空き家のミカタvol.6_1  窓あれこれ

住まい2023年9月6日

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投稿者:移住支援センター

 こんにちは。神山町移住交流支援センター吉田です。※今までの連載記事はこちら
 お盆過ぎて少し涼しくなりましたが、ほんとに暑い夏でしたね。みなさまの窓は簾(すだれ)・葦簀(よしず)はばっちりですか、ゴーヤカーテン派の方もいらっしゃるでしょうか!私は今年、もはや南面の雨戸を閉める策に至っています。

 さて、今回も案内していてよく驚かれる部分の一つ、窓について、です。アルミサッシにガラスが入っている状態を普通に思う方が多いようですが、古いお家ではそうはいきません。住宅にサッシが使われるようになったのは近年のことなのです。

 簡単に窓の歴史をのぞいてみました。

 平安時代の絵巻物や寺社仏閣を思い出してみると、板や竹でできた蔀戸(しとみど)がはめられていたりしますね。現代人が窓と呼んでいる部位は、柱と柱に「何か」をはめるということ、と理解できます。木造の建物である限り、そこが出発点になります。どんな素材でどんな風にその「何か」が入っているかがその建物の雰囲気を決まってしまうくらい、日本の家にとっては大きな要素です。

 南北朝時代ごろには和紙が普及し、また書院造という建物の型もできてきて、現代の我々が単に障子と呼んでいる「明障子」が建具として一般化してきます。確かに、よく考えたら紙がなきゃ明障子は作れないですね。
 もともと単に障子といえば、襖や引き戸も含めた建具を指していたようです。わざわざ「明」と付けて呼んだことからも、これの登場で暮らしの光環境がだいぶ変わったんだろうなと想像します。

 暫く長く続く木や紙で作った建具の世界にガラスが登場するのは明治維新以降、けれどガラスが庶民の家にまで普及していくのには時間がかかります。センターで紹介している空き家の中には築100年を超えるものもあります。空き家案内中の鉄板の会話「障子を開けたら外なんですね!(驚)」というのがあるのですが、でも建物が建てられた時代を想像してみたら、さもありなん、です。

 もう少し時代が下ってガラスが入る場合でも昔のお家だと木枠です。
 次は窓の枠の変化について少し調べてみました。

日本における金属製サッシの使用は、
 ・1932年(昭和7年) 近三ビルに鋼製サッシ(スチール)
 ・1952年(昭和27年) 日本総合銀行にアルミ押出加工によるアルミサッシ
が第一号といわれているそうです。最初はスチールサッシが登場し、次アルミサッシに取って替わられていきました。

1960年代には製造メーカーもたくさん増え、1970代には一般の家にもアルミサッシが一気に普及するようになったようですが、日本全体と神山の住宅事情と、少しずれはあるかもしれません。

 いずれにせよあんまり昔の話ではないですね。
 そして、現在センターで紹介している空き家は、時代的にはこの過渡期のものが多く、木製窓と昔ながらのアルミサッシが入った両方のパターンが見られます。また、古くからの家をこの時代にリフォームした場合、元々木製障子だったであろうところに昔ながらのサッシが付け替えられていることもあります。

 「昔ながらの」というのは、最近のサッシは更に進化して、アルミではなく樹脂をつかったり、ガラスもペアガラスや真空ガラスをつかったりなど、結露対策や断熱、気密性のためにいろいろな工夫がされているからです。一方、木枠の木製建具も、工業製品として作られる近年ものは、隙間風を防ぐ金物をつかう工夫があるなど、こちらはこちらで進化しているようです。


 それでは、センターの空き家紹介でよく出会う事例をいくつか写真で紹介します!

◯障子+木製雨戸
 これは日本の古い家の王道ですね。雨の時は障子紙が濡れてしまうので、基本的に障子と雨戸はセットです。暗い古民家の中から見ると、障子紙で拡散される光はなんとも綺麗。
 現代人がイメージするような網戸は当然無しです。虫は窓以外からも入るので、蚊帳を張る方が現実的だったのかな?ちなみに私は、蚊よりなによりムカデが怖いので、網戸があっても底のある蚊帳で寝ています~!


このパターンだと窓(障子)に鍵はついていません。雨戸に最後に閉める一枚に木を落とし込む栓のようなもので外から開けられないように戸締まりします。

◯木製ガラス窓+木製雨戸
 時代的にセンターで紹介する空き家の中でも多いパターンなのではないかと感じます。こちらも暴風雨時にはちゃんと雨戸を閉めないと水が入ることがあります。

このタイプではかわいい模様の型ガラスが入っているのも楽しいです。

ちなみに、手吹きのゆらゆらガラスの窓はあまり出会わないですね。神山の一般の民家ではその時代はまだ障子が多かったのでしょうか。

◯サッシ窓+木製雨戸
 木製雨戸はそのままに、元々障子や木製ガラス戸だったものを入れ替えたパターンは多いようです。その場合、下の写真のように元の木製建具の敷居・鴨居が残っているので分かります。

〇木製窓+アルミ雨戸
 こちらの例は上記とは逆、元々「障子+木製雨戸」だったところ、障子はそのままにサッシ網戸を加えアルミ雨戸に替えています。戸袋は木製のままです。重い木製雨戸の開け閉めを楽にしようと替えたのかな?木製雨戸の傷みを直す機会にこうした改造をした家も多いのではないかと想像します。

 ところで、この写真の家の例では暴風時にアルミ雨戸が飛んでいました。木製雨戸ではある程度重さがあって滅多に飛ばなかったのだと思いますが、軽くするならきちんとレールに掛かるようにするなど飛びにくくする工夫も合わせて必要です。

◯障子+サッシ窓+木製雨戸
 これが現代人も見慣れたパターン。アルミサッシ窓の内側に障子がはいっています。

 私も含めて、この時代以降の人間にとっては、障子はインテリアというイメージになりました。でも障子があると窓まわりの断熱性は違うし、サッシでも部屋の雰囲気に温かみがあるし、良いですね。もし現代で家を作るなら、カーテンかブラインド・ロールスクリーンか、もしくはこの役割の障子を入れるかを考えることになるのではないでしょうか。

 最近久しぶりに雪見障子の家を見て、これも今なかなか出会えないよなーと感慨深くなりました。障子もいろんなデザインがあって、お部屋の雰囲気がガラッと変わりますね。
「雪見障子」を見たい方、現在モノストックにあるので、ぜひ実物を!

◯アルミサッシ+シャッター
こちらの写真の例では外壁自体が増築改修されている可能性があります。雨戸は引き戸ではなくアルミのシャッタータイプになっています。

  障子や木製硝子戸では、雨戸は文字通り雨の時に閉めないと、雨が中に入ってきます。しかし気密性の高い現代のサッシは雨水が入ってくることはほぼなく、雨戸を付けない家も増えているでしょう。台風や強風時にどれだけの危険性があるかで雨戸やシャッターの役割も変わってくるかもしれません。


 こんな感じで窓一つとっても自分の「当たり前」が覆されるポイントがたくさんあります。

 移住した方からは予想以上に神山の冬は寒い!という声をよく聞きます。
そんな冬の寒さには窓の気密性・断熱性が大きく影響しています。しかし、木造家屋としての風情を決めるのは木の窓だったりもするので、悩ましいです。
 昔の建具は隙間風だらけといわれたりしますが、囲炉裏や火鉢、オクドサンさんなど家の中で火を焚く生活では、隙間がなければ家全体の換気が不十分になって危険です。もし、現代の気密性の高いの家で薪ストーブを使おうとすれば、別の方法で外気取り入れ口を設けなければなりません。

 一方で、かの有名な
   「家の作りやうは、夏をむねとすべし」
とは徒然草55段より。確かに、古民家の中に入ると涼しいです。建具については、洋服のように季節で替えるという発想でもあったのでしょう。伝統的な京都の町家では6月になったら襖は簾戸に、障子は御簾に替えて風通しを良くする「建具替え」が有名ですね。実際の風通しもさることながら、この景観が季節感があって眼にも涼しい!
 とはいえ、兼好法師の頃とはうって変わり、地球は「灼熱化」進行中、家の周りもコンクリートとアスファルトだらけ。。。このままで世の中が進めば、神山でもいつまで良い風が来てくれるのか疑問です。そしてクーラーを効かせるために断熱性・気密性が求められる、というご時勢です。
 
 技術的な時代の変遷だけでなく、世相の違いが建具にも映し出されていますね。空き家を見るときには街暮らしの現代人的常識をいったんはずしてみると、いろいろな発見があっておもしろいです。


 最後に、私がお家を見る時の楽しいと思うポイントを少しだけご紹介。

〇雨戸の戸袋(とぶくろ)

〇付書院(つけしょいん)・平書院(ひらしょいん)の建具 
 これらの写真、①②は同じ家の戸袋-平書院が対応しています。この2つの要素だけ見ても、各細部がそれぞれの家全体の風格に応じていることが感じられます。
 お家の雰囲気を決める大きな要素である建具は職人さんの腕の見せ所の一つでもあります。家の格、家人の趣味趣向、職人さんの遊びごころなど、機能性だけでない家の楽しみが窓に映っていますね!
   「造作は、用なき所を作りたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよし」
前文に比してあまり有名ではない(?)徒然草55段の続きが、私の好きな部分です。

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移住支援センター

物件紹介から交渉、契約、地域への順応支援にいたるトータルサービスを提供。 「こんなところに住みたい」という移住希望者の要望と、「こんな人に来てほしい」という所有者や地域住民の仲介役を果たします。 「これがダメなら、あれはどう?」というような不動産屋さん的な対応はしません。 最適で、最善の組み合わせを実現するため、一件一件に時間をかけます。 家探しには忍耐が必要です。その忍耐力をお持ちかどうかも、マッチングの大きな要素となります。

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コメント一覧

  • 蚊帳のなかで寝てる?今時、吊れて、使える「蚊帳」がありました・・?風情はあるけど、暑くないですか

    2023年9月6日 13:04 | 河野公雄(ニコライ)

  • ワンタッチで開くテントみたいな蚊帳で、風情は無しです。。。 部屋の景観的にはあまり気に入っていなくて、底のある更に良い蚊帳がないか目を光らせております。よい蚊帳あったら教えてくださいー!

    2023年9月7日 09:08 | 移住支援センター

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