神山から世界へ渡った中高生たちの成長とまちへの眼差し -神山町国際交流プロジェクト-

なんでも2025年1月15日

投稿者:秋山 千草

神山町では、町に在住または在学の中学生・高校生たち合計26名がオランダへ訪問し、交流先の中高生を神山で受け入れる、訪問・受入相互交流の「神山町国際交流プロジェクト」を2017年〜2019年に行ってきました。

このプロジェクトは、まちの子どもたちが、他国の暮らしや働き方に触れ、その土地に生きる人々と接することを通じて、多様な文化や価値観への理解を深めるとともに、神山や自分を見つめ直す「世界」と「他者」と「自分」を学ぶプロジェクトです。

新型コロナウイルスの影響を受け、2020年からはオンライン交流に切り替わっています。

今回は、オランダ訪問から数年を経たメンバーに、改めてどのような経験であったか、インタビューを実施しました。


1人目は、2017年訪問メンバー、当時城西高校神山校の3年生だった中川創太郎さん。高校卒業後は徳島大学に進学し、現在は24歳となり、お父さんの営む散髪屋さんでお手伝いをしています。
2人目は、2019年訪問メンバー、当時城南高校1年生だった高橋義雅さん。現在は、愛媛大学で国際関係学を学んでいます。
3人目は、2018年訪問メンバー、当時神山中学校2年生だった坂東真凜さん。現在は徳島文理大学に進学し、地元である神山町の広野でまちでの活動に取り組んでいます。


 (写真左上が中川さん、右上が高橋さん、下が坂東さん)

オランダ訪問では、メンバーの関心に合わせて決めた訪問先を視察し、
その後にピーテル・フルン校という中高一貫校の学生たちと交流し、ホームステイを行ってきました。

 

交流先のピーテル・フルン校は、オランダの海沿いの街「カトウェイク」というところにある学校です。
 
今回は、オランダへ行って感じたことやその後に影響していること、また神山町というまちに対しての思いなどを聞きました。
インタビュアーは、2018年と2019年に彼らと共にオランダを訪問した神山つなぐ公社の秋山です。

 

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まずは、オランダ現地でのことを聞かせて。オランダ訪問では、どんなところに行った?特にピーテル・フルン校との交流やホームステイ時以外の訪問先を教えて。

中川:僕は、水耕栽培という水と肥料で植物を育てる仕組みを用いて、野菜を育てている施設に行きました。水の中に魚を入れて、その魚のフンを肥料として育てていて、横には育てられた食材を使ったレストランも併設されていました。水耕栽培のちゃんとした施設に入ったのは初めてだったので、色々発見があって、神山でもできそうな取り組みだなと思いました。


(水耕栽培の施設で説明を聞く中川さんの後ろ姿)

 

高橋:僕は、大量のパプリカを育てている農園に行きました。すごい機械的、工場的農業というのが体感できたし、こういう農業もあるんやという学びにはなった。でも、神山で農業というとすぐに浮かぶのがすだち。僕が、小さい頃から夏になったらおばあちゃんや近所の人がすだちを収穫してて、その光景が好きだし、それが故郷を思わせる風景で、続いていってほしい農業だなというのを全然違うものを見て再認識しました。効率とか考えたら、工業的農業のがいいと思うんですけど、神山では人が手作業でやる農業、昔ながらの農業が続いていってほしいなと思います。


(パプリカ農園で説明を聞く様子と集合写真)

すだち収穫の風景が好きなんだね。

高橋:小さい頃から手伝いもしていて見慣れているんで、続いていってほしいなというのはあります。

高橋:instockという、本来使われない食品廃棄物を利用して料理を出すというレストランも行きました。店内はすごく綺麗で、ランチを食べたんですけど、全部捨てられる予定だったもので作られたとは思えんほど美味しかった。神山もいっぱい農業してる人がいるので、捨てられるものをどこかのレストランで取り扱って、商品として提供できたらフードロスの削減にもつながるし、神山でもできるなと思いました。


(廃棄される食材を活用したレストラン「Instock」での昼食の様子)
 

坂東:私はまちを自転車で巡ったのが、すごい楽しくて印象的でした。普通の旅行だったら、移動はバスや電車のイメージだけど、自転車に乗ることで、風や匂いを感じながら街の風景を見ることができた。初めての海外なのもあって、煉瓦造りの建物とか、絵本の世界みたいだな〜と思ったんです!あと、まちの中にずっと川が流れているけど、川の雰囲気は神山とは全く違ってた。神山の川はふらっと遊びにいける場所だけど、オランダの運河はなんか交通手段の一つというか道路みたいな感じで、遊ぶ場所ではないよな、という感じがした。オランダ人のように、現地の人になった気分でまちを巡れたのが良かった。
 
(自転車でまちを巡っている様子)

 

日本との違いを感じることは他にもあった?

中川:僕は、水切りが好きで、自分の目標としてオランダでやりたいなと思ってたんですけど、オランダでは、運河の周りが全部護岸工事されてて、石が一つも落ちてなかった。ザーンセスカンスという結構田舎の観光地に行ったらできるのではと期待してたんですけど、全部綺麗に舗装されて結局できなかったのは残念。

高橋:僕は、ホームステイ先で一家に一台ボートがあるというのが衝撃だった。ホストファミリーとお出かけした時に、お出かけの手段がボートだったんですよね。日本では絶対経験できない。街中をボートで散策するのがすごく面白かったです。 (ホストファミリーと交流する高橋さん)

坂東:私は、また自転車の話になりますけど、乗るのに苦戦しました。私は日本人体型だけど、オランダ人は足が長いんで、届かない(笑)オランダの人、身長高いんですよね。同級生とか言われても同級生と感じないくらい大きい。

 (オランダの自転車に初めて乗った坂東さん)
 

オランダ訪問を経て、学んだことやその後の人生に影響したなと思うことはある?

中川:僕は、失敗の経験をいっぱいさせてもらった。英語で話さなきゃいけないけど、なかなか言葉が出てこなくて、現地に行くと全然伝わらなかった。でも、その経験が「次は一歩踏み込んで頑張ろう」という気持ちにさせてくれた。高校卒業後は、元々大学に行くつもりはなかったんだけど、大学に行ったら、色々できることも増えるだろうなという思いに変わり大学進学を決めました。

実際大学に入って、国際交流プログラムの経験が活かされたことはあった?

中川:大学の時は、4年間TOECというフリースクールでボランティア活動をしていました。TOECは、自分の主体性が大事な場所。国際交流プロジェクトでは、現地で披露する出し物を何にするか、訪問先で何がしたくて何が学びたいかなど、至る所で自分の意見が問われました。自分がどうしたいのか、しっかり考える時間を持たせてもらった。だから、TOECの活動でも子ども達と遊んでて、自分がどうしたいということを考える癖ができていて、ちゃんとつながってるなと思います。

 

高橋:僕は、現在愛媛大学の人文社会学科グローバルスタディーコースの国際関係学ゼミというところで学んでいます。大学受験の時に教育学部に行くか、今いる学科に行くかで迷ってて、決め手となったのが、オランダに行ったことでした。理由の一つはシンプルに海外って面白いなと思って、海外の文化をもっと詳しく学びたいなと思ったこと。国民性の違いというか現地の人と話して、向こうの人は明るいなって感じたし、文化も多様、特にオランダっていろんな宗教や人種の人がいて、そこも日本と全然違くてすごい新鮮だったので、面白いと感じたんだと思います。

もう一つはオランダ訪問を通じて、英語に恐怖心がなくなって、英語を克服したことから、国際関係についてもっと学びたいなと思うようになったことです。

自分が話した英語って意外と通じるんやなとか、逆に全然聞き取れない部分があって、もっと意欲的に頑張らないとなっていうのもありました。 
(出会ったばかりのホストファミリーと英語で話をする高橋さん)

海外って面白い!っていうのと、英語をもっと頑張らなきゃというのがきっかけだったんだね。国際関係学で具体的に学びたいことはどんなことなの?

高橋:海外と日本の関わり、外交問題や文化の違い、そういうのを学んで、二国間の関係をもっと良好にできないか、自分にできる事があるんじゃないかと思ってます。そんな大層なことはできないけど。オランダの人に、すごい仲良くしてもらって、いろんな経験もできたんで、この良い関係が僕が大人になっても続いていけたらいいなと思ってます。

 

坂東:私は、全部の経験が糧になっているけど、一番と言われたらホームステイの経験は大きかった。誰かの家に長期間滞在するのもそもそも初めてで新鮮だったし、英語で会話するのもほとんどできなかった。でも、できないなりに伝えようと片言の英語やジェスチャーで伝えるのを頑張った。その経験から帰国後は、人と話すことに対して積極的になったんです。今までは、自分から話しかけに行くタイプではなかったけど、いろんな人にどんどん話しかけようと思って行動できるようになった。それから、人生楽しくなったというとあれだけど、いろんな人と話ができることで、人それぞれの人生を聞けて、自分の将来の選択肢が広がっていきました。いろんな人と話せるようになって、自分の世界が広がった。
(オランダの中高生たちと話をする坂東さん)

 

神山町の国際交流は、中学1年生〜高校3年生までが一緒に訪問する取り組みで、事前や事後学習、訪問後の報告会もあったけど、それはどうだった?

中川:事前学習は、参加メンバー同士がお互いのことを知れる時間だったし、お互い学びたいことを言い合って、訪問内容を作り上げた大事な時間だった。その時間でお互いのことを知れて、いい時間だったなというのがある。あと、事後報告会もまちの人や家族に聞いてもらえたのが良かった。特に家族には、照れ臭くてなかなか言わないと思うので、いい機会だった。  
(中川さんたちの帰国報告会の様子)
 

高橋:事後学習は一人一つテーマを設けて、現地で感じたことや体験したことを一人一人発表する感じだったと思うんですけど、自分が気になることをオランダへ行く前に決めてたこともあって、自分が言いたいことを事後学習でまとめやすかった。あと、事後学習で話したことを思い返してみたら、今とは考え方が違うなと思う。自分が成長するにつれて、考え方が変わってるのは面白いなと思いました。

どんなことが変わったの?

高橋:当時は、オランダ人の社交性や明るさに自分もこうなれたらと憧れたし、日本人ももっとそうなったらいいのになと思ってました。でも、今はそんなこともないなと思ってます。日本人の謙虚さや相手をあげるというのも、互いを尊重するという面ではすごい大事な良い文化やなと思っています。

坂東:私は、町長やまちの人、中学校のみんなの前で話すとか、報告の機会がたくさんあったんですけど、中学校で話すのが一番緊張した。元々人前で話すのが好きじゃなくて、意見も言うタイプじゃなかったんで、初めはすごい嫌だったんですよ。でも、何回もやってたら慣れてきた。今までは人前で話すときは、落ち着いて話せなくて、結局言いたいことが言えなかった。だけど、場数を踏んだことによって、言いたいことを落ち着いて話せるようになりました。

 

事前学習では、オランダで自分の地域のことを伝えるために、まちのことたくさん学んだね。まちについて知ったことで、新たな発見はあった?

中川:僕は、中学校入学時に神山に移住してきました。神山では川遊びをしたり、阿波踊りの桜花連に所属する中で、面白い大人がたくさんいるなっていう印象がありました。その後、国際交流のプロジェクトの中で、特に阿波踊りの桜花蓮さんにたくさん協力してもらいました。オランダへ行った時の出し物を桜花連さんに相談して、フォーメーションのアドバイスをもらうなど、すごい前のめりに面白がってアドバイスしてくれた。そんな大人の人たちの様子を見て、僕たちがやりたいことに協力してくれる大人がたくさんいるのを実感して、神山は良いまちだなというのを感じました。

(現地で桜花連の法被を着て、阿波踊りを披露している中川さんたち)

 

高橋:僕は生まれた時から神山で、神山はすごい好きですし、愛着もあります。でも、オランダへ行く前は「田舎やな、都会行ってみたいな」という考えもあったんです。でも、国際交流の事前研修の中で神山のいろんなところを巡り、まちの一番奥の地域である上分へサイクリングに行ったり、出来たばかりの木造の大埜地の集合住宅を見学し、自分が知らないところで神山が変わっていってるんだなって思った。上分は、車で通ったことはあったけど、サイクリングで生で見るのは初めてだった。自分が知らない川の流れや山のつくりもあって、生まれ育ったこのまちにこういうところもあるんやなと思いました。


(事前研修で自転車でまちを巡る様子と集合住宅の見学の様子)

坂東:オランダへ行く前の神山の印象は、なんか寂しいまちやなと思ってて、自分は広野の方に住んでたから、まちが変わってるのも知らなくて、今のままだと、進学とか考えた時に出ていこうかなと考えてたこともあった。神山のこういうとこが好きとか、神山がいいとか思ってなかった。でも、国際交流でいろんな人と繋がったり、いろんなものを見たりして、私は再発見でなく、初めて「こんな面白いことあったんじゃ」ってなった。上分のこんまい屋は、こんな山奥にこんなお店が!とすごい印象的だった。


(事前研修の際に訪れた上分のこんまい屋さんでたたき染めのTシャツを作った時の様子)

 

神山町で、今後何かしたいと言う思いはある?

中川:桜花蓮さんとか、いろんな町の人にいっぱいよくしてもらったなというのが国際交流を通して言えること。恩返しじゃないけど、よくしてもらった経験があるからこそ、自分にできることがあれば神山のためになんでもしたいなという思いがあります。前に声をかけてもらった、イベントの写真撮影もつながりを持てて嬉しかった。そういう繋がりができるのもこの町が行っているプロジェクトに参加したことがきっかけ。神山に貢献というわけじゃないですけど、神山で動けるのはすごい嬉しいし、つながりは大切にしていきたい。

坂東:事前学習を含めたオランダ訪問で、いろんな人とつながって、たくさんの経験をさせてもらったからこそ恩返ししたいなという気持ちがあって、今、まちでの活動をしています。私は、地元出身で、今までも地域の人たちにお世話になったけど、国際交流は、自分がすごく成長できた大きな機会だったから恩返ししたいという気持ちがより大きい。

具体的には、広野を盛り上げようと思って、広野にみんなが集まれる場所を作っています。神領はすごい発展していると感じる中で、広野をもうちょっと活気づけたい、自分がもっと好きになりたいと思って、こんな面白い人がおるんやって知りたいなって。オランダへ一緒に行った同級生2人と活動してるんですけど、その2人がおったこともすごい大きくて、3人で盛り上げていきたいと思ってます。


(坂東さんと同級生二人が共に開催するみんなが集まれる場「みんなの広場」で地域の方と関わる坂東さん)

 

最後に、これから海外に興味を持って、行ってみたいと考えている神山の中高生たちへメッセージを。

中川:国際交流は、同世代と自分たちが学びたい、やりたいということをつくっていける旅だし、こんな贅沢なことは大学生になってもお金がなくてできへん。高校生でも明確に自分がやりたいことを持ってる子はまだ多くないと思うけど、一個それがあると旅がグッと面白くなるし、それを持って旅に臨めるといいなと思います。

高橋:僕も一つ目標とかゴールとか決めてたらより良い旅になるんじゃないかと思います。積極的に現地の人とコミュニケーションとってほしいなというのがあって、現地の英語と日本で聞く英語は全然違う。日本で聞く英語はあえて外国の人もゆっくり日本人に合わせて話してくれるのがあるけど、現地の英語はスピードも早いし、表現も独特なものがある。当時、僕も何言っているか何もわからないことが多々あったので、その経験が逆に英語を勉強しようということにつながったので、やっぱり生の英語を聞いて身につけてほしいなというのがある。

坂東:何事にも積極的にチャレンジしてほしいなと思います。私は、現地に着いた頃はあまり積極的にいけなかった。英語をあんまり喋れなかったというのもあるし、日本人の悪い面といったらあれなんですけど、気使ったり、控えめなところがあるんで、それがもろに出てしまっていました。ホストファミリーの人たちにも遠慮して言えなかったりした。その時にホストファミリーの人が、「オランダはそんなん関係ないから、したいこととかあったら言って」というのを言ってくれて、それからは自分の気持ちを言えるようになった。なんでも積極的に挑戦していったら、失敗しても何とかしてくれる人がいる。全部自分の身になるから、何でも挑戦してほしいなって思います。 


(ホストファミリーと坂東さん)

 

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私が彼らとオランダを訪問したのは、もう4,5年前。
中学生、高校生が大学生や社会人になるこの期間の成長は目覚ましい。
その時期に海外へ行くという大きな経験を得て、彼らの視野はグッと広がり、

地元である神山町への眼差しも多角的になったようです。

国際交流という取り組みは、すぐに成果の見えるものではありません。
でも、こうして数年を得た彼らの言葉を聞くことができ、ワクワク、ジーンとする時間でした。

彼らのような経験をこれからの神山の子どもたちにもしてほしいと心から思います。

 

秋山 千草

東京都練馬区出身。神山つなぐ公社ひとづくり担当。下分から鮎喰川沿いを自転車で走るのが心地よい。踊りと美味しいご飯と木が好き、そしていくつになっても「遊ぶ」のが大好き。

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