すだちのキャンペーンがいい形で展開した、3ヶ月後の話
なんでも2021年6月11日
本記事はイン神山内の「ほぼ月報」という枠組みの中で執筆しました。2019年〜2021年までは神山つなぐ公社が「まちの様々なプロジェクトのいま」を、2022年以降は神山つなぐ公社とグリーンバレーで「神山に関わるみなさんと共有したいまちのできごと」をお伝えしています。
神山と都会を「すだち」でつなぐNPO・里山みらいの総会資料に目を通していたら、「神山〝冬〟すだち送料無料キャンペーン」(2月)は良い形で終了、目標に対し220%の成果が出たと書いてあった。220%。「なにが起こった!?」と、同NPOの営業担当・永野裕介さんを訪ねてみました。
── すごくいい結果が出た、と聞いて。
永野 そうそう(笑)。あの一ヶ月だけで7トンくらいの注文をいただいて、農協と開発したすだち果汁も1,000本ほど動いた。この時期(「冷蔵貯蔵すだち」の最後の時期)に直販でこれだけの動きはあり得なかったので、農協さんがいちばんびっくりしていた。「こういう売り先があるんだ」って。
僕らは直販ばかりやってきたけど、農協はもっぱら市場出荷ですから。今回を経て、「可能性があるな」「より一緒にやろう」という流れにもなりましたね。
── でも「ネットに上げれば売れる」わけでもないでしょうし、なにがあったのかな?と。送料無料キャンペーン自体は、今年三回やっているんですね。
永野 昨年春からのコロナを背景に、夏から秋の二回は最初から計画していました。去年のその頃は市場価格もまだ良かったんです。
イン神山「神山すだち農家組合 9月の収穫現場より」から
年末年始以降の感染拡大でガクンと落ちた。冷蔵貯蔵すだちは高いときだと、キロ4,000円の買値が付くんです。神山にはそれを一日に100kgくらい出荷する農家さんがいるんですけど、いちばん安いときでキロ400円まで下がって。
── 十分の一!
永野 大打撃で「これはまずい」と。予定はなかったけど、第三弾をやらせて欲しいと役場に相談したら「やろう!」と言ってくれて。農協にも声をかけて。農家さんには、「市場価格より高く買い取ります」と。
── 「送料無料」の部分は?
永野 そこは、役場が予算を組んでくれたんです。最初の緊急事態宣言が明けた去年の5~6月頃に町長から「送料無料をやらないか」と言われて。その頃は市場価格もまだここまでの危機的状況ではなかったけど、町長が予算を組んでくれていたんです。それが第三弾でも使えた。
── 先見の明。
永野 そうなんですよ。「急になんだろう…」と思ったけど、いまは「さすがだな」と思います(笑)。
── 無料で送れるのはいいけど、それ以前に知ってもらう必要がありますよね。
永野 最初の二回のキャンペーンは、自社サイト(http://satoyama-mirai.jp/)と「食べチョク」(https://www.tabechoku.com/producers/20155)と、あと既に取引のある飲食店にまず展開しました。
加えて、オニヴァの長谷川浩代さんの紹介で、クリナップが運営する料理教室「ドリーミアクラブ」(料理教室の先生約2,200名の場|https://dreamiaclub.jp/)の協力を得て、料理教室ですだちを使ってもらった。生徒さんは2万人ほどいて。
冬の第三弾では、あらためて飲食店さんたちにメールを送ったんです。そうしたら、みなさん次々にSNSで広げてくれて。「すごい現象が始まっている!?」と思っていたら、どんどんどんどん注文が入り始めた。
で、「もう少し広げてみよう」とFacebookやInstagramにもアップして。Facebookは400件くらいシェアされて。電話窓口を担った農協さんも、注文と一緒に「頑張ってください!」とかたくさんメッセージをもらって(笑)。
神山のすだちは、いまキリンビールが一緒に営業してくれているんです。キリンさんも「こんな状況だから」と全国の営業マンに社内メールで伝えてくれた。そこから各地区の飲食店に広がって。この時期だけで、新規の取引先が100軒ほど増えた。
── お願いしたからってそんな簡単に動いてもらえるわけじゃないでしょう?
永野 キリンさんとは3~4年前から、「阿波踊りに神山すだちビール」というのを一緒に広げてきたんです。
最初は東京・高円寺から始まって。下北沢、南越谷、神楽坂と重ねてきて。営業マンがここでも「協力します」と一気に動いてくれた。各地の営業さんも担当の飲食店を回りながら「農家さんを助けよう!」って。
── 内容が悪いものでなければ、コミュニケーションの素材にもなる。
永野 そう言われました。「顧客の満足度アップにとても助かっている」って。
僕らは、料亭に向けた高級なすだちでなく、居酒屋やバルやビストロでも手の出る価格の傷や葉陰のあるものを、「B玉すだち」と呼んでドリンク用に提案しているんです。要は神山や徳島で、みんなが普通に使っている感じにしたいと思っている。
里山みらいのサイトより http://satoyama-mirai.jp/product.html
こっちの人が親しんでいる良さを、都会の人たちに届ける。高級品の世界とは別に、日常に入っている当たり前のものになり得るなって。実際自分は、もうすだちがないと困るんで。(笑)
「B玉すだち」は上手くハマってきていて、たとえばそこのポスターのサワーが、いま凄い人気なんです。「通年メニューにしたい」と言ってくれるけど、「高い時期は4,000円/kgなんで…」と答えています(笑)。季節を少し外すとリーズナブルにお届け出来る。
── 営業の仕事で、永野さんが大事にしているのは?
永野 「販売元とお客さん」というより、より近い関係。すだちを一緒に盛り上げてゆくパートナーのような関係づくりは意識しています。
だからキリンさんとも飲食店さんとも、売り買いだけに終わらせないようにしている。産地の情報を伝えたり、メニューの相談をもらったら一緒に考えるし。「どうですかー?」みたいな小さなやりとりは大事にしています。
あっちが大変なときは、こっちも一緒に動くし。常にフラットな関係にしていますね。もちろんスーツも着てゆかないし、いつもの自分の感じで(笑)。
──「営業の人が来た」というより「永野さんが来た」感じなんだろう(笑)。飲食店との話がつづいたけど、個人への直販も広げた?
永野 昨年はコロナ対策で、個人販売にもすごく力を入れました。去年の夏は高瀬さん(近年神山に移り住んできた人、お仕事は編集業)に「酵素シロップ」の冊子をつくってもらって。「コロナで家活」の提案もした。NHKでもレシピが放映されて、それがまた広がって。
「酵素シロップ」のレシピ冊子でご一緒してくれた杉本雅代先生のInstagramより
── いいことづくめですが、注文して励ましてもくれた沢山の方々には、その後どんなふうに?
永野 なにも伝えられていない…ひどい話なんですけど。今年はメルマガも配信したり、情報のやりとりを、しっかりやってゆこうと思っています。
── まあいっぺんに全部は出来ないかと。(フォロー発言)
永野 でもやろうと思っています!
里山みらい
特定非営利活動法人(2015~)。都市の料理人や生活者に、神山からあたらしい形で〝すだち〟を届けながら、援農の試みや農業研修生の育成など、農を次代につないでゆく活動を重ねている。10名少々のチーム。活動拠点は神山町の鬼籠野。
http://satoyama-mirai.jp/
永野裕介(ながの ゆうすけ)
1982年千葉県生まれ。地域おこし協力隊として2013年から神山に。仲間たちと「里山みらい」を立ち上げ、以後主に商品開発と営業を担当。地元産の甘酒にすだちを合わせた「すだちち」や、一軒一軒の飲食店とつながる「東京すだち遍路」など、青果市場以外の販路・関係開拓を重ねてきた。三児の父。里山みらい・副理事長。
永野さんは右端(イン神山「神山すだち農家組合 9月の収穫現場より」から)
「8年前に神山に来て『なにをしようかな?』ってとき、すだちに出会って。僕は料理が好きなんですけど、素材の素晴らしさに感動して。『これはもっと広げられるな』と思った。関東にいた頃は、サンマに添えるくらいの使い方しか知らなかったけど、こっちに来て、こんなにいろいろ使えるんだなって。仕事として広げてゆく中で、たとえば『乳製品とすごく相性がいい』とか、気づいていなかった可能性にまた気づかされたり」
西村 佳哲
にしむら よしあき/1964年 東京生まれ。リビングワールド代表。働き方研究家。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、大きく3つの領域で働く。元神山つなぐ公社 理事(2016〜21)。著書に『自分の仕事をつくる』(晶文社/ちくま文庫)、『ひとの居場所をつくる』(ちくま文庫)など。
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