空き家のミカタ_vol.9 床下:地面との付き合い方
住まい2024年9月4日
こんにちは。
連載記事の間が空いてしまいました。※今までの記事はこちら
「くさがなー(草刈り大変ですね)」が町内の挨拶になっている季節ですね。
草自体は必要なものとはいえ、殊にお家との関係でいうと、建物に草が密接している状態は、あまりよろしくはない状態です。家の足元が常に湿っぽいとそこがから傷みが始まるリスクを高めます。家に虫も入りやすいです。もし床下換気口の風通しが悪くなれば床下全体にとってもよろしくないでしょう。
ここの例は裏が石垣かつ放っておくと建物の足元が草に覆われやすい場所、この場所の真裏(室内側)を見ると、
カビや腐食が見られ、床もフワフワとして心もとない状態になっていました。
湿度が高い気候、傾斜地に家を建てるために建物と石垣が密接している、周囲の木が高くて日当たりが悪い、など、神山の家は立地的に湿気には不利です。そんな条件の中、湿気の影響が派手に分かりやすい部位は「床」かもしれません。空き家では床が落ちている状態をよく目にしますが、シロアリや腐食などが直接の原因でありその元をたどれば床下や建物外周の環境、つまり「建物と地面との付き合い方」とも言えるかもしれません。
表側の床は綺麗なのに石積側の床だけ落ちているのをよく見ます。また納屋や蔵が隣接している、室内外問わずモノが積んである、水回りが近いなど、その部屋だけ落ちていることもあります。それだけ湿気環境の影響を受けているということですね。
空き家案内で見られる中で最も古いタイプであろう家の床の造りの例を畳バージョンで図解してみます。古民家の基本形を理解しておくと工法の時代変遷や各家個別の変化球状態が把握しやすいかもしれません。畳の下には「荒床」と呼ばれる木の板の床、荒床は「根太」「大引」という木材に、そして大引きは礎石に載せた「束」に支えられています。例えば歩いて床がフワフワするなという場合、その原因はこれらの部材のどこか、あるいはこれらの複合要因で起こっています。
昔の家の居室部分は床の高さが高いですが、できるだけ地面から物理的に離し、十分通気させることで床を守ろうとする考え方です。このタイプの場合は床下換気口の適切な存在が重要になってきます。
送風ファンをつけて機械的に空気を回している家もありました。
床下の通気を重視する考え方の分かりやすいイメージとして、古民家を見たことがない方はお寺の床下をイメージしてみるとよいかもしれません。容易に人間が入れるくらいツーツーです。そういえば高床式倉庫なんてのもありますね。昔から湿気対策で建物の形が工夫されてきたことが分かります。
玄関や台所などの土間部分で昔にコンクリートが打たれている場合、次の写真のように湿気が染み上がって来ている例もよくあります。冬は大丈夫でも梅雨や夏には濡れているということもあるので注意です。空き家でよく見られる時代の昔のコンクリート土間は防湿シートなどを敷かず厚みも薄いので地面の影響をもろに受けます。
こちらの写真の濃い色の部分がなんとなく湿っているかんじのところ。
二枚目の写真はビニール系のフロアシートが表面に貼られた土間床ですが、何故か表面が水っぽくなっていて、うっかりすると滑って転びそうでした。茶色く見えているのが水(泥の色)です。
コンクリートが登場する前の土間の床は文字通り「土」の間、土を固めてつくった「三和土(たたき)」です。
土なので湿気があるときは室内に上がり、湿度が下がれば乾きます。上記の薄いコンクリ土間と同様、湿気は室内に上がってきますが、調湿性は三和土のほうがあるかもしれません。
次の写真は現代の一般的なやり方として、コンクリート土間を打つ前に防湿シートを敷いたところの接写です。
水滴が付いているのが分かるでしょうか。これだけ土から湿気が出入りしてるのが目に見えます。地面の状態も、水みちがある立地か、建物周囲に排水ルートが確保されているか、土質によって水はけはよいか、など様々な条件により湿気の上がり方が変わると思われます。
それから古い家でよく見る現象として、柱に水を吸い上げた跡が見られます。
土地に家を建てるというのはこのような大前提がある上での行為ということです。まさに「縁の下の力持ち」という言葉があるとおり、普段は見えない床下の状態がお家の寿命や居心地にとって大事ですね。
床下にあるものの中で、現代人にとって見慣れないものをいくつかご紹介しましょう。
〇石場建て
一般的に現在建てられている家のほとんどはコンクリートの基礎に金物で緊結することとなっていますが、古い伝統的な家では基礎石の上に柱が乗って立っています。地震の時の挙動が違い、構造の考え方が違います。
ところで、自然石の上に木材をぴったり乗せるとなると、石のデコボコに合わせた形に柱を彫刻しなければなりません。「光付け」といって、大工さんは一つ一つこの作業をしているのです。
〇束の間隔が広い
床を支える材を地面から突っ張っている材「束」が近頃の家より少なめです。木材というものは経年で物理的にたわんでくる性質がありますが、束が少ないとよりたわみやすく、床がフワフワする原因のひとつにもなり得ます。なので、後から束を足して床を平らにしている例もよくあります。
ただし、束が少ない、あるいは束を入れない床組みの方式は、単純に手抜きというわけではありません。ガッチリ固める方向性の現代の家とは違って、石場建ての古い家は家全体が揺れる動きによって地震をいなす考え方です。もしたくさんの束が床と固定されていると、揺れたときに束によって床が破壊されてしまうこともあるとも言われています。
と、今書きながらふと思ったのは、そういえば古民家って畳でもともとあまり家具がない生活。重いものを置くことが少なかったからそれで十分だったということもあるのか!?
〇根太が丸太・材が華奢
古いお家では角材だけではなく丸太がよく使われていますが、床を支える床下の材(大引きや根太)が丸太を半分にしたような材だったり寸法がバラバラだったりするのをよく見ます。
木が貴重だったのだと思います。とはいえ立派なお家ではこういう見えないところの材も大きめの製材された材を使っていたりします。
〇石積みの掘り炬燵
掘り炬燵の周りには石が積んであります。土も盛ってあったりする。そのせいで湿気がひどいなと思いますが、防火のためなのか断熱のためなのか!?
釜が入っていた例もありました。熱源は炭でしょうか。
〇いもぐら
地下の温度は年間通して変わりにくいので、食料の保存場所になっていました。芋を入れる倉ということで「いもぐら」と呼ばれています。
典型的な形としては玄関土間もしくは次の間の土間に何枚かの木の蓋があり、土の中が掘ってあります。この家の床を解体した時の様子が次の写真、床下に穴が掘られているのが分かります。
立派なものでは石段があり、人が立てる高さの地下室になっていることもあります。
〇床下にいろんなモノがある
「いもぐら」までしっかりした貯蔵庫ではなくても床下にかがんで入ることができます。そこにお酒・醤油・梅干し・味噌などが貯蔵されていたり、物置になっていたりします。
空き家の片付けで一番過酷かも。。。暗いしジメっと土っぽいし腰が痛い。そもそも住んでいた方にとっても出し入れが過酷だろうと思いますが、やはり長期貯蔵にはよいのかな。
床下からこんなに大量の瓶ものが出てきた例もありました!!
〇逆に無いモノ:断熱材
前述のように床下は湿気対策のため風を通すようにしてあります。古い家では床下と床の間に断熱材がないため、これがめちゃくちゃ冬寒いのです。
床を修理するならばついでに、このように少しでも断熱材を入れる改修をするのもよいかもしれません。
こちらの例は根太は昔のままで隙間に断熱材を入れています。根太がまっすぐでなかったり間隔がバラバラなので隙間なく詰めるのが大変です。
こちらは床下の大引きからやり直しています。なのでぴったりした寸法に納めやすい。
ちなみに、この例では1ピースが大きな断熱材を入れているのが見えますが、厚い床板を貼るので大引きの間隔を広くとることができるのです。床の材が薄い通常の場合なのに安易にこの写真だけを見て真似すると、たわむか踏み抜くかするのでご注意を!
建物自体だけでなく住み方の行動面でも、例えば畳上げという習慣があります。毎年梅雨から夏の湿気の多い時期には畳を上げて掃除をし湿気を払うそうです。昔の家では荒床の下はそのまま地面なので、直接土の湿気にあたる部分です。畳を上げると荒床や柱足元のシロアリの痕跡を目視することもできるので、早期発見の機会にもなります。これからも忘れられずに続くとよい習慣ですね。
この写真の詳細はこちらの記事もぜひご覧ください!
畳を上げているとこんな風に荒床を切った点検口が見つかるかもしれません。その時はぜひ開けて覗いてみてください。こちらはシロアリ駆除のため、点検口から床下に入ってもらっている様子。
地震の時にどういう動きをするか、地面の湿気にどう対処するか、それぞれの家の造り方にとって大きな考え方の違いになってきます。こうして見ると改めて家は地球の上にくっついている物体だということが感じられますね。
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