かみやまの娘たち vol.10 大きな変化を日常で包み込む、女性の力にフォーカスしたい。

なんでも2017年8月7日

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投稿者:ウェブマガジン「雛形」 かみやまの娘たち

(hinagata)

ここ徳島県・神山町は、
多様な人がすまい・訪ねる、山あいの美しいまち。

この町に移り住んできた、
還ってきた女性たちの目に、
日々の仕事や暮らしを通じて映っているものは?

彼女たちが出会う、人・景色・言葉を辿りながら、
冒険と日常のはじまりを、かみやまの娘たちと一緒に。

写真・生津勝隆
文・杉本恭子
イラスト・山口洋佑


杉本恭子さん(ライター)

2016年9月「かみやまの娘たち」最初のインタビューのとき(左から、杉本、WEEK神山の樋泉聡子さん、「雛形」編集部 菅原良美さん)

「雛形」読者のみなさん、こんにちは。

徳島県・神山町の女性たちにインタビューをする連載、「かみやまの娘たち」の記事を書いている杉本恭子です。

昨秋に連載をスタートして、この記事がちょうど10本目。私も、3カ月ごとに京都から神山に通い、1カ月にひとつの記事を書きあげるリズムに慣れてきました。

この7月には、1年ぶりに「かみやまの娘たち」編集会議も開催。なぜ、女性にフォーカスすることを選んだのか、彼女たちの言葉をたどりながら何を見ようとしているのかを、みなで共有しなおす時間を持つためです。

今回は、インタビュー記事を一回おやすみして、「かみやまの娘たち」という連載が試みようとしていることを、あらためて読者のみなさんにお伝えしたいと思います。

地方創生とひとりの人生

「かみやまの娘たち」は、神山町の創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト(以下、つなプロ)」が策定され、実行に向かって動き出した頃にはじまりました。軸となるのは、神山つなぐ公社で働く赤尾苑香さん高田友美さん森山円香さんへのインタビューですが、他のまちから移住してきた女性たちにも随時インタビューを行っています。

高田友美さんへのインタビューのひとコマ。

「かみやまの娘たち」のコンセプトの原型は、連載スタート前にいただいた西村さんのメールに書かれていた以下のフレーズです。

 「国が掲げた地方創生が、地方自治体ではなく個人の人生、なかでも女性たちの人生や生きざま、あり方にどんな影響を与えているか。継続的なインタビューを通じてその機微と変化を追う」

「地方創生」とは、国が提示した「まち・ひと・しごと創製総合戦略」に応えるかたちで、各地方自治体もそれぞれに総合戦略を策定し、2020年に向けてその実現を目指すというもの。若者の移住促進などを通じて、地方の人口減少に歯止めをかけることも“目標”のひとつに掲げられています。

つなぷろ発表会のようす(2016年11月21日)

こうした、時代のなかに立ち現れてくる大きな流れは、否応なく私たち個人にも影響を及ぼし、ときには人生をも左右します。もちろん、意識してその流れに乗る人もいますし、気づかないままその流れに飲み込まれる人もいるかもしれません。

ただ、今このときに地方での暮らしを選んだ人は、やはりどこかで「地方創生」という大きな流れの影響を感じているのではないかと思います。

私たちが関心を持っているのは、「この大きな流れは、一人ひとりの人生にどんな影響を及ぼしているのか」ということ。「かみやまの娘たち」のインタビューを通して、一人ひとりの暮らしやいとなみのなかから、この大きな流れを見ていきたいと思っています。

「豆ちよ」千代田孝子さんのインタビューで、ロースターを見せていただいたとき

「かみやまの娘たち」で出会う人たちは、大きい意味では「地方創生」の流れのなかにいると言ってもいいと思います。でも、彼女たちの側から見ると、ただ自分自身がいたい場所でやりたいことをして暮らしていこうとしているだけ、というほうがしっくりきます。

国の用意した文脈に、取り込まれそうで取り込まれない。そのあり方こそが、もしかしたら女性的なものかもしれません。

“この世界の片隅”はどこにある?

編集会議では、「なぜ女性にフォーカスするのか」についても、改めて話し合いました。そのとき、話題にあがったのが、昨年公開された映画「この世界の片隅に(こうの史代原作、片渕須直監督、2016)」でした。

「この世界の片隅に」の舞台は、軍港のあるまち・広島の呉。第二次世界大戦も末期に至り、モノも食料も不足し、空襲が頻繁になっていく時代です。でも、主人公のすずさんは状況がどう変わろうとも、ただただ一所懸命に、だけど気負うこともなく “暮らし”を営むことを守ろうとします。

私は、この映画を観たときに、「戦争はこんなにも生活のすみずみにまで入り込んでくるものなのだ」と、初めて理解できました。同時に、戦争に覆われてしまった世界を平和な日常に取り戻す力は、こうした日々の暮らしをいとなみ続けるなかにあるんじゃないかとも思ったのです。

ときとして、国を主語とする大きな動きが、私たちの日常にのしかかり押しつぶしそうになるのは歴史が伝えるとおりです。それを、力ではねのけようとするのが“男性的”なやり方だとしたら、すずさんのようにゆっくりと日常で包み込んでいくやり方は、“女性的”だと言えるのかもしれません。

あともうひとつ。

すずさんは「この世界の片隅」という言葉を使いましたが、すずさんの言う「片隅」こそが映画の中心です。あたりまえのことだけれど、誰もが“この世界の片隅”を、自分の世界の真ん中にして生きています。そのことを大事にしようとするのも、たぶん“女性的”なセンスではないかと思ったりもしています。

「かみやまの娘たち」では、「地方創生」という動きのなかにある、女性たちの強くしなやかな力を見ることができればと思っています。鮎喰川の流れる、神山という山あいの町を世界の真ん中に置きながら。

100年の未来を願うということ

前回のインタビューでは、神山つなぐ公社のすまいづくり担当・赤尾苑香さんに、「集合住宅プロジェクト」のお話を詳しく聞きました。同プロジェクトがつくろうとしているのは、地元の大工さんが神山産の木材を刻んで建てる、100年後の未来にも誰かが住み継ぐに足るような住宅です。

4月に「集合住宅プロジェクト」の建設予定地を見に行ったとき、「これが、100年という時間の1年目なんだ」としみじみ思いました。そして「ここに100年後も人が暮らしている」ということをリアルに想像しました。

それがリアルであったのは、この1年間のインタビューや町の人たちとの出会いを通して、神山の人たちの多くが100年後もこの町があることを願いながら、暮らしていることを肌で感じていたからです。

まちの先輩たちの知恵と経験なしに、移住者は田んぼをつくることはできない

もちろん、町民全員が「まちを将来世代に残していくぞ、おー!」と盛り上がっているわけではないです。ただ、ずっと神山で暮らしてきた人たちも、移住して2〜3年の人たちも、思いの強さや現れ方の濃淡こそあれど、「ここで生きていきたい」という願いをみなが持っています。

立場や考え方の違う人たちが同じベクトルを持とうとすると議論がはじまります。ときには、めんどうなことも起きます。でも、いろんな角度から揉まれるほうがそのベクトルの強度は高まります。

まちにはいろんな人が暮らしているのだから、はじめから「こっちだ!」とみなが整然と進んでいく状況なんてたぶんどこにもありません。大切なのは話し合いの土俵があるかどうか——神山には先人に踏み固められた立派な土俵がある、と私は見ています。

「100年後の未来」のイメージに触れるなかで、私にもひとつ大きな願いが生まれています。

それは、100年後に神山町で暮らしている人たちに「かみやまの娘たち」を伝えたい、という願いです。たとえば、集合住宅に予定されている共有スペース「鮎喰川コモン(仮)」で、「かみやまの娘たち」の写真や記事を読んで「100年前の娘さんたち」を思う時間を過ごしてもらえたら……と想像するのです。

そんななかで、「かみやまの娘たち」はやっと2歳を迎えます。

「かみやまの娘たち」という連載を、時を旅していく舟に見立てるとしたら、私たちは乗組員です。神山の女性たちの言葉や写真そのものだけでなく、読んでくださった同時代の読者さんの思いも伝えていけるように、乗組員一同しっかりやっていきたいと思います。

読者のみなさんも、「かみやまの娘たち」に乗ったり降りたり(読んだり、読まなかったり)しながら、どうぞ気長にお付き合いください。


ライター/杉本恭子(すぎもときょうこ)
大阪府出身、東京経由、京都在住。お坊さん、職人さん、研究者など。人の話をありのままに聴くことから、そこにあるテーマを深めるインタビューに取り組む。本連載は神山つなぐ公社にご相談をいただいてスタート。神山でのパートナー、フォトグラファー・生津勝隆さんとの合い言葉は「行き当たりバッチリ」。

転載元:ウェブマガジン「雛形」

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ウェブマガジン「雛形」 かみやまの娘たち (hinagata)

神山に移り住んだり、還ってきた女性たちへのインタビュー・シリーズ「かみやまの娘たち 」。ウェブマガジン「雛形」で全44回にわたり連載された記事をイン神山にも転載させていただきました。

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