したのは2020年の7月。当時まだコモンは建設途中で、月に一度、改善センターの1階で開催されていた「コーヒーとほんのひろば」に合わせて、改善センターの場所をお借りして実施しました。

第1回は1階ロビー、グランドピアノの横で。確か第2回は調理室の1角をお借りしたと思います。その後は2階の会議室を借りたりしながら、毎月開催を目指して実施していました。

そんな中、コーヒーとほんのひろばが広野小に移転することになり、一緒について行って開催してみたのですが、設備などの観点からちょっと難しい点が出たりして、寂しいけれど単独開催で再び改善センターに戻っていた時期もあります。「どこでどう開催するのがいいのかな?」と考えていた時に思い浮かんだのが、鮎喰川コモンでした。

哲学カフェは、元々の発祥の地フランスでは、カフェという名前が表す通り、まさにカフェで知らない人同士がテーマに沿って話をする、というところからスタートしています。コーヒーとほんのひろばという場に行ってみて、哲学カフェへと発想が広がったのもそういう経緯があります。

鮎喰川コモンはカフェではありませんが、飲食の持ち込みも可能で、誰にでも開かれており、アクセスもいいので「借りられたらいいなあ…」と願いながら、申し込んだことを思い出します。

無事、お借りできることになって、ホッとひと安心。
以降は毎回、コモンを借りて実施しています。


哲学カフェという活動への思いについて聞かせてください。
 

哲学カフェを始めたのは、私の第2の故郷とも言えるフランスの山間部の小さな村での暮らしや、そこで出会った人たち、見聞きしたことがきっかけとなっています。ただ、ここで話すと長くなってしまうので、関心がある方には、以前他のサイトで書いたものを読んでいただくとして、ここでは実際にやってみて感じていることをお話ししようと思います。

哲学カフェでは、毎回参加者の方たちにチェックインのような形で簡単な自己紹介がてら「最近気になること、話してみたいテーマ」を話してもらいます。その中から、特に参加者の関心が高いものをその日のテーマにして、話を進めていきます。

テーマに沿って話していくわけですが、テーマについて議論を交わしたり、討論するわけではありません。あくまで対話です。私が話す、あなたが話す、また別の人が話す。

神山で行う哲学カフェにはルールを3つほど設けています。

1つめは誰の話も否定しないこと。意見が違うのは当然のことなので、違ってもいいのです。でも「それは違う」とは言わない。誰もが安心して発言できる場であることが、この集まりの最も大事なところの1つです。仮に自分とは違う考えだなあと思ったとしても、なぜそういう考えに至るのか、どういう背景があるのか、そこを知って、改めてもう一度自分でも考えてみることが哲学カフェの醍醐味でもあります。

2つめも理由は同じですが、人の話の腰を折らないこと。テーマからあまりにも外れたり、一人で何十分も話し続けたりすれば別ですが、基本、途中で割って入らないこと。

そして3つめ、対話が目的なので、誰かの独壇場をつくらないこと。演説がしたい場合は哲学カフェではない場所を選んでもらうことになります。

参加する人、一人一人が平等に、発言したい内容を素直に(←これは大切!)口にできて、いろんな意見が聞けて、反芻しながらまた自分の考えを巡らせる、再び口に出す。そういうことが自然に、心理的にストレスなくできる場が私の目指す哲学カフェです。

そして願わくば、この哲学カフェという場に参加される人たちが、「参加した後には問いを発する前とは違う視点を持てたり、何かが変わっている自分がいる(それに気づくのが仮に当日でなくとも)」場になればいいなと思っています。会に参加したからといって、必ずしも、明確な答えが出たり、すっきりしたりはしないだろうけれど、モヤモヤを持ち帰ることさえも哲学カフェの効用だと思っています。

哲学カフェを始めてちょうど2年くらいが経ったときのこと、参加者の一人が最後のひと言感想の時に、こう言って締めくくってくれたことがありました。

「・・・未来が少しだけ明るくなったと思えました。」

この言葉だけでも、この人のためだけでも、自分がこの場を続けてきてよかったと思えた瞬間でした。

哲学カフェで過ごした時間が、参加した人たちに少しでも何かをもたらせるとしたら、主催者としてこんなに嬉しいことはありません。


哲学カフェとコモンの相性はどうでしょうか?
   哲学カフェの活動の場としてコモンという場がどう作用していると思われますか?
 

日中に開催するときは、子どもたちの賑やかな声が聞こえます。温かい光が差し込んで、明るくてとても居心地がいいです。参加者も自然と穏やかな心持ちになっているように感じます。

たまに開催する夜もまた、顔ぶれも変わったりして良い空気感です。
冬は薪ストーブと床暖房があるのも嬉しいですね。

参加する人がリラックスして安心できる場であることは、哲学カフェを実施する上でとても大切な要素の1つです。そういう意味でコモンは理想的な場所の1つであると感じています。


長谷川さんご自身の、神山という町、暮らしている人たち、
   ひいてはコモンへの思いなどはありますか?
   長谷川さんにとって、コモンってどんな場所ですか?

私は2013年の夏に神山に移住してきたのですが、まずは何より地元の方たちが、移り住んできた私たちという人間そのもの、そして私たちがすることも受け入れ、受け止めて応援してくださることが本当にありがたいです。

私が住むようになった後もどんどん変化し、今も変化の続く神山町は常にダイナミックで、住んでいる人たちそれぞれが、やってみたいことを実行に移しやすい場所だなあと感じています。私が哲学カフェを思いつきで始めて、続けていけるのもこうした神山町のもつチャレンジへの肯定というか、空気感や土壌がとても大きいと思います。

コモンは集合住宅と同様、建設途中にも何度か見学会を実施してくださっていました。設計をされた吉田さんに構想やいろいろな工夫なども事前に聞いていたので、完成もとても楽しみでした。そう言えば、杉皮で屋根を葺くという取り組みに参加させてもらって、上分まで杉皮を剥きに行き、コモンの横の小屋の屋根に杉皮を固定する作業もしましたよ。

完成後は、仕事をしたり、待ち時間の合間に来させてもらったり、打ち合わせで使わせてもらったりと頻繁ではないですが、ふと思いついて利用させてもらう場の1つになりました。

当初はそこで自分が何かイベントをするとは思ってもいなかったんですが、参加者の方々のリラックス度合いを見ても、場のもつ力はとても大きいと感じます。
いつもありがとうございます。これからもゆるゆると続けていきたいと思っているので、どうぞよろしくお願いします!

長谷川浩代


解説​

11月8日㈮の夜、少し久しぶりにコモンで開催された哲学カフェ。
ご参加されたみなさんは少しの無理もなく、そこに居ることがとても自然で
時の流れのままに、その日たまたま行き着いたところがコモン、というような
そんな佇まいををされていたように感じました。

こんな素敵な企画を開催されている長谷川さん。
長谷川さんという一人の方が、日々暮らしている。
これが一番前にあって、その生活の一部として哲学カフェがある。
それがコモンで開催されている。

じゃあ、長谷川さんにとって、コモンてどんな場所なのか?ここを知りたいと思い、
今回の記事の執筆をお願いしました。

毎日の生活の中で、ふっと鮎喰川コモンのことを思い出すときがある。
コモンのことを思うときがある。
はたまた、生活の中に、自然にコモンがある。

それはある人にとったらごく普通のことかもしれない。
別のある人にとったら、年に一度のことかもしれない。
思う頻度や光景は違っても、それってなんて尊いことなんだろうと。
私たち鮎喰川コモンは、長谷川さんとの出会いに、
そしてまちのみなさんとの出会いに感謝しています。

鮎喰川コモンスタッフ 岩丸

もくもく編集局

鮎喰川コモンで開催されるイベントや、催しなどの様子を記録・発信していきます。アカウント名は、コモンのゆるキャラ「もくもくん」に由来しています。

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