特集記事「放課後・休日の子どもたち」スピンオフ(つづく)

なんでも2022年2月3日

投稿者:秋山 千草

2021年8月からイン神山の「特集」記事にて連載していた「放課後・休日の子どもたち」

子どもたちに関わる8つの活動・居場所を運営する方々のお話と
そこに通う子どもたちの保護者の方々のお話を聞かせていただきました。

活動・居場所の中には、そもそも知らなかったものもあれば、
知っていたけれど、どんな想いを持って行われていたかを初めて知ったというものも。
知っている"つもり"でなく、 ちゃんと知っている状態になることで、
見え方も変わってくる気がしています。

ただ、町の中には特集記事で取り上げたもの以外にも
様々な活動があるため、それらのものを神山日記帳にて、
特集記事の「つづき」として少しずつお送りすることにしました。

どのタイミングにどんな活動が
とりあげられるかはお楽しみに・・・!!

今回は、人形浄瑠璃を行う寄井座の方にお話を聞きました。
私は、「浄瑠璃はオーケストラのよう!」という言葉が印象に残っています。

それでは、本文へ。

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第1話 寄井座

阿波人形浄瑠璃は、義太夫節の浄瑠璃語り、太棹の三味線弾き、そして、3人の人形遣いの三役によって演じられる人形芝居。国の重要無形民俗文化財に指定されている徳島に古くから受け継がれてきた伝統芸能で、ここ神山にも阿波人形浄瑠璃を継承する人形座「上村都太夫座(通称:寄井座)」があります。今回は、寄井座の練習場所でもある“ふれあい茶屋”にて、座長を務める楠本和敬さんと座員の糸井恵理さんにお話を伺いました。

 

170年以上続く、神山の人形浄瑠璃

 

──簡単な自己紹介をお願いします。

楠本和敬:下分で生まれ育って、徳農神山分校(現:城西高校神山校)の林業科で学んだ後に大阪・伊丹へ。4年間ほどで神山に帰って来て実家の製材所を継いでから、40年働きました。いまはフリーランスです。

糸井恵理:栃木県出身です。高校卒業後にイギリスへ。2010年に神山に移り住んで来ました。いまはグリーンバレーでKAIRの担当をしています。

楠本:恵理さんとは付き合いが長いな。神山に来てからすぐだったもんな。

糸井:はい、神山に来てすぐに人形浄瑠璃をはじめました。楠さん(※楠本さんの愛称)にはその頃からよく声をかけてもらって家族ぐるみで仲良くしてもらっています。

 

──寄井座について教えてください。

楠本:江戸末期の嘉永元年(1848年)に結成されて、今年で173年。明治維新の20年前ですね。寄井座というのは通称名で、正式名は「上村都太夫座(うえむらみやこたゆうざ)」。これは淡路の名前で、昔は淡路から人形浄瑠璃の一座が神山まで来て泊まって教えたらしい。当時は材木が景気よかったけん、人形もたくさん買ったのが残っていて、寄井座には頭(カシラ)が64体もあるんよ。

──おふたりが寄井座に入ることになったきっかけは?

糸井:知り合いに「練習してるから見に行こう」って誘われたんです。しばらくして自分から「入りたいです」って言って。

楠本:友達が「今日浄瑠璃あるけん、見に行こう」って。ほしたら、その日に「今度入ってくれる人です」って座員の前で紹介されて。ほんなん言うてないのにな(笑)。もう13、4年ぐらい前になるかな。恵理さんより少し前。先輩がようけおるのに、私に座長せえってな。でも、遣い手としていちばん上手なんは恵理さんよ。

糸井:私がですか? 

楠本:いちばん熱心やからな。

楠本:メンバーは、私が入ったばかりの頃は23人おったんやけど、いまは13人。メンバーのほとんどがリタイアした人たち。仕事をしながらやってるんは、恵理さんと最近新しく入った人ぐらいかな。自分から興味を持って入った人と巻き込まれた人(笑)。みんな誰かに誘われたり、入らされたりしてね。新しく入った人も、もうすぐデビューするけんな。 

糸井:お鶴の足でね。その方は舞台慣れしてるんです。みんな黒子以外の役なんてとんでもないって。寄井座の人たちみんなシャイですよね。しっかり自己表現できるけど、前へ出て行こうとしないんです。

──人数的には足りている?

楠本:足りていません。いまの人数では、大きな演目ができん。4人がかりで持つ人形もあるし、とても大きい頭で広げたら3メートルぐらいある人形もあって。人形が5体出るとしたら、最低15人はいる。黒子も入れて20人ぐらいは欲しいな。それぐらいおったら、大きなおもしろい演目ができる。頭も衣装もようけあるのにな。誰かいい人おらんかな?

 

舞台で成長していく 

──はじめてやる人はどんな役からですか?

楠本:まずは、子どもの人形であるお鶴さんの足から。

糸井:いつも何かの演目を練習している途中なので、新しく来ていただいても、すぐ練習に参加するというより、見てもらう期間もありますよね。

楠本:そういう期間もあるな。私も半年ぐらい、座ってじっと見ときって言われた。

糸井:そうですよね。私も実際にやるまで、見ていた時期が長かった気がします。

楠本:見るのも勉強で、とにかく見て覚えって言われてな。阿波十郎兵衛屋敷は月に3回ぐらい公演があるんやけど、私もそこでぶっつけ本番だった。

糸井:基本は教えてもらうけど、本番は舞台。舞台で成長していく。練習のとき、こうと教わっても、舞台に立つと、主遣いの人が全然違う動きをしたら、結局それに合わせないと意味がない。舞台で経験を積んだ方が度胸もつくし。

──人形浄瑠璃をやりたいと思ったら、ここに来ればいい?

楠本:誰でも歓迎です!
町内の人でもここを知らない人も多いし、浄瑠璃があるんを知ってても見たことない人も多いと思う。練習は、毎週土曜日。19時半に集合して、20時から2時間ぐらいやっています!

 

 

子どもがやると喜ばれる

──神領小学校の学童には「すだち座」がありますよね。みなさんが指導されているのですか? 

楠本:私もたまに行くけど、基本的に決まったメンバーが指導に行っています。でも、いつまで続けられるか。

糸井:先日行われた学習発表会でも、上手に演じていましたよね。なんとか続けられたらなと思います。

楠本:もし学童で続けられなくなったら、学童から独立した子ども人形座として「すだち座」をしたらいいんよ。寄井座が指導します、って言うたらできるんちゃうかな。

糸井:学童って枠にはめなくていい。飛び入りで参加してもいいし。放課後の時間に、やりたい子がやっていると思います。知り合いの中学生で、自由研究の課題にするくらい浄瑠璃が好きな子がいて、そういう子も参加できるといいですよね。コロナ前は、「すだち座」も県内外で公演したこともあって、何より、子どもが浄瑠璃をやると喜ばれますよね!

楠本:子どもが出てると、じいちゃんばあちゃんも見に来るし。市内の高校には、部活動として浄瑠璃をやっているところもある。城北高校や淡路の三原高校もプロみたいやもんな。

糸井: 高校生だったら、オリジナルの脚本もつくれそうですよね。

 

人形形瑠璃は、人間の技と動きが一つになって、オーケストラみたい

──人形浄瑠璃の魅力は何でしょうか?

楠本:最初は何とも思わなかったけど、やり出したらおもしろいところやな。

糸井:楠さんは道具をつくるのも得意だし、女役も男役もしますよね。

楠本:足も頭もするけど、するほど本当に難しい。でも、浄瑠璃の練習は休んだことがない。動かすのも演じるのもおもしろい。何やっても楽しむのがいちばん。楽しくなかったら続かなんよね。

糸井:ただ、楽しいですね。趣味以上の楽しみかな。何も考えずに没頭できるし。人形の中はすごい仕掛けになっているし、着物を脱いだら形がおもしろい。それを人間が3人で動かして、太夫・三味線さんと合わせて、そこにストーリーも重なってくるっていうのは、オーケストラみたいだなと思って。私は合唱部だったんで、オーケストラと一緒にコンサートをやることがあって。そういう人間のいろんな技とか動きが一気にひとつになる感じが好きなんですよ。いままでは人形そのものが好きっていうのがあったんですけど、最近は自分なりにいろんな人に人形浄瑠璃の良さを伝えられたらいいのかな、と役目を感じられるようになりました。

楠本:寄井座みんなが人がいいところも魅力やな。

糸井:みんな、くよくよしないですよね。舞台で致命的な失敗をしてしまっても、帰りのバスでは「100点満点や! いける、いける」って(笑)。

楠本:失敗してもしゃーないな、100点やったなって。 

糸井:失敗しても誰かから怒られることはないけど、自分自身がその失敗をよく分かっているから、もっと練習をする。100点満点の方々と一緒だからこそ、続けられるんです。

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人形浄瑠璃自体の面白さもあり、
一緒に取り組む仲間の暖かさもあり、
リラックスしてお話しされるお二人の様子から、
言葉になりきらない、寄井座の魅力を感じ取れる時間でした。

お話をお聞きした後、人形を触らせてもらい、
1人だと「んー、難しい」という感じでしたが、
糸井さんと一緒に動かした時、
人形にエネルギーが入って、ふわっと動きだし、これがオーケストラの感覚か!と思いました。

決して1人ではできない活動で、誰かとすることで人形に命が吹き込まれる。
それを楽しく暖かく続けている皆さん。
また、町内でも講演が見られる日を楽しみにしています。

秋山 千草

東京都練馬区出身。神山つなぐ公社ひとづくり担当。下分から鮎喰川沿いを自転車で走るのが心地よい。踊りと美味しいご飯が好き、そして大人だけど「遊ぶ」のが大好き。

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