あゆハウス通信vol.23 地域の人たちからのたくさんの愛を、そのまま受け止められるようになって感じた、自分の中の変化

学び2023年12月26日

投稿者:あゆハウス

(ayuhouse.yoriinishi@gmail.com)

 ご無沙汰しております!荒木です。

 あゆハウスのハウスマスターを卒業して、早1年8ヶ月。今年の秋にデンマークから帰国して、何度かあゆハウスに遊びに行ったのですが、寮生達と会う度にたくさんのエネルギーをもらっているように思います。

 そして、毎年のようにメンバーを変えながらも、あゆハウスという場は、豊かに育ち続けているようです。“あゆハウスらしさ”や“寮文化”が以前よりも色濃くなってきているように感じ、あゆハウスという場が持つ力に、改めて驚かされました。これからも地域の大人として、変わり続けるあゆハウスを見守っていきたいと思っています。

 さて、前置きが長くなりましたが、今回のあゆハウス通信では、今年3月に卒寮した、あゆハウス2期生の中野千代実さんにインタビューをしました。実は、中野さんには、高校2年生の頃に一度インタビューをしています。(当時の記事は、こちら)今回神農祭とあゆハウスの交流会に参加するため、神山に訪れるという話を聞き、2度目のインタビューが実現しました。

 今は岡山で大学生活を送る中野さん。神山では、あゆハウス、下宿、アルバイト、課外活動等を通して、地域の方々から沢山の愛を受け取り、彼女がもともと持っていた良さや強みがまちの中で発揮されていった印象を持っています。今通っている大学のお話も聞きつつ、最終学年であゆハウスに戻ってきた経緯や変化などについて聞いてみました。中野さんのインタビュー1回目に目を通していない方は、ぜひ合わせて読んでくださると嬉しいです。

では、高校3年間を神山町で過ごした、あゆハウス卒寮生の今をお聞きください。

荒木 まず最初に、今の大学生活について聞きたいな。高校卒業後、大学に進学すると決めた経緯を教えてもらえる?

中野 高校3年生の頃、勉強をもっとしたいという思いが生まれてきて。地元の神戸に帰った時、「ちよみには、絶対に大学へ進学してほしい」と言ってくれる友達がいたんです。その時から、「ああ、わたし勉強も好きだったな」とふつふつと思い出し、意識するきっかけになったと思います。私の中学校時代を知っている、地元の友達の存在は大きかったです。

 あと、外国の人が多い神山町で、当時アナムの英会話教室に通っていて、もっと英語を話せるようになりたいと思っていたこともあり、進学を希望するようになりました。

荒木 今の岡山大学を志望した理由は?

中野 まどかさん(森山円香さん)に「大学に行きたいけど、どうしたらいいか分からない。そもそも大学とはどんな場所なのか分からない。」といった、ざっくりとした悩みを相談しました。そこで、総合型選抜(旧AO選抜)で入学した2名の大学生を紹介してもらいました。

 そのうちの一人が岡山大学に通っていて。その方とお話した時に、興味深いワードばかりで、めっちゃ面白そうって思いました。例えば、“授業は全て英語”、“少人数”、“リベラル・アーツ”(幅広い授業の中から、自由に選択できる)、“できたばかり”、“いろんな生徒がいて、「当たり前の違い」がいっぱいある”など。高校の時に、大学で勉強したいことを決められなかったから、すごくいいなと思いました。

それに、国立大学だし、実家がある神戸にも、神山町にも近いし。他の大学と比較する前から、岡山大学にときめきました。あゆハウスのときと一緒ですね(笑)

荒木 今、大学ではどんなことを学んでいるの?

中野 私が所属しているのは、学部ではなく、Grobal Discovery Program(GDP)というプログラムです。Social(経済、経営、非営利、起業)、Culture(文化人類学、社会学、哲学、政治学)、Science(科学、物理)の3つの領域があって、生徒は横断的に自由に科目をとれます。私は主に、Cultureの科目をとっています。今選択している科目の中では、Intoroduction to political science(政治学の導入)という科目が面白いです。


大学の様子

荒木 政治学に興味を持ったのはなぜ?

中野 政治って、今まで全然知らなくて。18歳になって選挙に行く時に、初めて自分で政治について調べたんです。その時に、たかが一票なんだけど、ちゃんと考えて選ぼうと思ったら、めっちゃ難しいということに気付きました。今まで、今の政治や政策について勉強する機会もなかったから。このままだと、同世代と政治について話すこともないんだろうなと思ったので、政治学の授業をとってみました。そうしたら、先生もめっちゃ情熱もすごくて、わかりやすくて、面白かったんです。

 今、人類学も社会学も面白いと感じているので、研究室を決めるまでは、いろいろな科目を取ってみようと思っています。

 

荒木 最近、学校外ではNPOの活動にも関わっていると聞いたんだけど、どんなことをしているの?

中野 「じぶん未来クラブ」というNPO法人で、高校生のキャリア支援を目的とした、自分探求プロジェクト「Yes, And !」に関わっています。「Yes, And !」とは、「まずは、やってみよう!」という意味。オンラインでやっていて、高校生6,7人のグループのメンターを担当しています。会いたい人に会いに行こうというのが第一ステップで、「どんな人に会いたい?」と問いかけながら、会いたい人へのアポ取りや新聞づくりの伴走支援をしました。今は、自分が挑戦したいことに挑戦してみよう、というステップで、もう少しで最終報告会があります。

荒木 そのNPOに興味を持ったきっかけは?

中野 GDPの先輩のインスタで、メンターの募集をしているのを見たのがきっかけで。今まで、私が大人にいっぱい関わってもらったから、自分も、高校生に関わりたいと思ったことが大きな理由です。

荒木 やってみてどう?

中野 伴走する側って、こんなに大変なんだって思いました!それと同時に、これまで神山で関わってくれた大人たちに対して、感謝と尊敬が深まりました。あゆハウスに沢山関わってくれて、話を聞いてくれて、う〜んっていう人達を伴走してくれたハウスマスターたち、すごいなって(笑)

 やっぱり、高校生によってやる気の差はあって。自分からポンポンやりたいことが出てくる子は、具体的に「じゃあこれやろうか」と進めていくのは面白いんですけど。会いたい大人がいない子や、やりたいことがない子に対して、一緒に探していくというのはすごく難しいですね。短期間で、かつオンラインでできることではないなと思って。あゆハウスのように、一緒に住んで、近くにいながら関わる方が私は向いているんだと気が付きました。


NPOの活動写真

荒木 その時、ハウスマスター側の気持ちが分かったんだね。

中野 本当にそうですね。実は、昔から年下と関わるのは、あまり得意ではなくて。あと、進学校に行っている高校生が多くて、神山校の子達とまた全然違うタイプだったこともあり、最初びびっていました。

 でも、この間の振り返りで、「このチームがあったから頑張れた」と言ってくれた子がたくさんいて、とても嬉しかったです。高校生の小さな成長を感じたり、一人ひとりの頑張りを嬉しく思ったり。きっと、神山で関わってくれていた人たちも同じように喜びを感じていたんだろうかと想像しました。伴走する側の気持ちを知ることができて、これからもこういうことをしたいなっと思いました。

 

荒木 そんな風に思ってくれて、本当に嬉しいな。
さてさて、神山の方に話を戻していきたいと思います。前回のインタビューの時は、浩代さんのところで下宿をしていたよね。11ヶ月の下宿生活は、どうだった?

中野 今はっきり言えるのは、下宿先でお世話になった浩代さんと近くに暮らす方々と良い関係ができたのは、本当に良かったと思っています。浩代さんが、私のことを娘のように扱ってくれたり、ハムさんたちも「俺らも保護者だ。」と言ってくれたりするのは、すごく嬉しいです。あゆハウスにいた頃とは、また違う関係性を築けたと思っています。

荒木 ちよみにとって、浩代さんはどんな存在なの?

中野 浩代さんの行動とかが、お母さんのようだなと感じることがあります。例えば、今朝コンプレックスに行っていたんですけど、作田さんが家まで車で送ってくれることになって。その時にひろよさんが、「さくちゃん、そしたら、お礼にこのケーキ。」とケーキを渡している姿があって。私のお礼を浩代さんがしてくれる。そういう小さなことをたくさんしてもらってきました。こういう関係って、なかなかないですよね?浩代さんが、自然にそういうことをしてくれるのが嬉しいです。

 浩代さんも私も話すことが好きだから、何でも話している気がします。そう思うと、浩代さんとは友達みたいな関係でもあるんだろうなとも思います。


ご近所さんとの交流

 

荒木 本当に素敵な関係だよね。そんな下宿を経て、3年生になる前に、あゆハウスに戻ってきた理由は?

中野 やっぱりあゆハウスに入りたくて、神山校に入学したので、最後はあゆハウス生として卒業したいと思っていました。2年生の頃、下宿をしてみて、初めて外からあゆハウスを見て、気付いたことがたくさんあったんです。今までハウスマスターのさんちゃんやくわちゃんが、こういう気持ちで私に言ってくれていたんだなとか、本当にいろんなことが分かりました。寮生として過ごしていたら、気づけなかったことを理解した今だからこそ、戻りたいという気持ちになりました。後輩とも仲良くしたいと思っていたし、スタッフが戻ってくるのを信じて待ってくれていたことも大きかったです。

荒木 実際にあゆハウスに戻ってどうだった?

中野 1年生の頃よりも、あゆハウスのことを大切にしようと思って、動いていたと思います。学年が上がり、あゆハウスの中での立ち位置は、確実に変わりました。勝手だけど、ハウスマスターの方にも近づこうとしていました。

 あゆハウスの中で、いろんな問題が多発したとき、誰かからの話だけで判断するのはやめようと思うことがあって。話を聞いたとき、その場の受け取り方もただ共感したり、一緒に怒ったりするんじゃなくて、事実として受け取るだけにしようと。あのときは、そういうことが必要だと感じました。このままだったら、あゆハウスが壊れちゃうと思うほど、関係性がギスギスしていたときもあって、私もこんな風では暮らせないと思ったし、後輩たちにあゆハウスがそんな風な場所だと思ってほしくないなとも感じていました。

荒木 中立の立場に徹してくれていたんだね。そういうことをすることで、あゆハウスや周りの子達は変わっていったと思う?

中野 うーん、変わりきらなかったこともあるけれど、受け取ってくれているんじゃないかなと思う場面はありました。とにかく、真剣にいろんなことを話しました。「自分は、今あなたにこう思っているよ」「こんな風にしてほしいと思っているよ」といったことを伝えました。元々、自分の思いを伝えることは苦手だったので、結構頑張りました。

荒木 そうだよね。昔のちよみからは想像もできないな。

中野 そうなんです。心の中だけで思っているつもりでも、なんか自然と出ちゃうということもあるから。それなら、相手の良いところも、悪いところも真剣に伝えようと思いました。

こんな風に変わったのは、下宿に出てから、当時3年生のゆいちゃんに、あゆハウスで一緒に暮らしていた時に思っていたことを全部話したことがきっかけでした。当時、ゆいちゃんはちゃんと私の話を聞いてくれて、その話し合い以降、より一層いろんなことを話せるような関係になれました。

 

荒木 あゆハウスを通して、人とのコミュニケーションで大切なことを学んでいったんだね。一方で、地域の人との関係性は、どのように変化していったのかな?

中野 今まで「どうせ、バイトが忙しいんでしょう?」と言われて、誘われていなかったこともいっぱいあったことに途中で気が付いて。2年生のときに、「新しい人と繋がろう」という目標を立てていました。バイトを常に最優先にするんじゃなくて、いろんな場所にも行くようになったら、声をかけてもらうことが増えました。

 3年生は「今までの人をもっと知ろう」という目標を立てて、自分が出会った地域の大人を1,2年生に紹介することもできました。さんちゃんやゆいちゃんが地域の大人を紹介してくれたのを思い出しました。

荒木 2年生から、地域での繋がりがどんどん広がっていったんだね。

中野 そうですね。あと、「地域の方々から大事にしてもらったな」「愛してくれていたんだな」というのをたくさん感じて、それをそのまま受け止められるようになりました。今までは卑屈に捉えてしまっていたけれど、「そうだよな、ありがたいよな」と思うことができるようになっていました。

荒木 それは何かきっかけがあったの?

中野 3年生の後半から、人に褒められたことをそのまま全部受け取ろうというマインドに変わったんです。「そんなことはないですよ〜」と言うよりも、「やった!嬉しい。本当ですか!」と言われたほうが自分も嬉しいなと思って。そうしたら、人から「ちよみは、笑顔がいいね」と言われるようになりました。

荒木 あたたかい関心を持って接してもらったことで、ちよみも変わっていったんだね。

中野 3年生になって、体育の授業中、岡山先生に「ちよみ、人生楽しそうやな」と言われて、すごく嬉しかったです。その時、自分は本当に変わったんだなと思えました。

荒木 先生からそんな風に言ってもらえるのは嬉しいね。1,2年生の頃は、学校での様子を聞いて、正直心配していたんだよ。

中野 初めの頃は、先生からの頼まれごとや、リーダーやプログラムの推薦もやらないような生徒でした。遅刻も増えていたけれど、2年生の頃にクラスが変わって、居心地がいいなと少しずつ思い始めて。球技大会に向けて、放課後に町民体育館を借りて、クラスのみんなとバレーの練習をするようになってから、学校が楽しいと思うようになりました。

あと、3年生になって、あゆハウスから学校へ通うことになったのは大きいです。さんちゃんが「あゆハウスは、学校のための寮」とずっと言っていたことを覚えていて。後輩もいるし、私もあゆハウス生として見られていることを意識して行動するようになりました。

 3年生になってからは、クラスのメンバーの距離感がすごく良くて、神山校も先生もすごく好きで、学校に行きたいと思えるようになっていました。だから、神農祭やあゆハウス交流会で、先生と同級生たち、あゆハウスのみんなに会えて嬉しかったです。

 

荒木 学校生活もどんどん楽しい時間になっていったんだね。最後に、これからどんなことをしていきたい?

中野 ちゃんと、大学の勉強をしたいと思っています。今はちゃんとできてないと感じているので。授業では、英語のリーディングが大量にあるけれど、自力で全部読めていないし、ディスカッションで自分の意見を言えていないので。もっとできる部分があることは見えていて、分かっているんですけど、そこへの行き方や頑張り方がわからなくなったりすることもあります。だから、ちゃんと勉強に向き合いたい。あ、また「ちゃんと」って言っている・・・。前回のインタビューと全く同じことを言ってますね(笑)「ちゃんと向き合いたい」って。

荒木 確かに、何度も「ちゃんと」という言葉を聞いてきた(笑)でも、ちよみの変わらない気持ちを聞けて、私はとても嬉しい。確か、2年前は、「ちゃんと人と向き合いたい。その上で、自分と向き合いたい。」と言っていたね。でも、今回は、向き合いたい「もの」があるんだね。

中野 そうですね。今は、学問や英語といった対象がありますね。その上で、学問を通して、ちゃんと人とも向き合いたいと思っています。

 

 前回のインタビューから長い月日が経ち、聞きたいことがたくさんあったのですが、一つひとつの質問に「ちゃんと」答えてくれるちよみの姿から、これまで真剣に考えて行動してきたことがうかがえました。そんな彼女のあり方は、あゆハウスにいい影響を及ぼし続けてくれたと思います。

 今回、数カ月ぶりに彼女が帰ってきて、たくさんの人が喜んでいる姿を見ました。高校時代の自分と今を比較して、ギャップを感じてしまったと言っていたけれど、元気なときも、元気じゃないときも、いつでも、神山に帰っておいで、と伝えたいです。あなたの顔を見られるだけで、私たちは嬉しいのです。


今までのあゆハウス通信はこちら

あゆハウス (ayuhouse.yoriinishi@gmail.com)

城西高校神山校の寮は、鮎喰川の「あゆ」をとって、「あゆハウス」と呼ばれています。 「あゆハウス通信」では、あゆハウスで暮らす高校生・ハウスマスターが日々の活動を定期的に発信しています。 「地域で学び、地域と育つ」をコンセプトに、神山でさまざまなことにチャレンジする私たちを温かく見守っていただけたら嬉しいです。

あゆハウスの他の記事をみる

コメント一覧

  • いいね!

    2024年1月4日 10:53 | 河野公雄(ニコライ)

コメントする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * 欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください