夏の神山町振り返り日誌〜調査の始め方(8月)〜
なんでも2016年12月23日
太陽の光がジリジリと肌に差し込む8月、ついに石川研の夏の神山町調査がはじまりました。ユリや、ムクゲの花が町の隅っこにひっそりと、でも鮮やかに咲く季節でした。
合計20日間の夏の調査の手始めは、神山町全体の道路地図を下敷きにして、GIS(地理情報システム)を使ったアクセシビリティ・マップを作ることでした。
調査前に町役場でいただいた神山町全域の地図を広げてみると、神山町の広さと地形の急峻さに驚きます。鮎喰川の流域がそのまま町域になっている神山町は、町を山の尾根が取り囲んでいることも印象的です。そして何よりも、そんな山深い町の端っこ、「そんなところにまで人がすむの!?」と思わず言ってしまうような山の上の上にまで集落があることに私たちは驚嘆しました。
そこで、地形図に「道路の行きにくさの度合い」を色分けした図を重ねてみました。こうすることで、単に地形の急峻さだけでなく、町の中心から行きにくくて遠い集落がわかると思ったからです。そういう「端っこ」の集落を見て回ることで、神山町の形を実感しようと思いました。
8月1日〜3日、最初の3日間はこの地図を元に、車で集落を回りました。
気持ち高々にドライブし始めたのですが、町の端へと車を進めるほど、道は細く坂は険しく、山の木々であたりは鬱蒼と薄暗くなってきました。くねくねとカーブする山道、さらに道幅は狭まり、先が全く見えない状況に、車の中のみんなは「ちゃんと帰って来られるのか・・・」と不安になるほどでした。
そして、そんな場所で出会うのは、そこかしこに残っている空き家、杉林に埋もれている棚田の跡、崩れかけた石積み。私たちは山間の村が消えてゆく様子を目撃しました。しかし、そんな人のいない家々からも、暮らしの工夫の痕跡が見て取れることがあり、かつて住んでおられた人の気配を感じることがありました。
コンクリートで岩に付けた階段からかつての人の生活が伺えます。
また、それらの何軒かは持ち主が年に何度か訪れ家に空気を入れ、現在でも掃除をされています。殿宮で出会ったおじいさんもそのうちの一人。
年に5、6回掃除に戻るおじいさんは、「場所は最高なんやけどなあ〜、誰か住んでくれんかな〜」とおっしゃいます。
急斜面に建つ石積みは高く立派で、その上から一望できる風景も本当に美しいもの。かつては家の前には水田が広がっていたのだとか。現在は誰も住まないその家さえにも掃除に訪れるおじいさんから神山町の方々が家を大切にされる様子が見てとれました。
もちろん、人が生活し、生き生きと綺麗な家々も沢山ありました。それらの家に辿りついた時は鬱蒼とした山道がぱっと開け、人の暮らしが見えた瞬間、その人が生む風景の美しさに心からの感動を覚えました。感動したと同時に、神山町の風景は毎日の掃除や農作業などの、日々の生活によってできているのだと再度痛感しました。
地図上で計画していたよりもずっと大変だった移動に時間が取られ、神山町の端っこ全部を見回ることはできませんでしたが、8月1日〜3日にかけて、合計40集落を見ることができました。
このあと、見て回った集落の中からなるべく異なる特徴をしていると思われた集落を選び、暮らしや日々の営みがよく見えたお家などに目星をつけました。
8月4日以降、それらのお家を個別に訪れて、住民の方にお話を伺ったり、庭や家を測らせて頂いたりしました。そこで、また多くの出会いや驚きや喜びがありました。次回はその詳細調査について書こうと思います。
keiosfc
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