神山町と考える、これからの地域留学 レポートシリーズ③ 神山の農業を次の世代につなぐ 食育の取り組み〜後編〜
学び2019年1月8日
いまいる場所を離れて、田園部や中山間地の高校で3年間を過ごすということが、高校生自身や地域にどのような可能性をもたらしうるか。自然に囲まれたまちで、今なにが学べるか。そんなことを、まちに暮らす保護者や先生、地域留学経験者など、様々な立場の人たちから様々な視点で語ってもらい、レポートとしてお届けすることにしました。
左:食育担当/樋口明日香さん 右:支配人/真鍋太一さん
今回の主役になる株式会社フードハブ・プロジェクトは神山町役場、神山 つなぐ公社、株式会社モノサスが共同で、「神山の農業を次世代につなぐ」ために立ち上げた会社です。
前編では「地産地食」を合い言葉に、地域の農と食を次の世代につないでいくために取り組んでいる支配人 真鍋さんの話をお届けしました。(前編の記事はこちら:神山の農業を次の世代につなぐ食育の取り組み〜前編〜)
今回の後編では、その中の取り組みの1つである食育の取り組みを食育担当 樋口さんの話を通してお届けします。
(以下、樋口さんのお話です。当日の様子が伝わるよう、イベント時のスライドを使用しながら、掲載用に編集しました。)
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食育の方針
食育係の樋口です。徳島県出身ですが、一度、神奈川県で小学校の教員を経て、現在は食育担当をしています。合言葉は「地産地食」です。
食育の方針は、
1.種をまこう。種をつなごう。
2.手を動かそう。実践してみよう。
3.つくり手から学ぼう。地域とかかわろう。
4.日常に取り込もう。自分のものにしよう。
の4つで、特に4つ目をとても大切にして、現在取り組んでいます。フードハブ・プロジェクトの食育は、こちらから先生にどうですか?という形ではなく、子どもたち・先生の「やってみたい」を出発点にして、相談しながら進めています。
保育所・小学校での取り組み
保育所は行事があるので、そこに向けて、種まきから一緒に作物を育てていくというかたちで、今年度はゴールを決めて、先生と取り組むことにしました。
小学校では、地域の農家さん(茂さん)が20年前からもち米づくりに関わっていました。それを引き継ぎ、5年生のもち米作りから始まり、どんどん広がり、今年度は水色の部分を一緒に取り組もうということで、先生と相談しながら進めています。
小学校は、もち米がいろんなところでつながっていて。肥料作りはぬか・もみがらを使っていたり、ビニールマルチのかわりに藁を使っていたり、地域のひとを呼んで作って食べるありがとうパーティーを開いたり、残っている藁でしめ縄作りをして、地域の人に教わって、種を次の学年につないでいく、といったような循環を感じることができる取り組みを行っています。
食育ってなんだろうと考えた時、食べ物との関係性を育んでいくこと、食べ物と直接関わること。あと、食べ物を通して地域・人と関わって関係性を育んでいくと言うこと、ではないかなと考えながらやっています。
高校の取り組み~お弁当プロジェクト・給食プロジェクト~
高校で取り組んでいる、お弁当プロジェクトと給食プロジェクトの2つを紹介します。高校では「育てる、つくる、食べる、伝える」までできるといいな、と思ってやっています。なぜ「お弁当」かというと、高校生たちにとって日常的で身近に感じられ、自分の生活に取り組めるものをと考えているからです。。
初めて取り組んだのは2016年です。かま屋で出している産食率と同じ方法で、自分たちで作ったお弁当の神山町産食率を出したら60%と出てきました(大根菜とサツマイモは城西高校神山分校産)。徳島県食産率で計算すると99.3%でした。これは食品数の割合で、使っている全品目数の中で、神山産・徳島県産がどれぐらいかという計算方法で出しています。
原価率も出して、この時は70%でした。339円の原価に対して、販売価格500円で売ってみました。本来であれば、原価率の一般的数字は30%ぐらいと、料理長から話をしてもらいました。それを聞いた生徒たちが、コンビニで食べている500円の弁当の原価って一体いくらなのか?自分たちのお弁当は原価339円なのに、もっと安いってことはどういう作られ方をしているのだろう?と、そういうところまで考えが広がるという場面もありました。
お弁当プロジェクトは、当初の計画では次の学年の生徒たちにバトンタッチをする予定でしたが、今年もやりたいと生徒の声があがってきたので、2016年・2017年と2年連続で取り組みました。
2016年は100食販売したけどすぐに売り切れたので、もっとたくさんの人に食べてもらいたい、もっと美味しいお弁当をつくりたいという声が上がり、じゃあ頑張ろうと言うことで始まったのが2年目の取り組み。
まず全員で、「カレーライスを一から作る」と言うドキュメンタリー映画をみました。(参照URL:http://www.ichikaracurry.com)その映画では一からカレーを作るために、野菜や米、肉、スパイスなどの材料をすべて一から育てていた。それに刺激を受けて自分たちもできることをやってみよう、ということでやったのが田植えの体験ですね。
あと、真鍋からお弁当ってそもそもどんなものだろう?って話をしてもらったり。ほぼ神山産のものでお弁当を作っている地域のつくり手さんから、神山の食材をどう使ったらいいのかを考えるために話を聞き、実際にそのお弁当を食べたり。料理長に来てもらって、プロの目線から、お弁当ってこんなものだよってアドバイスをもらったり。美味しくするために、一人一品ちゃんと自分で作れるようにしようってことで、実際に試作を何度もやったり。
2年目だったので、去年できなかったことをやりたいという思いもあって、食べる人にとって分かりやすいようにお品書きを作ったり。管理栄養士にアドバイスをもらいながら、そこにカロリーとかを書きました。
当日はたくさん、地域の大人にも手伝ってもらいました。販売価格や数も見直して、価格は500円から650円にし、販売数は150食へ。前年と比べて1.5倍にした150食、頑張って作り切り、即完売。
生徒たちに感想を聞くと、「本当に疲れた。」「こんなに1つのことをずっとやったことはなかった。」という感じでした。2年目やって、「よし」っという言葉をすごく期待していたのですが、そういう言葉が一つも出なくて、本当に疲れ切っている状態でした。笑
一週間後に給食プロジェクトを同じメンバーでやることが決まっていて、準備を進めていました。このプロジェクトは、小学生が考えた神山らしい給食を、高校生と地域の人が一緒に作って食べるという、イベント的な位置付けで実施しました。
その中で、小学生が神山らしい給食ってなんだろうって考えている授業に、高校生が入ってちょっとアドバイスする時間を持ちました。その後、小学生からお手紙をもらった高校生はそういうことが初めてで、すごく目をキラキラさせながら読んでいた。本気でやらなあかんなって言って、乗り切っていました。
当日、80食分の神山らしい給食をみんなで作って食べたんですが、お弁当の150食から比べたら、多分、生徒たちにとって、そんなに大変ではなかったのではと思っています。
この生徒たちが、2年間で2つのプロジェクトを行いましたが、卒業前に来年もやりたいと言ってくれました。それはとても嬉しくて。2年前にスタートした時には考えられなかったので、一緒にやっていてよかったなと思いました。
樋口さんが感じる神山町の魅力
神山町では保育園から高校まで食育をやっていますが、大人たちがたくさん関わってくれているのがいいんです。
例えば、全力で子どもたちと泥遊びをしてくれる小学校の先生。米作りを手伝ってくれている地域の人。農業チームを中心に、食べるチームのフードハブのメンバー。隣村のお豆腐職人。今度、一緒に豆腐づくりをすることになっている、他県の豆腐マイスター。こんにゃく作りを教えてくれる地域の野菜をつくっている人。梅の収穫を体験させてくれる人。食育とは別のテーマにはなりますが、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの教授。
そして、20年前からずっと食育に取り組んでいる茂さんがいるから、私たちも続けていられるなと思います。
高校の授業でまちに出て、いろんな大人たちと出会うというのはよくあります。ヤギのミルクをもらったり。真鍋が関わっているテレビの撮影を見せてもらったり。企業のオフィスを見せてもらったり。コーヒーの焙煎所でお話を聞いたり。
周りにいる大人たちが、子どもたちの持ち味を最大限に発揮できるようにいろんな場所があり、いろんな人がいたり、後はそれを受け止めてくれる大人がいたり。すごく恵まれた環境にいるなと改めて感じています。
私たちが大事にしているのは、イベントで終わらせるのではなく、日常を大事にしたいということ。かま屋にアルバイトにきている神山分校の2年生の鍛(きたい)くんは将来、料理人になりたいと言っています。かま屋で教わったもの活かしてお弁当を作っていて、私たちは期待しています。(きたいくんなだけに!)
師匠となっているのはニューヨークから来ているデイブという料理人。デイブが色々と教えてくれていて、鍛くんも頑張っている。
卒業生の中からは、神山で農業がしたいという子がすでに出てきています。
小学校の先生からは、文集に「いろんな大人たちに関わってもらって楽しいから、神山で将来、働きたいという言葉を残している子がいる」と聞いています。
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樋口さんの話の中で、僕が特に印象に残っているのは、
「周りにいる大人たちが、子どもたちの持ち味を最大限に発揮できるようにいろんな場所があり、いろんな人がいたり、後はそれを受け止めてくれる大人がいたり」というところ。
どんな大人に出会えるかは本当に大切だなと思う。
子どもたちは、関わる大人によって、見せてくれる表情が変わる。ある大人の前では、グッと口を結んで、胸の中にあることを言葉にできなかった子が、違う大人の前では和らいだ表情でポロポロと言葉が出てきたりする。そんな瞬間に出会うと本当に嬉しくなる。安心して、大切な言葉を受け取ってくれる人が見つかったんだなと。
僕は今、神山創造学という授業を通して、高校生と関わりを持っています。
樋口さんに負けないよう、授業を通して、丁寧に受け止めてくれる大人と出会い、少しずつ自分の心にある思いを言葉にできて、自分の持ち味を探りながら、自分のペースで可能性を広げていける学びの場を作り続けたいなと思います。
以上で、前編・後編に渡りお届けして来た、「神山の農業を次の世代につなぐ 食育の取り組み」はおしまいです。頭で感じるだけでなく、ぜひ、体で感じるために神山にお越しください。
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【神山町と考える、これからの地域留学レポートシリーズ】
▶︎親としての葛藤。ぶっちゃけ進路はどうなるの?(原っぱ大学ガクチョー 塚越暁さん)
▶︎自分自身の価値基準はどこに?(原っぱ大学ガクチョー 塚越暁さん)
▶︎どこでも、住めばふるさとになる練習(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 石川初さん)
▶︎神山の農業を次の世代につなぐ 食育の取り組み〜前編〜(フードハププロジェクト支配人 真鍋太一さん
【県内外から神山校への地域留学に興味をお持ちの方はこちらをご覧ください】
梅田 學 (神山つなぐ公社 ひとづくり担当)
2018年6月に神山町に移住。ひとづくり担当として、神山校、神山中学校の生徒が地域で学ぶため授業をコーディネートしています。 その他、毎月一回、孫の手プロジェクトで、神山校の有志のメンバーで高齢者の庭の剪定をしています。 休日は、2年前から始めたサーフィンを楽しんでいます。徳島の小松海岸、高知の生見海岸に出没中。
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