空き家のミカタvol.3_1 トイレ探訪
住まい2023年3月14日
こんにちは。移住交流支援センター吉田です。
自由に飛ばしている連載の順番ですが(目次はこちら)、まずはインフラ系で攻めています。ということで、今回は「排水」です。
さて、移住相談にいらっしゃる方への最初の説明でよく驚かれる事実の一つ、
「(現時点では)神山町には下水道はありません!」
その場合にどうしているか、どうしてきたか。今回は生活で使った水がどこに出ていくかがテーマです。
さて、vol.4 水を得る で調べたのと同様、今度は下水道の普及率をみて
みました。
参考にしたのは、日本下水道協会のHP「都道府県別の下水処理人口普及率」です。(リンクはこちら)
令和3年度末における全国の下水道普及率は80.6%(下水道利用人口/総人口)、徳島県の普及率は18.7%と書かれております。
んんん?18.7%!? 数字入りの日本地図に見入ってしまいますね。
また、汚水処理人口普及率でいうと、平成24年~令和3年の神山町の変遷を徳島県のHPから見ることができました。(リンクはこちら)
※汚水処理人口普及率とは:(下水道処理人口+農業・漁業集落排水による処理人口+合併処理浄化槽による処理人口)÷行政人口
令和3年度末の汚水処理人口普及率は、全国平均の92.6%に対して、徳島県は66.0%、神山町は49.0%の統計とのこと。そして神山町では、この49.0%のすべてを浄化槽が賄っていることが「R3末_市町村別一覧表」から分かります。
まずは、数字で見てみましたが、神山町では約半分の生活排水をそのまま土もしくは川へ出していることになります。
下の写真のように、鮎喰川を眺めるとこのような川に流入する大小さまざまな管に気付きます。
何が流れてくるかといえば、雨水、農業用水、浄化槽処理後の生活排水、浄化槽未処理の生活排水のどれかということになります。
さて、一口に生活で出る排水といっても種類はいくつかあります。
トイレ、台所、お風呂、洗濯、庭で野菜を洗う、長靴の泥を落とす・・・など。それぞれ汚れの質も、必要な処理も異なるので細かく考え出すと複雑です。
今回は空き家を見る時の第一歩ということで、トイレに絞って注目してみましょう。センターで空き家を探し改修するとなった方でも、まず気にされるのはトイレであることが多いです。空き家には、建てられた時代、空き家になった時点(つまりこの時点から改修がされていない)が様々なものがあり、時代の移り変わりを通じた各種トイレに出会うことになります。では、さっそく事例紹介です。
〇肥溜めになっているトイレ小屋
空き家の中でも一番古くオリジナルな状態のものの一つでしょう。
いわゆる古民家と言われる築100年を超えるようなお家は、元々トイレは母屋の中にありません。その状態がまだ残っているお家に出会います。
下の写真はトイレ小屋の側面が開くようになっていますね。ここから取り出して畑の肥として利用されていました。側面を除くとトイレ便座の下に溜めるための槽が彫り込まれているようになっているのが分かります。
空き家掃除をしているとこのような桶が出てくることがあります。このような桶を天秤で肩に掛け、肥を畑へ運んでいたそうです。70代の方が子供の頃やっていたとおっしゃっていたので、そんなに昔のことではないですね。
下水か浄化槽かという話の以前に、「畑の肥料として土に返す」、という処理方法(利用方法)です。
〇ぼっとんトイレ
これは神山の空き家でよく見られます。
床に穴があり、下に汲み取り槽があります。排泄物が溜まったら、定期的に汲み取り業者さんに来てもらいます。
少し時代が下ると便座は洋式になっていたりしますが、蓋を開けると・・・
下に見える空洞が便槽です。さて、この事例のトイレの外壁を見ると・・・
鉄板の蓋がパカッと開きました。ここから汲み取る、なんともわかりやすい単純な構造ですね。この家では汲み取り口を金属板で蓋をしてありますが、汲み取り口としてマンホールが付いている例が多いです。
〇簡易水洗トイレ
基本の構造はぼっとんトイレですが、その上に水タンク付きの便座を乗せ、水洗トイレのようにレバーを捻って水を流します。使い勝手はほぼ水洗トイレと同じように感じますが、便器の水が流れていく口にパカパカ閉まる蓋のようなものが付いているとこれは簡易水洗トイレだなと分かります。
流す先は汲み取り槽なので、上記ぼっとんトイレと同じ仕組み、定期的に汲み取りが必要です。
〇単独処理浄化槽
トイレとしては普通の水洗トイレです。ただ浄化槽で処理しているのはトイレの排水のみ、台所・お風呂などの生活雑排水は浄化槽を経由せず直接放流されています。昔に水洗トイレに改修された家は単独処理浄化槽であることが多いです。浄化槽で処理された排水は、水路・川などに放流されます。
〇合併処理浄化槽
こちらは生活雑排水も含めすべての排水を処理するタイプです。現在、新たに浄化槽を入れる場合は必ず合併処理浄化槽となります。浄化槽で処理された排水は、水路・川などに放流されます。
浄化槽の姿は下の写真のようなもの、地面に埋まっています。空き家を見る時はマンホールがあることで浄化槽が埋まっている場所を確認できます。
浄化槽を地上に設置している例も!排水の高さ関係や掘っても石垣が大丈夫かなど、神山のように傾斜地だとちょうどよい浄化槽設置スペースが敷地内に取りづらいケースはよくあります。
補助金があるとはいえ浄化槽設置には費用負担がかかります。また浄化槽からの排水は地域との合意を得られるところに出す必要があります。ですので、既に浄化槽の入っている空き家は貴重です。
〇その他空き家に多いトイレアイテム
・小便器
ところで、空き家を見ているとぼっとんトイレ+小便器のセットのパターンがよくあります。掃除がしやすいなどでしょうか?
・外にもトイレ
都会から来る方はよく珍しがりますが、野良作業時には便利です。泥靴のまま使える。
・余談:照明が共有
トイレアイテムというか、古いお家によくある私の好きなもの。
照明が壁の中に付いていて、トイレ個室と小便器スペース、トイレとお風呂、トイレと洗面所など、一つの照明で隣の部屋と一緒に照らすようになっています。電気の節約のため?使い勝手も良く、灯りとしても良い雰囲気で、いいアイディアですね。
さて、昨年の2022年12月、ついに「とくしま生活排水処理構想2022」が県のHPに公開されていました!前回2017年に作られた構想の5年ごとの見直し年度がちょうど昨年だったということです。読み応えあります。その中から一つだけ、2017年の構想との見直し点のページ(p.12です)を抜粋引用させていただくと、
2017年の構想時点で下水道整備を進める目標としていたものを、現状の達成率を鑑み、合併処理浄化槽の方針へシフトさせていくようです。
これから人口がさらに減り、また、特に地理的にも分散して住まいのある徳島県では確かに都市的な下水道整備は現実的ではないということでしょう。とはいえ、すべての家庭で自分で負担して浄化槽を入れることも簡単ではありません。点検やメンテナンスを専門業者に頼んで管理するので、その負担も出てきます。
調べてみると近隣市町村でも、下水道or個人の浄化槽設置の二択ではなく、いろいろな施策がとられてきているようですね。なるほど・・・
〇佐那河内
農業集落排水処理施設があります。佐那河内で汚水処理人口普及率が飛びぬけて高い秘密はここにありました。(令和3年度94.1%、なんと徳島市越え!)
参考:佐那河内村HP 「汚水処理構想について」 更新日 2013年03月27日https://www.vill.sanagochi.lg.jp/docs/2012121400223/
〇三好町
「市町村設置型」というそうです。行政と個人とで負担を分担することで、導入を後押しする考え方です。
参考:三好市HP 「公共浄化槽(市町村設置型)の整備を推進」2021年4月2日
https://www.miyoshi.i-tokushima.jp/docs/4672.html
また、ついつい空き家を越えて話の範囲が広がっています。これまた一筋縄ではいきません。排水というテーマは自分の家のことにとどまらないということですね。
最近は「コンポストトイレ」などに関心を持たれる方もいますね。最初の事例で紹介した肥溜めタイプには戻らないにしても、新しい考え方があるかもしれません。
と思いつつ、さらに広がる疑問・・・肥溜めを使っていたような時代は自分の家の近い生産圏のものを食べてそれが畑に帰っていた。仮に今同じようにコンポストトイレで堆肥利用したとしても、食べているものの成分が違う現代でも単純に同じようなものとして「肥」をイメージしていいのか!?排出するものについて考え出すと取り入れるものにも話が広がってしまいます。
移住支援センター
物件紹介から交渉、契約、地域への順応支援にいたるトータルサービスを提供。 「こんなところに住みたい」という移住希望者の要望と、「こんな人に来てほしい」という所有者や地域住民の仲介役を果たします。 「これがダメなら、あれはどう?」というような不動産屋さん的な対応はしません。 最適で、最善の組み合わせを実現するため、一件一件に時間をかけます。 家探しには忍耐が必要です。その忍耐力をお持ちかどうかも、マッチングの大きな要素となります。
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