短期連載コラム/第9回「あなたとコモンで出会ったもの。」

なんでも2023年11月5日

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投稿者:やすともゆうこ

コモンの開館3周年記念イベントは、終わってしまった。
一心不乱に走ったあとって、なんだか腑抜けるというか、乱れるというか…。
文字通り不乱だった心が、これまでの分を取り戻しに来る。感じがする。やすともゆうこです。
第9回。
これまでずっと読んできてくれたあなたも、これが初めてという君も、どちらもありがとう。
イベント最終日、どうぞ一緒に楽しんでいきましょう。

Back number
第1回「私がコモンで出会ったもの。
第2回「司書になれなかった全ての大人たちよ、ここに集え。
第3回「なんとも初々しい、コモンの新書たち。の香り?
第4回「コモンで司書になる体験、後日談。私の長くて短い一日
第5回「コモンの本棚、ついに擬人化しちゃうらしいよ。知ってた?
第6回「みんな、100倍くらい考えて生きてんだって。コモンでただ本を読むだけ…って割り切るには、早すぎるんじゃない?
第7回「そもそも、児童文学ってなんだろうね?私とそこから始めてみない?
第8回「本が読めるようになるまで、2時間。え、どういうこと?


10月28日。

雲一つない、とまではいかないけれど、今朝の大埜地はいい天気。
お日様に照らされた鮎喰川コモンは、いつもよりほんの少し、張り切っている。
コモン開館3周年記念イベント、クライマックス。
「本のむしで、えぇDAYなぁ~!」2日目。
1日目、つまりは「ただ、本」が夜の部だとしたら、今日は昼の部。
私の期間限定コモンスタッフも、今日までだ。明日からは、普通の成人女性に戻る予定です。

オープン後まもなく、9:00過ぎにコモン入り。スタッフじゅんこさん、まきさんが迎えてくれた。
…なんだかコモンの中まで、張り切った気配が漂っている。
お祭り開始前、特有の空気にあてられて、私は少し、落ち着かない気持ち。
そんな心を知ってか知らずか、いつもの笑顔で話しかけてくれる、スタッフのお二人。
「コラム、おもしろいねぇ!すごいねぇ!」
「どんだけ長くても、つい最後まで読んでしまうわ!」
などと言ってくれるものだから、嬉しさと照れくささで、余分な力が抜けた気がした。

じゅんこさんは、人を一瞬で安心させる言葉を、実は持っている。そしてそれを、さも当たり前のことのように、口にしてくれる。
まきさんは、私がどんなにくたびれた気持ちのときでも、必ず笑顔にしてくれる。笑い、飛ばしてくれる。
コモンをつくる力の一端であり、みんなが集まってしまう理由の一つだ。間違いない。


と、落ち着かせてもらえたところで、本日の私のお仕事をひとつ。
「本棚の廊下の番人」をしにいきましょう。
…そんな大層なものではないんです。
コモンに居る本達。せっかくの、晴れの舞台。
背中のでこぼこを、直してあげよう。
背のたけを、順にして。
小さな本にも、目が留まるかしら。
そういえばみんな、各自の持ち場にちゃんと居る?
そんなときには、スタッフゆりさんの作った、本の分類カードを見る。
彼らの居場所の、確かな目印。
そしてゆりフォント、実はコモンのあちこちにあるよ。
このフォントを買いたいなぁ。

一人一人の個性を手に取る。彼らに、いつもよりもキチリとした服を着てもらいたい。
彼らがたくさん、手に取られたあかしを消してしまうようで、少し心苦しいけれど。
気を張り巡らす。

「ゆうちゃん、たのしんでな!お店も、でとるよ!見に行こう!」と、スタッフめぐちゃん。
彼女はいつだって、私達を​「心で」見ていると、私は確信している。
一息つかせてくれる、和ませてくれる。
その時、その人に必要な言葉を、運んできてくれる。
…あ。夫と息子。来ていたのね。
どうやら彼らも、コモンの外側に注目しているようだ。
私もお祭りを、楽しみに行くことにしよう!


城西高校神山校さん。いまここにある品は全て、学び舎の学生さんたちが作ってくれたもの。
その事実だけで、手に取るには十分だけれど、実際、欲しいものが沢山ある。
お芋と、にんじんクッキーは外せないよね。
あとは…「はーな!」息子の指さすオレンジのお花を、一つ。
「ありがとうございました!」心地よい掛け声を聞くころには、私もすっかりお祭り気分。

お隣ブースに平行移動。
EncounterCoffeeさんによる、コーヒーとココアが、我々を待っている。
はぁ、なんていい香り。
私、決めていたの。
今日は、絶対に「本気のココア」を飲むんだって!
コモンに、Cafe…。
なにを隠そう、コモンはCafeアイテムが絶対的に合う。合うのだ。
普段は飲食を提供していないため、これもまた、夢のコラボなのである。

息子、人生初ココア。
第一声は「うんまいねぇ。」
ほんまやな、うまいなぁ。にんじんクッキー、しれっと何個目?絶対、数日間欲しがるやつやん…。
ま、「それでもいっか。」そう言いたくなる魔力が、お祭りにはある。


いよいよ、その時が近づいてきた。
スタッフさん全員と、ついでに私もソワソワ動く。
設営会場を見渡す。まだ、何かやれることがあるんじゃないか?
「もうすぐ、いらっしゃるよ!」誰かがそう声を上げると、空気がガサガサと動き出す。
みんなジッとしているのに、…不思議だ。

「はじめまして、くすのきしげのりです。」
そう言って、丁寧にお辞儀をするひと。

ほ、本物だ…!
いや、ご本人がいらっしゃる日なんだけれども!
ここ数ヶ月、ずっと頭の中にいた人が目の前に現れると、どうやら私は大変に混乱するらしい。
精神の統一を図るため、「本棚の番人」「トイレチェック」「ゲート確認」を繰り返す。
くすのきさんの背後でも、ガサゴソやっていたそのときだ。

「はじめまして、やすともさん。あれ、読みましたよ。」
はっ!話しかけてもらえた!…ん?あれって…?
これか……!!

正直、そのあとの自分の言動を結構覚えていない。
ただ、せめてくすのきさんがお話ししてくださる言葉、その一言一句逃すまいと、集中した。そして、そのあと急いで書き留めた。
宝物に、なりました。ありがとうございました。

私は、この日この時、コモンに来られて本当に良かったと、しみじみと、心の奥底から、そう思った。
なぜって?
実は少し前に息子が熱を出し、参加を半ば、あきらめていたのだから…!
楽しみなイベント前に、熱出ちゃうアルアル。ただの風邪ではあったものの、冷や汗をかいた。
1日で治ってくれてありがとう、息子。ありがとう、小児科の先生。


13:30。本日のメインイベントが始まる。
皆の期待を乗せた拍手とともに、くすのきさんの登場だ。
沢山の著作が、コモンにやってきた…!
スクリーンに大きく映された絵本たちを、くすのきさん自ら読み聞かせてくれる。
気分は、いつかの、幼い私に帰っていく。
あの保育所に、あの家に、戻っていく。

「おかあしゃん。はぁい。/岡田 千晶・絵(佼成出版社)」
最初に聞かせてくださった、こちらの作品。
幼い子と、お母さんの何気ない日常のやりとり。
くすのきさんが、夜の便に搭乗した際聞こえてきた、ある親子のやりとりから生まれたそう。
「世界には、こんなやりとりが当たり前ではない人達もいる。」
はっとした。
ないものばかりを追いかけず、「ある」幸せを、焼き付けたい。

作品を読み終える度に、隠された意図を読むヒントを、たっぷりと教えてくれた。
私の想像をはるかに超える物語が、そこかしこに散りばめられていた。
しかもそれは、「絵」を、「言葉」を、五感を使い「想像」しながら「見る」ことで、ちゃーんと読者にもたどりつけるようにしてくれている。
なんと、絵本の裏表紙にまで、物語が隠されているなんて!
まったく、どこまで予想の上を来てくれるんですか…。たのしい。

事前に著作を読み込んで、どこまで物語が読み解けているかを確かめる。
これも、くすのきさんの講演会の、楽しみ方の一つなのだなぁ。
「作者しか知らない」素敵なトリビアも、お話しして下さったり。
誰かに言いたい…!でも秘めておきたい、やっぱり言いたい。そんな気持ちになりました。

泣いて、笑って、考えて、また笑う。
くすのきしげのりさんの講演会は、大人が子供に戻ったみたいにはしゃげる瞬間が、何度もあって、それが心地いい。
私は前の方に着席していたので、公演中、来館してくれた方々の顔を見ることはできなかった。
けれども、公演終了後、振り向き一番目に移ったみんなの顔は、きっと忘れないだろう。
つながることは、人にとって、本来とても温かいことなのだ。

突然ですが、こちらを見てほしい。

なんとね…。
くすのきさんの著作は、互いに、繋がっているんだよ…!?もう、凄すぎない…?
講演会の途中で教えていただいて、そのあとはもう、「この子はもしかして…?」と、謎解きタイムに突入だ!
著作に出てくるすべての人は、くすのきさんという世界に生きている。
こちらから、大きな相関図を確認できるよ!
コモンにも掲示されているので、来館した際にはぜひ、その世界を覗いてみて。
全ての著作を制覇したくなるよね。

私はまずは、これらの作品のもとになっている「あなたの一日が世界を変える」を読むことにするよ。
この作品には特設ページもあって、ここのくすのきさんのメッセージがまた、なんとも勇気をくれるのだ。
今日からはじめる、誰もが出来る、10の問いかけ。
私とあなたの一日も、きっと世界を変えているはず。


10月29日。

イベント終了後、「くすのきさんの講演会、ほんまによかったんやってぇ。行きたかったなぁ。どうしても、予定がつかんくてな…。」という悔しい想いが、届いてきた。
そんなあなたに、この日の良さを全て伝えられたとは思わないけれど、
「くすのきさんの本、まずは一冊読んでみよ。」
「神山校さんって他にどんな活動してるんかな。」
「え、本気のココア、ネット販売してるじゃん!」
そんな気持ちに繋げることができたなら、もう大成功だ!

さて、そろそろお別れの時間だ。
はじめに計画したとおり、いや、計画した以上に、沢山の想いを込めて、書くことが出来た。
第1回を、コモンのスタッフさんに見てもらったとき。そして、記事を、世に出したとき。
実は私は。
お腹を壊していた。

もう、グルッグルである。緊張に弱い腹なのである。
「これ、いける?ほんまに、いける?ちゃんと、書けとる?」そう問われ続けた夫は、「いける、いける。」をつぶやくことが、いつしか仕事になっていた。
第5回に差し掛かった頃には、さすがにやや慣れが出てきた。
しかし、それはそれで「パッションが足りてないんじゃ…?」と不安になる始末。
心の中は、てんやわんやの大忙し。
それでも、本当に、とても、楽しかったのだ。

読んでくれたひとが居ることを、人づてに聞く。
あ、本当に読者っていたんだ。
「いやそりゃ、いるよ。」と言われても、なんだか実感湧かなくて。
大好きなコモンを、この愛を、少しでも伝えることが出来ただろうか。
私を通して、あなたは、コモンに出会うことが出来ただろうか。

コモンのみんなへ。
夫と息子へ。
そしてなにより、いつもそこに居てくれた、読者のあなたへ。
ありがとう。

第1回では最終回のようだと言ったけれど、今日は本当に最終回。
これはあくまで、コラムだったのである。

終わり。


アテにならないかもしれない次回予告が…あるだと?
「お別れの時間といっていたのに、ごめんなさい。あとちょっとだけ、書きたいことが、あるのです。ここから先は、もう趣味の世界。ついてきてくれるかは、あなたにおまかせ。あるのかな、番外編、につづく。」

Back number
第1回「私がコモンで出会ったもの。
第2回「司書になれなかった全ての大人たちよ、ここに集え。
第3回「なんとも初々しい、コモンの新書たち。の香り?
第4回「コモンで司書になる体験、後日談。私の長くて短い一日
第5回「コモンの本棚、ついに擬人化しちゃうらしいよ。知ってた?
第6回「みんな、100倍くらい考えて生きてんだって。コモンでただ本を読むだけ…って割り切るには、早すぎるんじゃない?
第7回「そもそも、児童文学ってなんだろうね?私とそこから始めてみない?
第8回「本が読めるようになるまで、2時間。え、どういうこと?

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やすともゆうこ

2021年春、家族と共に神山町に移り住んできました。お魚と本が大好きです。

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