神山と都会を「すだち」でつなぐNPO法人「里山みらい」。空き家を改修しての新事務所ができました。すだちの季節になった最近は「直売所」の看板も出ています。もしかしたら車で通行中に鬼龍野の交差点あたりで、看板を見かけて気になっている方もいるのではないでしょうか?

なにやら「里山みらい」に新展開の気配。どのように新しい拠点を活用していくのだろう?と、同NPOの代表・永野裕介さん(トップ写真 前段右)に話を聞いてみました。

直売所の看板(手前)。左手の黒い民家が新事務所。

すだちの直売所の看板、出てますね。

永野 はい。せっかく通りに面した場所に人がいて事務作業しているので、9月の旬の時期だけでも直売所をしようかな、と。ここの事務所では、ネット経由での受発注のやり取りなどをやっています。販売はネット通販がメインです。

どんな人が買いに来ているんですか?

永野 直接うちに買いに来る人は、やっぱりオーガニックがほしいという人が多いですね。有機JASっていうオーガニックの認証をとっているんです。あとは、ギフト用の箱に入れたいっていう方もきてくれますね。ここから送ったり、手土産で持っていくのにも使って頂いてます。

左側のすだちがオーガニックで、右側は慣行農法のもの。実は「有機JASすだち」を里山みらいで買えるって、あまり知られていません。後方にある左の箱から、宅急便で送りやすい1キロ、普通の出荷用につくった1キロ、大きめの3キロ、5キロ。

おしゃれなパッケージだと、もらったときの印象も変わりますね。

永野 はい。あとは、発送するときに、いろんな冊子も入れるので、より楽しんでもらえるんじゃないかと。ドリンク・レシピとか、保存方法とか、Instagramのキャンペーン(#神山すだち)のこととか。地元の人は、何にでもすだちを使うから1キロくらいすぐなくなる。けど、普通の人がその量をもらうと、なかなか使い方がわからなくて、余らせてしまうので。 

すだちと冊子をセットにして詰めると、こうなります。写真の箱は、デザイナーの藤本さんと大塚包装さんと今年つくった1キロ箱。

そもそもは、なんで移転したんですか?

永野 もともと使っていた場所(すぐ向かいの元JAの建物)が、手狭になったというのが大きいですね。半分事務所にして、半分作業所にしてたんですけど、 ちょっとぎゅうぎゅうになってたんですよ。普段はもうスカスカなんです。けど、すだちの収穫・出荷の季節はコンテナをばーって積んでいくと、本当に動けなくなってきて。今年から生産に力を入れてるので、事務作業スペースよりも、生産用スペースを大きく取りたくなって。それで、事務所を別のところに動かして、作業効率を上げていこうか、ということになりました。

新しい事務所の建物ももともと借りてたので、直売所・援農ハウス(*1)も兼ねた場所にしていこうと改修を始めました。 事務スペースと作業スペースを分けれたことで、いろんな人に手伝ってもらいやすくなりました。収穫したすだちの選果や、予措(*2)、配送作業は、引き続き、元の建物でしていますが作業効率が上がりました。。

*1  援農ハウス: すだちの収穫作業を手伝いに来てくれる他地域の人が泊まれる場所。
*2 予措(よそ):収穫したすだちを風通しの良いところで3日ほど陰干しして痛みにくくする作業。 

もともとは事務所 兼 作業スペースだったところ。

予措(よそ)している棚。この工程を行ってから出荷もしくは冷蔵貯蔵される。

永野 あと、「目掛けて来てもらえる場所」を作りたかったというのもあります。すだちという素材をあまり使ったことがない料理人さんが、すだちに興味を持って遠くからわざわざ神山に来て下さることもあって。道の駅やJAの直売所など、すだちを買える場所は、神山でもいくつかありますが、ここの特徴としては、いろいろな繋がりを作れることです。たとえば、すだち農家さんを紹介して実際に園地に行ってすだち畑を見てもらう、なんてこともご提案できます。

ちゃんとキッチンも整えて、取引先の方や繋がりのある料理人のみなさんをお招きしたいですね。料理人さんに腕を振るってもらって、農家さんに集まってもらって、みんなですだちの料理を食べるような場所にしたいと思っています。 

「里山みらい」定時総会(5月)の後に並んだ、地元の料理人たちの自慢の一品。テーブルの中央にも切ったすだちが山盛り。

すだちの忙しい時期が終わったら、また改修の続きを?

はい、改修を再開する予定です。人に任せるのではなく自分らで手を入れたいと思っています。ここまでの改修も、ダダくん(吉田大輔さん)と話しながら、ちょっとずつ形にしてきました。冬のシーズン、結構時間があるので、楽しみの1つとして改修しています。 

事務所改修中の永野さんの後ろ姿。(撮影はダダくん)改修のことを話してくれる永野さんはとっても楽しそう。

どんな風になるか楽しみですね。ところで、大不作だった昨年を経て、今年はすだちが順調に実っていますね。今年はどんな感じで売り込んでいくんですか?

永野 営業に力を入れるというより、今は人材育成、農家さんを育てていくことを頑張らないと、この先、本気で厳しくなるんじゃないかなという危機感があります。

それは、すだち農家さんたちの高齢化の流れを受けて?

永野 そうです。平均年齢が73才ぐらいなので、あと5年もしたらどうなるのとか、と。なるべく若い人に継いでもらって、出荷量をある程度確保し続けていかないと、市場で相手にされなくなってしまう。神山がすだち栽培日本一の生産量をキープしてきたのに、この世代で終わってしまうのは、ちょっと寂しいじゃないですか。 神山のすだち農家さんは、露地栽培してすぐ出荷するだけでなく、冷蔵貯蔵して売っている人が多いので、設備にもお金がかかる。でも、買ってくれる相手がいなくなったら売れないし、儲からなくなると農家さんが辞めていってしまうという悪循環が始まる。

出荷量が少ないと、価値が上がって、儲かるというわけでもないんですか?

永野 出荷量が少なくて値段が高くなると、使われなくなってしまうんです。不作だった去年がいい例で、「だったらレモンでいいんじゃない」ってすだちは使われなくなってしまった。やっぱりある程度の手頃な価格が保ててるからこそ使ってもらえる。だから今は、生産に力を入れていかないとと思っているんです。

──

神山で暮らしていると、すだちをふんだんに使えるのが当たり前のことだと思っていました。だからこそ、すだちの生産を頑張ってきた先達の思いを大事に受け止めつつ、新たにチャレンジしていく里山みらいの皆さんを、いろんな形で応援していくことができたらと思います。この記事をきっかけに、新しい事務所に足を運んだり、話を交わしたりする人がいてくれたら、嬉しいです!

(取材 2023年9月6日)

里山みらい
特定非営利活動法人(2015~)。都市の料理人や生活者に、神山からあたらしい形で〝すだち〟を届けながら、援農の試みや農業研修生の育成など、農を次代につないでゆく活動を重ねている。10名少々のチーム。活動拠点は神山町の鬼籠野。 http://satoyama-mirai.jp/

住所:徳島県名西郡神山町鬼籠野7−6
営業時間:9月のみ 9:00〜17:00 不定休
すだちの値段の目安:有機JASすだち 800円/kg B玉すだち 600円/kg(取材時の店頭価格。時価で変動)

永野裕介(ながの ゆうすけ)
1982年千葉県生まれ。地域おこし協力隊として2013年から神山に。仲間たちと「里山みらい」を立ち上げ、以後主に商品開発と営業を担当。地元産の甘酒にすだちを合わせた「すだちち」や、一軒一軒の飲食店とつながる「東京すだち遍路」など、青果市場以外の販路・関係開拓を重ねてきた。三児の父。里山みらい・理事長。

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