憧れていたキラキラJKとは違うけど、それ以上にキラキラした生活が待っていた/あゆハウス通信Vol.25

なんでも2024年4月19日

投稿者:あゆハウス

(ayuhouse.yoriinishi@gmail.com)

この春、あゆハウスから3期生6名が巣立ってゆきました。

一人一人がはっきりとした存在感を放ち、それぞれの形でまちの中に自分の居場所を作っていたように見えます。同時に、彼らと時間をともにするなかで元気付けられたり、刺激を受けたりと、前向きな影響を受けていた方もきっと多いのではないかな、と想像します。

すっかりまちのなかで姿を見かけることが当たり前になっていましたが、
そういえば、彼らはどんなきっかけや思いで、神山へ辿り着いたのでしょうか?
神山やあゆハウスで、どんな時間を過ごしていた?

卒寮式が目前に迫ったタイミングで、3名の卒寮生に、神山を離れるいま感じていることや、3年間を振り返って思うことを聞かせてもらいました。(Interview:2024年3月1日)

鶴田にこさん(神奈川県出身)

 

憧れていた環境とは全然ちがうけど、
「来なかったら後悔する場所なんだろうな」って

中学生の頃、進路をなかなか決めきれずにいたという鶴田さん。

行きたいところを選ぶ、というよりも、自分の学力で行けるところを探す、という高校選びのなかで、なかなかピンとくる学校が見つからなかったそう。そんな時、「こういうところがあるらしいよ」と親に勧めてもらったのが神山校とあゆハウスでした。

にこ:当時のわたしは、キラキラJKにすごく憧れていて。電車で通学して、帰りに友達と買い物に行くとか、そういう高校生活を過ごしたいって思ってました。だから、神山のことを聞いた時は、「絶対に行かない」って、全く興味を持っていませんでした。

「まあでも、1回だけやし」って「地域留学体験2days」で初めて神山に連れてこられたときもやっぱり「全然違うな」って。だって、自然しかないし、電車なんて通ってすらない。スタバもマックも何もない。もちろんプリクラだって、タピオカだってない。「理想とかけ離れているな」「きっと自分はここには来ないだろうな」って思ってました。


入寮を検討する生徒と保護者向けに開催する「地域留学体験2days」。写真中央にいるのが、まだ中学生だった頃の鶴田さん。2daysを担当していたスタッフは「ずっと一番後ろにいる、すごく大人しい子だった」と当時を振り返ります。

その後も、高校探しを続ける中で、「一体、自分は何がしたいんだろう?」って一人でめっちゃ考えてみたんです。そのときふと、「2daysで繋がった同期の子が、この先、神山での生活の様子をSNSに投稿しているのを見たら、自分はすごく羨ましくなるな」って気持ちが湧いてきて。はっきりとした理由とか、根拠はないけど、「きっと、行かなかったらすごく後悔する場所なんだろうな」って。

中学時代まで私はすごくゆらゆらしていて。「こうしたい」とか「どうしてもここに行きたい!」とか、自分の意思を持って決めたことがあまりなかったんですけど、そんな自分がここまで後悔すると思うってことは、それは「行くしかない場所なんだろうな」って。勢いで神山へ行くことを決めました。

でも、実際に合格してから入学するまでの間、周りの友達は自分が想像していた女子高生になっていくんです。ピアスを開けたり、髪を染めたり。「あ、こういうのしたかったんだよなあ。」って思うと「やっぱり行きたくない!」って気持ちが湧いてきて。友達と話しながら、めっちゃ泣いちゃって。

お母さんに「行きたくない」「ごめんなさい」って言ったのかな。「入学を取り消す?」って話にまでなったけど、ちょうどその頃いぐっちゃんとか先輩のインタビュー記事で「まちの人と関わって自分が広がった。」っていうのを読んで。私はもともと自分が好きじゃなくて、自分を変えたいって思いがあったから、変わりたいなら「もうここしかないやん!」って。それで結局神山に来たんだけど、入学するまでにもめちゃくちゃ揺れましたね。


入学してまもなく行われた、「ぐるっとツアー」での一枚。同期とともに、ハウスマスターが運転する車で神山町内をぐるっと巡りました。

 

「土なんて触りたくなかった」のに、
どんどん農業がたのしくなっていく

いざ、入学した彼女を待ち受けていたのは、実際に土に触れ、手を動かしながら学ぶ農業高校の授業や、あゆハウスでの自然が身近にある暮らしです。でも、入学当初は「自然にも農業にも興味がない」うえに、「土なんて触りたくない」という気持ちもあったそう。

にこ:最初、本当に土を触りたくてなくて。学校の授業でも「うわ、ガチか」「本当に、農業するのか」って思っていました。でも、やってみたら楽しくて。楽しめるようになったきっかけは、ハウスマスターのまささんが田んぼに連れていっていろいろ体験させてくれたことが結構大きいと思っています。

たとえば、代掻きとか。田んぼのなかをみんなで走り回るんです。あんなに泥まみれになるのは、初めてで。小さい子だったら分かるけど、高校生とか、それこそ、まささんみたいな大人も泥まみれになって。道具なんてなにも使ってないし、スマホだってないのに、みんな楽しそうで、笑顔になっていて、「なんて素敵なんだろう」って。


2022年5月、上分・江田にあるエタノホの圃場で寮生や神山塾生とともに田植え。あゆハウスの毎年の恒例行事になっています。

他にも田植えをしたり、稲刈りをしたり。軽くだけど、米作りに触れさせてもらって、そうして自分が関わってできたお米を食べたときに特別感というか、本当に「お米を残さずに食べよう」って思えて。農業は後継者が少ないって言うけど、それでもやり続ける人がいるのは、そういうことなんだろうなって思いました。

それで、土とか、泥とか、虫とか、自然にだんだん抵抗がなくなってきて。学校でもちょっとずつ先生に話を聞いてみると、同じ大根でも全然違うとか、まずは種をたくさん蒔いて後から間引くとか、知らなかったことばかりだって気付かされて。あと、なにより新鮮な野菜はおいしいから、それを自分たちで作って、収穫して、食べられる、って環境があるのはすごく恵まれているんだなってことに気がついて。そんな環境にいられることを大事にしよう、ってだんだん気持ちが変わっていったし、農業って楽しいなって思うようになりました。神山に来るまでは家の雑草抜きだって手伝ったことなかったのに。キラキラJKどころか、泥んこJKですね。


エタノホで収穫した新米に合わせて、寮生がそれぞれに思い思いの「ごはんのおとも」を準備して、みんなで味わう新米会。
 

安心できる空気感があるから
自分の意見もちゃんと言えるようになった

インタビューのなかで、鶴田さんが何度も口にしていたのが「自分に自信がなかった」「自己肯定感が低くて」という言葉。寮での生活はまわりの子と距離が近いからこそ、様子がよく見え「あの子と比べて自分は…」と思ってしまうこともあったそう。一方で、寮生との関わりを通じて見え方が変わり、できるようになったこともあると話してくれました。

にこ:寮ではさまざまな場面で話し合いをするんです。その時、自分の意見に対して「それはちょっと違うと思う」ってズバっと言われることもあって。でも、話し合いが終わったら、ズバッと言ってきた先輩がいつものように話しかけて来て、わちゃわちゃした感じに戻るんです。

ほかの子に対しても「自分の考えとは違うけど、その意見は新しい視点だった。ありがとう」みたいな声をかけたりしていて。そういう行動や声かけから、「意見には違和感があったとしても、自分のことを否定しているわけじゃないんだな」って思えるようになりました。

私はもともと自分に自信がなかったから、人と話すのが怖かったし、否定されるのが怖くて自分の意見を言うことに苦手意識があって。でも、あゆハウスには「意見はちゃんと言うけど、相手のことは決して否定しない」みたいな雰囲気があるから、安心して自分の意見を言えるようになりました。

それに寮生のみんなは本当にやさしくて。受け止めてくれたり、どんな自分でも変わらず接してくれたり。そういう子しかいないんです。だから、あゆハウスでは「自分は受け止めてもらえる存在なんだ」「ここの一員なんだ」って思いながら過ごすことができました。

 

「迷ったら、とにかく飛び込みなさい。」
3年間、母からの言葉を何度も頭の中で唱え続けて

「まちとのつながり」を大事にしているあゆハウス。これまで卒業した先輩たちも、アルバイトをはじめいろいろな形で、地域の方と出会い、関係を育んでいました。

「1年生の頃は、寮にいることの方が多かった」と話す鶴田さんですが、卒寮式で地域のいろいろな方と言葉を交わす姿を思い返すと、彼女もまたこのまちで出会った人との関係を大切に紡いできたのだろうなと思います。

どんな風に「まちとのつながり」を育んできたのでしょうか?

にこ:とにかくまちの中で出会ったら、自分から話しかけるってことを意識していました。イベントでも、お店でも、会ったら話しかける。話すと本当にいろんなことが知れるなって。それは、相手のことも、自分のことも。「もっとゆっくり話したいので、今度一緒にごはん食べませんか」って誘ったりもしてました。

そうやって自分から関わるようにすると「今度、餅つきあるからおいでよ」とか「にこちゃんがこの前食べたいって言ってたごはん食べに行こう」って誘ってもらえるようになって、それで広がっていく感じがあって。

あと、これまであまり音楽はやってこなかったけど、卒業ライブでバンドの一員になってみて「音楽ってすごいな」って。人と仲良くなるのにも、みんなで一つになるのにも、最強の道具なんだなってことに気がついて。その場のノリで肩組んで楽しんだり、知らない人でも音楽があれば一緒に楽しめるし。人と繋がるために必要なのは、食と音楽だなって。


まちの音楽好きな大人たちと合同で企画・開催する「卒業ライブ」。今年も2月にひらかれ、会場には小学生の子どもたちをはじめ多くの地域の人が集まりました。

自分から誘うとか、人と仲良くなるとか、初めは全然できなくって。性格もおとなしかったし、人見知りもしていたし。でも「話しかけようか迷っている暇があるなら行ったほうがいい」って声をかけたり、行動していました。

もともと、神山に来る車の中でお母さんに「迷ったら、とにかく飛び込みなさい」って言われて。「どうしようかな」って迷っている時は、その言葉を頭の中でずっと唱え続けていました。3年間ずっと。

もっと一人一人と濃い関わりをすれば良かったな、とも思ったりします。会った時に挨拶するだけじゃなくて、その人のお仕事や、普段何をやっているかの話を聞いてみるとか。そんな風に、もっと自分を広げる機会はいっぱいあったんだろうなとは思っていて。

でも、今も十分に出会えて良かったと思える人ばかりに囲まれているから、あんまり欲張りすぎてもよくないなって。今、自分が大事にできる範囲、抱えられる範囲の人を誰も疎かにしない。自分のキャパの範囲で大事にできる人を大事にしよう、って思ってます。


あゆハウスで一番印象に残っていることは?という問いに「みんなで過ごす日常」と迷いなく応える鶴田さんの言葉には、「まずは身近な人たちを大事にしたい」という彼女の姿勢がよくあらわれているように思います。

 

いつかは農業の先生になって、
だいすきな神山校へ帰って来れたらな

この春から、東京へと拠点を移し新たな生活が始まりました。進学先に選んだのは、農業大学。彼女が今、目指しているのは「農業科の先生」です。きっと「土なんて触りたくない」と思っていた中学時代の鶴田さんがいまの姿を見ると、目をまんまるにして、ぽかーん、と開いた口が塞がらないかもしれません。

目指し始めたきっかけや、新たな生活に向かう今の心境を最後に聞かせてもらいました。

にこ:これまで出会ってきた先生って、そんなに自分の仕事が楽しそうじゃなくて、「闇が深そう」「大変そう」って印象があったんです。

でも、神山校の先生たちはみんなとにかく楽しそうで。教えることも、自分の専門分野に生徒が興味を持ってくれることも、すごく嬉しそうにしている。好きなことを仕事にして自分がまず楽しくて、それが生徒や周りにも伝染しているなって。「もし働くのなら、こんな風に仕事をしたいな」って思いました。

あと、神山校の先生は、自分を一人の人として見てくれているのが感じられて、それが嬉しかったんです。だから、自分もそんな先生になりたいなって。学校にはいろいろな性格の子がいて、それぞれに個性があるから、一人一人とたくさんお話しして、その子のことを知って、って。ちゃんと理解者であれるといいな。学校になかなか行けない子もいると思うけど、それって環境とか先生の影響も大きいと思っていて。だから、「学校に来い」とは言わないけど、そういうときに話を聞いてあげれるような人になりたいです。

理想は、いつか農業の先生として神山校に帰ってくること。もっとまちの人と神山校を繋ぎたいって思うし、神山校には結構「仕方ないから農業高校に来ている」みたいな、自分の環境が恵まれていることに気づけていない子が多いなと思っていて。そういう子に先生という立場で伝えられることがある気がしています。あとは純粋に、神山校が大好きだから戻ってきたいな。

東京での生活になるのは、自分で選んだ道だけど結構不安です。

ここでは、「神山町の」「あゆハウスの」「鶴田にこ」という存在として、関わってくれる人たちばかりだったけど、向こうでは「大都会の一人」とか「東京の大学に通っている大学生」でしかない。顕微鏡で言うと、一気に「見づらい!」みたいな。鮮明じゃなくなる。だから、にことしての存在意義というか、すごく感じづらくなるだろうなと思って。

道を歩いていても、「あ、にこちゃん!」って挨拶してもらえることは絶対にないだろうし、こっちから挨拶をすることもないだろうし。多分、ほとんどの人が、もう二度と会わない人たちばかりだと思うから、そういう環境に寂しくなるだろうなって思います。自分がこれまで過ごした神山の環境が、羨ましくなるだろうなって。

本当に寂しいな。きっと、離れてみたら、この神山ってまちが自分の中でもっと大きな存在になると思うし、もっと大切な場所になるだろうなって思います。神山に来たこと、一瞬も後悔したことないです。振り返ってみると、やっぱり憧れていたキラキラJKとは違うけど、それ以上に心からの、内から溢れ出るようなキラキラみたいな。そういうキラッキラした生活を神山で送れたなって思います。

(インタビュー・執筆/畔永由希乃)

あゆハウス (ayuhouse.yoriinishi@gmail.com)

城西高校神山校の寮は、鮎喰川の「あゆ」をとって、「あゆハウス」と呼ばれています。 「あゆハウス通信」では、あゆハウスで暮らす高校生・ハウスマスターが日々の活動を定期的に発信しています。 「地域で学び、地域と育つ」をコンセプトに、神山でさまざまなことにチャレンジする私たちを温かく見守っていただけたら嬉しいです。

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