神山初来訪(3月)のこと

なんでも2016年11月21日

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投稿者:keiosfc

私たち石川初研究室の調査チーム6名が初めて神山町を訪れたのは、江田の棚田に黄色い菜の花が一面に咲いていた今年3月のことでした。

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雨がちの春の二泊三日、初めての神山町でのご飯はユサンピザでのお昼でした。WEEK神山に宿泊し、レンタカーのワンボックスで町の主要部をぐるりと見て回りました。

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神山町までの経路

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神山町内主要部

その後、8月や9月に何週間も滞在したいまとなっては、初めて神山町の風景を目の当たりにしたあのときの驚きを正確に思い出すのは難しいのですが、
3月の滞在を終えた直後に私たちが急いでまとめた記録冊子から、印象記を引用してみたいと思います。

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1000年のチューニング

神山町はいろいろな点で驚きであった

徳島市街から車で到達すると、神山町はいきなりあらわれた。それは、川沿いを遡るのではなく、バイパスを通ってトンネルから谷の中心に来たというルートのせいでもあったかもしれない。

神山町は風景に強い輪郭を持っていた。輪郭は、山や川や谷によって縁取られ、その間を石積みと民家と道路が埋めていた。神山町では、自分がいまどこにいるか、どちらに向かっているかという場所間隔や方向感覚が、谷間の地形によってもたらされていた。それは、普段私たちが暮らしている都市部において、施設や交通網や地名で居場所を定義しながら生活している感じとはまったく異なる感覚だった。足早に見て回り、おいしい食事を頂き、何人もの方にお話を伺ったが、短い滞在で何かを「わかる」には、歴史も、暮らしも、地形も、この分厚い神山町を前に、まだため息をつきながら眺めているような状況だ。

そこでまず、自分たちが見た風景の断片ごとにノートを作り、それぞれに簡単なメモを記して持ち寄ってみることにした。それぞれのノートは無関係ではないが、事前に手分けをしたわけではないので、ほとんど同じような関心が重なっているものや、同じ対象を撮影した写真で解釈が少し違っているものもあった。

70数枚のノートを並べてみると、思わぬ発見があった。いわゆる「自然」を写した写真や、「豊かな自然」というような語を入れたテキストがなかった。私たちは神山町で「自然」を目撃しなかった。神山町の風景は「人為」「人工」で満ちていた。遠景は大きな谷とそれを刻む棚田や植林の風景、中景は斜面から街道沿いに建てられた人の住む家々、近景は石積みや石段に見える暮らしの気配、と、それぞれの風景にそれぞれのスケールの「人為」があった。

たぶん、この「人為」の風景が全体として強く無理を感じない、つまりまさに「自然」に感じるのは、それぞれの風景に対してそのスケールの「人為」が見えるからではないだろうか。それは、長い時間をかけて、無理をしないように、しかし最大に土地の恵みを収奪できるようにチューニングされてきたものの持つ「鍛えられた風景」であるように思えた。

いま、書き写していると、当時の興奮が蘇って来ます。この後、夏の滞在時には個別のお宅にお邪魔してお話を伺ったりし、この時とはまた少し異なる思いを神山町に対して抱くことになるのですが、ともかく最初に私たちを捉えたのは、このときに私たちが思わず「鍛えられた風景」と呼んだ、神山を覆う濃い暮らしの風景の凄さでした。

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谷を覆う石積みの棚田や段畑、山のすごく上のほうにまで見える斜面に建つ民家、そこかしこにある小さな手作りの橋、澄んだ音を立てて流れる鮎喰川やその小さな支流の水、こうした風景を、私たち石川初研究室らしいやりかたで、どのように書き留めて届けることができるだろうか。

研究室で議論を繰り返しながら、いくつかのアイデアを出し合いました。

・神山町の人々の日常の暮らしがつくる風景を載せた「神山暮らし図鑑」をつくる

・神山町の歴史を学びながら、これからのことに思いを馳せる「これまでの千年、これからの千年」の絵本をつくる

・石積みの形を遊びながら再現できる「神山レゴ」ブロックをつくる

・昔の写真を重ねるワークショップ「神山時層写真」を実施する

・住民のみなさんの思い出の地図「神山告白マップ」をつくる

・神山かるたをつくる、神山の普通のお宅のご飯のレシピを本にする、

・・・・などなどです。 どれも、(かなり)本気のアイデアでしたが、私たちの時間と人数にも限りがあります。さしあたって、今年度は「神山暮らし図鑑」と「神山これまでの千年とこれからの千年絵本」を作ることにしました。2月の終わりに神山町内外の皆様にこれらの成果物をお見せできる機会を設ける予定です(がんばります)。

神山町にお住まいの皆さまにも、神山町を訪れた方にも、手にとって見ていただいて、神山の風景がまた違って見えるように、より魅力的に見えるようになった、と言って頂けるものを目指して、作業に着手しました。

次回は、その後、暑い夏に神山に滞在しながら、おばあちゃんやおじいちゃんや高校生たちと過ごした日々のことを書きたいと思います!よろしくお願いいたします。

コメント一覧

  • コンクリートの歪み? 気にも留めていませんでした。(笑) 「神山かるた」は2016年秋に出来上がっていますが、 もう少し、「インプルーブ」させようと、思っております。

    2016年11月23日 20:24 | ニコライ

  • 12月の調査滞在も、楽しんで!

    2016年11月24日 09:44 | 西村佳哲

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