水の流れをたどる
農と食文化2022年10月3日
皆さん、はじめまして。
徳島大学 生物資源産業学部 2年の中原永里加と申します。
私は、神山町役場と神山つなぐ公社でのインターンシップに取り組んでいました。
期間は、9/5(月)~9/16(金)の約2週間です。
今回、インターンシップ中の活動の1つとして、「自分の関心ごとを元に、記事を執筆する」ということに挑戦しました。
記事のテーマは「水の恩恵に触れる」です。
急になぜ?と思われる方もいるでしょう。
このテーマに決めた経緯を少しお話すると…
私は以前、株式会社リレイション主催の『Learning Journey in 神山』に参加しました。
これは、地域の暮らし、仕事、人々の思いなど、その土地にある“ありのまま”とふれあい、自分の生き方、暮らし方、働き方を考えるといったイベントでした。
その際に、上分・江田地区で活動をなさっているエタノホの皆さんのご案内で、江田集落の棚田の水路をたどりながら、「米作りに必要な水が、どのように田んぼに流れるのか」を学びました。そこで、田んぼに流す水の調節の方法を聞いて「水の大切さ」というものを強く感じ、そのことがずっと頭に残っていました。
そこで今回、「水の大切さ」というものを、記事を通じて皆さんにも発信したいと思い、このテーマに決めました。
記事の執筆にあたり、改めて、江田集落での水の管理方法について、エタノホの植田彰弘さんと兼村雅彦さんにお話を伺いに、上分・江田地区へ足を運びました。
また、取材当日に、偶然エタノホの稲刈りを手伝っていらっしゃった西海千尋さんにも、同席していただきました。
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まず、連れて行ってもらったのは、水源となる場所です。
兼村:こちら(写真①)が水源です。今は収穫の時期なので、水源から田んぼに水が流れないように、石と木の板でせき止めています。田んぼに水が必要な時期は、水路に入ってくる水の7割を田んぼの水に使っています。
植田:田んぼだけでなく、川にも水が流れるようにして、川下の生態系に影響を与えないようにします。川の状態によっては、6割だけを使う場合があります。
中原:6割の場合、米作りのための水は足りるのですか?
植田:足りない時もあります。
中原:この水源近くでの水の調節の作業は、毎日やっているのですか?
兼村:毎日はしません。調節方法は基本的に、石と板を固定しています。
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次に、水路をたどります。
取材時は水路を使用しない時期であり、今回は手入れのされていない水路をたどることになりました。
兼村:4,5月の米の栽培を始める前に、この水路にたまった土砂を掃除したり、手入れをしたりしています。
植田:水路のそばの通り道を構成しているコンクリートが、下に下がっています(写真③)。なぜかというと、僕の推測になるのですが、まず、水路の壁のコンクリートに亀裂が生じます。そこから水がしみこみ、道の下の土や石がえぐられます。その結果、コンクリート道が下がっていったと考えられます。
西海:この水路は、いつ整備されたものなんですか?
植田:30年くらい前に作られたと聞いていますね。修繕をしたいが、できない。現在の道を、全部綺麗にコンクリートで埋めるとなると、それだけのお金はありません。
その後、水路をたどりながら、お二人に普段の水の調節方法についてお聞きしました。
植田:水路の水の中に木の棒を入れて、上がった水の高さ(オーバーフロー)の様子を見ます。これにより、今田んぼにこれくらい水が流れているんだと判断します。水の高さが低い場合、水量が少ないと判断し、その水路から田んぼへ水を流す場合は、時間を普段より長くとります。この判断は経験を積み重ねることによってできるもので、毎日計算して水の調節を行っています。
中原:集落の他の田んぼをしている方と相談して、水の調節を行っているのですか?
植田:そうです。水路の上側の田畑で水を使用したい人達もいて、それぞれの田んぼに流す水の量について、話し合って調節します。
中原:何年くらいでこの水量の見極めができるようになったのですか?
兼村:4〜5年はかかったかな。水調節のタイミング・集落の他の人の必要な水の量を把握するのに時間はかかりましたよね。
西海:自分たちだけでなく、集落で他に米作りをしている人が、どういうスタイルで作業を行っていて、どれだけ水を必要としているのか互いに理解が足りないと、本当に調和がとれないということですね。
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そして、集落の水の管理について、植田さんと兼村さんに、いくつかお聞きしました。
中原:なぜ水路の点検を毎日するのでしょうか?
兼村:田んぼに水が必要だからです。そもそもなんで田んぼをしているのかというと、エタノホのメンバーや師匠(※)と作業をすることや、工夫して農作業ができることが楽しいからです。その結果、この景色が残ればいいなと思って。
植田:ぼくは、美味しいお米を食べたいから。あと、水田のある景色を守りたいから(以下の写真④)。水は米作りに必要で、水を届ける水路の様子を定期的に確認しています。
※師匠:西森傳多(にしもりただかず)さん
上分・江田集落で農業を営んでいる。
植田さんと兼村さんに、約10年間米作りの指導をなさってきた。
中原:水を観察していて、何か感じていることや懸念していることはありますか?
兼村:流れる水量のことを考えると、山のことを考えられるようになりましたね。杉の植林とか、獣害とか。
植田:水路に関わる人手が少なくなってきている。例えば、水路に欠陥ができて、川から引いている水がちゃんと下まで流れなくなった場合、それを修復する必要があるかと思います。でも、人手が少なくなると、修復できず、水路の維持・管理ができなくなって、困りますよね。
中原:今後この水路をどうしていきたいですか?
植田:僕は、今管理されていない田んぼを復活させたいから、水路の手入れをもっとしたい。それは個人や一組織でできることじゃないから、行政など他の組織と協力して、農業にまつわる資源の維持管理の話をしたい。ガタガタになっている水路の道を、兼村と数人で直すのは難しい。水路の周りの草を刈るのにも同様に時間がかかる。
兼村:伸びている沢山の草を刈り切るのに、半日もしくは一日、もしくはそれ以上かかる場合もあります。少しでも管理をおろそかにすると、手入れの作業が大変になるんですよね。
植田:その都度その都度、毎日の小さな積み重ねによって、水路や水源が守られていると思う。
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この取材を通して、『水は必ずしも、当たり前に手に入るものとは限らない』と感じました。
普段、水は「蛇口をひねればほぼ無限に出てくるもの」としか捉えていませんでした。植田さんと兼村さんのお話より、水は「自分たちの田んぼ・集落の他の人の田んぼ・川の生き物の住処に必要なもの」だと知らされました。また、集落の皆さんが、それぞれの必要な分の水を得られるように、日々調節していらっしゃるのに驚かされました。
そして、もう一つ印象に残ったことがあります。
『エタノホの皆さんの、米作りを続ける理由がそれぞれ違う』ということです。
取材の際、農作業を続ける理由として、植田さんは「美味しいお米を食べたい・江田集落の水田の景色を守りたいから。」と答えてくださいました。一方で、兼村さんは「農作業を仲間としたり、工夫したりするのが楽しいから。その結果、水田のある景色を守ることができればいいと思う。」と答えてくださいました。お二人ともエタノホのメンバーであり、同じ目的の達成のために米作りを続けているのだと、取材前に考えていました。お二人の米作りを続ける理由が少し異なっており、少し意外に感じました。
現在、山の杉の管理が追いついていないことや、気候変動など、水に関する様々な課題があります。
今回の取材で終わるのではなく、私にできることは何なのか、今後探していきたいと思います。
エタノホの植田彰弘さんと兼村雅彦さん、そして西海千尋さん、取材にご協力していただき、有難うございました!
中原 永里加
徳島大学 生物資源産業学部 生物生産システムコース 2回生。 9/5~9/16の約2週間、神山町役場と神山つなぐ公社のインターンシップに参加しました。 色んな方と出会えて、刺激をもらっています。
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コメント一覧
いいね! (個人的には)今回、田植え、稲刈り、脱穀、籾摺りまで経験させて頂きましたが、大変!! 水路の管理、水の管理までは、経験未了です。 物事は、(机上でなく、)実際にやりませんと身体の芯(しん)には入ってこないこと。あらためて認識させられました。
2022年10月4日 00:25 | ニコライ
中原さん 江田のこと記事にしてくれてありがとう! 疑問や興味を持つって大切だね。それを自分の五感で感じ取るのはもっと大切で中々出来ないことだと思います。 今回の取材を機に、僕らも一層水路を大切に扱おうと前向きになれたので感謝してます!また、江田集落に遊び来てねー!
2022年10月4日 11:21 | あっきー
ニコライさん あっきーさん コメントしていただき、ありがとうございます。 おっしゃる通り、自分の目でみて経験することで、文章や他人から聞くだけよりも、全身にずっと残り続ける学びを得られるのだなあと感じております。 米を含む農作物について、私はまだ収穫・草抜き・仕分けくらいしかまだ経験したことがないです...!どのような過程で農作物が商品棚に並ぶのか、今後もっと作業を実際に体験し、理解していきたいですね。 また、記事の公開が完了するまで、多くの方にお世話になりました。 受け入れ・きっかけ・手法指導・取材・校正の過程で、神山町役場・神山つなぐ公社・エタノホの皆様など、貴重なお時間をくださりました。 当たり前のことなのかもしれませんが、自分は人とつながって生活できているのだと、気づかされました。 今回、インターンシップに取り組むことができ、本当に良かったです。
2022年10月10日 23:44 | 中原 永里加