短期連載コラム/第2回「司書になれなかった全ての大人たちよ、ここに集え。」

なんでも2023年10月7日

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投稿者:やすともゆうこ

こんにちは、やすともゆうこです。
鮎喰川コモン3周年記念・短期連載コラム、第2回。
第1回から追いかけてくれているあなたに、少しの驚きと心からの感謝を。
こちらでお会いするのが初めてという方は、暇を持て余した時に以下の記事も読んで貰えると、なおのこと嬉しい。

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第1回「私がコモンで出会ったもの。


全ての本好き達の夢、「司書になる体験」。

「コモンでであう、本と人。」
10月12日には、徳島県立図書館の本いれかえ体験会というイベントがコモンで開催されるよ。
このイベントがどういうモノなのかを端的に言わせてもらうと、

司書になれる。

あの、全ての本好き達にとって一度は夢見たであろう、「司書になる」という体験が、できてしまう。
できてしまうのである!
そんなの夢見たことないって?
そんな君は、今すぐに思い浮かべて欲しい!

あなたの目の前には今、200冊以上もの本が、静かに箱に収められている。自分達が読まれるか否かの審判が下るのを、待っているかのようだ。
あなたは自分なりに精一杯検討をし、本達をいくつかのグループに分けた後、ぽっかりと寂しく空いた本棚にそっと並べていく。

表紙に、裏に、背表紙に、目を落とし…。

この本は、もしかすると、アイツに似た誰かに必要とされているのかも…。
あの時、自分はアイツに何もしてあげられなかった。その悲しい顔を、確かにこの目で見ていたのに。
アイツは確か、このくらいの身長だった。だとしたら、この棚の、この辺りに、そっと置いて…。そうすれば、ふとした瞬間目について、手に取ってもらえるかもしれない。
その時、アイツはどんな表情で、何を思うのかな。
少しでも、この本を置いた、自分のことに気がついてもらえるのかな…。

なんてことを想像しながら、1冊1冊を丁寧に、丁寧に手に取り、並べていく。
それはまさしく、本と人が出会うための架け橋となる、繊細で緻密な作業だ。
手にとってくれた人に、自分の存在はきっと残らない。気づいてすら貰えないかも。
それでも、本を通じて心を穏やかにしてもらえれば、もうそれだけでいい。

なんとも切なく儚いのである。
もう泣けてすらくるのである。

全ての司書さんがこのような心持ちで本を並べているかはまったくもって不明でこのストーリーの出展は私でしかないのだが、こんな想像をするだけで、胸のあたりがキュッとするのである。

普通に生きていて、そんな経験どれだけの人が出来るんだろうか。
これを読んだあなたは、少なくとも安心して欲しい。コモンでできる。それも五日後だ。
なんということだ!
小学生がメインのイベントという噂?
知ったことか!大人だって、司書になりたい!

とはいいつつも、定員がおよそ15名だ。入れ代わり立ち代わり、できるだけ多くの人に司書になって欲しいと思う。応募の必要はなく、出入りは自由だ。
大好評ならきっと、第2回も開催されるはず!(そうですよね…?)

大人も子供も関係なく、人としてただ本と向き合う、そんな時間を皆で共有できる。
こんなに楽しいことは、なかなか無い。
もちろん私も参加するぞ!ヤッター!


小さくかしこい、黒い魚。私の、憧れの魚。

突然だが、あなたは幼い頃、どんなことに情熱を燃やしていたのだろう。
私はもっぱら、読書だ。秋のコモンのテーマは本!というわけで、少しだけ昔話をさせてほしい。

私が覚えている1番古い、本に関する記憶は、保育園で絵本を読んでもらう風景だ。
決まった時間に、リクエストした本を何冊か読んでもらう事が出来た。飽きもせずに毎日、同じ本を聞かせてもらうこともあった。

特に大好きだったのは、黒い身体の小さな魚が活躍する、「スイミー ちいさな かしこい さかなの はなし(好学社)」だ。
レオ=レオニさん原作、谷川俊太郎さんが訳をしているあまりにも有名な本作は、誰もが何となくストーリーを覚えているのではないだろうか。

彼は、赤い身体の兄弟たちとともに暮らしていた。一人だけ黒かったが、泳ぐのは誰よりも速かった。しかしその兄弟たちは、悲しいことに、みないなくなってしまう。

ひとりぼっちの彼は、そのうち出会う。岩陰に、自身の兄弟にそっくりの、赤い小さな魚達。

「でて こいよ、みんなで あそぼう。 おもしろい ものが いっぱいだよ!」

「だめだよ。おおきな さかなに、たべられて しまうよ。」

「だけど、 いつまでも そこに じっとしてる わけには いかないよ。なんとか かんがえなくちゃ。」

彼は、うんと考える。そうして、みんなで自由に海を泳ぐ方法を、見つけ出すのだ…。


「好き」というのにも、きっと厳密に言うと、人の数だけ種類があるのだ。

気がついた時から私は、
「どうして、好きな時に好きなことをしていてはいけないのだろう。」
「どうして、泣きたい時に泣いてはいけないのだろう。」
「どうして、私は変だなぁと言われてしまうのだろう。」
「どうして、なんだか私は、みんなと違うのだろう。」
そんなことを考えて、普通ってなんだ?と模索し、自分を変えなければいけないと思い込んでいた。
スイミーと違って、見た目はとても、皆にそっくりだというのに。

他の赤い魚たちと異なる特徴を持っていたことで一人ぼっちになったスイミーが、最後には素晴らしい知恵とその黒いボディを活かして皆を救う。
その姿は、当時の私にとって希望そのもののようだった。
自分も、そのままでいいのかもしれない、と。

最近まで、思い出すことも少なくなっていた本作だが、息子が絵本を読んでとせがむようになり手に取った。
小さくかしこい黒い魚は、やはり今でも、私には眩しい希望のようだった。
いつまでも、そこにじっとしているわけにはいかないようだ。

前述したような悩みだけではなく、残念ながら人生にはあらゆる困難が付き物だ。
それがあるからこそ、より面白く自身を語ることが出来るのだ、とも思うが、その最中にいる自分にとってはなんともいえぬ、苦しみである。
私にとってあらゆる本は、そういった困難と立ち向かうためになくてはならない装備であり、たいせつな、相棒だった。

誰に問うても答えが出ない悩みだったとしても本を読めば、似たような見知らぬ誰かさんが、そこに居た。しかも、現状を切り開くためのヒントを記してくれていたりする。
どんなに悲しくやり切れない想いを抱えていても、いつもそばに居てくれる大切なストーリーに触れれば、ほんの少し、気持ちが晴れていることに気がつく。
自分を守るための盾であり、苦難と闘うための剣でもあり、時に気力体力を回復するためのポーションでもあったわけだ。
今でもそれは、変わらない。

「本が好き」というのにも、きっと厳密に言うと、人の数だけ種類があるのだと思う。
それは、本に限ったことではないのかもしれない。
私の中の「好き」は、私だけのもので、かけがえのないものだ。
そもそも、誰かと競べるものでも無いのだ。
上手い/下手だ、などで好きのレベルを測られているような気がしてしまう、そんな時もあるかもしれないが、
あなたにとっての「好き」も、間違いなく、かけがえのないものだ。

いつからか、堂々と「好き」を語れなくなってしまった気がする。
それが、好きであれば好きであるほど、何故か恐ろしい。
まったく、なぜなんだろうね。

今回少しだけご紹介した「スイミー」は、もちろんコモンでも読むことが出来る!是非、そのストーリーをもう一度、確かめて欲しい。
あなたが昔出会った思い出の1冊も、もしかすると置いてあるかもしれない。
その1冊は、今のあなたにとっても、やはり眩しいのだろうか。


過去に出会ってきた本たちへの、恩返し。

全く関係がないが、私は今これを書き記しながら、焚き火を眺めている。

火をこよなく愛する私の夫は、チマチマと飽きもせず薪をイジリ回している。
「火バサミどこ?どこ?」と探し回っているのが彼のデフォルトだ。
ちなみに今は君のすぐ左側にあるし、先程そこに自分で置いていた。
全くもってマイペースな、他の色なんて見えてすらいないような雰囲気の夫である。眩しいものだ。

そんな当たり前の毎日を大切にしながらも、子供の頃に置いてきた小さな好きのカケラ達をかき集めて、新たな体験を積み重ねていけたら、と思う。
ちなみにこうして文章を書き、自身を表現することも、幼い私が好きだったことの一つだ。
誰かにとっての、自分によく似た見知らぬ誰かさんに、私もなれるのだとしたら、どんなに素敵なことだろう。
まるで、過去に出会ってきた本たちへの恩返しのようである。
このイベント期間に幾つもの好きが叶う予感がする。やっぱりコモン、ありがとう。

あなたの好きのカケラは、なんだろう。
幼いあなたが置いてきた宝物を、1つでも思い出しながら、今夜は眠って貰えたら。
私にとってこんなに幸せなことは無い。

まだまだ終わらない。


アテにならないかもしれない次回予告
「あなたはどんな香りが一番好き?今、サッとよぎったそれ!それがきっと、一番好きな香り。え?ちょっと衝撃?そんなこと私に言われても…。でもとりあえず会った時に教えてよね。そんなことよりちょっと、コモンで新書の匂いかいでみない?」

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第1回「私がコモンで出会ったもの。

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やすともゆうこ

2021年春、家族と共に神山町に移り住んできました。お魚と本が大好きです。

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