空き家のミカタ_vol.8_2 屋根2:暮らしのかたち
住まい2024年5月8日
前回からの続き。
次に、古いお家らしいもう少しディープな屋根関連アイテムたちをご紹介してみましょう。暮らしが現われる形として観察できます。
〇煙抜き
昔は薪で炊事をしていたので、台所には煙抜きが必要です。屋根の上に小さい屋根が乗っている光景が見られます。現在は改修されていて天井が張られていている台所でも、元々は土間の”オクドサン”だった場合、屋根にその痕跡が見られることがあります。
次の例は元々煙突があったオクドサンだったところ、穴を塞いで屋根をふき替えていました。下から見たところです。
上記のような炊事関連以外にも、生業に合わせた形の煙抜きに出会えることもあります。次は、紙漉きをしていた小屋。紙の場合は煙というか湯気抜きだろうか。
こちらは煙草を乾燥させるための小屋。棟の立ち上がったところから煙を抜いたのでしょう。下の方には薪の炊き口もあります。
一口に神山といっても、各集落ごとに様々な産業があったのですね。
〇オブタ
古いお家では軒が大きく張り出しており、この軒下空間は「オブタ」と呼ばれています。
ここの軒を支える木材は「オブタ桁」と呼ばれる一本物の長い木が使われており、迫力があります。ここの柱は「オブタ柱」、水に強いヒムロを使うことが多いそうです。雨が多い気候は軒を長くし、軒下が農作業のスペースになる。大きなオブタの家はこの地域らしいなと感じる風景です。
こんな「オブタ」も。これは鉄骨造の倉庫なのですが、なんと鉄骨の桁を突き出させて木造のオブタを載せています。しかも右の写真では破風をむくらせる(後述)ことまでしています。息を吸うようにオブタを作るんですね。
〇物置状態 軒がナル置き場
昔の家では木材をたくさん保管していることが多いのですが、軒下がそうした長いもの置き場にちょうどいいみたいです。
〇屋根裏のスペース
下の写真は茅葺屋根の屋根裏の様子です。茅と木材、木材を縛っている縄が見えます。屋根の勾配が急なため、大きな屋根裏スペースがあります。いろいろと物も保管されています。
次の写真は屋根のすぐ下に木戸が見えますね。室内には階段がなく外からだけ入れる戸が屋根裏空間に付いています。
〇棟札
屋根裏の棟札を見つけることができるかもしれません。建てた年月日、建主、大工さんの名前が分かります。この写真のものには「文化十癸酉年三月」と書いてありますかね?であればなんと210年前!神山ではなじみ深い「大粟山神宮寺」の文字も見えます。
〇真っ黒な天井裏
オクドサンや囲炉裏のあった暮らしでは家の中が煙でいぶされています。天井が後世に張られた家では、新しい天井を外すと上に元の煤けた天井材が現れることもあります。下写真の例では右奥の一角の屋根下地が杉皮と竹で出来ていることも分かりますね。
煮炊きや暖房としての必要性だけでなく、煙で燻蒸されると虫を追い払ったり木や茅の防腐にもなるということで、家を長持ちさせる一つの工夫でもあったのでしょう。
天井を取ってみたときの一例はこちらの記事もご参照ください。ちなみに、どの家でもこんなに綺麗な状態で出てくるわけではありませんのでご注意を。
〇断熱材
屋根というか天井裏の話ですが、古い家には断熱材は入っておらず、あったとしても現代の家と比べると非常に弱いものです。
しかし、屋根素材だけで比べれば、茅葺と空気の大空間・あるいは瓦の下の土があれば、板金屋根よりは断熱されているとも言えるかもしれません。
現代の家と昔の家とでは、そもそもの生活スタイルが違うので単純な比較はできませんが、断熱や気密の点は家造りの考え方として大きく違う点の一つです。
〇屋根の上に屋根
修繕時に古い屋根材の上から覆うように新しい屋根材を貼っていることもあります。茅葺きの上に何か被せる例は前述の通りですが、一重とは限りません。前の材料を剝がさずに次の改修を行なえば、外から見ても分からないですが、実は中に別の材料が何層にも入っていることもあります。
この写真では明らかに古いセメント瓦屋根に新しいトタン波板を上に乗せているのが分かります。
〇屋根のコケとノキシノブ
ある種時間を表す形、日当たりの悪い向きの屋根にコケ等が生えてきます。
これは北向きのセメント瓦、いつ葺かれたかは分かりませんが少なくとも空き家になってから25年ほど。風流を好んで屋根にノキシノブを植える文化もあるそうですが、その元の光景ですね。
こちらは最初の写真のセメント瓦を板金に葺き替えてから2年ちょっとの様子。真っ黒の板金でしたが既にうっすらとコケが生えてきています。神山は特に湿気が多い気候というのもあるかもしれませんが、白川郷の屋根が東西向きになっているという話に納得した経験でした。
いかがでしょうか。細部を見ていくとおもしろいことがいろいろありますね。しかし、なんといっても遠景も忘れてはいけません。
〇母屋・納屋・蔵の3点セット
私が神山に来てすぐの頃、地元の方に「これが典型的な一つの家のセットの姿だ」と、教えてもらったのが印象的でした。この3棟の使い方の話はおもしろかったのですが、それはまた別の話。屋根だけ言えば、山を背後に正面から見て母屋が棟に並行の向き、隣にある納屋は90度逆で妻面が見える、という群体としての屋根のリズムが山並みと合わさって、これまた良い風景なのです。
〇商店街・長屋
一方、各集落の中心部では写真のように家が密集している場所では、道に面して統一感のある屋根の並びが旧道の風景をつくっています。
こちらは『移り行く山村』(昭和五十六年 上分農業協同組合発行)より、上分川又の写真です。このような町並みは最近急激に失われていっています。
〇神山のむくり屋根とむくっている破風
最後に、私が初めて神山に来て印象的だったことのもう一つ。
「風景が柔らかい!(その一因は屋根だ!)」
古くからありそうな立派な家ではフワッとむくっている感じのものが見られます。今は普通に均等勾配も多いですが、逆に屋根を反らせる文化ではない地域と思われます。例えば、香川方面にドライブすると道すがら徐々に反った屋根が多数派になっていくので差が目につきます。同じように田畑山林の中に家がある風景といっても印象が違います。
わずかな差ですが微妙にむくりのついた屋根は眺めていてほっこりします。
屋根自体は均等勾配でも「破風」にはむくりをつけているお家が多く、これもまた柔らかな風景を作る要素で、美しい。
この写真は比較的簡素な造りの小屋ですが、それでも破風にはむくりを付けています。
こちらのように筋模様をつけているのは(「眉欠き」と呼ぶ)大きい立派な破風を繊細な印象にするだけでなく、雨切れを良くして木材を守るという実利のためでもあるという。このような細かいところに手をかけてきた大工さんの誇りを感じます。さらにこの家では先端に雲のような模様が付いていて、洒落ています!ご近所の方曰く、京都で修行した大工さんだからこういう模様が付いている、なんて話も出てきましたが、どうなんでしょう。
ところで次の写真は京都で見たお寺です。民家とはそもそも屋根部材のサイズが全く違うので当然とはいえ、眉描きや先端の模様のような細部もそれぞれの建物が纏う空気に大きな影響がある要素、その積み重ねで集落の遠景ができていくのですね。
―――過去の記事――――――
・目次(空き家のミカタ_vol.0)
https://www.in-kamiyama.jp/diary/70929/
・空き家のミカタ連載記事一覧
https://www.in-kamiyama.jp/tag/akiyanomikata/
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