神山町と考える、これからの地域留学 レポートシリーズ④ 「関心のなかったことが自分ごとになっていく」

学び2019年1月10日

投稿者:秋山 千草

こんにちは。神山つなぐ公社ひとづくり担当の秋山です。
続けてお送りしている「神山町と考える、これからの地域留学 レポートシリーズ」
今回は、島根県の隠岐島前高校で、高校魅力化コーディネーターとして、「地域留学」に関わってきた、奥田麻依子さんのお話です。
奥田さんは、様々な価値観をもつ多くの高校生と共に、地域と高校生のプロジェクトに関わってこられました。


魅力的な面だけでなく、大変な部分も含めてお話をお聞きしたので、皆さんと共有していきたいと思います。
(以下、奥田さんのお話です。お話の際に使用した写真・スライドを織り交ぜ、掲載用に編集しました。)
 

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【神山町、海士町の共通点は「イキイキと生きる大人が多いこと」】
2018年3月まで、島根県の離島、海士町にある、隠岐島前高校にて、6年間、教育コーディネーターをしていました。今は、軽井沢で、幼稚園・小学校・中学校を合わせた新しい学校づくりに関わっています。

まずは、海士町と神山町の違い、そして共通点を私なりに整理してみました。

島前高校のある島前地域には、海士町を含む3つの島があり、海のすぐ近くにある高校、神山町は、山の中、川の近くにある高校です。私は今、長野の山の中におり、海のないところで生活しているのですが、自然環境の違いにより、学びや暮らしの環境が結構違うなと思っています。
 
それから、生徒数も、島前高校は、各学年2クラスで約180名、神山町は、全校生徒で88名で違いがあります。島前高校は、生徒の約半分が県外や島根県内の他の地域から来ている子達ですが、神山町は、町外から通う県内生が9割で、県外からの募集は5名のようです。

 反対に、地域としての共通点はすごく多いです。一つ目は、まちづくりの取り組みがとても盛んなところです。それがどういうことかというと「大人がイキイキしているということ」かなと思っています。実際に、「この地域の何がいいか」「ここにきて何が良かったか」と島前高校の生徒たちに聞いたら、「本気の大人にたくさん出会えたこと」と言った子がいました。大人も初めてのことをやっている人が多いから、イキイキしている、そんな大人に出会う機会が、多い地域なのかなと思っています。

二つ目は、大人の中でも外からの移住者や、移住はせずとも、地域外から関わる人も多いというところです。外から来た人たちも受け入れ、一緒に何かをやっていける土壌がある地域だと思います。

もう一つは、豊かな自然と文化があり、それを残して来た人たちがいるということです。都市などで目指されている「経済成長」だけではない価値観が残っていて、それに触れることができる地域です。


【島の中は社会の縮図。日本の将来の課題に直面している地域での学び】
 私が、海士町へ移住した当時、島前高校がコンセプトにしていたのが、「島全体が学校、地域の方も先生」でした。いろんな分野が共存していて、すべての分野が身近にあります。各分野のつながりも見えてくるコンパクトさもあるし、町中を歩いていたら町長さんが声をかけてくれたり、島の中で農業をやりたいと思ったときに農家さんに実際に話を聞くことができたりと、そういう近さがあります。


 これから日本が直面していく課題に先に直面しているのが地域で、これからの社会の縮図でもあると感じています。それでも足りないことはICTを活用し、島外の人や、海外とも繋ぎながら学ぶことができます。


【関心のなかったところから自分ごとになっていく】
私が、移住して最初に高校生と取り組んだプロジェクトは、「廃校を活用する」というテーマでした。「廃校」は、日本全国で起こっている問題なのですが、高校生にとってはリアルな課題ではありませんでした。実際に、廃校の近くに住んでいる人たちから「子ども達がいなくなって寂しい」「何とかしていきたい」という話を聞くことで、「廃校」という問題が、誰かの顔の見えるリアルな問題になり、この人のために何かをしたい、という気持ちが生まれてくる。そういった「関心のなかったところから自分ごとになっていく」という変化がありました。

島前高校では、4~5人でチームをつくり、課題解決に取り組むという授業をしています。
一緒に活動する中で、チームのメンバーや自分自身は何ができて何ができないのかを知り、できないことはお互いに補い、強み弱みを生かし合っていく、というような関係性が徐々にできるようになっていきました。実際に、話し合いの中で意見を出すのは苦手だけど、話をまとめるのは得意という子や、たくさんしゃべらないけれど、クリティカルな指摘ができる子がいて、それぞれの強みに合わせて、役割を任せていくことができるようになってきました。

関わらせてもらった廃校の活用には、もともと地元の大人たちが取り組んでいたのですが、小学生くらいの子どもたちがなかなか来ないという課題がありました。そこで、予定されていたイベントと同時開催で、高校生企画の「子ども広場」というのを開催しました。シャボン玉を作ったり、子どもたちが楽しめるいろんなブースを作ったりしたのですが、実際自分たちが企画・運営したことによって、たくさんの子どもたちが来てくれて、自分たちが何か働きかけることで、周りの人の環境を変えうることを学びました。

高校生たちにとって、小さいけれど、確かな手応えを得ていく機会になり、「社会とか大きすぎて、自分には何もできないと思っていたけど、自分たちも社会を変えることができることがわかった」というのを1年間のふりかえりで書いていたのがすごく印象的でした。
 

【正解のない地域の課題に直面し、うまくいかないことも・・・】
もちろん大変さもあって、ある地区のお祭りの担い手が減り、縮小しているということを家庭科の授業で聞いた子達が「自分たちで祭りをなんとかしたい」といって取り組み始めました。しかし、どうしていけばよいか、正解はなく、自分の意見と他の子の意見が異なり、様々な意見を持っている人たち同士で、提案を作っていくという大変さがありました。

その後、「祭りに屋台を出す」という提案を地域に持っていったのですが、地域の方に、ちょっと違うなというような渋い顔をされ、「祭り自体をちゃんと担ってほしい」と言われました。それから、休日などに笛や太鼓の練習をし、道中神楽を一緒にやらせていただきました。地域の人たちが求めることを実際の交流を通して学び、実践していくという大変な中に学びがあるなと思っています。


また別の機会に、中学、高校と地域活動をよくやっていた高校3年生の子が、こんな話をしていました。「中学生の時は、”自分がやりたい”ということを、周りの大人が応援してくれていた。でも、高校生になると”それって本当に意味があるの?”と大人から問われるようになり、地域にとっても意味があるものを、求められることが多くなった」と。でも、だからこそ本気で考えるようになり、それが自分の成長につながっているというのです。


【多様な価値観をもつ人同士で協働していくこと】
寮生活も特徴的で、それぞれ違う生活環境で育ってきて、価値観の違いはあるけれど、その中で自分で自分のことをやる、自分たちでよくしていこうという主体性や、多文化協働性が生まれる場にもなっています。

たとえば、日々の生活の中での問題を出し合い、それらについて自分たちで話し合ったりしています。島内生と島外生、それぞれ違う価値観を持つもの同士、最初はうまくいかないこともあるけれど、一緒に何かやることで刺激し合っています。

例えば、入学してすぐに「歩こう会」という遠足があり、「島の宝探し」というテーマで、島内生と島外生が一緒に歩きます。終わった後に、何が良かったかというのを話し合うと、島の子たちにとっては普通の風景を、島外生は「すごく美しい」と言うなど、具体的な活動を通して、お互いの価値観を知り、自分の価値観に気付くことが出来る取り組みになっています。

最初はホームシックになる子もいるけれど、学校や地域に人間関係が広がっていくことで、徐々に解消されていきます。寮生活では、以前は、常に誰かといるからゆっくり一人になれない、という声もありましたが、生徒たちと地域をつないでくださる島親さんや、地域の人のお家も含めて、お気に入りの場所や、自分の居場所を、自分たちで見つけていっているなという感じがしています。

海が見渡せるところでボーとしている子がいたり、釣りをして一人でまったりしたり、島親さんのところで島ならではのお手伝いをさせてもらっている子もいます。
 

【自分がどう生きていくかという観点で、卒業後のことを考えられるようになる】
地域での学びの「その後」については、高校生活3年間を通して、色々な経験や人との関わりを通し、自分自身がどうなのか、実際に社会ってどうなのかを知った上で、どう生きていくかを考えながら進路を描けています。

自分の学力をもとに、行き先を決めるのではなく、進学先のもっとその先を見ている子たちが多いなと思います。例えば、進学した大学で学ぶことが期待とずれていたとしても、そうじゃない場で自分で学ぶ場を見つけていける、自分で軌道修正し、舵を切っていける子たちが多いような気がします。

地域で頑張っている大人に出会うことで、地域で生きる選択肢が増え、職業選択だけでなく生きる場所を選ぶ視点も持てるんじゃないかと思っています。私自身も、東京で働いていた時は「地域で生きる」という選択肢はなかったのですが、おもしろい仕事があるという理由で移住しました。

そういう「場所を選ぶ」という視点を持っていることは、いいなと思います。

【子ども自身が選び、そこでやっていく覚悟が必要】
ただ、「地域留学」は誰にでもお勧めできる選択肢ではありません。人によっては、今お伝えしたような価値を大変だなと感じると思います。チャンスはたくさんあるけど、自分から動かないと何も得られずに終わってしまうという可能性もあります。一番大事なのは、子ども本人が自分でそこを選んでいく、スキルや経験は必要ないけれどそこでやっていく、という意志は必要なのかなと思います。

今日は、卒業生がたまたま来ているので、最後に彼にも話を聞いてみたいと思います。彼は、宮崎県から島根に地域留学に来て、今は高校を卒業して大学に通っています。私の話は、少し綺麗目にまとめた部分がありますが笑
もっと泥臭い、全然違うみたいなところも話してもらおうと思います。
 

【地域の課題をみつけて提案するだけでなく、実践するところまでしたくて海士町を選んだ】

全体的に綺麗にまとまりすぎてます笑
最後に、いろんなチャレンジをする場や機会はあるけど、自分が行動しないと経験につながらない、という話がありました。自分自身は、色々やっていた方で、いろんな経験や人との繋がりができたのですが、実際、高校の中でもそういうのをやりたくて来ている子もいれば、島に高校があるから来たという子もいて。全員が地域に対して想いがあってやっている訳ではないけれど、想いのある人がいることで、周りが影響を受けて変わっていく様子も間近で見ていました。

ーみわさんは、海士町への地域留学は自分で決めたのですか。それとも親御さんのすすめですか。

僕は、自分で見つけました。

宮崎県出身で、中学までは宮崎にいました。授業で、宮崎の課題を見つけて県庁の人に提案する、という機会があったのですが、提案するところまでで終わってしまい、その先の提案内容の実践までやりたい気持ちがあり、海士町だとできそうだなと思いました。高校を選ぶとき、最初は東京の高校生活に憧れていましたが、海士町での課題解決型の活動を見ていて、今の自分には何も力がないから、自分もその活動を通して、力をつけたいと思いました。

ー親御さんはどんな反応でしたか?

最初は親に言わなくて笑
先に、学校の先生に話しました。親は後で知り、最初は驚かれて、「え?どこに行くんだ?!」と家族騒ぎになって、おばあちゃんからは「隠岐って聞くと、島流しか!」みたいな感じになりました笑

でも、徐々に話して行く中で、やりたいことがあるなら行ってみるのもいいんじゃないかという話になりました。ちなみに同級生の中には、自分で行こうと決めた子ももちろんいるけど、そうじゃない子もいました。

ー最後に奥田さんに質問です。「地域留学」をする子どもの親御さんたちにとって、「地域留学」はどのようにみえていると思いますか。

いろんな関心があると思っていて。これから社会に生きて行く上で力が必要だから行かせたいと思ってくださる教育意識の高い親御さんもいます。それが本人とマッチしていればいいけど、マッチしていないこともあります。他には、子どもを自立させたいという方も多くいらっしゃるし、親御さん自身が隠岐に来て気に入ったので、お子さんに勧めるというパターンもあります。

最初のきっかけがどちらかは関係なく、入学前のオープンスクールなどで本人が島に来て気に入れば良いと思います。最後まで、親の意思で行かせた場合は、あまりいい結果にならないことが多いかもしれません。もちろん島前で過ごす中で本人の意識が変わる場合もあり、学校に加えて公立の学習塾もあるので、進学に向けて必要な学力もつけられます。でも、進学もしてほしい、社会で生きていく力もつけてほしいし、みたいな、他力本願だと難しいかもしれません。

 

(聞き手:西村佳哲)

 

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多様な価値観を持つ高校生同士の協働、正解のないプロジェクトに取り組む大変さと学び、いろんなチャンスはあるけれど、自分自身が積極的に考え行動しなければ、そのチャンスを得られないという状況。
神山町と多くの共通点を持つ海士町のお話は、これからの神山での地域留学にも通じることが多くありました。

反対に、海士町と神山町の違いは、奥田さんが挙げてくださった以外にそこにいる「人」の違いがあるなと思いました。イキイキとしているのは一緒だけど、具体的にどんな人がいて、どんな価値観に触れたいか、それはその町を訪れ、実際に感じてみないとわかりません。これからの地域留学を考える上で、まずはその地を訪れることがとても大事です。

私自身も奥田さんと同様、「おもしろい仕事がある」という理由で、神山に移住しました。高校で親元を離れて、新しい町に行くのは、一見とてもハードルの高いことのように思いますが、学校、町、自然、そこにいる人など、どこかに魅力を感じたらぽんと来てみるといいかも、そんな風に思います。

そして、その決断を中学生自身ができますように。

 

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【神山町と考える、これからの地域留学レポートシリーズ】

▶︎親としての葛藤。ぶっちゃけ進路はどうなるの?(原っぱ大学ガクチョー 塚越暁さん)

▶︎自分自身の価値基準はどこに?(原っぱ大学ガクチョー 塚越暁さん)

▶︎どこでも、住めばふるさとになる練習(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 石川初さん)

▶︎神山の農業を次の世代につなぐ 食育の取り組み〜前編〜(フードハププロジェクト支配人 真鍋太一さん)

▶︎神山の農業を次の世代につなぐ 食育の取り組み〜後編〜(フードハププロジェクト食育担当 樋口明日香さん)


【県内外から神山校への地域留学に興味をお持ちの方はこちらをご覧ください】

▶︎「神山町と考える、これからの住まいと暮らし @東京&鎌倉」参加者募集

▶︎城西高等学校神山分校ホームページ

▶︎城西高校神山校新コース開設(神山町役場HP)

 

秋山 千草

東京都練馬区出身。神山つなぐ公社ひとづくり担当。下分から鮎喰川沿いを自転車で走るのが心地よい。踊りと美味しいご飯が好き、そして大人だけど「遊ぶ」のが大好き。

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