「まちの外で生きてます」#17 森脇沙織さん
なんでも2024年5月15日
〝やままち編集部〟です。現メンバーは、大家孝文・大南真理子・中川麻畝・海老名和、神山町出身の4名。大阪で働いていたり、東京で働いていたり、徳島市で働いていたり。
「まち」で暮らしているけど、心の中には「やま」があります。離れたところからでも神山にかかわれないかな…と思っていたら、ある流れで「広報かみやま」に参画することに。2021年の9月号から、町外にいる若手のインタビューと、その人にむけた学生のQ&Aのシリーズ記事、「まちの外で生きてます」が始まることになりました。
紙面の都合から一部分しか載せられないので、イン神山で、ロングバージョンを公開させてください。
町外で暮らす神山出身者の今を紹介する連載。第十七回は、阿川出身で今は徳島市で暮らす森脇(旧姓:池尾)沙織さん(38歳)に話を聞きました。
―阿川で暮らした幼少期、どんな子でしたか?
森脇 私が生まれたのは阿川です。当時の同級生は13人。中学校になるときに一人神山東中学校にいったけれど、それ以外はみんな神山中学校に。なので、ほとんどの子とずっと一緒でした。運動会のとき、地区に分かれて対抗戦のようなものがあるのですが、東部と中部と、あとは南西北部チームでまとめられていました。阿川は地域ごとに人数のばらつきがあったので。私は南西北部チーム。きぶい(きつい)坂を登った先に家があったので、学校帰りに友達と遊ぶといっても、その帰りはすごい道のり。学校の校庭で遊んで帰ることが多かったです。学校の近くで勤めていた母が、仕事帰りに車で通らないか、その坂で風を凌ぎながら帰っていました(笑)。今でも夢に見るくらいの坂です。火曜日に硬筆毛筆を習っていて、その日は母が習字道具に100円を貼ってくれます。それを握りしめて駄菓子屋で買い物をするのは、楽しかった思い出。
(写真/きぶい(きつい)坂を登っていた幼稚園時代。キティちゃんは今も好きなキャラクター!)
森脇 幼稚園のときは、わらび採り遠足も思い出にあります。幼稚園生にしては結構きつい山を登ったなぁ。あと、小学2年生のときに自分が主催して私の家で誕生日会をしたのも記憶にあります。遠いのにみんなに来てもらって。当時、うちは薪でお風呂を焚いていて、竹で火を吹きながらお湯を温めていたのですが、来てくれた友達と調子に乗って50度くらいにしてしまって、普段怒らないじいちゃんに「熱くて入れんわ」と怒られたことを覚えています。
(写真/“カモシカのような足”時代の森脇さん。この後、神山中学校で自分より足の速い子に出会う。)
―中学校で過ごした思い出や印象に残っていることは何ですか?
森脇 小学5年生のときに、宿泊訓練で牟岐少年自然の家に行って、そこで神領や下分など、神山中学校に進むメンバーと顔見知りになりました。中学校では「あの子たちと会いたいな」っていうのがあったので、自然と神山中学校を選んでいましたね。中学3年生の途中まで寮に入っていたので、寮の中山先生を始め、海老名先生や宮本先生など、今でも思い出す先生がいっぱいいます。今、私は県の職員として保健師をしているのですが、森根先生とは今の仕事になって再会することも。別の中学校で校長先生をされていたときに、保健師の出前講座で。覚えていてくれて嬉しかったです。
森脇 寮は、朝一で起床の音楽がかかるんですよ。その当時、バンド、PENICILLINの「ロマンス」が流れていたことは結構覚えています。中学時代はダイエットをしていて、それを聞いたら「昨日の夜配られたおやつが食べられる!」って(笑)。夜は太るので我慢していて、朝になったら食べられるのでそれが楽しみで……。あと、SHAZNAっていうバンドも好きでした。ライブでボーカルのIZAMさんが吸った空気を瓶に入れて持ち帰った話は、今でも私の鉄板のネタ(笑)。その瓶は死ぬ前に開けようと思っています(笑)。
(写真/バレー部と兼部していた吹奏楽部では、四国大会で最優秀賞。今も中学校に石碑が残っている。)
森脇 小学生のころは、将来は歌手になりたいと思っていました。でもまぁまぁ音痴だったなって、今思えば(笑)。中学生になってダイエットをするようになり、栄養士になろうかなと思うこともありました。カロリーとか面白かったし、生物の科目が好きだった。手ってどうなっているんだろうと、自分が人体に興味があると気づいたのは中学校です。
森脇 中学のころ、大工の父が末広に家を建てていました。市内の高校に進学する子は、寮に入るか親が一緒にアパートを借りる子が多くて、私はその末広の家から通うことが前提にあったので、自然と選択肢は徳島市立高校か城東高校に。何となくかっこ良いという軽い気持ちで市立高校を第一志望にして、そこに入学できました。
―神山から離れた高校・大学生活はどうでしたか?
森脇 末広の家は、私が1階に住んで2階の4部屋は賃貸にしていました。そこに友達も住んだりして、大家代理みたいにアパートのこともいろいろお手伝い。市内での生活は、めっちゃ楽しかったですね。でも、井の中の蛙だったんだなというのはすごく感じました。高校はクラスもいっぱいあって人数も多いので。「お前アホやなぁ」みたいな、仲の良い友達同士の掛け合いみたいなのも慣れていなくて、最初は戸惑いましたね(笑)。足も速い方だったけど、そんなことないんだと気づいた。これは中学校に上がったときも思いましたね。阿川では一番速かったのに上には上がいて。世界をどんどん知っていきました。あと、私はじいちゃん・ばあちゃんと過ごす時間が長かったせいか、言葉が何て言ってるか分からないと言われることも(笑)。就職してからも「コテコテの阿波弁やなぁ」ってよく言われました。高校のときもそんな風に思われていたんじゃないかな。
(写真/市高祭。ラグビー部のマネジャーをしていた三人で。)
森脇 高校卒業後の進路は、国立大学で、かつ県内で……って考えていました。県外に出る気はなかった。親が建ててくれた家もあるし、大事にしないとと思っていたので。今も夫と息子、三人で末広に住んでいます。結局そこからまったく出なかった(笑)。進路を決める際、医科栄養科には学力的に少し難しいこともあり、親の勧めもあって徳島大学医学部保健学科の看護学に進学しました。今思ったら看護で良かったです。数字が苦手なんですよね(笑)。徳大の看護は文系でも受けられたため、それも良かった。末広の家から通いました。
森脇 大学に入ってから、自分が血が苦手ということに気がつきました……。私の学生時代は採血や、マーゲンチューブという栄養の管を鼻から入れる練習も学生同士でやりあいっこ。採血は、できることはできたのですが、どうも苦手でした。一番覚えているのは、臨床の実習で、私は産婦人科の帝王切開と経膣分娩と、ラッキーなことに二つとも見られた。でもどっちも気分悪くなって。一緒にいきんでしまっていたのかな。産婦人科は無理かもしれないと思い、看護学では助産師の資格も取れたのですが、私は保健師と看護師の資格だけにしました。
―どのような仕事を選びましたか?
森脇 大学を卒業し、そのまま徳島大学の大学病院に就職。最初に配属されたのが、周産母子センターというところでした。新生児の看護師です。小さく生まれた赤ちゃんをみたりするような場所で、大学時代の研究が新生児のケアをするようなものだったからかもしれません。大学時代も含め、毎日看護の仕事に向き合うなかで、命を強く感じて「じいちゃん・ばあちゃんを大事にせんと!」と“じいちゃん・ばあちゃん孝行”に燃えている時期がありました。自分の車に二人を乗せて、森林公園に行ったり、鬼籠野の新しいトンネルを見に行ったり、焼山寺に行って三人で写真撮ったり……。看護の世界に行ったから、納得できるくらい二人には孝行できた。今するしかないんだって思ったんですよね。神山にはよく帰っていました。就職したばかりのころは仕事で落ち込むこともあったけど、神山に帰って家族に話を聞いてもらったりゴロゴロしたりしていると、やっぱり落ち着きます。
(写真/新生児看護師のころ、受け持ちの赤ちゃんの一歳を手作りの襷でお祝い。)
(写真/“じいちゃん・ばあちゃん孝行”に燃えていた大学4年生の夏。この日に見た焼山寺の花火は人生で一番の迫力だった。)
森脇 徳島大学で4年働いたころ、保健師になりたいと思うようになりました。新生児看護では、赤ちゃんと離れて過ごすお母さんやお父さんのメンタルサポートも大切。育児ノートで赤ちゃんの様子を看護師から両親に文字やイラストでお知らせします。そういうことが自分では合っているのではと。病院では看護師が三交代で見られるけれど、退院してからは交代なしに親が赤ちゃんを見なければならない。それはすごく大変なことなのに、退院したら自分にはもう分からない、私にできるのはここまでかっていうのが何か悔しかったです。退院後の支援がしたいと思い、保健師の道に。自分の得意や好きなことって歳を追うごことに分かってくるんですよね。
森脇 保健師の仕事は、地域や対象の家族の健康全般を維持したり、強化することです。地域の強みを見つけていく。何だかぼんやりしていて説明しにくいけれど、その人らしい生活を支えること、かな。特に保健所の保健師は、広い視点で市町村の調整業務や地域全体の事業をつくっていきます。たとえば、防災面で、避難所開設の訓練のなかで所内の獣医や市担当者と一緒にペットとの同行避難について考えたり。保健師は“つなぐ”というのが重要な仕事。人と人をつないだり、人とサービスをつないだり。コミュニケーションが大切です。学校や地域でアルコールとの付き合い方や、たばこの害に関する出前講座なども行います。
森脇 今は保健師歴13年目。今年の4月から初めて県庁配置となり、健康寿命推進課で県全体の健康度アップのために頑張っています。人はなかなか変えられないけど、自分が変わっていくことでその人に影響を与えられることが多いと感じます。人間的に成長させてもらえる職業ですね。神山出身の人とも子育て支援などの場面でつながることがあり、同じ志をもった人とつながれるのは嬉しいです。県の職員なので、配属が変わって与えられる課題もさまざまですが、じいちゃん・ばあちゃんに「さぁちゃんすごいなぁ!」って言ってもらって育ったので自己肯定感が高いのかな(笑)。与えられた環境でもいろいろなことに興味をもったり楽しみながらできています。県職員は私の性格に合っているとは言えないかもしれないけれど、この立場にいるからこそ、自分が考える事業を広くできる。地域全体で関われる、変えていけるのは、ありがたいなぁと思います。
―最近の神山を見て、どんな風に感じていますか?
森脇 小学校3年生の息子は虫が好き。私もそうですが、特にアゲハの幼虫が好きで、神山のすだちの葉にいる幼虫を羽化させて旅立たせるっていうのを、ここ何年かしている。なので、夏は結構神山に帰っています。去年久しぶりに阿川の夏祭りに行ったら、すごくてびっくりしました。同級生や一個下の後輩がくじのお店や鰻の蒲焼のお店を出していたり、店番していたり……。父の世代の人だけじゃなくて、若い子がちゃんと参加して受け継がれているのはすごいなぁと思いました。久しぶりに子どもを連れた同級生に会えて、こういう場所は大事にしたい。親世代も歳をとってきたので続けていくのは大変だろうけど、私たちの世代が入っていって何かできたら良いですよね。私も何か力になれたら……。
森脇 神山の変化については、自分が何かしているわけではないけど誇らしく思います。町外の人に神山出身だと言うと「神山ブランドやなぁ」を言われることもある。覚えてもらえることも多いので、「あの人も神山出身よ」と教えてもらうことも多いです。神山にできた新しいお店などは神山以外の人の方が知っていたりしますよね。私自身あまり神領の方には行かないけれど、お正月に家族で四季の里でご飯を食べて焼山寺に行くのが、毎年恒例の池尾家の行事。
森脇 これからの夢は、子どもがテニスを頑張っているので、力になってあげたいかな。あと、県職員の枠にとどまらず、自分の強みとか興味を生かしていろいろな活動がしたいです。それがたくさんありすぎて困っているくらい(笑)。もっといろいろ自由に、人をつなぐことをこれからもしたいと思っています。
(写真/大好きな息子と夫が営む美容室の前で恒例のお正月写真。コロナ禍を経て、家族どの時間を大切にできるようになった。)
インタビュー・文:大南真理子
質問!まちの外で暮らす先輩にあれこれ聞いてみよう!(大学生)
Q:神山町を出てから気がついた魅力は何ですか?
森脇 神山を出ても、つながり続けている人がたくさんいること。町を誇りに思う人が多い!
Q:地域に興味を持ったきっかけは何ですか?
森脇 病院は一時的な特別な場所で、生活とはかけ離れた印象をもったことから、地域を強く意識しました。
Q:活動をしてみたいというモチベーションは、どういった経験や環境から来ていますか?
森脇 いろんな人と話をしたり、本を読んだりすることで、自分の知らない世界や価値観を感じることから湧き出ている気がします。
Q:学生のうちに挑戦したり気をつけたりすべき点などはありますか?
森脇 実習や課題は、自分の力で取組み、自分の考えをもつこと。保健師への転職の際、自分の実習記録がとても役立ちました!
Q:知り合いに神山を紹介する際、神山のことをどのように説明しますか?
森脇 自分の地元のことは、「阿川梅の里、梅干しのところの上の方よー」って言っています!
Q&Aとりまとめ:中川麻畝・海老名和
編集部とりまとめ:大家孝文
やままち編集部
やままち編集部は、神山町出身の5名(大家孝文・大南真理子・白桃里美・中川麻畝・海老名和)からなる編集部。「遠くで暮らしていても、神山にかかわることが出来れば」という想いから、「広報かみやま」で連載「まちの外で生きてます」の連載を企画・制作しています。(2021年夏より)
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