コンプレックスで働いているスナリちゃんが、先々月くらい、Facebookにこんな記事を投稿していた。

神山でプログラミング教室に参加してくれた家族の皆さんと、大粟山散策をしているとき。こども達が森の中で、何やら一人作業をしているおじさんを見つけました。森づくり、アドプト(道路清掃)でお馴染みのニコライさんではないですか!

イギリス人の作家・スチュワートさんのアート作品「OKURI」の、何度目かの修復作業をされていました。

大量の竹筒を積み重ねたこの作品。経年変化によって中央が膨らみ、崩れ始めていましたが、「台風が来る前に」とニコライさんが、せっせと修復作業をしてくれていたのです。(「こんな地道な作業誰も来んやろう」と、いつもの呼びかけもなし)

針金で頑丈に留めたということで、今回の台風は乗り切れたそう。いつもありがとうございます!

*写真も同投稿から。「いつもの呼びかけ」とは、主に町内で共有されているニコライさんの私的メーリングリストのこと。

ひと知れずコツコツと重ねられているこの手入れの話を、神山アーティストインレジデンス(KAIR)ディレクターの工藤桂子さんに聞きました。

 

工藤 スチュワート・フロストは2014年の招聘作家。ノルウェーの美術の教授で、大学の休みには海外で制作滞在を重ねている。アジアは多くないけど、以前フィリピンに滞在したことがあって「また竹を使ってみたい」と思いながら、その年のKAIRに来ていたんです。

神山に着いたばかりのウェルカムパーティーで、彼は「自分だけで作品をつくる方がいいか、みんなでつくる方がいいか」逡巡していて。神山のおじさんたちはいつもの調子で、「そら一緒につくりたいわ(笑)」と返し。スチュワートは「本当に?」「本当に?」と何度も確かめていて、そしてあの作品になった。





2014年 作品完成当時(上3点の写真:小西啓三)

大変な仕事量なんですよ。山で竹を伐って、同じ長さに切って、割って。自然物だから微妙に大きさが違うそれを、一つづつ積み上げてゆく。かわるがわる常に誰か一緒に作業していた。制作には、全部で10〜20人くらいかかわっていたんじゃないかな。

── ニコライさんも?

工藤 あの頃はグリーンバレーの事務局長の仕事が忙しかったはずだけど、その合間にサポートしてくださっていた。痒いところに手が届く人で、「天気が崩れそうだから」とテントを張りに行ったり、果物の差し入れをしたり(海外の人は日本人以上に果物を食べる習慣がある)。スチュワートとも人間同士の関係があったでしょうね。

── 今回のニコライさんの修繕作業を、あらかじめ知っていた?

工藤 「しないとね」とは話していたけど、知ったのは始まってから(笑)。2014年以降もスチュワートとはちょこちょこ連絡をとっていて、何年かに一度形を整える作業はしていたんです。でも竹も乾いて軽くなって、少しづつ外側に出て、最近はだいぶ形が変わっていた。

2020年1月撮影

スチュワートも今回「下のところ(基礎)から直してくれているのは嬉しい」って。作業の大変さは本人がいちばん知っているので、また「本当に?」「本当に?」と言っていました。

── 工藤さんはどう思っている?

工藤 本ッ当に大変なーことなのでー(笑)、有り難いなと思っています。常設展示作品のメンテナンスは、当たり前といえば当たり前のことだけど、私たちの体制ではこれが精一杯という部分もあって。どうしようかな?と思っていた。やるとなれば沢山の人を集めないといけないなって。

ニコライさんに「おつかれさまです!」と言ったら「見栄えもあれだしなー」「かわいそうだしなー」って。森の作業で大粟山に入るから、よく目にしていたんだと思う。

── スナリちゃんが見たときは一人でやっていたようだけど。

工藤 基本的に一人だけど、杉本さんが手伝っているときもあるみたい。

今年の4月か5月頃、突然「コンクリート入れます」と連絡が来て。「え、え、え!」と駆けつけたらそのときは5人で作業していた。ニコライさんと、杉本さん、武一さん、生コンで働いている山田さんと、夜勤明けという22歳くらいのその息子さん。アイスクリームの岡田さんも見に来ていて、なんか楽しそうだった(笑)。

このニコライさんの修繕が、神山のアーティストインレジデンスをあらわしているところがありますよね。


*ニコライさんは2018年にも修理をしていて、このときはイン神山で声をかけている。
https://www.in-kamiyama.jp/events/35352/

*Stuart Frost/スチュアート・フロスト
https://www.in-kamiyama.jp/art/kair/artist/stuartfrost

*今年のアーティストインレジデンスは「KAIR これまでとこれから 2020
https://www.in-kamiyama.jp/art/diary/31555/
リターンアーティストの安岐理加さんも先週来町。10月末から11月頭の展覧会に向けて、動きが本格化しています。