あゆハウス通信Vol.22  暮らしを共にする「1対1」の人間として、見守り、関わる。 あゆハウスのスタッフ5人の思い。

学び2022年9月15日

投稿者:あゆハウス

(ayuhouse.yoriinishi@gmail.com)

こんにちは、あゆハウスです。

あゆハウスは、神山校に通う生徒のための少人数制の寮です。
暮らしをつくる/互いに関わりあう/自分をひろげる/一歩踏み出す

この4つの方針を大事にしながら寮生の暮らしを地域の大人たちがサポートしています。

 

今回は、あゆハウスの寮生16人と暮らしを共にする「ハウスマスター」と「食育スタッフ」の大人5人の考えをシェアしたいと思います。

5人は、一般的に考えられている寮父さん寮母さんなど「暮らし方を”管理する”人」や「食を”教える”人」という関わりとはちょっと違うスタンス。寮生を「暮らすこと」を尊重し、支えることを大事にしています。

 

あゆハウスができた2019年度から4年目。スタッフのみなさんが、話し合って作り上げてきた「ハウスマスター」という仕事のあり方。兼村雅彦(まさ)さん、中村奈津子(なむ)さん、野村勇希(のむ)さん、その特徴ってどんなところでしょう?

兼村)寮生とは、立場のしがらみ関係なく「1対1」の人間と言う感じで、関われるようになってきているんじゃないかなと思います。あゆハウスには、お互いに認め、認められているという安心感があって、その中で変わっていく子がいます。僕は、誰に対してもフラットでいると言う姿勢を持ち続けることで、こういう安心感を生み出せたらなと思っています。

寮生それぞれによって違うとは思うんですが、「中学時代よりも輝いているよな」と感じられる寮生が多いですね。

野村)確かに、まささんは寮生の誰に対しても、フラットに関わっている印象がありますね。自然体で、高校生と話している。

兼村)自分の「できる・できない」を含めて、僕自身が、あゆハウスで、ありのままでいる感じ。何かを話し合うにしても、大人の意見はただでさえ強いじゃないですか。だから、寮生とは、「一緒に生活するメンバー」として、接していられるといいなと思っています。自分が間違ったなと思う時は、必ず謝ります。

中村)あゆハウスは、地域の人との関わりも大事にしてるよね。多様な世代が混ざり合う場所だったらいいなと、チームでも思ってる。バームクーヘン作りやバーベキュー、遊びの企画にも、神山つなぐ公社スタッフやフードハブ・プロジェクトのメンバーや地域の人たちが絡んできてくれています。寮生たちは、人を巻き込むのがとても上手。例えばイベントをやっても、手持ち無沙汰になっている人がいたら音楽を使ったりしてさりげなく盛り上げる。下級生には、上級生から、サポートが入る。


<リビングに貼られた寮生の「みんなで今年やりたいこと」。「きもだめし」「パン作り」など様々。達成したら右に移動している>

 

高校生なのに、そんなことができるんですね。

中村)神山校のプロジェクトを書いた森山円香さんの出版記念のイベントでは、寮生たちが、参加者の大人たちの前で自分の体験を話しました。イベントに参加したある経営者の人からは、「大卒しか自分の会社では採用していないけれども、彼らを見ていると高卒の採用もあり得ると思った」というお話もいただきました。

寮生は、自分の感じたことをある程度の人数の前で、自分らしく話す力がついている。完璧なプレゼンではないけれど、「自分のありのまま」の感覚を人の前でも出すことができるよね。

兼村)うん。それって、あゆハウスが自分の場所であるという安心感があるからだね。ぶつかり合いもあるにはあるけどまだ少ない。本当は、もっとぶつかって、思いを表に出したら嬉しいなと思っています。僕自身、寮生に対して、「こうしたらいいのに」とか「俺はこう思う」とか、大人として言いたいこともたくさんあります。でも、それは大人の都合の時もある。こちらの思いが強くなると、お互いに不自由になってくることもあるから、ちょっと慎重になるし、どう関わったらいいか、いつも葛藤しています。

 


<食事の食材調達から料理・配膳・食器洗いも寮生が自ら行う。毎週金曜日だけはフードハブ・プロジェクトの「食堂 かま屋」のテイクアウトを配膳>

 

とはいえ高校生。スタッフ側から見て困ったことがある時は、どうするんですか?

兼村)気になることは、「本人が自分で気づかないかなぁ、気づくかなぁ」と待っていることもあるし、即座に対応することもある。例えば、自分は日常生活の些細な問題は、寮生が自分で気づくのを待っていることが多いです。でも、大きなことになりそうなことは待たずに伝えています。その塩梅が難しいですが(笑)

ただ、その声をかけすぎるタイミングが早すぎると、彼らは自分で考えないんですよね。ただ単に「大人から言われたから、やらないといけない」と思ってしまう。一方で、待ちすぎるとタイミングを逃してしまうことも。

中村)「見守る」と「放置」。その違いは、考えるところだよね。例えば、この前の「あゆハウス全体会議(※)」で暮らしの課題点を上げるときに「朝ごはん問題」が議題に出てきたよね。あゆハウスは朝夕当番制でご飯を作っているけれど、朝ごはんを食べない子もいる。だから、全体会議では「休みの日は朝ごはんを作らなくてもいいんじゃないか」「各自で用意したらいいんじゃないか」という声が出てきた。(※あゆハウス全体会議=寮生が生活について全員で話し合う場。3ヶ月に1度程度開かれる)

 

休日の朝ごはんを作るか、作らないか。そこから寮生自身が話し合うんですね。

中村)はい。「この話し合いを、彼らはどう着地させるのかな」と思って見守っていたんです。そうしたら、だんだん「朝ごはんも大事にしようよ」という合意形成がなされていった。私たちが大切にしたい価値観は、私たち個人の思いとして彼らに伝えていますが、ちゃんと彼らに響いているんですよね。あゆハウスの理念の中には、彼らが当初、意味がわからないものもあったと思うんです。でも、時間をかけて「良いものだ」と自分の体と心で理解したものは、自分の意思でそちらに向かっていく。それがとても嬉しいと思った出来事でした。

兼村)その全体会議の時に、「ここに来て安心感がある」という発言をした子がいたよね。飾りのない、そのまんまの感じの気持ちだった。大切なことを自分で理解してくれてて、いいなと思った。「僕は、前はひとりでいる方が好きだったけど、今はみんなでいる方が好きだ」と言ってくれていた。
あゆハウスは、ごはん作りや、掃除と、暮らしの中で、ぶつかり合い、話し合うことが多い。これは、人と関わる良い経験の場になっていると思う。違う意見であっても、お互いに「こんな人なんだな」と認めあってちょうど良く折り合えるところを探していく。「朝ごはん問題」も、話し合いを重ねていくことに意味があるよね。「休日の朝ごはん当番をなくす」という「楽な方」じゃなくて「良い方」に向かうことは良いなと思う。

 


<毎日の夕食後も、ミーティングで思いを出し合います。寮生が全て進行。ハウスマスターは静かに場を支えます。写真右一番奥が野村さん>

 

あゆハウスの暮らしは「日常」。日常ってメリハリがないとダラダラして楽な方へ進んでしまいそうですが。

野村)僕は最近、来たばかり。最初は、「新しい人」だったから、彼らも新鮮だったみたいで、僕に対してや、伝えたことによく反応してくれました。でも、「日常にいつもいる人」になってくると、次第に反応がなくなってきた。日常がダラダラ続く時って、僕たちが働きかけないとエネルギーが起こらなくなる。日常は、良くも悪くも流れていってしまう。エネルギーのある日常を過ごしてもらうためには、どうすればいいかと考えています。

兼村)うん。日常だけど、そこに「非日常感」を入れ込んでいくのが大事だなと思ってて。とりあえず何かをセッティングしたら変わっていくこともある。例えば、いつもは寮生がしている料理当番を、夏休みは特別に「今日は俺が作る!」という日を設けたりとか。日常の中で、空気を変えるための仕掛けをする。

 

日常を超えて、寮生から自発的な行動が起こることは?

中村)たくさんありますよ。体験して良かった事の蓄積が多かった子ほど、全体に返してくれてますね。ある時は、3年生が下級生たちに「個人面談」を自発的にやったんですよね(笑)。共用リビング棟の小部屋を貸して欲しいと言ってきて。2年生に「で、1年生と最近どう?」って聞いてて、いいなと思った。

兼村)今回の夏休み前の全体会議は、5時間かかったよね。大人の方が「そろそろご飯の時間だよね」って気になるくらい、午後2時から午後7時まで、根気強く会議やっていた。「こんなに長いの大丈夫かな?」と思ったけど、寮生は、「まだ話し合いたい」と言う。みんなの思いでみんなで話し合っていた。眠くなった子は、立って聞いてて(笑)。上の学年の子は、よくイライラせずに、細やかなところまで、話し合いを積み重ねていたよね。「自分たちの暮らしは、自分たちの手の中にある」と言う意識でやっている。やらされていると言う感じではなくて。今は、そういう文化ができている気がする。

野村)「みんな長いな」と思っているとは思うけれど必要なことだと意識してるよね。

 


<誕生月の寮生のために、お菓子作りが好きな寮生が本格手作りケーキでサプライズ!>

 

ハウスマスターのみなさんの中でも「食」というキーワードがたくさん出てきますね。ハウスマスターとは違い、食育スタッフの神野昌子(まーやん)さんと鈴木秀明(ごろう)さんのお2人は、どんな関わりをしているんでしょう。

神野)私たち食育スタッフは2人とも、もともとハウスマスターをしてました。寮生が増えるにあたって、関わる大人の数を増やすことになって、もう少し食のサポートに力を入れたいという思いで、食育スタッフを置くようになったんです。

鈴木)僕は、「寮生と人として関わる」のが一番大事な仕事かなと思ってます。その中でも、「食」って、暮らしの中で大きな割合を占めている。食に関することだと、問題にぶつかる場面がたくさんあるんです。食材費のお金が予算オーバーしたり、野菜嫌いな人がいたり。そういう時に、寮生が考える姿を、どうサポートするか。「問題」があって、それに前向きに取り組むのを一緒に楽しむような姿勢でいるかな。

 

「食」を中心にしつつ、やはり、寮生と1対1の関係を大事にするという点がハウスマスターと共通の関わり方なんですね。

神野)ここでは基本、寮生が食事を自分で作ります。野菜がいっぱいある時は「この野菜を使って欲しい」という提案はしますが、どうするかを決めるのは、私たちではなく寮生。そこは大事にしてるかな。食事を作る時も、口を出さずに、見守るだけのことも多いですね。食事を作るグループは、上級生と下級生の組み合わせなので、料理をした事がない子も大丈夫。料理の得意な上級生が下級生に教えてくれてますね。

 


<ある日の晩御飯。肉詰めピーマンのオーブン焼きも、スタッフの見守りだけで完成>
 

寮の菜園「あゆファーム」はどんなふうに生かしているんでしょうか。

鈴木)もともと花壇だったところを最初の寮生と掘り起こして、畑にしたんだよね。朝晩、水やりの当番を決めてやってます。

神野)はじめは近所の方に教えてもらっての野菜作り。今は、夏はトマトやきゅうりなど作る野菜の種類も増えて、日々の食卓に使ったりしてますね。野菜を育てるのが好きな子もいて寮生も楽しみながら、草抜きや苗の植え替えの作業をしてくれてます。最初、水やりを面倒くさがっていた子もいたけれど。

鈴木)今は、水やりもやるべきこと、という感じになってきてる。「畑にある野菜を見てから、スーパーに買い出しに行く」が、ルーティンになっていて。きゅうりがあるから、きゅうりは買わない、とか、そんな考え方が当たり前になってきたかな。

 

日々の暮らしでそういう体験をしている高校生ってどれくらいいるでしょう。子どもたちの内面で食や暮らしに対する変化って感じられますか?

神野)採れたての新鮮な野菜が食べられるから、野菜の美味しさには気づいてくれたかな。日々の食材は、「自分でも作れる」「作ったら買わなくてもいい」ということもわかってきたかもしれない。

鈴木)1回の買い出しの予算は4000円。最初は節約という意識が薄かった。でも、今は、「買いすぎてたら節約しようか」「余っていたらちょっと豪華にしようか」と使い方もメリハリつけられるようになったかな。個人のレベルの成長もあるけれど、寮全体としての成長もあるよね。

 


<料理好きの寮生がハーブを組み合わせて手作りしたコーラの原液。美味しい香り!>

 

あゆハウスの「こういうのもいいよね」という価値観は、長い時間をかけて作られてきたと思います。他にどんな点で成長を感じますか?

神野)全体会議やクリスマスなど行事で作る料理は、それぞれのグループで分担して作っていますね。「サラダを作るグループ」「メインを作るグループ」なんかに分かれて、自分たちで考えて、前の日から仕込んでいますね。

鈴木)「畑の野菜だけで作るカレー」の日みたいな企画も自発的に出てきて、有志3人が作ってくれることもあったよね。

 

食を大事にしている寮ですが、食が細い子はどうしているんですか?

神野)朝ごはんを食べる習慣がなかった子がいますが、最近ちょこちょこ、食べるようにはなったかな。

鈴木)難しいのが、ルールだから食べなきゃいけない、ではなくて。簡単に言えば、全員が納得したら、食べない子がいてもいい訳なんです。表現が難しいけれど。今も食事を残している子に対して、話し合いで他の子から「もったいない」と声が上がっていますが、「どうしようね」と話し合いが続いている。そのやりとりする過程、お互いの納得できる妥協点を見つけ出していくことを大事にしたいんですよね。

 


 

5人のお話を聞いていると、あゆハウスには、どうやら「教え、教えられる」「管理し、管理される」という関係性とは違うものがあるようです。

5人が、あゆハウスについて語るとき、出てきた表現は、いずれも柔らかく、自然でその人らしい飾りのない言葉でした。このありのままの空気が、寮生の安心感と自主性を育てているのかもしれません。

スタッフたちが、4年かけて寮生や地域の方と丁寧に育ててきた、フラットな関係性の土壌が見えてきました。この安心感の中で、自然と、寮生たちは「自らが、自分の暮らしや人生を作る主体者」であるという自覚を立ち上げてきたようです。

あゆハウス (ayuhouse.yoriinishi@gmail.com)

城西高校神山校の寮は、鮎喰川の「あゆ」をとって、「あゆハウス」と呼ばれています。 「あゆハウス通信」では、あゆハウスで暮らす高校生・ハウスマスターが日々の活動を定期的に発信しています。 「地域で学び、地域と育つ」をコンセプトに、神山でさまざまなことにチャレンジする私たちを温かく見守っていただけたら嬉しいです。

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